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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第38章 迷宮防衛
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第5話 竜の溶かす世界-後-

 これ以上の屈辱はない。

 溶熱巨人とレッドドラゴンが融合したことで生まれた溶熱巨竜(マグマグランドドラゴン)

 両者の意識は溶け合い、新たな存在が生まれるはずだった。誕生したマグマグランドドラゴンにも新しい自我が生まれていたが、自我の乏しい溶熱巨人と融合したせいかレッドドラゴンの意識が強かった。


 ドラゴンとして最初から生を受けたレッドドラゴン。

 強者であるドラゴンが他者から見下されることなど滅多にない。むしろ訓練の相手をしていたイリスからは敬われ、頼られるぐらいだった。


 だから――倒した自分の事など無視して初めて使用した魔法の分析に夢中となっている状況が許せない。


「グオオオォォォォォ!」


 声とは違う震える音が雄叫びとなってマグマグランドドラゴンから放たれる。

 それは、ドラゴンの身を失った体での必死な咆哮。


「隠し切れていないぞ」


 マグマが凍らされたことで【鑑定】も完全に発動するようになった。

 その身にある魔力の全てを口へ集めている。文字通りに死力を尽くした攻撃。


『消えろ--!』


 マグマグランドドラゴンの口からマグマのブレスが吐き出される。

 マグマのブレスは凍らされた河を一瞬で溶かし尽くし、ゼオンたちを飲み込もうと迫る。

 彼らが今いるのは左右を岩壁に囲まれた河。ブレスは河を覆い尽くすほどの大きさで放たれており、回避できるようなスペースなどない。


 これならばゼオンも一撃で葬ることができる威力。

 怒りに囚われていながらも冷静な部分で喜んでいる。


「これだからドラゴンはいけない」


 ゼオンの傍に眷属の5人が集まる。

 さらに、前へ出たオネットの手から大量の糸が飛び出て、繭のように6人を覆うと球体になって防御する。

 直後、繭がマグマのブレスに飲み込まれる。


『な、に……?』


 ブレスによって視界が閉ざされ、荒れ狂う魔力のせいでゼオンたちの気配を感知することができない。

 正面へ意識を集中させて、ブレスによってどうなったのか観察する。


『グアアァ!』


 突如、背中に痛みが走って顔だけを後ろへ向ける。

 マグマであるため意識を向けるだけで状況を知ることができるのだが、レッドドラゴンだった頃の癖で顔をどうしても向けてしまう。


 そこにいたのは長剣をマグマの体へ突き刺しているリュゼ。斬った対象を凍らせることのできる魔剣であるため、魔剣の突き刺さった場所から冷気が広がってマグマグランドドラゴンの体を凍らせていく。

 凍っているのは体の表面のみ。氷の内側は煮えたぎるようにマグマが蠢いているが、氷を溶かし切ることができない。


『そうか』


 河を凍らせている冷気は、未だにマグマグランドドラゴンを凍らせようと冷気が体を上っている。

 魔法が生きている証拠。つまり、魔法の使用者であるテュアルも生きていた。


「もっと冷静さを保っていないといけないな」


 煙の向こうから姿を現すゼオンたち。

 防御する為に魔力は消耗したようだが、迷宮の硬い壁を溶かすほどのブレスを受けても無傷でいた。


「ドラゴンっていうのは強いが故にプライドの高い魔物だ。自分たちよりも強い相手を前にした時、こうして冷静さを失う攻撃をする。これを待っていたんだ」


 マグマグランドドラゴンの限界を越える攻撃。

 限界を越える為に自身の魔力だけでは足りなかったため迷宮の魔力まで消費してしまった。他の魔物には許されていない。しかし、迷宮と一体化した今だからこそできた無茶だった。

 そして、迷宮の魔力を使わせることこそゼオンの目的でもあった。


『ククッ、これだけの力を手に入れても敵わない事は分かった』

「そうか」


 リュゼが魔剣を振り下ろす。凍った体は斬撃まで通してしまい、体が真っ二つにされてしまう。通常ならばマグマを得ることで体を再生することもできたが、再生する為に必要なマグマが今は凍らされて自由に使用することができない。

 さらにキリエの打撃とテュアルの魔法によって粉々にされる。

 これでマグマグランドドラゴンが蘇ることはなく、完全に破壊された。


 残されたのは濁った赤い光を放つ魔石のみ。


『我は敗北した。しかし、我の敗北は我らの(・・・)敗北に繋がる訳ではない』


 回収するため道具箱へ収納しようとする。

 直前、魔石が強い光を放つ。


「なんだ!?」

『置き土産だ。せめて最期には一矢報いることにしよう』


 光が放たれていたのは一瞬。

 魔石に何かが起こった様子はなく、収納するには問題がない。


「何があった?」


 魔石を収納しながらテュアルに尋ねる。

 情報が不足している時には彼女に頼るのが彼らのパーティのやり方だった。


「……すぐにこの場を離れた方がいいです」


 テュアルが言葉を発した直後、階層全体が揺れに襲われる。

 ゼオンたちにとっては大したことのない揺れ。しかし、迂回路の方を歩いていた冒険者は立っていることができずに転んでしまっていた。


「これは、さっきの光か」

「階層を暴走させたようです」


 氷に覆われていたマグマが活性化。

 さらに時間の経過と共に量を増していた。


「元々、迷宮の力で生み出されたマグマですから生み出す為に必要な魔力さえあれば新たに生み出すのにも困らないのです」

「ほう……」


 魔石が奪われる寸前の抵抗。

 マグマグランドドラゴンには地下27階だけでなく上下の階層に対する権限も一部与えられていた。

 その権限を利用して階層にある魔力を地下27階へ吸収、さらには迂回路の方へ回していた魔力も全てマグマの河がある場所へ集めた。

 その結果、河がマグマで溢れることになった。


「なかなか考えた作戦だな」


 天井付近へ移動するゼオンたち6人。

 既に河の大部分がマグマで溢れ返ようとしており、跳ねたマグマがキリエの服に付着する。神気に守られた服が、逆にマグマを弾き返していたおかげで服が燃えるようなことにはならない。


「先ほどの言葉の一部を訂正しよう。たしかにドラゴンは怒りに囚われやすい種族だ。だけど、それは野良のドラゴンに強く見られる傾向だ。お前は、本当に忠誠心の強いドラゴンだ」


 全てはマルスの手助けになる為。

 このような無茶をすれば魔石への負担は多大なものとなる。たとえ迷宮の力と魔石が手元にあっても、マグマグランドドラゴンの肉体を再現することはできても、そこに先ほどまでいたレッドドラゴンを軸にした自我はない。

 全く別のマグマグランドドラゴンが生み出されることになる。

 本当に自分を懸けた攻撃。


「だからこそ申し訳なくなる」


 眷属を連れたゼオンが【自在】によって地下27階のスタート地点まで移動してしまう。

 溢れるマグマは、マグマグランドドラゴンがいた場所を起点に始まっている。

 おかげでスタート地点の方は、マグマが津波のようになって河の方から襲い掛かろうとしているところだった。


「塞げ、テュアル」


 命令に従って本から魔法を使用したテュアルによって河の前に巨大な土壁が生まれてマグマの津波を受け止める。


「残念だったな。河が使えなくなったなら、こっちの方から行けばいいだけだ」


 迷宮は、そのルールから行き止まりはあってもゴールへ辿り着けなくなることはない。

 迂回路の方を進めば必ずゴールまで辿り着くことができる。

 それに溢れたマグマでもゼオンたちを倒すことができなかった。


「いや、奴は目的を達成している」

「わたしたちは、こうしてピンピンしているけど」

「奴の目的は、俺たちを倒すことじゃない」


 迂回路を進まなくてはならなくなったことで迷宮の攻略に時間が掛かることになった。

 その時間は、自分の主に有利となる。


「準備をさせる為の時間を稼ぐ。それが目的なら奴は達成している」


 自身の存在を懸けた攻撃に感心しながらゼオンたちが迷宮を先へ進む。

☆書籍情報☆

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