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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第37章 暴走迷宮
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第79話 死霊の廊下

 長い廊下と並べられた部屋の扉。

 本当なら侵入者は区別のつかない部屋の扉を前にして、どこから入ればいいのか分からないため手当たり次第に入ることになる。

 そうして、部屋の向こうにある罠や魔物に対処することにする。


「それにしても静かな場所だな」


 先ほどまでの死闘が嘘のように静かな階層。

 地図を確認すれば魔物の姿が全くないことに気付ける。


「クリムゾンが強さと体を再生させる為にかなりの霊魂を吸収しましたから、近くにはいないのでしょう」


 個人の強さを追及したクリムゾンは他の魔物から恐れられていた。

 もう倒されたが、すぐに戻って来られないほどに恐れられていたのが功を奏して難なく先へ進める。


「出口は、ここから4つ先にある部屋の奥か」


 地図は魔物の有無だけでない。

 手当たり次第に探さなければならない階層を最短距離で進む事ができるようになる。

 ただし、気を付けなければならない事はある。


「地図に敵が表示されていなくても、部屋の奥にいる可能性があるんだから油断するなよ」


 これまでに表示されない魔物には何体か遭遇している。

 イルカイトの迷宮において地図を過信するのは危険だ。


 ヒュッ!

 すぐ傍をナイフが通り過ぎていく。


「言った傍から……」

「仕方ないだろ。俺が想定していたのは、扉の向こうから出てくることなんだよ」


 アイラが呆れたように見てくる。

 扉の前を歩いていれば警戒していたが、今は左右に壁しかない場所を歩いていたため警戒心が低くなっていた。

 まさか壁の向こうから、壁をすり抜けて現れるなんて想定していなかった。


 出てきた直後にシルビアの投擲したナイフが当たってくれたからこそ、触れる前に倒すことができた。


「1階にはいたんだから想定しているべきでしょ」

「う……」


 そう言われると何も言えない。

 壁の向こうから襲い掛かってきたのは幽霊(ゴースト)。51階で出現したのは揺らめく炎のような形をしていた不確かな存在のゴーストだった。ところが、先ほど現れたのは半透明な腕の形をしたもの。どこかからか伸ばされているのか腕の先を見ることはできなかった。


「そうは言ってもだな……」

「失礼します」


 シルビアの手から10本以上のナイフが放たれる。

 周囲の壁をすり抜けて現れた腕に次々と当たり、何もなかったかのように消えてしまった。


「どうやら誰かが操っている腕みたいです」

「みたいだな」


 壁をすり抜けて襲い掛かってきたタイミングが全て同じだった。まるでタイミングを計ったような襲撃。襲撃が別の個体によるものだったなら、いくつかはズレていなければならない。


「ノエル!」


 シルビアが後ろにいたノエルの手を引く。

 直後、ノエルの立っていた床の下から半透明の腕が飛び出してくる。


「ひっ!」


 そのまま立っていたなら得体の知れない腕に掴まれていたところを想像してノエルが小さく悲鳴を上げている。


 目標を見失った腕がピタッと動きを止めてこちらへ向けている。

 非常に厄介な敵だ。地図に反応が現れず、壁や床の向こう側にいる間の気配を捉えることができるのはシルビアのみ。


 シルビアの目線があちこちへ向く。


「……もしかして囲まれているのか?」

「はい。壁の向こう側には、この腕が大量にいると思ってください」

「げっ……」


 こんな得体の知れない腕に狙われているなんてゾッとしない。


「メリッサはどうだ?」

「私の【魔力感知】にも反応しません」

「そうなると……」


 シルビア一人で全ての腕に対処するのは不可能だと考えた方がいい。


「一気に駆け抜けるぞ!」


 廊下の先を向いて全速力で駆ける。

 それが、合図になったのか壁や床、天井からも一斉に半透明の腕が飛び出してくる。


「うおっ!」


 体を傾けると右側を天井から飛び出してきた腕が通り過ぎていく。

 さらに跳ぶと足下スレスレを狙った腕が通り過ぎていく。


「やっぱり、誰かが操作しているみたいだな」


 何度も回避をしていれば腕の動きに法則性が見えてくる。何よりも、駆け抜ける俺たちについて来られない。

 20メートルほど先にある部屋の周囲から半透明の腕が現れ、近付いて来るのを待ち構えている。それと同時に壁の向こうからの襲撃がピタッと止んだ。


「どうやら追いつけないと判断したようです」


 シルビアも壁の向こうに気配を捉えることができない。

 前方で待ち構える廊下を埋め尽くすほどの腕。


「絶対に触れるなよ」


 回避に意識を割く必要がなく余裕が出てきたことで【鑑定】が正確に発動した。

 目の前で待ち構えているのは『亡者の腕』。亡くなった者たちの霊魂から作られた腕で、生者へ触れることによって相手の生気を吸い取ることができる。そんな代物に全身を掴まれれば俺たちもたちまち動けなくなってしまう。可能なら掠るのも避けたいところだ。

 しかし、廊下を塞がれては接触せずにはいられない。


「メリッサ」


 【聖属性】の魔法なら一撃で吹き飛ばすことも可能なはずだ。


「さすがに、目の前にあるアレを吹き飛ばせるだけの魔力はありません」


 クリムゾンとの戦闘による消耗は甚大だった。

 仕方ない。できることなら自前の魔力だけでどうにかしたかったところだが、手札を隠し続けたまま倒れる訳にはいかない。


「【召喚(サモン)】」


 喚び出すのは白い翼を生やした蒼い鎧を纏った男性。手には大盾と剣が装備されており、兜に隠れていて見えないが鋭い眼光を目の前の死霊へ向ける。

 それと、長い金髪をした白いローブを纏った美しい女性が二人。


 三者に共通しているのは、頭の上で黄色い光を放つ輪があること。

 全員が天使という種族の魔物で、珍しい天使族に共通しているのは全員が漏れなく【聖属性】の力を持った攻撃ができること。


 男性型天使は、【聖属性】の盾でアンデッドの攻撃を全て受け止め、剣で斬ることができる。女性型天使は、【聖属性】の魔法を放つことができる。

 アンデッドに対して強力な力を発揮することができる種族。これまで喚び出さなかったのは、純粋に迷宮の魔力を極端に消耗する為だった。


「――やれ」


 男性型天使が突撃し、後方から放たれた女性型天使の魔法が『亡者の腕』を次々に消し去っていく



 ☆ ☆ ☆



 死霊が出入りを阻む部屋へ駆け込み、奥にあった転移魔法陣で移動した先にあったのはパーティー会場。白いテーブルクロスが掛けられたいくつもの丸テーブルが並び、転移魔法陣のある檀上が奥にある。

 地下55階はパーティー会場のみとなっている。

 ここは、誰かを祝う会場ではない。階層のボスである『死霊術師』が万全に戦えるように用意された空間。


 死霊術師が吼える。途端、会場の至る所に何百という数の生気を失った人間が現れる。

 限られた空間で、膨大な数の戦力を以て侵入者へ襲い掛かる。


「ま、それも普通の奴が相手だったなら有効だったんだろうな」


 召喚した直後、死霊術師の体が斬られ、上下に分かれた体にも魔法が撃ち込まれたことで消滅する。

 現れた死体も消滅してしまったことから倒されたのは確実。


「……今のがボス戦だったのよね」

「だろうな」


 律儀に付き合う必要はない。

 周囲を警戒しているシルビアとアイラの間ではノエルが両手を組んで祈りを捧げている。『亡者の館』まで辿り着き、亡くなった者たちの魂はここに囚われたままとなる。それは、ボスが倒された今でも変わらず、しばらくして復活したボスに再び囚われることとなる。祈りを捧げたところで彼らの魂が解放される訳ではない。それでもノエルは不幸な魂に祈らずにはいられなかった。


「安心しろ。迷宮を消滅させれば彼らの魂だって解放されるはずだ」


「うん」


 依り代となっている迷宮がなくなれば問題ない。


「ねえ、見て」


 イリスが気付いたのは55階にある転移結晶。

 未だに呪われているらしく、使用不可な状態にあった。


「てっきり、倒した死霊術師が呪いを掛けていたんだと思ったんだけどな」


 死霊術師が倒された今、腕の攻撃も止んでいる。

 似た攻撃から呪いと腕は同存在によるものだと思っていた。


「どうやら、敵はこの先にいるみたいだ」


 全員で転移魔法陣に乗る。

 目の前の景色がどこかの洞窟みたいな岩肌の壁に変わる。まずは、転移結晶に触れて地下56階を登録し、帰還したい。


「……ん?」


 しかし、近くを見ても転移結晶は見当たらない。迷宮のセオリーで階層のどこかに設置するべき代物で、絶対に設置しないといけない訳ではない。

 だから、転移結晶がなかったとしてもルール違反とはならない。

 だが、場所ぐらいは確認しておいた方がいいだろう。


「はあ!?」


 地図から転移結晶の位置を確認すると声を挙げずにいられなかった。仲間たちも戸惑っているらしく言葉を失っていた。

 1キロほど先に設置された転移結晶。一つ設置されているだけなら何も問題はなかったが、5つの転移結晶が並んで設置されていた。

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