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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第38章 迷宮防衛
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第23話 復活の皇帝-中-

 オネットの故郷とも言えるレジャーナ王国。

 彼女自身は王国だった頃のレジャーナを知らないが、たしかに彼女は王族の血を引く者だった。王国が健在だったならば王女として持て囃される人生を送ることになっていた。

 だが、レジャーナ王国はガルディス帝国が建国される前に侵略されて亡んでいる。


『当時を知らないお前たちは何も分からないだろうけど、ガルディス帝国ができ上がることになる地域は本当に争いの絶えない場所だったんだ』


 争いが絶えないのは様々な国が乱立していたから。ちょっとした方向性の違いから争うことでしか恵みを得ることができなかった。

 最も効果的なのは統一してしまうこと。

 そんな時に迷宮核と出会い、迷宮の力に魅入られた彼は手段なんて選んでいられなかった。いや、もっと穏便な方法はあった。しかし、その方法では成し遂げるまでに大勢の血が流れ、彼が生きている内に成し遂げるのも難しい。

 だから自分が最初の皇帝になる意味でも強引に押し進める必要があった。

 おかげで最小限の争いで統一を成し遂げることができた。


「そうですね。たしかに最小限だったのでしょう」

『何が言いたい?』

「貴方がレジャーナ王国へ仕掛けた戦争は今でも終わっていません。少なくとも私たち一族は帝国への恨みを忘れたことなどありません」

『やれやれ……恭順を示した後は貴族として迎え入れたというのに不満なのか』

「当然です! ガルディス帝国の貴族界でレジャーナがどのような扱いを受けていたと思っているのですか!?」


 無駄な抵抗を続けていた愚か者。

 以前も統治していたから、という理由だけで領主に任命された。

 当時の領主――元王族たちは必死に仕えて忠誠心を示そうとした。しかし国からは豊かな土地である事を理由に他よりも重い税を課せられ、民にまで苦労を強いる訳にいかなかった領主は自分たちの身を削ることで凌いでいた。


 そこまでしたにもかかわらず数十年後には打ち捨てられた。

 全てはアムシャスが統一など夢見てしまったことが原因だった。


「アンタに言われるまでもなく戦争が絶えなかったのは知っている」


 リュゼは当事者だったため知っていた。


「たしかに戦争は起きていたけど、国を亡ぼすような大きい戦争は起きていなかったんだよ」


 起きるのは国境近辺にある領地間のトラブルによる小規模な戦争。

 数百年単位で見ればアムシャスによって救われた命の方が多いが、建国から百年も経っていない現在では建国の為にアムシャスが切り捨てた命の方が多い。

 なによりも命以外のものも切り捨てている。


「わたしも巫女として信仰を捨てさせるのは看過できなかったね」


 統一に邪魔になるようなものは切り捨てていくのがアムシャスのやり方だった。

 誰も苛烈な皇帝には反対することができなかった。もしも反対すれば【掌握】のスキルの存在まで知らなかったとしても傀儡にされてしまうことは理解できた。そんなことになるぐらいなら恭順を示した方がいい。


「それに先祖の罪を子孫にまで押し付けるのはやり過ぎたな」


 ゼオンのマディン家はガルディス帝国が建国されたばかりの頃に起ころうとしていた反乱に協力した罪で罰せられた。本来なら親族も処刑されるところを直前で反乱の阻止に情報を流して協力したことで赦されて助命だけは認められた。

 だが、命は助かっても名誉は捨てざるを得なくなり、ゼオンたち子孫も名誉を得る機会を永遠に失わされてしまった。


『全ては必要な事だった。あの頃、統一の過程において宗教観の違いから争いが発生することがあった。争いを未然に防ぐ方法として効果的なのは原因となり得るものを排除してしまうこと』


 つまり宗教観を統一することによって争いを防ぐ。

 その効果はあり帝国内で宗教観の違いから起こる争いは減っていった。しかし、その事が統一に対して危惧を抱かせることになった。


 自分たちも無理矢理改宗させられる。

 穏便に済ませたかったアムシャスだったが、止められるような雰囲気ではなくなり力で潰してしまう以外の選択肢がなくなっていた。


『それに、お前らマディン家の復興が絶たれたのも帝国を裏切るからだ。帝国に恭順を示した時に誓わせているぞ』


 ――我が身は、帝国の剣となり盾となり、永遠の忠誠を誓います。

 その誓いがあるからこそ貴族として迎え入れられ、様々な特権が得られる代わりに貴族法を遵守しなければならないことが伝えられる。


『彼らは功績によって貴族として讃えられ子孫にも譲り渡すことができる。だが、受け継ぐのは煌びやかな功績ばかりではない、犯した罪によっては罰も受け継ぐことになる』


 帝国という巨大な国を維持するには必要な措置だった。


「なるほど。先祖の犯した罪を子孫が引き継ぐ――立場や罪の大きさを考えれば納得できる」


 だからこそゼオンも反論することができる。


「こうしてガルディス帝国が亡ぶことになったのもあんたの責任だ」

『なに……?』

「あんたがどれだけの功績を残していようとレジャーナ王国を亡ぼし、女神セレスを追放したのは紛れもない事実だ。それに急激な変化にマディン家をはじめとした連中はついていけなかった」


 なによりも最も被害を受けた人物が傍にいる。


「リュゼはどう説明する? こいつは自分の意思まで失わされて無理矢理従わされていたんだ」

『それが戦争っていうものだ』


 敗戦国の将軍なのだから従うのは当然。

 その態度を見てゼオンは理解した。


「やっぱりな。あんたはただの野心家だ」

『なんだと!?』

「あんたの中にあったのは自分が皇帝になる事だけ。少しは戦争ばかりの国を心配していたんだろうけど、性急に事を進めたかったあんたは他人の事なんか一切考えずに帝国を作ったんだ」


 王子だったが期待されておらず、親からも見放されていたこともあって誰をも見返すことのできる存在になりたかった。


『……その通り。だが、ちょっとぐらい夢を見たっていいじゃないか。そして、せっかく夢を叶えられるだけの力を手に入れたんだから有効利用させてくれよ』


 悪びれる様子もなく笑いながら言うアムシャス。

 彼は純粋に手に入れた力に酔いしれ、自分が権力を手に入れたかった。


「今のガルディス帝国はあんたの身勝手な行動のツケが回ってきただけだ。あんたが手に入れた力を好きなように使ったように俺たちも好きなように使わせてもらった」

『そう言われると反論のしようもないな』

「俺にやらせろ。一撃で終わらせてやる」


 ゼオンの持つ剣から白い光の粒がいくつも放たれる。

 キリエを通して供給された神気を剣に集中させ、留めることができずに溢れ出した神気が粒子となって舞っている。


『悪いけど、私もやられる訳にはいかないんだ』


 アムシャスの体から瘴気が溢れ、剣に纏わり付いて渦巻いている。


「自分が追放した神の力で消えろ」


 二人の剣が衝突する。

 白い光と黒い靄が周囲へと解き放たれて衝撃が舞台の上を駆け巡る。


 --ピシッ!


『これは……』


 アムシャスの鎧にヒビが入る。

 迷宮主のステータスによって肉体が強化されているゼオンと違ってアムシャスは迷宮の力で生み出しているとはいえ鎧そのものに過ぎない。

 どちらが脆いかなど明らか。

 剥がされた鎧の破片が宙を舞い、衝撃に晒されたことで粉々になる。


『さすがにこんな状態になっては直せないか』


 瘴気で慌てて剥がれた部分を塞ぐ。しかし、剥がれてしまった事そのものはどうしようもなく応急処置ぐらいしかできることがない。

 このままだと遠くない内に敗北する。


『いや、魔物になった今だからこそできる事がある』


 残された力を振り絞って剣を通して瘴気を流し込む。

 生前は斬ると同時に魔力を相手へ流し込むことによって相手の精神へダメージを与えることができた。

 当時と比べれば少量。それでも人間にとっては毒に等しい瘴気を流し込まれることによって以前以上の効果が発揮される。


「……効かないな」

『なんだと!?』


 瘴気を送り込むことに注力していたアムシャスの腕を弾き飛ばして上げさせる。そうして無防備となった胸へ神気を纏った剣を叩き付ける。


『ぐふっ!』


 鎧の前部分がほとんど失われた。

 リビングアーマーにとっては致命傷となるダメージを負ったことでアムシャスが仰向けに倒れる。

 鎧の内側の背面側に魔法陣が描かれている。この魔法陣が鎧に魂を定着させる役割を担っており、破壊することでリビングアーマーの動きを止めることができる。


「もう俺たちが何かをする必要もないな」

『どうやらそうみたいだな』


 正面を破壊した時に魔法陣の一部が欠けてしまった。

 ほんの小さな傷だが、それでもリビングアーマーにとっては致命傷に等しい負傷だった。


「最後に俺たちへ何か言い残す事あるか?」

『……楽しい人生だったさ。皇帝になるなんて経験は誰にもできない。だから――俺が死んだ後の事なんて知ったこっちゃない』


 魔法陣へ剣を突き刺したことでアムシャスが完全に消滅する。

 あのまま放置していても何もできなかったし、それほど待たずに消滅することになっていた。

 それでもトドメを刺したのは謝罪を期待したからだった。ところが、アムシャスからは謝罪の意思など微塵も感じられず気付けば剣を突き刺していた。


「ゼオン」

「あいつはああいう奴だ。気にしない方がいいぜ」

「すまん。心配かけた」


 リュゼから心配され、キリエから慰められたことで落ち着きを取り戻していた。

 過去の事は目的がある今となっては気にしていないが、それでも元凶である本人から何も思っていないと言われれば苛立たずにはいられなかった。


 剣を鞘に納めて先へ進もうとする。


 ――パチパチパチ!

 手を叩く音が聞こえ、音のする方へ顔を向ければアンデッドエンペラーが自分たちを見ていることにゼオンたちも気付いた。


『どうだったかな、余興は?』

「……胸糞悪かったよ」


 それが素直な感想だった。


『それは良かった。なにせ敵を苦しめることに儂が最も成功していることになる』


 鞘へ納めたばかりの剣を抜く。


『もう一つだけ聞かせてくれ――出来栄えはどうだった?』

アンデッドへ変えることができるアンデッドエンペラーの能力。しかし、アンデッド時にはステータスが著しく低下します。

おまけに今のアムシャスは迷宮主ですらありません。

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