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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第38章 迷宮防衛
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第38話 停止世界の戦い ④

 二本の魔剣を持つリュゼへアイラとイリスの二人が同時に斬り掛かる。

 しかし、魔剣を手にしているとはいえ二人の攻撃がそれぞれ片手で止められてしまう。


 二人の表情を見れば全力なのは間違いない。

 対してリュゼは余裕を持って対処していた。

 受け止められたアイラとイリスの剣が流れるように魔剣の上を滑り、二人の体も前へ倒れるように移動していく。


「あはっ」


 金色の魔剣がアイラの左肩に刺さる。

 自分の肩に差したまま刃を右手で掴むと抜けないようにして体を回転させながら動いてリュゼから手放させる。

 どうにか金色の魔剣を奪い取ったアイラ。


「別にいいよ。アタシにとって魔剣なんて消耗品でしかないからね」


 リュゼの手に再び金色の魔剣が現れる。

 手にした者のレベルを引き上げてくれる魔剣。迷宮眷属が手にした時にこれほど脅威になる魔剣はない。


「いえ、タダではないのですから回収はした方がいいですよ」

「あ……」


 指で挟むようにして持っていたアイラの手から金色の魔剣がすっぽ抜けていく。

 刃には糸が絡み付いており、離れた場所にいるオネットの元へと飛んでいく。


「使いたいならあげるよ」

「私に剣は使えませんわ」

「なら、アタシが魔剣をどうしようと勝手だよね」


 空中に人よりも大きな氷柱が何本も生成される。

 それは鋭い先端をノエルの方へ向けると一斉に飛び出した。


「この世界で遠距離攻撃は意味がないと思っていたけど、そういった使い方ならいいんだ」


 5メートル離れた時点で動きを停止させてしまう。

 なら、飛ぶ氷柱と同じように走りついて行けばいい。

 空中では氷柱が飛び、地上ではイリスが並走している。


「……この辺かな?」


 2歩半下がり、飛んできている氷柱を見る。

 右手に持った魔剣で氷柱の全てを斬り、破片がパラパラと地面へ落ちていく。

 破片の落ちる先にはイリスが走っていたが、イリスは持ち前の戦闘能力を活かして破片の落ちる場所を見極めると聖剣を突き出す。


 氷柱を斬ったばかりの隙を狙った攻撃。

 ところが、氷柱に対して使用していなかった左手に持った魔剣でイリスの聖剣を受け止めると右手に持った魔剣を巧みに操って聖剣を上から叩く。


 そのままイリスへと2本の魔剣が伸ばされる。

 魔剣を叩き落とされたばかりのイリスでは対処することができない。


「ティル!」


 ティリアから受け継いだ魔剣を道具箱から取り出して応戦する。

 一度は砕けて散り舞うだけだった氷の破片が一斉にリュゼへ再び狙いを定める。魔法の力が増幅されたことによって砕かれた後の状態でも操ることができるようになる。


「あらあら、そのような手癖の悪いことをしてはいけませんよ」


 オネットの手から伸びた糸が網のように広がり、飛んでいた氷の破片を全て絡め取ってしまう。

 その糸は、今にもリュゼへ襲い掛かろうとしていたイリスの肩にも触れている。


 糸に絡め取られたイリス。

 足を止めて力を込め、冷気も浴びせることで糸からようやく脱することができる。

 すぐ眼前に氷の破片が迫っており、聖剣と魔剣を行使して氷を砕いていく。

 糸の網によって絡め取られてしまった氷の破片をオネットに利用されてしまった。


「全体を見てリュゼさんをサポートするのが私の役割ですわ」


 糸に時間を取られている間にリュゼが剣を振り上げて襲い掛かろうとしていた。


「……っ!」


 見上げるイリスの目に映ったのは不敵な笑みを浮かべるリュゼの姿。普段から笑顔の目立つ少女のような女性だったが、今は見る者に恐ろしさを与えていた。

 一瞬、イリスの足が竦んでしまう。


「イリス!」


 振り下ろされた剣の前にアイラが出て自らの剣で受け止める。


「……ごめん」


 イリスの手から放たれた冷気がリュゼを包み込もうとする。

 いつまでも同じ場所に留まるのは危険と判断したリュゼが即座に離脱して冷気から逃れる。5メートル離れてしまえば追って来ることはない。


「悔しいけど、剣の技量だけじゃなくて経験も向こうの方が上かな」


 アイラが小さく愚痴る。

 今もイリスが正面から気を惹いて攻めている間にアイラが死角から斬り掛かるつもりでいた。

 しかし、リュゼはアイラの存在を捉えており、気付いた上で全力の一撃を放っていた。それでも対応できるだけの自信が彼女にはあった。


「ううん、これで大丈夫」


 目の前にいるリュゼとオネットを見つめるイリス。


「けど、貴女ほどの人がどうしてゼオンに協力を?」

「分かっていないな。人生を無茶苦茶にされたアタシには復讐しかないの」

「でも、もうアムシャスは亡くなっている」


 リュゼが復讐したい相手と言えばアムシャス皇帝が真っ先に浮かぶ。

 ただし、既に亡くなった相手へ復讐するなど不可能もいいところだ。


「たしかに普通なら(・・・・)死んだ人間に復讐するなんて不可能だね」


 まるで普通でない方法があり、その方法を実践しているように言うリュゼ。


「あいつさえいなければ全ては上手くいくんだ」

「果たして本当にそう?」

「もちろん上手くいく保証はない。それでも最低な歴史を歩んだ今よりは、もっと幸せな日々を過ごすことができるのは間違いない」


 リュゼが何を望んでいるのか何となく理解したイリス。

 だからこそ止めなければならない、と決意する。


「アイラ!」

「分かっている!」


 リュゼを挟むように左右から同時に襲い掛かるアイラとイリス。

 だが、二人の方を見ることもなくリュゼが剣を巧みに操って二人の攻撃を捌く。


「アタシたちの邪魔をしないでくれる?」

「残念だけど、その未来は私たちには絶対に受け入れられない」

「それはこっちも同じ!」


 振り下ろされる魔剣に対して氷の塊を盾のように出現させると魔剣を受け止めようとする。

 しかし、氷の塊は両断され、氷の塊の向こう側にいたイリスの服を斬って胸に小さな傷を作る。


 氷の塊を蹴り飛ばしながら勝利を確信するリュゼ。

 だが、直前になってアイラが後ろへ引いて難を逃れる。


「オネット、もっとちゃんとやってよ」

「やっています。ですが、向こうの動きが想像以上に速いのです」


 イリスのいた場所の近くには糸が伸ばされて地面に落ちていた。

 防御の為の魔法が一蹴されて油断したところを襲い掛かり、さらに拘束しようと糸まで伸ばしていた。


「常に警戒をしていた方がいいですわよ。リュゼさんにばかり気を付けているようですと、貴女たちの足を一瞬で絡め取ってしまいますわ」

「なるほど。これが『全体を見る』っていうことか」


 味方と敵の位置、環境にまで気を配ってサポートに徹する。


「ええ」

「けど、この程度はどうっていうことはない」

「……負け惜しみを」

「私の言葉が負け惜しみかどうかはすぐに分かる」


 何かしらの策を持っているらしいイリスを警戒するリュゼとオネット。

 イリスが口だけを大きく動かす。


「『始動(スタート)』」


 直後、後ろから突き出されたような感覚を覚えるリュゼとオネットの二人。

 決して物理的な手段で押された訳ではない。【自在】の力でどうにか停止世界へ潜り込んでいた体が時の動く世界へ戻されたことで感覚のズレから突き出されたような感覚を覚えてしまっていた。


「今のは……」


 戸惑いから自分の状態を確認する二人。

 しかし、今はそんな事をしている場合ではなかった。


「へ……?」

「ま、待って下さい!」


 眼前の光景にリュゼが呆け、オネットが懇願するがその程度で止まることはない。

 彼女たちの目に映ったのは飛んでくる大量の火球。しかも、1発ずつが人間よりも大きく、二人を飲み込もうとしていた。


 着弾まで3秒。回避も防御も間に合わなくなり直撃を受けてしまう。


「か、ぁ……今のは!?」


 炎を浴びながらも周囲を確認するリュゼ。

 彼女の耳には視覚的な情報よりも音による情報の方が先に届いた。


「みんな……!」


 テュアル、シャルル、キリエの悲鳴も聞こえる。

 全員が何かしらの攻撃を受けていた。


「全体を見るっていうのはこういうこと」


 ダメージを受けて倒れていたところへ冷気を浴びせられて凍て付かされ動けなくされる。


「さっきのは……」

「メリッサが随分と前に撃っていた火球」


 テュアルに回避されて離れたことで停止した火球。

 他の遠距離攻撃も停止しただけで無力化された訳ではなかった。


「もう一度時間が動くようになれば攻撃手段として利用することができるようになる」


 タイミングを見計らってイリスがマルスに頼んで【始動】してもらうだけで最大の効果を発揮させることができる。


「この程度……」


 傷を負いながらも立ち上がるリュゼ。

 ダメージはあるが【自在】のおかげで元の姿を取り戻している。


「二人で戦っても貴女たちには勝てない、かもしれない……けど、勘違いしないでほしい。私たちは5人で貴女たち5人と戦っていた」


 停止世界での出来事から利用方法をすぐに思い付いたイリス。

 たとえ役に立たないように見えても遠距離攻撃を使うよう伝えていた。


「もう終わり」


 時間が再び停止する。

オネットの見ていた全体:4人が戦っていた空間。

イリスの見ていた全体:10人が戦っていた空間。

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