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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第38章 迷宮防衛
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第36話 停止世界の戦い ②

シルビアVSシャルル戦

 シルビアの短剣とシャルルの弓が衝突する。

 この世界での戦いはシャルルにとって圧倒的に不利だった。どれだけ速い矢、強い矢、特殊な矢を射ったとしても自分からたった5メートル離れた場所で停止してしまう。


 彼女に残された対抗手段は弓を武器とすること。

 普通の弓なら威力に欠ける短剣であろうとも対抗できるはずがない。しかし、彼女が使用しているのは『神弓』。迷宮の力で生み出された装備だ。


 シャルルの放つ矢は特殊で、放つ際にも魔力による衝撃が発生する。

 だからこそ『壊れることのない』弓が必要とされた。


「頑丈すぎでしょ」


 今も打ち合っていたシルビアの短剣の方が粉々に砕けた。

 打ち合っていた短剣は、最高位の短剣ではないものの高ランクの短剣だった。

 それでも頑丈なだけの短剣では打ち負けてしまう。


「降参する気はない?」

「冗談を言わないで。既にどちらかの死を以てでしか終わらないところまできている」


 停止したままでは撤退も不可能。

 降参して武器を捨てたとしても見逃す保証はない。


「倒せるならあなたたちを倒してしまう方向へ方針を変更していた。だから、ここで戦えるのは本望」


 迷宮眷属を倒されるのは致命的なダメージとなる。

 戦力が減る、という事以上に魂の奥底で繋がっている眷属が倒されることは主や仲間にとって堪え難い苦痛となる。


「私に近接戦ができないと思っている?」

「違うの?」

「……その勘違いを正してあげる」


 シャルルの周囲に上から落ちて来たように10色の矢が現れて地面に突き刺さる。

 それらの矢が一瞬だけそれぞれの色の強い光を放つとシャルルの前へと伸びて混ざり合う。

 混ざり合った結果生み出されたのは虹色の矢。

 さらに虹色の矢はシャルルの右手へ吸い込まれるように消えて行く。


「私は弓士」


 シャルルが矢のない弓をシルビアへ振り下ろし、シルビアが短剣で防御する。今度は彼女が持つ短剣の中でも最高位の短剣。もう普通の短剣では通用しないことが分かった。

 短剣と弓がぶつかり合う。


 お互いに腕力には自信のない二人。

 そのため至近距離で打ち合うことになる。


 だが、その均衡を崩したのはシャルルだ。左手で弓を打ち付けながら、開いた右手をシルビアへと向ける。

 その手には何もない。


「……!!」


 けれども、言い知れぬ不安を感じてシルビアがスキルを発動させる。

 直後、シルビアの頭部があった場所を虹色の矢が駆け抜けていき、すぐ後ろの地面に着弾すると爆発を起こして衝撃波が二人を襲う。

 衝撃波が発生することを事前に知っていたシャルルは身構える。

 そして、シルビアはシャルルの後ろへ回り込むと身構えているシャルルに向かって短剣を振り下ろす。


 ――キィィィン!


 直前で気付けたおかげで短剣を防ぐことに成功する。

 しかし、防御した代償にシャルルの手から弓がすっぽ抜けてしまい、空中を舞っている。


 シルビアから離れるべくシャルルが後ろへ跳ぶ。

 至近距離からの離脱。シャルルの方が先に動き出したとしても、シルビアがすぐに続けば大きく離されることはない。

 けれども、シルビアは収納リングから取り出したナイフを投擲することを選んだ。

 投げられた5本のナイフがシャルルへ向かう。


 一方、追撃されることを見越していたシャルルから余裕がなくなる。

 今は弓を回収する為にも真っ直ぐ向かわなければならない。

 だから、手の平を広げた右手を向ける。手の平の中心から虹色の矢が現れ、飛び出すように放たれると拡散して5本のナイフを弾き飛ばす。


 ナイフから逃れたシャルルが手を掲げ、落ちてきた弓をキャッチする。

 そうして同時に屈むと頭上をシルビアの短剣が通り過ぎていった。


「弓を必要としない矢、か」


 短剣をやり過ごすことには成功したが、屈んだ状態は非常に無防備だ。

 シャルルの矢は色によって効果が変わる。それらを合わせることで強力な矢を生み出すことも可能だが、虹色の矢は全ての効果を望んだように発揮させることができる。


 おまけに射る必要もなく飛ばすことができる。

 この発射方法なら至近距離にいる相手を射貫くこともできる。


「状況に合わせて矢を変えるなんて面倒。だったら1本でいくつもの効果を発揮した方がいい」


 シャルルの長所は、弓士としての技量よりも特殊な矢を生み出すことにある。


「私は弓士である前に錬金術師」


 その想いがスキルに現れている。


「けど、攻撃に弓を使う者であることには変わりない。この世界でどうやって戦うの?」

「あなた相手に矢で射るのは難しい」


 正確に狙って射られたとしてもシルビアには【壁抜け】がある。

 先ほども自分に当たる衝撃をすり抜け、目の前にいたシャルルの体までもすり抜けて背後へと移動した。

 どれだけ強力な攻撃も当たらなければ意味がない。


「けど、そんな状態がいつまでも続けられる訳じゃない」

「さすがね」

「だから当て続ける」


 弓を手放して両手の指が広げられる。

 シャルルの魔力が手から溢れると10本の指先から虹色の矢が解き放たれる。しかも、矢尻には極細ではあるもののシャルルと繋がった糸のような物があり、矢の動きを統制できるようになっている。


 変幻自在に飛び交う矢。

 普段なら手から離れた矢も操作が可能になるだけのスキルだが、停止世界においては動けるシャルルと繋がっているおかげで本来の矢としての力を発揮することができるようになる。


 縦横無尽に飛び交う10本の矢がシルビアの体を貫いて地面に突き刺さる。

 しかし、そのどれもがシルビアには当たっていない。


「すり抜けなんて便利な能力を持っていてよかったね」

「本当に。このスキルを遺してくれたお父さんには、本当に感謝しかないわ」


 親子の間でスキルが伝承することはある。

 ただし、確実に伝承される訳ではなく体や心の在り方が似ているから同じスキルを手に入れられているだけ。決して父親が娘に遺した訳ではない。

 それでも父親と同じスキルを手に入れてから【壁抜け】が父親との間にある繋がりになっていた。


 回避できる矢は自力で回避し、どうしても回避することのできない矢だけを【壁抜け】で回避する。


「じゃあ、こういうのはどう?」


 矢が敢えてシルビアの周囲に落ちる。

 貫くことを目的にした矢ではない。地面に落ちた瞬間に爆発が起こり、炎が巻き上がるとシルビアを閉じ込めてしまう。


 全身に【壁抜け】を施す。

 炎や熱の影響を受けずに移動することができるが、その間にもシルビアの魔力は消耗されていく。


「さて、このままジワジワと消耗してもらう」


 身を守っているだけでシルビアは魔力を消耗していく。


「それならそれでけっこう」


 炎を抜け出したシルビアがシャルルへ向かって駆ける。

 シャルルの操作する矢が上から落ちていくが、全ての矢を置き去りにするように駆け抜ける。


「じゃあ、これならどう!?」


 正面と背後から4本ずつ、左右から1本ずつ矢が迫る。


「問題ない」


 速度を緩めることなく真っ直ぐ進む。

 正面から迫る矢がシルビアへ迫るが、体を透過して置き去りにする。

 軽く跳び上がると矢から離れて短剣を突き出す。


「……っ!?」


 体を傾けたシャルルの頬を短剣が切る。

 そのままシャルルの背後に着地するとシャルルの背を蹴って前へ押し出す。

 押し出すだけの簡単な蹴り。ただし、前へ押し出したことで自分の放った矢の前へ出ることになった。


「分かっていない」


 シャルルの背から矢が飛び出してくる。だが、シャルルの体には一切の傷がない。


「その矢は私の魔力で造った物。私の体を傷付ける事はない」

「自爆を狙ったんだけど、意味がなかったか」


 再び矢がシルビアへ向けられる。

 シルビアも矢を十分に引き付けてから回避し、シャルルへ攻撃を仕掛けるというのを繰り返す。


「何を企んでいるの……?」


 シルビアの行動にシャルルは意味を見出すことができなかった。


「時間稼ぎ……? でも、時間を稼いだところで意味なんて……」

「正確には足止めかな」

「……!!」


 思考に意識を奪われている間に接近していたシルビアが短剣を振り下ろす。

 シャルルの額に当たる直前、右から飛んできた4本の矢が弾いて上へ飛ばすが、回転する短剣をシルビアが跳んでキャッチする。


「あなたの足止めをわたしが担当して本当によかったわ」

「もしかして、虹色の矢を警戒してくれているの?」

「この停止世界だと遠距離攻撃は意味を成さなくなる。そんな世界でも離れた場所から自由に攻撃できるあなたを野放しにする訳にはいかない」


 シャルルなら何かしらの方法で対応できるかもしれない。

 同じ事を思ったのはメリッサも同じで、テュアルが戦闘の支援に回るのを防いでいた。


「わたしたちの戦いがどうなると最後には関係なくなる。お互いに信じたなら主の勝利を願っていましょう」

「こっちもあなたの介入を邪魔できるのは願ったり叶ったり」

長く伸びる武器を使用すれば遠距離攻撃も可能になります。

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