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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第38章 迷宮防衛
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第29話 力の交錯する世界

 賢竜魔女の周囲に大小様々な氷柱が何十本と生成され発射される。

 シャルルの弓から放たれた拡散する矢が氷柱を撃ち落としていく。


 氷柱が砕けて輝き彼らの間に落ちていく。


「【雷槍】」


 テュアルの前に出現した魔法陣から放たれる槍のように真っ直ぐ飛ぶ雷撃。

 狙われたのは賢竜魔女。魔法によって広範囲を攻撃することが可能なため数の上で優位に立っているテュアルたちは真っ先に潰したかった。


 だが、放たれた雷槍の前に極限盾亀が立ちはだかる。

 大盾に雷槍が衝突してプスプスと煙を上げる。しかし、それだけの被害を与えただけでダメージにはなっていない。


「退きな!」


 極大の魔法陣が賢竜魔女の前に描かれ、光が放たれる。


「【竜鱗盾】」


 ブレスの前に隆起した地面が盾となって現れる。ただし、ただの盾ではなく表面に竜の鱗がコーティングされた特別な盾。

 さらにオネットの糸が絡み付き強度を補強する。


 ブレスを防ぐ盾だったが、数秒だけ耐えた後に破壊されてしまう。だが、耐えた甲斐はあった。盾を破壊したことによってブレスの威力が減衰して角度を変えられ逸れていく。

 逸らされた先には炎鎧とリュゼがいる。

 彼らはブレスの進行方向に二人がいることだけを確認して意識を再び目の前にいる敵へ戻す。自分たちが対処しなければならないのは目の前にいる敵。


「チッ、さっきからこんな事の繰り返しだね」


 攻撃を放っても迎撃されてしまう。

 こちらも向こうの攻撃に耐えられているが、決定打に欠ける状況が続いていた。


 賢竜魔女の側面へ回り込んだ極限盾亀が盾を構える。すると、賢竜魔女を狙ったオネットの糸で造られた槍が盾に当たる。


「あら、ブレスなんていう強力な攻撃の後を狙ったつもりなのですが」


 オネットが言葉を言い終わる前に盾を振りかぶる。

 大盾を打撃武器として利用した攻撃。


 けれども、オネットは槍を即座に捨てると糸を解き、迫る盾とは反対方向へ伸ばす。伸ばされた糸は地面にあった岩に張り付き、オネットの意思で伸縮する糸でオネットの体を引き寄せる。

 目標が瞬時にいなくなったことで盾が空振る。


「気を付けろ、奴らは本気になればどこからでも攻撃が可能だ」


 迷宮眷属であるオネットたちには【跳躍】がある。それでも糸による回避を行っているのは、こちらの方が魔力の消耗が少なくて済むからだ。


 極限盾亀が忠告した直後、オネットの手から糸が伸ばされる。鋭い糸が真っ直ぐに伸ばされる。それは糸ではあるのだが、触れるだけであらゆる物を斬ることができる強力な武器となっている。

 狙われているのは極限盾亀と賢竜魔女の首。


 糸が伸ばされた瞬間に狙いを悟った賢竜魔女が風を起こして糸を押し退け自分たちから離れた場所へ伸びるようにする。

 向かう先は魔法のおかげで何もない。普段は草木のある場所だが、今は乾いた大地が広がるばかりだ。


 オネットの糸で造られた槍が現れる。


「この距離で……!」


 接近して来ても対応できるよう杖を向ける。


「いえ、下がって!」


 オネットの狙いに気付いた極限盾亀が叫んで警告する。

 しかし、オネットが糸を引き寄せて跳ぶ方が早く、賢竜魔女の魔法が準備できる前に糸の槍が突き出される。


「あら……?」


 糸は賢竜魔女から逸れた場所へ伸びた。

 それでも突き出せば槍の届く距離にあり、そこへ瞬時に移動できる自分なら突き刺すことができると信じて疑っていなかった。

 賢竜魔女は回避することができていない。


「ふぅ、危ないね」


 体を回転させると魔女の尾てい骨から生えた竜の尾が通り過ぎていこうとしていたオネットを上から叩き付ける。

 上から押さえ付けられる攻撃に体を引っ張っていた糸を手放して盾を作ると耐える。


「なるほど。何もない場所へ伸ばしたなら、伸ばした先に何かを用意すればいい訳なんだね」


 オネットの体を引っ張っていた糸の先はテュアルが魔法で生み出した岩に付着していた。

 飛んで行った先に何もないからと安心することはできない。


「くぅ……!」


 尾による攻撃に耐えているオネットが苦悶を表情に浮かべる。

 オネットが得意とする戦闘方法は変幻自在な糸を駆使して様々な攻撃を繰り出す。ステータスはシャルルと共に最下位を争うほどで決して高くはない。

 賢竜魔女の攻撃に耐えられているのは根性によるものだ。


「このまま圧し潰してあげるよ」


 賢竜魔女が使用したのは【部分竜化】。【人化】した状態で、竜の体を一部分だけ顕現させることができる。先ほどオネットの槍に耐えられたのも攻撃された場所にドラゴンの鱗を顕現させたからだった。


 人の体に竜の部位。

 普通のドラゴンなら賢くても感覚の違いから生やしたドラゴンの部位を扱えなくなるだけでなく、人間の体すらバランスを崩して転んでしまう危険性を孕んでいるスキル。けれども、強力な魔法を扱える賢竜魔女ほど賢ければ感覚の違いなど誤差の範囲。圧し潰すべく尾に力を入れる。


 シャルルが神気を纏った橙と藍色の矢を射る。

 当たると同時に衝撃を発生させ、矢そのものを頑強にすることができる特性が複合された矢。


「【堅壁(グレートウォール)】」


 極限盾亀の盾から光の壁が広がり、オネットと賢竜魔女を包み込んでしまう。

 シャルルの射った矢は光の壁に衝突すると同時に衝撃を発生させるが、堅牢な壁は決して揺るがない。テュアルが魔法を当てても同様の結果になる。


「まずは一人を潰すことにしようか」


 賢竜魔女の意図を瞬時に読み取った極限盾亀は耐えるべく【堅壁】を発生させた。

 少なくともシャルルやテュアルに破壊できるような代物ではない。


「そこまでにしてもらおうか」


 もっとも、それは無理矢理破ろうとした場合の話だ。


「ちょ、あんた……!」


 現れたのはゼオン。彼の手には体の至る所を斬られて血を流した雷獣が掴まれていた。真っ白だった毛は大部分が赤く染まっており、痛々しい状態になっている。


「まだ生きている。早急に治療すれば回復させられるかもな」

「チッ、あの状態だと回収することもできないね」


 【召喚】による回収は触れている相手も一緒に連れてきてしまう、というリスクが付きまとうことになる。

 掴まれた状態では雷獣を回収することができない。


「こっちも終わったわよ」

「……重いんだけど」


 雷獣と同じように掴まれた炎鎧と黄金の鬣がリュゼとキリエと共に合流する。

 どちらも生きてはいるが、大きなダメージを負っていて動ける状態ではないのが一目で分かった。


「さて、交渉だ」

「交渉だって?」

「そうだ。まずはオネットを解放してもらおうか」

「……」


 迷う賢竜魔女。

 特別仲のいい相手という訳ではないが、同じ迷宮で生活している仲間であることには変わりなく見捨てるのは忍びない。

 少なくとも何を考えているのかぐらい言われなくても分かる。


「断る」

「いいのか? もっと理性的な話のできる奴だと思っていた。こんな強い奴が消えれば困るのはお前たちの主だぞ」

「そいつらはやられるかもしれない覚悟をして戦いに挑んでいるんだよ。人質にされた自分たちのせいで敗北するような事になれば悔やんでも悔み切れないよ。だから一人でも多く道連れにするだけさ」


 簡単にくたばるような連中ではないことは賢竜魔女が良く知るところだった。

 なら、トドメを刺されるまで抵抗してくれた方が時間を稼げる。


「埒が明かないな。魔物のお前と交渉をしてもダメだ。お前たちの主と交渉させてもらおうか」

「だから--」

「いいだろう。そっちの要求を可能な範囲で飲んでやる」


 唐突に姿を現したのは最下層で状況を見守っていたマルス。

 賢竜魔女の行為はありがたく思うが、彼らの命には代えられない。

次回から一気にラストスパートです!

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