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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第39章 巨人叫喚
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第18話 【回帰】

 【回帰(リグレッション)】。

 それは完全な回復を求めたイリスが到達することのできたスキル。【世界】によって時間の停止した世界を認識することによって、時の流れへ干渉する能力を得るに至った。


 【迷宮同調】を応用すれば迷宮主や迷宮眷属のスキルも僅かながら再現して使用することができる。

 【世界】とて例外ではない。ただし、そのまま使用することはできない。自らのスキルと併用して使用することによって再現が可能になっている。

 ただ、【回帰(リグレッション)】を使う分には全く問題なかった。


「これは……!」


 巨人族の代表に手をかざしてスキルを使用するイリスの手から蒼く輝く粒子が放たれる。

 腕を失っていた場合は、失った腕があったはずの場所に集まって新たな腕を形作るはずの光。それが全身を覆うことで巨人族の姿が見えなくなる。


「ぅ……」


 巨体を覆うほどの光。

 その量に見合うだけの魔力がイリスから消耗される。


「しょうがないなぁ……」


 そう言いながらも神気を用意するノエル。

 お互いの間にある繋がりによってノエルの生み出した神気が送り込まれたことによってイリスの負担が軽減される。

 集中しているイリスが頷く。

 今はノエルに返事をしていられるほどの余裕がない。


「元の姿を強くイメージして。残念だけど、私は元の姿を知らないから貴方に頼るしかない」


 目を閉じる代表。

 言われるまま思い出すのはかつての姿。


「お、おおっ……!」


 次に目を開けた時、代表の体を覆っていた光は消えていた。

 そして、いつの間にか見慣れるようになった高さからの光景ではなく、かつては普通に見ることができた高さからの光景を目にしていることに気付いた。

 次いでペタペタと体を触る。


「ああ……!」


 まさしくかつての体そのもの。

 歓喜に震えた初老の男性が年甲斐もなく喜びを全身で露わにする。


「よかった。【回帰(リグレッション)】が上手くいってくれたみたいで……」


 スキルを使用したイリスが疲れ果てて座り込む。

 神気の補佐があってもそれほどの消耗をしてしまう。

 怪我や欠損に対して治療や復元ではなく、『かつての姿を取り戻させる』ということを目的に回帰させるスキル。


 魔力異常によって変質してしまった体だが、既に影響の原因となっていたものはない。なら、影響を受ける前の状態に戻してしまえばいい。

 スキルを使用した結果、元の姿を取り戻させることに成功した。

 何らかの副作用がないのか、今のところは問題ないように見える。


「まあ、“アレ”に成功しているんだから成功する可能性はあったな」


 イリスが【回帰】を求めた最大の理由であるアレ。

 ただし、消耗した魔力は想定以上だった。


「大丈夫か?」

「ちょっと……大丈夫じゃないかも」


 弱音を口にするのも珍しい。


「ははっ、素晴らしいッ! まさか本当に戻ることができるなんて……! 早速、他の者も元に戻しましょう!」


 喜びに躍っているところを申し訳ないが、訂正をしなければならない。


「今の私を見たら分かると思うけど、巨人族を人間に戻そうと思ったら相当な魔力を消耗することになる。これはどうしようもないから改善することはできない。それでも1日に3人までなら元に戻せる事を約束する」


 イリス自身の負担を考えて3回が限界。

 これでも改善できた方で、1回が限界だった頃は本気で揉めてしまっていた。


「外で倒れている者も含めれば82人おります。1月以内に全員が戻れることを約束してくれるのですか?」

「可能な範囲で約束する」

「……分かりました」


 元に戻るのを待たせることになる。

 それでも、いずれは元に戻れることが分かっているだけ救いがある。


「よかった。本当に……よかった」


 心の底から安堵して座り込む代表。ただし、座り込もうとした場所が巨人族だった時に座り込んでいた大岩だっただけに背中を打ち付けてしまう。


「ははっ、お恥ずかしい。なかなか癖というものは抜けませんね」


 巨人族だったなら軽々と座ることができた大岩にも元に戻った今となっては座ることができなくなってしまった。

 無意識の内にしてしまった行動に苦笑している。


「ですが、これで運命から逃れることができたんですね」

「運命?」

「はい。ワシらの寿命は長くありません」

「え、でも……」


 巨体を活かすだけで魔物にも負けず狩りができる。おまけに睡眠を摂ることで力を蓄えることができるため『死』から遠くなっている。


「この身の内にある肉体は人間だった頃のままです。老いた体では巨体の圧力に耐え切ることができません。それに、長期でいるのも危険です。若い者たちならまだ大丈夫でしょうが、ワシらのように老いた者では遠くない内に亡くなります」


 そう予感するだけの出来事が彼らにはあった。

 代表が洞窟の奥にある地面の盛り上がった場所へ向ける。


「既に老衰で4人の巨人が亡くなっています。今は代表などしているワシですが、人間だった頃はそんな事などできる者ではなかった」


 当時は最も高齢だった男性が村長で、奥さんが隣で支えていた。

 その光景は巨人族になった後でも変わらず、絶望する人々が希望を失わなかったのは彼らのおかげと言えた。

 ところが、ある日を境に体を動かすことができなくなり、村長が数日と経たずに死に至った。

 村長を看取った奥さんも数日と経たずに亡くなった。


 残された者の中に村長の友達がいたことから彼が代表を引き受けた。しかし、そんな彼も同じ症状に陥って亡くなった。


「ワシが村長になった後でも友の死を看取りました。生きていると言えるのか分からない体で、いつまで生きられるのか分からない。その恐怖は計り知れませんでした。だから、この場にいる者を代表して礼を言わせてください」


 代表が頭を下げる。

 さらに彼に倣って他の巨人族も頭を下げていた。

 言葉を交わすことはできなくともコミュニケーションを取ることはできる。


「……一つ、勘違いを訂正しないといけません」


 【回帰】によって巨人族になってしまった人間を元に戻すことはできる。

 だからと言って巨人族の全員を人間にすることができる訳ではない。


「全員を人間にすることはできません」

「なぜです!?」

「外に腕が異様に変化した者がいましたね。それに他の巨人族を喰らうことで肉体を再生させる能力を持った者です」

「え、ええ……」

「同じように特殊な巨人族が他にもいるはずです」


 代表の顔がある場所へ向けられる。

 そこには他の巨人族に比べれば小さな(それでも俺より大きい)巨人族が、自分よりも大きな巨人族の陰に隠れながらこちらを窺っていた。


「彼らが何か?」

「まるで本当に子供みたいですね」

「ええ、あの子たちは生まれてから数年ですからね」


 大きさからは想像もできないが、5歳にも満たない年齢なのは間違いない。


「その子たちは人間にすることができません」


 可能な範囲で、と言ったが子供たちは可能な範囲に含まれていなかった。

ここまでが希望のある話。

ここからが希望のない話。

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