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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第38章 迷宮防衛
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第37話 停止世界の戦い ③

 ノエルの持つ錫杖から雷撃が迸る。

 胸の前で構えたキリエの拳に当たると弾かれて消える。

 キリエの拳から魔力を固めた弾丸が放たれるが、わずかに進んだ所で停止してしまう。


「邪魔だよ」


 空中で停止した魔力弾を跳ね退ける。

 横に5メートル移動したところで停止した魔力弾を見ながら目の前にいるノエルへ拳を突き出す。

 錫杖を掲げて防ぐノエルだったが、正面から叩き付けられる衝撃に後ろへ跳ばされる。


「やっぱり強い……」


 仲間の中で自分が最も弱い事を理解しているノエル。

 だから誰か――迷宮にいる魔物の力を借りたくなる。


「けど、ここにはわたししかいない」


 頼れる相手はいない。

 離れた場所を見れば時間が停止したまま転がっている雷獣たち魔物の姿が見える。

 誰もがノエルたちの為に協力して厳しい戦いに臨んでくれた。


「わたしがやるしかない――!!」


 雷撃を纏いながら突撃して追撃を掛けるべく突き出されたキリエの拳を押さえ込む。

 ノエルの体から雷撃が爆ぜる。


「面白い――!!」


 対してキリエが拳に力を乗せる。

 雷撃と魔力による衝撃が吹き荒れる。


「くぅ……!」


 全力の攻撃。

 それでもノエルの力だけでは足りず、キリエに押されていた。


『貴女の力はこんなものではないはずですよ』

「え……」


 頭に響いてきた声に一瞬だけ力が抜けてしまう。

 けれども、それ以上の力が流れ込んできて堪える。


「ティシュア様!?」


 ノエルのすぐ後ろに女神ティシュアが控えるようにいた。

 と言ってもその場にいる訳ではなく、『巫女』であるノエルを通して迷宮内の状況を見ていたため同調しているノエルには女神ティシュアの姿を捉えることができていた。


「えっと……この世界でも平気なんですか?」


 尋ねながらも力は弱めない。


『はい。時間が停止しているのは、その世界だけですからね』


 今の彼女がいるのはマルスたちの屋敷にある子供部屋。子供たちが遊んでいる姿をソファに座って眺めながら迷宮内での出来事を観戦している。

 そんな風に見ることができるのもノエルとの間に繋がりがあるから。


『貴女は、目の前にいる紛い物の「巫女」とは違います』

「紛い物とは随分な言い方じゃないか」

『あら、聞こえていましたか』

『妾が仲介しているからな』


 ノエルの頭に女神ティシュアとは異なる女性の声が届く。


「女神セレス」

『正解』


 神であるから神との間にある繋がりに割り込むこともでき、キリエも女神セレスを介して知ることができる。


『しかし、妾のキリエが「紛い物」というのは聞き捨てならんな』

『そういうところですよ』

『なに……?』

『神と「巫女」の関係は、人の営みを憂いた神の声を「巫女」が聞き人々に伝えるべきです。決して使い勝手のいい人形のような存在になってはいけません』

『……!!』


 女神ティシュアの言葉に女神セレスが酷く動揺する。

 その動揺はキリエへと伝わり、彼女の魔力が……神気が大きく揺れることとなる。


「チッ!」


 ノエルの突き出した錫杖がキリエの腕を打つ。

 キリエが後ろへ跳んで離れるとノエルを睨み付ける。ただし、憎悪の大半はノエルではなく別の存在へ向けられていた。


「何をやっているんだ!」

『実際に戦っているのはそちらでしょう』


 ノエルを警戒したまま女神セレスと口喧嘩を始める。

 『巫女』と女神が喧嘩。その光景がノエルには信じられなかった。


「……なんだい?」

「ううん、本当に『巫女』なのかな? って思っただけ」

「分かっていないな。仲が良いから喧嘩をすることだってあるんだ」

「……やっぱり、あなたは『巫女』なんかじゃない」


 錫杖を構えて駆け出すノエル。

 振り下ろされた錫杖をキリエが拳で弾き返す。だが、ノエルは弾き返された時の衝撃を利用して跳ぶとキリエの左に着地して錫杖を叩き付ける。


「うっとうしい!」


 何度も突き出される錫杖に対して拳で対応するキリエ。

 しかし、何度も打ち合っている内にキリエの拳に切り傷が生まれ、キリエの体についた傷を見て女神セレスが動揺する。


『何をしているのですか!?』

「黙ってな!」


 動揺する女神セレスをキリエが一喝する。

 意識がノエルから逸れてしまった瞬間が隙となり、神気が叩き込まれる。


「これは……」


 ふらついたキリエの目に映ったのはノエルとは全く違う姿をした白い翼を背中から生やした美しい女性の姿。

 女神ティシュアの姿がノエルに重なるように映し出されていた。


「貴女は本当の意味で『巫女』になりきれていません」

「何を言っているんだ。わたしは女神セレスに認められた本物の『巫女』だよ」

「神には認められているのでしょう。ですが、心まで想いを通わせた本物の『巫女』には程遠い存在です」


 ノエルの声を介して女神ティシュアの言葉が届けられる。

 人間の言葉を聞いたところで何かを思うことはない。しかし、同じ女神からの言葉が女神セレスの胸に突き刺さる。


「神の言葉を聞き、人々に届けるのが『巫女』の本来の役割です。決して神にとって都合の良い人形であっていいはずがありません」

「わたしが、いつ都合のいい人形になったっていうんだよ」

「今、こうして私たちの前にいるのは本当に貴女の望みですか?」

「……」


 女神ティシュアの言葉に迷うキリエ。

 彼女は「こうするしかない」という自分の中にある想いに従って行動してきた。だが、それが自分の心の底からのしたかった事かと言われると戸惑ってしまった。


『妾の「巫女」を困惑させるのは止めてもらおうか』


 キリエの意思とは異なる動きを見せた左手から半透明でゼリー状の触手のような物が何本も飛び出す。

 1本がノエルへ迫る。錫杖によって打ち払われると触手が消えてしまう。

 残りの触手が餌を求めるように触手を伸ばせば届く場所にいた魔物たちへと向かう。


『むぅ……』


 しかし、ここは時の停止した世界。いくら神の力であろうとも停止した対象へ干渉することはできない。


「一つ質問があります。女神セレスとはどのような神でしたか? 私も離れた場所にいた土地神までは詳しくないので知らないのです」

「……湖に生きる人が穏やかに生活できるように、見守る神」

「少しは面影が残っているようですが、そのように穏やかな神とは程遠い姿をしていますね」


 命を喰らおうとする触手。

 触手の色は水のように見えるが、行動の禍々しさから穏やかとは無縁に思える。


「女神セレスの境遇は聞いて知っています。作為的に廃れさせられ、本来の姿が伝わらないようにした。それでも、貴女は自分の知る女神セレスから復活させようとしたようですね」


 復活させる為の生け贄も用意した。

 自我がはっきりしたばかりの頃は幼かったキリエの知る女神セレスそのままだった。

 しかし、時間が経つにつれて徐々におかしくなっていた。


「いくら女神の正確な姿を知る貴女が力を尽くしたとしても、歪んでしまった事実は決して消えることはありません。彼女は、歪んだまま伝えられた影響も受けてしまっています」

「そんな事は分かっている……」


 女神セレスを完全に復活させる為には正しい姿を伝え、間違った姿を完全に消してしまわなければならない。


「だけど、そんな事は関係ない!」


 女神セレスからキリエに神気が流れる。

 さらに神気は仲間へと供給される。


「わたしの役割は復活した女神の力を仲間にも分け与えること。これで、わたしたちが力尽きることはない!」


 ノエルへ殴り掛かるキリエ。


「お任せします」


 女神ティシュアの姿が消える。

 もう神気を介して幻覚を見せる必要がなくなった。


「うん」


 体を傾けて突き出された拳を回避すると、腕を掴んで放り投げる。

 さらに落ちてきたキリエの胸を錫杖で突いて吹き飛ばす。


「今、のは……」


 それまでのノエルとは比べ物にならない以上に流れるような動き。


「この迷宮には格闘家の達人みたいな獅子の魔物がいるの」


 軽やかなステップを踏みながら跳んだ錫杖を叩き付ける。

 左腕で錫杖を防御したキリエが右手で逆に掴む。


「……!?」

「ビクともしないでしょ」


 まるで大岩を押しているかのように動かない錫杖。


「皆はこの世界で動くことができない。けど、皆の想いはわたしの中にある」


 杖が振り回され、剣のようにして叩き付けられる。


『皆が頑張り、ノエルが期待に応えたいと思った。だから発現してくれた力です』


 魔物の力を借り受けて、使用することができる。

 迷宮魔法と似た力だが、もっと自然に使用することができている。


『今の貴女たちはバラバラです』


 キリエと女神セレス。

 目の前にいるノエルを倒すことで目的は一致しているが、そこへ至るまでの想いが完全にバラバラだった。


『本当に「巫女」だと言うのなら想いぐらいは一致させてほしいところですね』


 それでも神気を生み出すことはできる。

 魔力を圧倒的に上回るエネルギーを供給することこそキリエの役割。


「ゼオンが目的さえ達成してくれたなら女神セレスだって元の姿を取り戻す……いや、姿が変わる事だってなくなるんだから問題ない」

『……それは、やってはいけないことですよ』


どちらかと言えば邪神化してしまう女神セレス。


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