第33話 【世界】VS【自在】
振り下ろされた剣を自分の剣で受け止めると弾き返す。
振り向きながらの防御で不安定だったが、不自然な状態だったのはゼオンも同じだったらしく体勢を崩しながら下がっている。
距離ができた間に周囲を確認する。
ゼオンも眷属は全員が動きを止めている。時が停止しているのは間違いない。
ゼオンだけが動くことができている。
「無敵って言ったな」
「ああ。時を止めるっていうのは予想外だったけど、時を止めていると理解すれば対処は可能だ」
最初に時間を停止させた時は状況を理解できていなかった。
しかし、2回目には超高速での移動では説明がつかない移動にゼオンは身構えて一つの可能性を立てていた。
「時間が止まっている。そう考えたなら、その世界へ自分の存在を潜り込ませるだけだ」
「なるほど」
教えながら斬り掛かって来るゼオンの攻撃を横へ動いて回避したところへ振り上げられた剣を上から神剣で押さえつけて防ぐ。
ゼオンもいい剣を使っている。神剣と打ち合えるだけでも業物だという証拠だ。
「お前の【自在】をちょっと勘違いしていたよ」
最初に【自在】が使われた時は移動に便利な使い方だった。
その後はどんな傷をも一瞬で癒してしまう上、即死してもおかしくない傷までも癒してしまうことから勘違いしていた。
【自在】の本質は『このようにありたい』という願望を結実させたスキルだ。
だから、どこにでもいられるし、どんな状態でもいられる。
「お前はどんな願望を抱いたんだ?」
「何を……」
「俺も限界に到達した。だから『創造神の祝福』がどんなものなのか知っている」
「……!」
ゼオンが力任せに剣を押し込んだことで後ろへ体勢が崩される。
俺の言葉に動揺したゼオンが剣を振り上げて迫る。
腕を上げたことで無防備になった胸を倒れながら蹴ると互いに後ろへ飛んで離れていく形になる。
すぐに屈んで体勢を直すゼオン。けれども、着地地点へ予測していたアイラとイリスが先回りして剣を振り下ろす。
二人の攻撃が同時に迫る直前、ゼオンが離れた場所へ跳ぶ。
移動先は空中。【自在】を使用すればどのような場所であろうと一瞬で移動することができる。
「……な、に!?」
空中へ移動したからこそ空の異変に気付くことができる。
発生していた雷雲から雷撃がいくつも落ち、ゼオンの真上にも迫る。
剣だけでは受け止め切れないと判断すると両手で防御して雷撃を受け止めると耐え、雷撃と共に地面へ落ちる。
「はぁ……!」
息を荒くしながら立ち上がる。
ただし、落ち着かせる暇など与えずシルビアが接近して短剣を持った両手で何度も攻撃する。
体を反らして回避し、剣で弾くことによって回避しているゼオン。
どうにか致命傷を避けているような状況で、ギリギリ足止めさせられている。
「まだ、やるか!」
視線は正面にいるシルビアへ固定したまま。
それでも気配で周囲を探れば取り囲むように火球がいくつも浮かんでいることに気付く。
「行きなさい」
メリッサの命令によって火球が一斉にゼオンへ向かって飛ぶ。
それは至近距離にいるシルビアも巻き込むような攻撃だったが、メリッサは気にすることなく火球を落とす。
火球が落ちたことで炎が上がる。
すぐに炎の中から一つの人影が飛び出してくる。
「大丈夫だったか?」
「はい、平気です」
炎の中にいたシルビアだったが、【壁抜け】のおかげで全てのダメージを無効化して脱出していた。
足止めをしていたのがシルビアだったからこそメリッサは気にすることなく攻撃することができた。
一方、炎の中に取り残されたゼオン。
当然ながら炎の影響を受けているはず。
「無傷、か」
炎の中から魔法によって発生させられた水によって消火され、風によって熱気が吹き飛ばされた中にいたゼオンは全く変わらなかった。
先ほど雷撃によって落ちた時も消耗はしていてもダメージは負っていない。
これが『無敵』だと言った本質。
どれだけのダメージを負わせたところでゼオンが『こういう状態』だと認識することで全てのダメージはなかったことになる。
もっとも、スキルを使う度に魔力は消耗しているため限界はある。
「まだ続けるか?」
「一人で6人を相手にしないといけない事が何だって言うんだ」
動くことができるのはゼオンのみ。
対してこちらは6人全員で攻撃することができる。おかげで今は6人で取り囲むことができていた。
「スキルを使ったことで、時間を始動された直後を狙われることはなくなった」
どれだけ足掻いたところで認識することのできない死角からの奇襲。
現にゼオン以外は全く反応することすらできていない。
「けど、時間の停止した世界に入ったことで自分だけで対処しないといけなくなったんだ」
時間停止の影響を受けている者にはどのような攻撃をしようとも干渉することができない。
自分が干渉する為に停止世界へ入り込んだゼオンは干渉されるようになってしまった。
「どんなダメージを受けても瞬時になかったことにできる。一人でどれだけ耐えることができるかな?」
「その前にお前を倒せば済む話だ」
ゼオンの視線が俺へ向けられている。
たしかに迷宮主である俺を倒せば全てが片付く。
剣を振り下ろして斬撃が飛ばされる。
斬撃が飛ぶと直後に駆け出しているゼオン。斬撃を回避した直後の隙を狙っての遠隔攻撃だろう。
「停止」
「な、に……?」
飛んでいる斬撃が途中で止まる。
「時間停止を重ね掛けできない、とは言っていない」
時間を停止させた世界で、さらに時間を停止させる。
対象にしたのはゼオンが飛ばした斬撃。
斬撃を盾のようにしながら走っていたゼオンから見れば、自分を守るはずの斬撃が急に止まったことで壁のようになって障害物となる。
しかし、ゼオン自身には通用しない。彼の体は強い力に守られており、停止させることができない。
走っていた体を急停止させて左へと足を向ける。
方向を変えたゼオンの目に飛び込んで来た俺の姿が映る。
正面が塞がれればどうしても左右へ動くしかない。左を俺が塞ぎ、右へはシルビアが飛び込んで塞いでいる。
「ハァ!」
不安定な体勢ながら剣が鋭く振り下ろされる。
咄嗟の判断ができたおかげで俺よりも早く剣を振っている。このまま振り下ろされればゼオンの方が先に攻撃できる。
――ガンッ!
何かに当たってしまったようにゼオンの剣が動きを止めてしまう。
「6人を相手にしている、ということをお忘れです」
魔力の反応を感知して顔を向ければゼオンにも自分へ手を向けて反対の手で杖を持っているメリッサの姿が映る。
空間魔法による不可視の壁がゼオンの攻撃を受け止める。
それは、致命的な隙となる。
剣を振り上げたまま無防備な体を晒す。
神剣を振り上げて左下から右上へと斬る。
「チィ!」
斬られる直前に体を後ろへ反らされたことで傷が浅い。
動かない剣を諦めて離れようとする。しかし、そこでは飛び込んでくるのを待ち構えているシルビアがいる。
「――【自在】解除」
自分の方へ向かって来る相手に向かってシルビアが短剣を振るう。
しかし、ゼオンへ触れた瞬間に短剣が弾かれてしまった。
理由はゼオンが動かないことにある。
「時間の停止した世界では勝てないと分かって動くことを諦めたか」
停止した状態なら俺たちも倒す手段を失う。
ゼオンが狙っているのは時間が動き出した瞬間。動くことは諦めたゼオンだったが今も意識はしっかりとある。タイミングを見計らって帰還するつもりだ。
「本当に厄介なスキルだ」
停止世界を認識することで意識だけは働かせることができる。
「どうしますか?」
こうなるとこちらも時間が動き出した瞬間を狙って攻撃するしかない。
一か八かのタイミング勝負。
「いや、もっといい方法がある」
妙案を思い付いたイリスが静かに笑みを浮かべる。
動き回っているせいで分かり難いかもしれませんが時間は停止したままです。