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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第39章 巨人叫喚
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第8話 出し抜き

 オネイロスの街中を走る影が3つある。

 一つは、ローブに身を包んだ小柄な少年かと思うような男性。ボサボサな金色の髪に、無造作に伸ばされた髭が小柄な体と幼い顔立ちにミスマッチだった。

 もう一つも緑色のローブに身を包んでいるがスラッとした長身の男性で、伸ばされた黄土色の髪を1本にまとめた魔法使いの男性だった。

 そして、3人目は冒険者ギルドでマルスに絡んだダグラム。


「間違いないんだよな」

「ああ、奴らの目的地はリオール渓谷だ」


 魔法使いの男――ギムンが使い魔を通して知った情報を仲間に教える。

 一度に扱える魔力量が少ないため威力のある魔法を使うことができない代わりに努力して魔力の精密な操作を身に付けたことで細かな操作を必要とされる魔法の扱いに長けていた。


 虫のように小さな生命は使い魔に向いていない。人間と感覚を同調させることで虫に大きな負荷が掛かってしまうからだ。

 だが、ギムンは魔力を抑えることで使い魔への負担を最小限にしている。

 こういった小技みたいな魔法が得意な魔法使い。決して実力が低い訳ではないのだが、魔法使いとして評価されていない。やはり、魔法使いと言えば大規模な火災を引き起こす派手な魔法が評価される。そういった魔法を使うことができないギムンは魔法使いとしては評価されず、冒険に役立つ魔法を使えることからCランク冒険者にはなっていた。


 一発逆転のチャンスを狙っていたギムンが、上昇志向の強いダグラムと出会ってパーティを組むようになるのは自然な流れだ。


 今朝、冒険者ギルドへ行っていたはずのダグラムが疲れ切った様子で拠点にしている宿へ戻って来た。

 事情を知ったギムンは賭けに出てマルスたちが何を目的にオネイロスを訪れたのか調べ、依頼を掠め取ることを思い付いた。


「でも、依頼を横取りするなんていいのかよ」

「冒険者ギルドを通した依頼だったらダメだろうな」


 真面目な部分を持つギムンは冒険者ギルドの規則をしっかりと覚えていた。

 依頼を受けていない者が他に依頼を受けた者がいるにもかかわらず討伐対象の魔物を倒した場合には報酬は支払われない。それどころか魔物の横取りと見做されて違約金まで支払わなければならない。

 しかし、それは冒険者ギルドが仲介した場合の話。


「どうやらグレンヴァルガ帝国の皇帝から直接受けた依頼らしい」

「げっ、あの冒険者皇帝かよ」


 皇帝になる前は冒険者をしていたことから成り上がりストーリとして語られる傍らで(けな)す意味からリオの事をそのように呼ぶ人がいた。


 もっとも、貶しているのは現状に不満を抱くばかりで成り上がる為の努力を怠っている者ばかりだ。

 ダグラムたちもその内の一人。


「けど、オレたちは皇帝にコネなんかないぞ」


 依頼の目的である、謎の巨人型の魔物を討伐したところで報告する術がない。


「少しは頭を使え。私たちが皇帝に直接会う必要はない」

「どうするんだよ」

「オネイロスの代官に報告する」


 皇帝に比べれば代官の方が地位は圧倒的に低くなる。

 冒険者でも功績を挙げることができれば面会するのも不可能ではない。


「代官かよ」

「分かっていない。ここを任されている代官は、近くの田舎を任されている領主よりも皇帝に近い地位にいるんだ」


 オネイロスの統治は皇帝が直々に指示した政策だ。

 皇帝の信頼する優秀な者が派遣されており、重要な出来事の報告なら貴族が行うよりも速く皇帝へ届けられる。

 今のオネイロスとモンストンにとってリオール渓谷の問題は早急に解決しなければならないほど重要な問題だ。


「当然。解決した私たちも評価される」

「おおっ、そいつはいい」

「楽しくなってきたね」


 小柄な少年――ガジルも同意する。

 ギムンの話を聞いていたガジルに詳しい事は分からない。ただ、仲間である二人について行くだけ。



 ☆ ☆ ☆



「くだらない」


 レストランにいながら使い魔の感覚を通して何を企んでいたのか知った。

 巨人型魔物の裏に魔法使いがいる可能性や俺たちに恨みを抱いている魔法使いが監視している可能性などを考慮していたが、実際は考えの足りない連中が出し抜こうと考えていただけだった。


「どうしますか?」


 食後のコーヒーを楽しみながらメリッサが尋ねてくる。

 俺の放った使い魔だが、見ていた光景は【迷宮同調】のおかげで全員が共有できるようになっている。


「好きにさせておけばいい」

「え、いいの?」


 オレンジジュースを飲んでいるノエルが首を傾げる。


「出し抜かれちゃうんじゃないの?」

「できると思うか?」

「えっと……」


 ノエルが少しばかり思案するが、すぐに無理だという結論に達する。

 パッと見ただけの判断だが、彼らの強さはBランクやCランクといったところ。一般的な冒険者としてなら十分通用するのだろうが、皇帝からの依頼を受けられるレベルには達していない。

 それでも依頼を横取りしてしまおうと考えているのは、焦りが露わになったダグラムの表情から分かる。


「冒険者連中から聞いたんだけど、ダグラムは功績をかなり欲しがっていたらしい」


 Aランク冒険者へ昇格する条件は、複数の冒険者ギルドのマスターから承認を得ること。

 Bランクになるまでは別の街で活動していたダグラムは昇格すると、すぐにオネイロスへと移動した。ここなら強い魔物がおり、どれだけ強いのか明確に示すことができる。


 手っ取り早い功績を求めているダグラム。最終的な目標はSランク冒険者らしく、功績の為なら罰則スレスレの行為すら平気でしてしまえる。

 冒険者ギルドもどうにかしたいらしいが、実力は確かなので違反行為に手を染めてしまった訳でもないため罰することができずにいた。


 そういった情報をオネイロスで活躍する真面目な冒険者たちは率先して提供してくれた。彼らもダグラムの行為には困っていたからだ。

 それに情報を提供することで、俺たちと恩を売ろうという思惑もある。


「まったく……功績なんていうのは積み上げるものじゃなくて、自然と積み上がるものなんだよ」


 違法な手段によって得られた評価はハリボテでしかない。

 いつかはボロが出て積み上げてきた正当な評価までも崩れ去ってしまうことになる。


「じゃあ、止める?」

「わざわざ俺たちがする必要はないだろ」


 イリスの提案をバッサリ断ち切る。

 説得して止まるような連中なら俺たちを相手に出し抜こうなんて考えは最初から抱かない。冷静なら、それぐらいは考える。


「ああいう連中は痛い目を見ないと学習しないだろ。先行して行ってくれるって言うなら、ちょうどいいから囮になってもらおう」


 魔法使いのレベルも大したことがない。

 今のところ監視に気付かれた様子もないからだ。


「でも、一緒にいた男の子は二人について行っているだけみたいよ」


 アイラとしては子供が犠牲になるのが忍びない。

 見た感じだと二人の大人にいい様に利用されている、といった様子だ。

 ただ、だからと言って率先して助ける理由もない。


「この仕事は基本的に自己責任だ。男の子も二人の目的を知らなかったとしても、知ろうという努力をしないといけない。そうでないと残るのは、俺たちを出し抜こうとした結果だけだ」


 どれだけ言い繕ったところで出し抜こうとしたことには変わらない。

 自分が何をしようとしているのか、しっかりと自分自身で把握していなければならない。


「そういう意味ではお前とシルビアもアウトだな」

「うっ……」


 俺の指摘にアイラが言葉に詰まる。

 背後関係などを考えて戦うのが苦手で、俺たちに任せて目の前の敵に集中することが多い。アイラのスキルを考えるとそれでも別に構わないのだが、何か手遅れになることが起こってからでは遅い。


「わたしは今のままで構いません」

「おい……」

「わたしはご主人様やみんな、子供たちの世話ができていれば幸せですから」


 シルビアの中では奉仕することで完結してしまっている。

 もっと自分を大切にしてもらう意味でも忠告したのだが、考えを改める気はなさそうだ。


「あ、馬を借りるみたい」


 ノエルが言うように街の入口前にある店で金を払って馬を借りるとリオール渓谷がある方へと向かう。

 移動時間を少しでも短縮させる。

 どうやら本気で出し抜くつもりみたいだ。


「さすがに馬に追いつかせるのは不可能だな」


 魔物でも猫では追いつくことができない。


「他の使い魔でも出す?」

「いや、目的地が分かっているんだから必要ないだろ」


 リオール渓谷へ向かったのは間違いない。

 移動手段が馬なら俺たちが走れば十分に追いつくことができる。


「もう少しのんびりしてから追うことにするか」


自由と自己責任は表裏一体。

よく考えて行動しましょう。

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