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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第39章 巨人叫喚
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第6話 黒曜

 目の前にいたのは胸鎧を身に纏った大柄な男。

 髭を生やしていて、体を鍛えているおかげで大剣を背負っていることを感じさせないほど安定している。

 見る人によっては『熊』みたいなイメージを抱くかもしれない。


 一方、俺の方は冒険者になってから10年が経過しているというのにそれほど変化していなかった。鍛えられたおかげで多少は筋肉がついているはずだが、戦闘を生業にしている者としては小柄な方だ。

 とくに目の前にいる男から見れば子供にしか見えない。


「何か?」

「見ない顔だな。新人か?」


 最近になってオネイロスで活動するようになったからなのか俺について知らないようだった。


「あの、ダグラムさん。そういうことは止めた方がいいですよ」

「分かってねぇな、シャニアちゃん。オネイロスは、こんなガキが来るような場所じゃねぇんだよ」


 魔物が溢れる場所になったガルディス帝国だった地域に最も近い街。

 モンストンの復興が行われている最中であるため、都市機能が回復していない内はオネイロスが最前線になっている。

 そんな場所で活動していることは冒険者にとって誇りになっていた。


「どういうつもりなのか知らねぇけど、こんな弱そうな奴に魔物退治なんて任せられるはずがないだろ」

「なるほど」


 威圧的に話しているが、先輩として脅すように接することで忠告している。

 見た目に騙されるところだったが親切な人みたいだ。


「だけど、人の実力を見る目はないようだ」

「なんだと!?」


 見れば体に爪で斬り裂かれたような新しい傷がある。彼自身も魔物に襲われて負傷してしまったことからの忠告なのだろう。

 俺の小さく呟いた言葉に怒ったダグラムが剣を抜く。


「気に入らねぇ」


 剣を抜かれても自分の剣を抜くどころか驚きすらない俺の姿に苛立っている。

 目だけを動かして冒険者ギルドにいる人々の様子を見てみれば騒ぎを聞き付けてニヤニヤしている人が多かった。彼らは1年以上も前からオネイロスで活躍している冒険者で俺の素性についても知っている。

 逆に知らない人たちはどうするべきかオロオロしていて、先輩に頼って目を向けるけどニヤニヤしているばかりで助けに行く様子がないことに落胆している。


「オレがテストしてやるよ」


 剣が鋭く振り下ろされる。

 オネイロスで活動するなら防御するなり回避するなりしてみろ、というテストなんだろう。


 剣が眼前30センチまで迫る。


「おい……!」


 ダグラムが声を上げて止めようとする。

 まさか俺が何もしないとは本気で思っていなかったのか寸止めするつもりもないまま振り下ろされた剣を止めようとしている。

 しかし、気付いてから止めようとしているようでは止まらない。


 相手がどういうつもりでいるのか見極めなければならない。

 そういう意味ではダグラムの方が圧倒的に格下だ。


「【世界】」


 冒険者ギルド内の時間が停止する。

 額から剣までの距離は3センチほど。普通なら当たるしかない距離だが、時間が停止した状態なら問題なく回避することができる。


 剣の軌道上から横へズレる。


「わざわざ付き合う必要もないのに」

「いやぁ、久し振りだから付き合っちゃった」


 同じように停止世界でも動けるイリスが俺のしていることに呆れていた。

 強そうな外見をしていないのに難しい依頼を受けるため、力自慢の冒険者から絡まれることは何度かあった。それでも最近は功績を知る者が増えていたため無駄に絡むこともなくなっていた。


「こういう無意味なことをするとどうなるのか分からせるのも強い力を持っている者の義務みたいなものだ」


 時間が動き出すようになる。


「な、にっ!?」


 寸止めしようとしていた剣が間に合わない。

 だが、剣の軌道上に俺は既におらず、冒険者ギルドの床を大きく抉っていた。


「冒険者ギルド内での暴力行為は禁止ですよ。両者が武器を手にしていたなら訓練だと言い張ることができますけど、俺は武器を何も手にしていませんよ」


 煽るように言うとダグラムが頬をピクピクさせていた。

 力の強い先輩が駆け出しの新人を脅すような真似を禁止する為のルールだが、血の気の多い冒険者を相手に全ての暴力行為を禁止してしまうと収拾がつかなくなってしまうため最低限の喧嘩は認められている。


 ただし、認められているのは同程度の存在だった時だけ。

 カウンターの向こうにいるシャニアをチラッと見れば今にも涙を流しそうな表情をしながら頭を何度も横に振っていた。

 戦うな、という意思を全力で現していた。


「それと、床の修理代はそちらで払ってくださいね」

「バカにしているのか!?」


 再び剣が振るわれる。

 だが、確実に当たると思われる距離まで接近しても回避されてしまう。


 ダグラムだけじゃない。冒険者ギルドにいる全員の目には俺が回避する瞬間を目にすることができない。

 なにせ『回避する一瞬』など存在しないから無理もない。


「悪趣味」

「そう言うな。これだけ圧倒的な実力を見せれば無意味に絡んで来ることもなくなるだろ」


 時間を停止させている間にダグラムの後ろまで回り込む。そうして時間が動き出した直後に肩を叩いて背後へ移動していたことを知らせる。


「もう俺の実力は分かりましたよね」

「テメェ……何者だ!?」


 振り返りながら剣を叩き付けてくる。

 ああ、これは回避する訳にはいかない。


「なっ……!?」


 剣を2本の指で掴んで止めるとダグラムが驚きから声を上げていた。

 この程度の事なら時間を止めることもなく防御することが可能だ。それでも時間を停止させて回避していたのは、異様な光景を誰の目にも明らかにする為だった。

 ただし、関係ない人まで巻き込んでしまおうとは思っていない。


「さすがにシャニアを巻き込むのは感心できないな」


 剣がそのまま振るわれると、注意する為にカウンターへ乗り出していたシャニアの顔も斬ることになっていた。

 シャニアはギルド職員として当然の行動から止めようとしてくれた。俺の勝手な理由で巻き込まれて傷を負わせる訳にはいかない。


「少しは場所を考えてほしいところですね」


 指に力を込めれば剣に大きなヒビが入る。修理すれば使えるようになるかもしれないが、もう振るうことはできなくなった。


「テメェ、本当に何者だ……?」

「ダグラム」


 面白がっていたギルドにいた冒険者もさすがにどうにかしようと思ったみたいで一人の男がダグラムに近付いて耳打ちする。

 注意しなくても俺について教えていることは分かる。


「なっ……! こいつが『黒曜』だっていうのか……!?」

「……帰ろう」


 その名前を聞いた瞬間、思わず帰りたくなる。

 だが、『黒曜』という名前を聞いた瞬間、イリスが小さく笑っていた。


「いつかの仕返し」

「う……」


 イリスに『蒼剣』の異名が付けられた時にからかったことを今でも根に持っていた。

 『黒曜』というのは俺に付けられた異名だ。黒い髪に黒い服を身に付けていることと以前に時間を停止させた状態で魔物を斬ったところを見られ、いつ斬られたのか分からないほど鋭い奴、という理由から『黒曜』という異名がいつの間にかつけられていた。

 初めて知った時には恥ずかしさから迷宮に引き籠ってしまったほどだ。


「あ、待ってください」


 帰ろうとしていたところをシャリアに呼び止められた。


「何か?」

「もしかしてマルスさんたちは北の方へ行かれますか?」

「そうですけど……」

「だったら注意してください。最近になって食い散らかされた魔物の死骸が転がるようになりました。状態からして人型の魔物によるものだと思われますけど、大型魔物の骨も転がっていましたので本当に気を付けてください」


絡んで来た奴の相手をするのは理由があります。

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