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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第39章 巨人叫喚
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第10話 母親巨人の涙

 3体の巨人との遭遇。

 ダグラムを救出するついでに巨人の1体を斬り捨てたことで、残された1体の雄は怯えて戦意を喪失してしまっている。

 しかし、雌の方は憎しみと殺意の籠った目で睨み付けて来ていた。


「そりゃ、自分の子供を斬り殺されたなら冷静でいられるはずがないよな」


 ただし、同じくらい自分が死ぬわけにはいかない、という想いもある。

 残されたもう1体が抱かせる想いだ。


 問題は、自分では敵わないということが本能で分かってしまったこと。

 首の後ろに突き刺さったままだった短剣を引き抜くと捨てる。


「まずは、そこから離れてもらおうか」


 母親巨人へ手を向ける。

 魔法で生成された突風が吹き飛ばして川へと落とす。川の深さはそれほどでもないらしく、巨人が立ち上がると膝までしか水に浸かっていない。

 そのまま手を向けて母親巨人を警戒する。


「失礼します」


 断崖から飛び下りて巨人の腕を斬り飛ばしたアイラとは違い、【空間魔法】で安全に谷底まで下りたメリッサが先ほどまで母親巨人の傍に置かれていたローブを捲って中を確認する。


「うわ……」


 メリッサの見ている光景を共有することができる。

 けれども、ローブの中を確認した瞬間に共有できることを思わず後悔してしまった。


 ローブの内は最初に予想していたようにギムンだった。ただし、右足と左腕が付け根から捩じ切られたようになくなっており、切断面から大量の血を流していた。


「うっ……」


 それでもギリギリ生きていた。

 得意な回復魔法を無意識ながら自分に掛け続けることで必死に生きようとしていた。


 俺たちに対してしたことは気に入らない。

 それでも目の前で瀕死の重傷を負いながらも必死に生きようとしている者がいるなら見捨てられない。


「イリス」

「なに?」


 名前を呼ぶと断崖の上からシュタ、と俺の隣に下りて来る。

 タイミング的に名前を呼んでから下りたんじゃなくて、呼ばれることが最初から分かっていたな。


「回復してやれ」

「分かった」


 生きているならイリスなら癒すことができる。


「……それにしても、こいつらは何なんだろうな?」


 情報通りに見た目は完全に人間と変わらない。

 致命的に違うのは大きさだけだ。


「残ったこいつはどうするの?」


 もう1体の巨人の首に剣を突き付けているアイラ。

 巨人の方も自分が動けば斬られることを理解しているのか身動きをせず体をピタリと止めている。


「ま、詳しい事は調べれば分かるだろ」


 地面に落ちている頭部と腕、体を道具箱(アイテムボックス)へ収納する。

 対象が生物だった場合には収納することはできないが、こうして生体活動を停止させれば収納することができるようになる。


 試しに残っている2体の巨人も対象にしてみる。しかし、収納できる気配が全くない。


「生きているのは間違いない、というのは分かった」


 事実を確認すると、叫びながら母親巨人が突っ込んで来る。

 本当に親子関係にあるのだとしたら自分の息子を殺されてしまっただけでなく、死体までも相手に奪われてしまったことになる。


「悪いが、お前に情けを掛けるつもりはない」


 掴もうと突き出された腕を回避して後ろへ回り込むと背中を蹴って地面に倒す。

 うつ伏せになって倒れた母親巨人。手をついて立ち上がろうとするが、空から落ちてきた2本の剣に手を貫かれて串刺しにされる。

 どうにか抜け出そうとしているが、メリッサが魔法で作り出した剣はその程度で抜けるような代物ではない。


「お前たちを見た時からずっと気になっていた事がある」


 話が通用するような相手には思えない。

 それでも、魔物でない(・・・・・)のなら対話が可能かもしれない。


「どうして魔石がないんだ?」


 巨人の姿を見つけた時から【魔力探知】を行った。

 たしかに巨人の魔力を探知することには成功したが、魔石のある位置を特定することはできなかった。

 そうして、これだけ近くまで寄ったところで何度も探知を試みているが、反応を捉えることができない。


 こうなると、一つの可能性が浮上する。


 ――魔石を持っていない。


 魔物なら必ず持っているはずの魔石を持っていない。


「お前ら、デカいだけで人間だな」

「……」


 それまで暴れていた母親巨人がピタッと動きを止める。

 どうやら図星らしい。


「人間? 何を言っているんだ……?」


 だが、その言葉を信じられないのがダグラムだ。

 無理もない。先ほどまで自分よりも圧倒的に大きな体をした人に似た姿をした相手に嬲られていたのだから、自分と同じ人間だと信じられるはずがない。


「そいつらは『化け物』だ!」

「あのな。餌になってくれたから出し抜いたことについては目を瞑るけど、邪魔をするなら強制的に黙らせるぞ」

「うっ……」


 ダグラスが呻いて何も言えなくなる。


「な、に……?」


 その時、巨人の串刺しにされた腕が引き千切れて立ち上がる。


「チィ……!」


 せっかく助けた命。

 ダグラムとガジルの体を抱えると跳んでその場を離れる。母親巨人の放つ殺気は「化け物」だと言ったダグラムへ向けられている。


 たしかに巨人自身の怒りはダグラムへ向けられていた。

 けれども、母親としては自分を蔑む相手を攻撃するよりも優先させるべき事がある。


「アイラ!」


 名前を呼んだ瞬間、目を鋭くしたアイラの剣が巨人を斬る。


「ぁ、ああ……」


 胸から血を流しながらもアイラへ必死に手を伸ばす巨人。

 もう自分が助からないことを悟っている。


「あ゛ぅ!」


 アイラへ殴り掛かろうとする雄の巨人。

 けれども、首を横に振る母親の姿を見て逃げ出すことを決意すると、背を向けて全速力で走り出した。


「シルビア」

「はい」


 いつの間にか傍にいたシルビアの姿が消える。

 代わりに隣に下りてきたのは上から全体を見ていたノエルだ。


「どうだ?」

「……やっぱり魔石はない」


 魔物との親和性が強いノエルでも魔石を捉えることができない。


「あたしには人間にしか見えないけどね」

「それは同感ですね。子供を生かす為なら自分の命すら投げ捨てられる――間違いなく人間です」


 アイラも襲われそうになったから咄嗟に斬り捨ててしまった。

 だが、巨人の持つ人間らしい部分も感じ取っていた。


「この死体を調べれば分かることだ」


 気付けば息絶えている母親巨人。

 先に亡くなった子供と同じように道具箱へ収納する。


「シルビアが何か見つけてくれることに期待して、まずはこいつらをどうにかしてやった方がいいだろうな」


 巨人の殺気に当てられて気絶してしまったダグラムとガジル。

 最初から意識のなかったギムンを連れてモンストンへと向かう。

今回の敵は魔物ではないので、厄介なんです。

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― 新着の感想 ―
[一言]  まさか、進撃の・・・げふんごふん! 旧帝国の錬金術の被験者とかかな?
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