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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第38章 迷宮防衛
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第27話 炎に熱される世界

 炎鎧の斬馬刀が大きく振るわれる。

 しかし、上へ跳んだリュゼに悠々と回避され手にした大剣が頭上から振り下ろされる。全身を……頭まで兜で守った炎鎧だが大剣のように大質量の武器を上から叩き落とされれば兜も割られる可能性がある。


「ありゃ?」


 後方へ回り込んでからの振り落とし。それでも素早く振り上げられた斬馬刀によって手にしていた大剣と共に後ろへ吹き飛ばされた。

 吹き飛ばされながらも難なく着地したリュゼへ斬馬刀が突き出される。


「……!」


 体を傾けて回避すると眼前を斬馬刀が通り過ぎていく。

 そして、引き戻されて眼前からなくなるのも見える。


 突きが繰り出されるのと引き戻されるのは一瞬の出来事。


「へぇ」


 感心しながら踊るように体を左へ右へと動かす。

 一瞬前までリュゼのいた場所を通り過ぎて地面に小さな穴を開けている。


「そんなに大きな剣を使っているのに鋭くて速い剣ね」

「……それを全部かわしているお前が言うか」


 聞こえてきたリュゼの声に一瞬だけ意識が逸れてしまう。

 その隙に炎鎧の懐へと飛び込んだリュゼが鎧に短剣の魔剣を当てる。


「こんなもの……」


 炎鎧の鎧は特別製。たとえ魔剣の威力であろうとも貫かれる心配はない。


 ――パキンッ!

 現に鎧へ当てたリュゼの短剣の方が耐えられずに砕けてしまう。


「そうでもないよ」

「なに?」


 砕けた音の正体は短剣の魔剣だけではない。

 鎧も表面が一部だけだが欠けていた。


「――この手に剣を」


 両手に砕けた魔剣と同じ魔剣を召喚する。

 二本の短剣で攻撃する。鎧に当たると同時に砕けてしまう。だが、砕けてしまう代わりに鎧を少しずつ削っていっている。そして、削られていけば鎧の防御力も低下し、攻撃しても一撃では砕けることがなく二回、三回と耐えられるようになる。


 リュゼの攻撃から逃れようとする炎鎧。しかし、斬馬刀を持つ炎鎧ではリュゼの迫る速度に勝つことができず懐へ飛び込まれてしまう。


「たしかにそんな大きな剣を持っていても速く振ることができるみたい。けれど、だったらアタシはそれ以上に速く動けばいいだけの話」

「さっきまでは手を抜いていたな!」

「適度な力を出していたって言ってほしいな」


 9本目の短剣の魔剣が砕ける。

 しかし、その頃にはあと一撃で鎧の向こう側まで攻撃が届けられるほどに砕けている。


 炎鎧も何もしていなかった訳ではない。


『どうなっている!?』

『あの魔剣は防具破壊に特化した呪いの魔剣だ』


 迷宮主であるマルスから魔剣の情報を得ていた。

 【鑑定(アナライズ)】を使えば敵のどんな情報も読み取ることができる。リュゼが使用している魔剣は防具を攻撃すると同時に自らの受けたダメージを相手へ転写させることができる魔剣。相手の防御力など無視して一撃で壊れたなら魔剣の大きさだけ相手の防具を破壊することができる。耐えられれば耐えるほどダメージは蓄積する。

 鎧に残された厚さは短剣1本分ほど。突き刺すだけなら簡単にできる。


「調子にのるなよっ!」


 炎鎧の体から炎が噴き出す。

 地面に残されていた僅かな草があっという間に燃え尽きていた。


「これなら近寄れないだろ」

「うん、そうだね」


 近付くだけで体が燃やされるような熱に苦しまされる。

 炎鎧と距離を取ったリュゼは動かずに待つ。


「けど、もう少し周囲の事を考えた方がいいよ」


 近くと言える距離で黄金の鬣が戦っている。

 十分に炎鎧の出した炎の熱が届く距離だ。


「いいんだよ。オレはあいつらのことを信頼しているからな」


 本当に気にした様子がなく、リュゼの事だけを見ている。


「やっぱり変わった魔物だね」

「そうか?」

「もちろん。だって群れる魔物はいるけど、それはトップに立つ魔物の下に配下の魔物が付き従っているだけの集団。間違っても相手の力を信頼して共闘するような関係にはならないはず」


 そうなるよう調教した迷宮の魔物なら共闘させるのも可能。

 けれども、事前にマルスたちの情報を調べていたリュゼは炎鎧が後から迷宮の魔物とされた事を知っている。


「オレは自分が強いって信じていた。当然だ、同じくらい戦えるのは雷獣や海蛇の奴ぐらいしかいないって思っていた」


 けど、そうではなかった。

 迷宮の魔物となった炎鎧だったが、特別に禁止された行動はなかった。自分の力を過信していた彼は強い者に戦いを挑んでいった。

 最初は近くにいた者。中層で戦える者がいなくなると深層へと向かい、不死皇帝以外の3体と戦った。

 結果は完敗。極限盾亀の防御を破ることができず、賢竜魔女には魔法によって翻弄され、黄金の鬣との戦いでは鎧を纏っているにも関わらず成す術なく地に膝をつけていた。


 悔しかった。

 だが、負けた事よりも自分以上の力を持っているにもかかわらず威張ることなく誇っていたのが羨ましく見えた。


「強さに拘るなんてバカバカしい。オレは、オレの願いの為に鍛えた力を使う! それが借り物だったとしても全力でお前を倒すのがオレの願いだ」


 地面の上に火で円形の線が描かれる。

 踏み出すだけで消すことができる程度の大きさしかない火。それは攻撃の為ではなく範囲を定める為の線。

 リュゼと炎鎧を中心に描かれる半径30メートルの円。


「はぁ、はぁ……」


 次第に炎鎧から離れていたリュゼの息が荒くなる。


 全身から炎を出すような攻撃が消耗せずに発動させられるはずがない。そう時間を掛けずに消えるだろうと思っていたため消えるのを待っていた。

 だが、一向に消えることなく気温が上昇したことで眩暈を覚えていた。


「前みたいに広範囲を暑くするような真似はしない。必要な範囲だけを熱する」


 二人を囲むように描かれた線はスキルによって熱する範囲を定めている。火線の向こう側は通常通りで、範囲を限定したことによって内側は一気に熱せられるようになる。


 内側は暑いのではなく、熱い。

 まさに熱で焼かれているような状況だ。


「こんな攻撃が、長く続くはずがない」

「そうでもないさ」


 余裕を持って炎を出し続ける炎鎧。

 余裕がある理由は、今の炎鎧が消耗とは無縁とも言える存在になっていたからだった。


「今のオレは迷宮から魔力を供給されている」


 迷宮そのものが保有している魔力の量は膨大。

 そのため供給されていれば炎を出し続けるのも余裕になる。


「ホントはやりたくなかったんだけどな……」


 これが迷宮の魔物になった利点。

 ただし、迷宮の恩恵に与った戦い方は炎鎧の望むものではなく、できる事なら己の力だけで勝ちたかった。


「このまま蒸し焼きにする――コレがオレの切り札だ」


 膝をつくリュゼは俯いたまま。

 炎鎧は不用意に近付くような真似をしない。リュゼが警戒するべき剣士だと聞いて知っていた。実際に剣を打ち合わせて間違っていないことを悟ると遠距離から確実に仕留めることにした。


 こうして熱を出し続ければ人間のリュゼが動けなくなる……


「いや、おかしい……!」


 見えている光景に違和感はない。

 けれども、炎鎧の勘が警鐘を鳴らしていた。


「……!?」


 咄嗟に振り向きながら斬馬刀を振り下ろす。


「まずは腕を1本もらう」


 金色の魔剣を手にしたリュゼが鎧の隙間へ魔剣を突き入れて大きく抉る。


「がぁ……!」


 切断には至らない。それでも皮と肉の一部で繋がっているだけのような状態になり右腕が使い物にならなくなる。


「こいつ……!」


 炎による熱を恐れずに接近して攻撃している。

 熱によって消耗によるダメージは確実に与えている。それでもリュゼの瞳に恐れがないのは見れば一目瞭然だった。


 いや、それよりも気にする事があった。


「あっちのお前は……!?」


 今も蹲ったままのリュゼが離れた場所にいる。


「バレたなら騙しておく必要もないか――幻惑の魔剣」


 リュゼが左手に持っていた黒い魔剣を振った瞬間、炎鎧が視線を向けていた場所で蹲っていたリュゼが霞のように消える。

 全ては最初から幻だった。


「すごく騙し易かった。この熱のおかげで視界は歪んでいるし、人間は炎に耐えられないと信じ込んでいるおかげで近付いてもくれなかった」


 幻影であるため触れれば実体がないことは分かる。


「アタシたちはとっくに人間を辞めているの。この程度の炎でどうにかできると思っていたら大間違いだよ」


 リュゼが手を掲げると空中に何本もの魔剣が現れる。


「それに切り札の数ならアタシの方が多い」


 魔剣の1本が飛ばされ、炎鎧は自身の炎を盾のようにすることで防御する。

 炎に包まれた魔剣が地面に落ちる。


「ぐっ……!」

「相手の姿まで隠しちゃうなんて素人同然ね」


 炎の向こうから飛び出してきたリュゼが魔剣で炎鎧の足を鎧の上から斬りつける。

 先ほどのように鎧が破損した様子はない。


「この魔剣は相手の防具を透過して内側を攻撃することができるの」


 効果を聞いた瞬間に炎鎧が思い浮かべたのはシルビアの【壁抜け】。

 彼女のように防御をすり抜けて攻撃することができる魔剣。


「どうして今まで使わなかった?」


 そんなに便利な魔剣があるなら呪いの魔剣を消耗するよりも先に使った方がよかったはずだ。


「こっちの魔剣はストックが少なくて2本しかないの。しかも脆いから斬馬刀で叩かれれば一撃で砕けるから使わなかったの」

「そういう、ことか」


 今の炎鎧は右腕を斬られたことで斬馬刀が使えなくなっていた。

 おかげで安心して魔剣を使うことができる。


「いいだろう」


 無事な左手で斬馬刀を手にする。

 今は熱で苦しませるよりも強力な一撃が必要とされていた。


「使い慣れていない方の腕だけでどうにかできる相手だと思わないで」

「そっちこそ油断しない方がいいぞ」

超高熱化での戦いになります。

油断から右腕を使い物にならなくしてしまった炎鎧が奮闘しています。

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