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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第37章 暴走迷宮
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第84話 砕かれる迷宮核

 迷宮核を安置する為の神殿。

 どうやら本当に最下層まで到達したようだ。


「攻略情報通りだろ」


 笑みを浮かべながら待っているゼオン。

 たしかに事前の攻略情報では、地下60階までしかなかったことになっていた。そして、先ほどのオーガマスターのいた階層が地下56階から60階だ。

 だから、地下61階に相当するここが最下層でもおかしくない。


「知られていないだけで先があると思っていたんだよ」

「……」


 ゼオンは何も答えない。

 本当は何かがあったのだろうが、


「問題ない」

「イリス?」

「少なくとも、ここが最下層で、神殿が本物であることは本当」


 イリスの目は本物だと見抜いていた。

 なら、俺は眷属を信じて進むだけだ。


「あった」


 それほど広くない神殿。一歩足を踏み入れるだけで目的の物を見つけることができた。

 神殿の中央にある台座。その上に水晶が置かれている。


 あれが、イルカイト迷宮の核だ。


「さて--」


 迷宮核を前にして武器に手を掛ける。

 それでも、余裕の笑みを崩さないゼオン。


「罠なのか、それとも……」


 考えても仕方ない。迷宮核に【鑑定】を施しても本物だという結果が現れるし、それ以外の表示――罠の類が一切表示されない。


 自分のスキルを信じられなくてどうする?


 迷宮核を神剣で斬る。どれだけ硬くしていようと神剣なら一撃で斬ることが可能だ。

 斬られた迷宮核が台座から落ちる。これでイルカイト迷宮は維持を続けることができなくなる。そして、迷宮の主も資格を失うことになる。


「……そのはずだったんだけどな」


 後ろにいるゼオンを見る。


「迷宮が崩壊するのも、イルカイト迷宮の主の資格を失うのも正しい」


 何も変わらず平然としているゼオン。

 迷宮主の迷宮の主である資格を失ったのなら反動で命を失っていてもおかしくない、と迷宮核から聞いていた。少なくとも倒れていなければおかしな話だ。


「少し不思議に思っていました」


 メリッサが斬られた迷宮核を見つめながら口を開く。


「貴方自身もそうですが、貴方の眷属は全員が私たち以上の力を持っています。6人全員で戦えば一人もしくは二人ぐらいなら倒せると思います。ですが、残りの4人を相手にできる余力は残されていないはずです。各々の強さもあるのかもしれませんが、それ以上に何か別の力が働いているとみるべきです」


 迷宮主は、迷宮の大きさに比例してステータスが上昇する恩恵を受ける。

 眷属も、主が強ければ強いほどステータスに影響が及ぼされる。

 つまり、ゼオンに強大な力が働いている為に強く、眷属であるリュゼたちも俺たち以上の力を持っている。


「だからこそ、イルカイト迷宮はアリスターの迷宮以上の深さがあると考えていました」


 ところが、地下61階で終点だった。

 ここでもかなりの深さだが、メリッサにしてみればゼオンたちの強さに理由がつかず納得がいかない。


「最下層であるのは『本当』、迷宮核は『本物』、迷宮主であるのは『本当』、もしも間違いがあるとしたら――私たちの認識ですね」


 メリッサの推論を突き付けられてゼオンが俯く。しかし、決して真実を突き付けられて困ったからではない。


 小さな笑い声が聞こえてくる。

 俯いたゼオンの口から零れていた。


「なかなかの洞察力だ。そして、おそらくは合っている」


 顔を上げたゼオンの顔には笑みが張り付いていた。


「どういうことだ?」

「簡単な話です。彼は迷宮主ではありますが、イルカイト迷宮の主などではありません。いえ、以前はここの主だったのでしょうから、『今は違う』と言った方がよろしいでしょうか」

「そうだな。そっちの方が正解だ」


 最初はイルカイト迷宮の主だったゼオン。

 ところが、途中で別の迷宮の主となった。だから、今はイルカイト迷宮の主ではないので、ゼオンから迷宮主の資格が剥奪されることはない。


『そんな事は不可能だ』


 こちらの様子を覗いていた迷宮核が声を荒げる。

 最初の頃の話になるが、迷宮核から『迷宮主になったら死ぬまで辞めることは許されない』と説明を受けていた。だから、必死に迷宮へ人を招くことが大切だと分かっていながら最下層へ到達させない為の困難な施設を整えた。

 冒険者の最下層への到達は、そのまま自分の死を意味する。


「不可能だ、って思っているだろ。俺も最初の頃は、そんな事ができると思っていなかった。けど、ある条件を満たすと情報が開示される仕組みになっていたんだ」


 俺たちよりも規模の大きな迷宮の主。


「――地下100階への到達」

「その通り」


 迷宮を限界まで拡張させる。

 そうすることによって迷宮主も先へ進むことができる。


「最初は帝国への復讐を目的に迷宮を大きくしていた。今回のように魔物の大軍勢を率いてウィングルへ攻めれば帝都であろうと簡単に墜とすことができる。その為にも迷宮を限界まで成長させるのが手っ取り早かった。眷属も手伝ってくれたおかげで、俺たちは目的を達成することができた」


 いざ、これから攻め滅ぼす為の戦力を調えよう。

 そんな段階になって迷宮の真実を知ることになった。


「こんな事ができるんだって知った時、復讐なんてどうでもよくなったんだよ」

「じゃあ、どうして今回みたいな事を……」


 端から見ていると復讐以外の何ものでもない。


「ついでだよ。迷宮を限界まで成長させたことでできる事が増えた。けど、それらを行う為には、今まで以上の魔力が必要だったんだ」


 その為の虐殺。

 理不尽なまでの暴力に曝されたことで人々の魂は震え、普段からは考えられないほどの魔力を生み出してくれた。

 そして、準備を整えていたこともあってガルディス帝国内で発生した膨大な魔力は大半がイルカイト迷宮の最下層にある迷宮核へと運ばれることになる。


「俺たちのやりたい事の前段階として他にも地下100階まで成長した迷宮を用意する必要があった。そして、同時に100階まで到達したイルカイト迷宮は不要な物になったんだ」


 そこで、ゼオンが考えたのが迷宮を使い捨てる方法だった。


「色々な事ができるようになったけど、他の迷宮の主になっても以前はここの主だった事があるせいか迷宮核を傷付けることができなかった」


 それは眷属も同様だった。

 イルカイト迷宮の核を破壊する為には、ゼオンたちとは関係のない者に最下層まで到達し破壊してもらう必要があった。

 その役目は俺たちのような迷宮主である方がいい。他の迷宮に所属する俺たちでは、イルカイト迷宮の主になることはできない。そうなれば、暴走する迷宮を止める為には破壊するしか選択肢がない。


「壊される事が目的だったのか」


 だから罠など存在していなかった。


「そうだ。『自壊』じゃあダメだ。破壊してもらう必要があったから大変だった。お前たちの存在はイレギュラーだったが、こんな暴走状態にあっても最下層まで到達してくれたのはありがたかった」


 当初の予定では難易度を下げてSランク冒険者にでも攻略してもらうつもりだった。

 それでは得られる魔力が少なくなってしまう。

 俺たちというイレギュラーがいたからこそ調整に奔走し、ガルディス帝国を崩壊させる作戦を開始するのが遅れてしまった。だが、全体的に見れば目的達成までの時間を短縮させることになった。


「本当に感謝しているよ」


 笑うゼオンの顔を見ていると苛立ってくる。

 何を目的にしていたのかも聞けたところで剣に手を掛ける。


 その時、迷宮全体が地震でもあったかのように揺れた。

 地震なんてあり得ない。迷宮内は空間が断絶されているため自然現象で地震が起きることはない。階層の構造として故意に起こすことは可能だが、今起きている揺れは故意に引き起こされたものではない。

 そして、地震でもない。


「迷宮の崩壊が始まったみたいだ。脱出するなら早くした方がいい」


 【自在】によって消えるゼオン。


「言われるまでもない!」


 想定した事態とは違うが、目的を達成したため転移結晶を利用して地上まで戻ることにする。

☆書籍情報☆

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