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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第39章 巨人叫喚
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第7話 リオール渓谷の噂

 昼過ぎ。


「どうしてあんたはまた絡まれてるのよ」

「俺が望んだことじゃないんだけどな」



 オネイロスにあるレストランの前で集まると、店の奥にあるテーブルを使わせてもらって得られた情報を伝え合う。

 情報を交換するだけなら歩きながらの念話でも十分だが、こうして顔を合わせて話し合うことで気付けることがあるかもしれない。


「あんな素人みたいな絡まれ方をするなんてエルマーじゃないんだから」

「あいつらか。元気にしているかな?」


 俺が預かっていたエルマー、ジェム、ジリー、ディアの4人の子供たち。

 あれから成長して成人すると共にアリスターを出て行った。4人ともアリスターを故郷だと思ってくれているらしく、いずれは戻って来るつもりでいるがいつまでも保護者でしかない俺たちの庇護下に置いておくのは彼らの成長を妨げる要因になってしまう、ということで旅に出していた。

 生活に必要なお金は冒険者として活動しているため稼ぐことができるので心配はしていない。

 それでも成人したばかりの若者なので色々と苦労しているはずだ。


 たまに思い出したように手紙が出されて近況報告をしてくれるが、今年になってからは手紙をもらっていなかったので、どこで何をしているのか知らない。


「俺のことはいいんだよ。で、何か分かったか?」


 話題を変える為に本来の用事を切り出す。


「ええ、どうやらモンストン近辺で凶暴な魔物が出現しているのは間違いないようです」


 メリッサが語ってくれたのはモンストンへ商品を売りに来た商人が魔物に襲われた話。

 今のモンストンは大量の物資を必要としている。そこに商機を見出した商人が多く訪れるようになり、手前にあるオネイロスで休息してから商品を満載した馬車を惹いて向かうため出入りした商人の記録は残っていた。


 その中で戻らない者が何人かおり、不審に思った代官が冒険者に依頼を出して捜索させた。

 まだ特産品も作られていないモンストンが目的地では商品を仕入れるのは難しい。商品が売れたならすぐに戻って来るのが普通だったため数日が経過しても戻らないことを代官が不審に思ったためだった。


 結果、見つかったのは大量の血痕、それに馬と馬車を引き摺った痕跡だった。

 何かに襲われ、馬車ごと連れ去られた。


 事情を知った代官は詳細が分かるまで伏せようとした。しかし、噂に敏感な商人にまで隠し通せるはずがなく商人たちはモンストンへ行くのを渋っていた。

 今のモンストンでは物を必要とされており、商機なのは間違いない。ただし、商機も生きていなければ意味がない。危険性を考慮すれば二の足を踏んでしまうのは仕方ないと言える。


「馬車の停車場に商人がたくさんいましたので簡単に話を聞けました」

「ま、その代わりに在庫を買わされたんですけどね」


 商人への聞き込みを担当していたメリッサとシルビア。

 食材などの生物は事情を考慮して代官が買い取ってくれた。それでも残された食材を購入する代わりに情報を得ることができた。


 テーブルの上にシルビアが銀貨を10枚置く。情報料として必要になってしまった経費だ。補充する為に同じ金額を渡す。


「こっちでも噂にはなっているみたい」

「ちょっとピリピリしていたかな?」


 アイラとノエルの二人には北側にある門の様子を確認してもらった。

 通常通りに開放されて、門番が立っていたが遠くを警戒しているように二人には見えたらしい。

 警戒中の門番に話を聞くのは憚られた。それでも普段から門を利用して出入りし、門番とも親交のある人たちには何を警戒しているのかすぐに分かった。


「たぶん北から魔物が来るのを警戒しているんだろうって言っていた」

「でも、ここまでは来ないだろ」


 イルカイトにある迷宮が暴走した際に『ガルディス帝国内でのみ暴れる』という命令が下された。

 迷宮と主が消えた今でも命令そのものは有効らしく、魔物が国境近くまで来ることはあっても国境を越えてくることはなかった。

 だからこそ無理を押し通してでもオネイロスに街を作った。


「たしかにオネイロスが襲われる可能性は低いわよ。けど、絶対に襲われないっていう保証はないじゃない」

「それもそうだな」

「それに国境は見える場所にあるのよ」


 かなりの距離はあるが、北門からなら国境を見ることができる。そこは襲われる可能性のある場所なので警戒する範囲に含めてもおかしくない。

 万が一の場合には救援に駆け付けるのも兵士の仕事だ。


「冒険者ギルドに話を聞きに行ったけど、何かがいるのは間違いないな」

「あんたは受付から話をちょっと聞いただけでしょ」


 本当ならギルドにいる冒険者にも話を聞いてみたいところだった。

 何度か訪れたことがあるため、ダリウスのような知らない者でもなければ協力してくれるはずだ。


「それは悪かった。けど、『何か』がいるのは間違いないみたいだな」


 モンストンの西にある渓谷――リオール渓谷。

 以前までは魔物が出現しないことから崖の近くを通るので恐怖に耐えてさえいれば安全な街道だと知られていた。

 だが、最近は危険なため誰も利用していない。


「まずは、その『何か』を調べる必要があるな」


 今後の方針を決めると注文していた料理が運ばれてきた。

 ケチャップソースと小さく切られた肉で味付けがされたパスタ。周囲に街がなく孤立しがちなオネイロスだが、ガルディス地域で狩った魔物を持ち帰ってくるため冒険者のおかげで食材は豊富にあった。

 シルビアの作る料理に比べれば不満の残る料理だったが、遠くへ出かけたなら現地の料理を食べて楽しむのが旅の醍醐味だ。


 口数を少なくして料理を楽しむ。

 表向きはそのように見せながら念話で会話する。


『気付いていましたか?』

『当たり前だ』


 メリッサの質問に簡単に答えながら視線を隣のテーブルへ向ける。

 誰も座っていないテーブル。しかし、その場所には人間はいなくても先客としてテントウムシがテーブルの裏に張り付いて行き来していた。


 レストランの入口は開放されているし、窓も換気をよくする為に開け放たれているので虫がいつの間にか入ってきてもおかしくない。

 ただし、近くにいるからこそテントウムシから魔力を感じることができる。

 生物であるならテントウムシでも若干の魔力を持つことはある。しかし、虫が持つには大き過ぎる魔力が感じられる。


『一応、魔力を隠蔽する仕掛けがされていますけど、誰かの使い魔であることは間違いありません』


 メリッサが言うように誰かが俺たちの会話を盗み聞く為に放った使い魔だった。

 今頃は使い魔を通して聞いた会話から俺たちがリオール渓谷にいる謎の魔物を調査しに来た事を知ったはずだ。


『主人は誰だと思いますか?』

『この街にいる奴の誰かなのは間違いない』


 使い魔と主人の間にある繋がりの太さから、それほど離れていない場所に主人がいると分かる。

 もっと詳しく探れば主人まで辿り着けるかもしれないが、相手が想像以上の魔法使いだった場合にはこちらが探っていることを相手にも知られてしまう可能性がある。


 テントウムシがテーブルから飛び立ってレストランを出て行く。


『泳がせておこう。主人が誰なのか確認する必要がある』


 使い魔なら最終的には必ず主人の元へ向かう。

 何者か知らないが使い魔を使用して情報を集めるのならこちらも使い魔を使用させてもらうまでだ。


 レストランの床に魔法陣が描かれ、黒い猫が姿を現す。

 街中になら普通に見掛けることのできる猫。大きさも普通で、人懐っこい性格をしているせいかコロコロと変わる表情を変える。

 だが、よく見ると尻尾が二つに分かれているのが分かる。

 戦闘能力はないが、探知能力に優れた猫型の魔物。それでいて迷宮の魔物と迷宮主の間柄なので命令を忠実に聞いてくれる。


『あのテントウムシが行き着く先を調べろ』

『ニャッ』


 レストランの隅の方を駆けてテントウムシを追っていく。


「さて、凶暴な魔物が出たから狩る――それだけで終わってくれるなら簡単な依頼なんだけどな」

エルマーたちがどうしているのかは次章以降になります。

主人公たちの教育を受けて、ガッツリ影響されている彼らが活躍し、陰から助ける保護者たち……の予定。

プロットなんて所詮は予定でしかありませんからね。

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