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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第38章 迷宮防衛
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第8話 【自在】の限界

 アリスター迷宮の地下36階からは海フィールドとなっている。

 イルカイトとは違って海に囲まれた島を探索して先へ進むことができる転移魔法陣を探すことになっている階層。

 だから、荒涼とした大地から海の見える砂浜へ景色が変わったことは全くおかしくない。


「やあ」


 砂浜と緑が生い茂る地面の境目に立つ俺が声を掛けると不審に思って眉を顰めていた。


「そんなに俺がここにいるのが意外か」

「当然だ。こんな場所へ来る必然性がない」


 地下36階へ到達するまで迷宮にいる魔物たちに任せて自分たち自身は敵の前に姿を現さなかった。

 タイミングを考えれば不自然だ。


「お前一人か?」

「ここは俺の迷宮だ。護衛が必要か?」


 自分の家なのに護衛が隣にいなければ安心できない、と言っているに等しい行為だ。そんなことはやりたくない。

 少なくとも下層へ辿り着くまでは安心してもいい。


 ただし、最下層まで辿り着いてもおかしくないだけの実力を備えているのがゼオンたち迷宮主だ。


「それにしてもマグマグランドドラゴンだけでなくフレスヴェルクまで倒すなんて強すぎるだろ。マグマグランドドラゴンは急遽用意したけど、フレスヴェルクは性格が災いして使い難かっただけで切り札の一つだったんだけどな」


 本気で暴れれば迷宮の構造物である山すらも破壊してしまえる灰色の風。

 突破されてしまったことは少々意外だった。


「けど、あいつは十分に役立ってくれた。おかげで【自在】の限界を見つけることができた」


 体の7割以上を失った状態からでも元に戻ることができたキリエ。


「さすがに全身が消滅した状態だと復活できないみたいだな」


 それが可能なら自爆を覚悟で灰色の風の檻を突破することもできたはずだ。

 何らかの制約や代償があって、可能ならやりたくなかっただけかもしれない。

 けれども、一つだけ確かな事がある。


「どうやら失った魔力まで元に戻すことはできないみたいだな」

「……」


 後ろの方でそれとなく隠れていたキリエが動揺する。

 キリエ以外の5人の強大な魔力に隠れて判別し難くなっているもののキリエの魔力はごっそりと減ったままだった。体を動かすには問題がないよう体力は元に戻されている。


 魔力だけを元に戻さない理由はない。

 だから『しなかった』のではなく、『できなかった』というのが正しいだろう。


「不自然にならないよう隠しておいたんだけどな」


 仲間が前に出ることで隠していた。

 その作戦は間違っておらず、こうして相対した状況ではキリエの消耗した魔力を感じ取ることができない。

 ここが迷宮であり、俺が迷宮主だからこそ知ることのできた事実だ。


「こっちは迷宮主だ。迷宮内にいる人間の魔力量ぐらい把握できるさ」

「……それもそうだな」


 自分にもできることを思い出してフッと小さく笑う。

 迷宮を攻略する事態は想定していたが、自分たちが窮地に陥る事態を想定していなかったため【自在】を隠す方法が甘かった。


「どんな怪我を負ってもなかったことにできるお前たちを相手に消耗戦を仕掛けても意味がない、と思っていた。けど、フレスヴェルクのおかげでそうでもないことが分かった」


 【自在】が使える回数には制限がある。

 魔力を大きく消耗することを目的に消耗戦を仕掛けるのなら決して間違ってはいない。


「そこまで分かっているのか。だったら無駄な話だ」


 収納リングから魔力回復薬を取り出して見せてくる。

 失った魔力の全てを回復させられる訳ではないが、ある程度は薬で回復させることができる、そう言いたいのだろう。


「けど、お前たちの攻略を遅らせることはできる」


 二体とも十分に時間を稼いでくれた。

 ゼオンをどうにかできる方法は思い付いた。後は、実行に移せる準備に必要な時間を稼ぐ必要がある。【自在】があるゼオンが相手では時間稼ぎに徹するなんて無意味に思えたけど、実行するだけの価値は十分にある。


「なるほど。まんまと時間稼ぎに付き合わされたわけか」


 自ら姿を現して注意を向けることによって足を止めての会話を行う。

 当初の目的通りに時間を稼ぐことに成功していた。


「いや……」


 そこで、ゼオンたちも気付いた。


「たしかにおかしいですね。この程度の時間を稼げることに大きな意味があるとは思えません」


 テュアルが同意したことでゼオンたちの中にあった違和感が明確になった。

 会話によって稼げる時間は数分が限界。その間にも足を止めて休息していることでキリエの魔力が回復している。


 時間を稼ぐ必要はある。だが、同時に消耗もさせなければならない。


「時間を稼ぐのが目的じゃ、ない?」

「そういうことか!」


 リュゼのボソッと呟いた言葉によってゼオンが気付いた。

 これ以上の時間稼ぎは難しそうだ。


「――進捗率80%。準備を終えてから通したかったんだけど、仕方ない」


 迷宮核に状況を確認しているとゼオンが蹴るべく飛んでくる。

 けれども、俺が【転移】で逃れる方が早い。その場を離れると迷宮の最下層へ移動する。



 ☆ ☆ ☆



「すぐに移動するぞ!」


 号令を掛け、走るゼオンたち。

 島には高い植物が生えていて視界を遮っており、ぬかるんだ土の地面に悪戦苦闘しながら進むことになる……しかし、ゼオンたちには関係のない話。地図を参考にしていれば迷うことはないし、この程度の悪路は彼らの苦労してきた人生においては何度も通った道。

 マルスと別れてから数分もしない内に地下37階への転移魔法陣を見つける。


「怪しい……」


 あまりにあっさりしすぎている。

 道中で魔物の襲撃はなく、手の込んだ仕掛けも施されていなかった。


 考えられる可能性は一つしかない。


「地下36階を捨ててでも、次の階以降で何かを仕掛けているっていうことでしょ」


 リュゼの言う通り。

 マルスがゼオンたちの前に姿を現した目的は、地下36階に彼らを少しでも長い時間留めておくこと。ただ、マルスの目的が時間稼ぎだと知ったことで急いで36階の攻略をしたため、当初の無理をしない攻略に比べれば大した時間を稼ぐことはできなかった。


「ま、何をしたのかは次の階へ行けば分かることだ」


 転移魔法陣が光り、目の前の景色が一瞬で切り替わる。


「……!?」


 目の前に広がるのは真っ青な世界。

 言ってしまえば水中だった。


『とりあえず水上まで移動するぞ』


 冷静になれば念話で会話が可能だと分かる。


「ぷはっ」


 6人が水面から顔を出して空気を補充する。

 唐突な水中への移動に準備が全くできていなかった。


「あいつらやりやがった」


 階層を全て水で満たしてしまう。

 水中に転移魔法陣が残されているため迷宮運営においてルール違反にはならない。


「律儀に付き合ってやる必要もないだろ」


 地図で転移魔法陣のある場所を確認する。

 スタート地点から100メートルほど離れた場所にあった。元々がリゾートのように寛げる空間を目的に作られた地下37階。攻略を目的にしている冒険者に寛ぎを邪魔されたくなかったためビーチから離れた場所にあり、簡単に次の階層へ移動できるようになっている。


「じゃ、早くそこまで行こう」

「いや、そこも付き合ってやる必要がないだろ」


 水面から出て空を浮かぶゼオン。

 水中を泳いで転移魔法陣のある場所まで移動するよりも、空を飛んで転移魔法陣のある場所の真上まで移動してしまった方が手っ取り早い。


「ぐわぁ」


 唐突に襲ってきた頭へのダメージに水中まで落ちてしまう。


「気を付けてよ」

「なんだ、今のは……?」

「忘れたの? ここは迷宮なんだよ」


 海フィールドの天井には青空が描かれている。

 描かれているだけで、そこには空がある訳ではなく天井が存在している。


「今は階層の大部分が水に埋まっている状態。どうやら水面から足を出すぐらいの高さは残されているみたいだけど、飛んでパッと移動するのは難しいかな」

MP以外の数値をいじり放題、というトンデモチート能力

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― 新着の感想 ―
[一言] ラスボスとは言えど、同じ迷宮主なのに能力を異常にし過ぎかな。
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