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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第37章 暴走迷宮
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第78話 【聖】の神撃

「あいつ……他の鎧を依り代に移動できるのか!?」


 突き出されるクリムゾンの剣。

 体を傾けて剣の突きをやり過ごすと、クリムゾンの体から放たれる衝撃に吹き飛ばされる。

 今のは、クリムゾンが吸収した霊魂を暴発させている。


「クソッ、こんな場所じゃあ戦いにくい」


 俺たちが今居るのは、広さはあるものの壁に絵画が飾られ、彫刻などといった美術品が並べられた部屋。

 クリムゾンが暴れる度に美術品が破壊される。


「ああ、勿体ない……!」


 少しはネコババしていこうと考えていたのに壊されてしまった。


「テメェには美術品の価値が分からないのか!」


 突っ込んでくるクリムゾンの剣へ拳を叩き付ける。

 クリムゾンは俺の言葉に反応することなく無心で突撃を仕掛けている。無心では【鑑定】があっても相手の思惑を見破ることができない。


 だが、クリムゾンを相手に小細工なんてできるはずがない。


「もう後の事なんて考えるのは止めだ。ぶっ壊してやる!」


 【魔導衝波】。魔力を内側へ叩き込んで破壊するスキル。

 普通に叩き込んだだけでは効果がないのはクリムゾンを相手に戦っている間に分かっている。


「――その点は、ウチの参謀が考えてくれた」


 メリッサの推察通りに特殊な魔力を叩き込む。

 直後、内側からの衝撃に耐えられなくなった剣が砕け散る。

 武器を失ったことでクリムゾンが後ろへ跳び、距離を取ると自分の手を見つめる。


「そんなに破壊されたのが不思議か」


 クリムゾンの体にダメージを与えることには成功していた。しかし、迷宮内にある霊魂を吸収することで自身の体を再生させていた。

 武器も同様に再生させることができる。

 だが、正体の分からない攻撃を前にして困惑していた。


「鎧を依り代に移動してくれたおかげでお前の攻略法が分かった」


 元いた52階の様子を地図で確認すれば普通の亡者の(リビングアーマー)がいるだけ。


「複数存在するなら消耗を気にして全力を出せないことも考えられた。けど、54階の様子を確認しても亡者の鎧(リビングアーマー)真紅(クリムゾン)は確認できない」


 つまり、亡者の鎧(リビングアーマー)真紅(クリムゾン)は一体しか存在しない。


「お前さえ倒せばどうにかなるなら全力を出させてもらおう」


 右手に特別な魔力を練り上げる。


 白く輝く魔力。

 それを見てクリムゾンは得心がいった。


「そうだ。対アンデッド用に特化した【聖】の魔力だ」


 【光】を昇華させて【聖】にされた魔力。

 俺にはできない変化だが、メリッサにはできる。


「それに、それだけじゃない」


 【聖】の魔力には神気が込められて強化されている。


「ここまでして、ようやく倒せるなんて規格外すぎるぞ」


 神気を込めているのはノエル。

 メリッサの練り上げた【聖】の魔力がノエルへ譲渡され、神気と混ぜ合わされた魔力を『巫女』との繋がりによって得る。

 俺がしているのは譲られた魔力を叩き込んでいるだけだ。


「小細工はなしだ。真正面から打ち合おうぜ」

『……』


 何かを考えるような仕草をするクリムゾン。

 何を思ったのか鎧の外側にあった装備を外し、鞘まで手放して体を身軽にすると拳を構えて対峙する。

 俺と真正面から打ち合うことを選んでくれたようだ。


「悪いけど、俺には格闘技術なんてないんでな」


 それは、黄金の鬣(ゴールデン・メーン)との特訓でも痛いほど身に染みた。


「俺にできるのは死ぬ気で拳に力を込めるぐらいだ」


 クリムゾンの両拳から連打が放たれる。

 回避されることを前提に放たれた拳が体のあちこちに当たる。


 痛い。体のどこかにある骨が折れ、血管が切り裂かれてしまったのかもしれない。


「それ、でも……!」


 不器用な俺に最大威力は――


「たった一撃に全ての力を込める!」


 繰り出されたクリムゾンの両手を砕き、右拳が胸を撃ち抜く。

 呆然として動きを止めるクリムゾン。


「俺の勝ちだ」


 クリムゾンの体が胸の辺りで弾けて、上半身と下半身に分かれて吹き飛んでいく。


「が、はぁ!」


 胸を押さえ、血を吐き出しながら蹲る。


「ご主人様!」


 慌てたシルビアが駆け寄って回復薬を飲ませてくれる。

 反対側からはイリスが【天癒】を掛けてくれている。


「……どんな状態だ?」

「全身がボロボロ。そうして意識を保っていられるのが不思議なくらい」

「それぐらいのリスクを負わないと倒せない相手だったんだよ」


 本当の意味で全ての力を込めた一撃。

 俺だけでなくメリッサやノエルまで魔力が枯渇状態になっている。


 体が癒えたことで余裕が出てきたためシルビアが収納リングから取り出した魔力回復薬を飲ませてくれる。


「もし、奴が回避にも意識を割いていたなら当たらなかったかもしれない」


 絶対に当てなくてはならない一撃。

 だから、自分の身が傷付くことにも構わず攻撃に全力を注がせることで当てられる状況を作った。


「はい、戦利品」


 アイラが右手に人の頭ほどの大きさがある魔石を持ち、左手に真っ赤なままの兜を載せている。


「クリムゾンな状態のまま倒したせいか真っ赤な鎧が残されたみたいね」

「それは助かった」


 すぐさま魔石を【魔力変換】する。

 さすがに神樹の実ほどの魔力は秘めていなかったが、それに準ずるほどの魔力を秘めていた。


「兜はわたしにくれない?」

「ノエルが?」


 兜も【魔力変換】してしまおうとしているとノエルが提案してきた。

 軽装のノエルには兜など不要な代物だ。


「あ、わたしが使う訳じゃないの」

「……誰が欲しがっている?」


 ノエル自身が必要としていないのなら迷宮にいる魔物の誰かが欲している可能性が高い。


「……ヴァラク君」

「あの子は……」


 ノエルが言うヴァラク君とは、迷宮にいる少年の姿をした天使でありながら悪魔としての性質も併せ持った魔物。

 既に俺たちの誰よりも長く生きているはずなのだが、本物の子供のように俺たちに懐いている。

 この真っ赤な兜が彼の琴線に触れてしまったのだろう。


「ま、ちょっとぐらいならお土産にいいだろ」

「わ、ありがとう」


 兜を投げ渡す。

 魔力としての価値は低いため【魔力変換】できなくても問題ない。


「さて、ここまで進んだけど、一度帰ることにしようか」


 まだ進めることは可能だ。

 だが、渾身の一撃を放ったことにより傷や体力とは別の場所がボロボロになっている。


 時間は昼にもなっていない頃だが、今日のところは探索を切り上げた方がいい。


「……ん?」


 ちょうど俺たちがいるのは地下54階のスタート地点。

 美術品に紛れて設置されていた転移結晶に触れて攻略位置を登録しようとする。しかし、転移結晶は全く反応を示さない。

 それどころか触れられることを拒絶するようにバチバチと電撃が爆ぜる。


「触らない方がいい」

「どうなっているんだ?」

「私にも詳しい事は分からないけど、転移結晶が呪われている」

「は、呪い?」


 転移結晶を呪うことができるなど聞いたことがない。

 いや、呪う理由なら分かる。


「戻れなくしたのか」

「そう」


 普通は転移結晶を利用しなければ帰還することができない。

 迷宮に閉じ込めることを目的としているなら、これ以上に効率のいい方法は存在しないぐらいだ。


「どうするか……」


 俺たちなら【転移】があるから帰還は簡単だ。

 しかしその場合は、地下51階からやり直すことになる。クリムゾンを置いて先へ進むことを優先させて54階で登録するつもりでいたので52階や53階の転移結晶には触れていない。


 リスクは存在する。

 けれども、まだ許容範囲内だと言える。


「先へ進んでみよう。どうにかなりそうなら進んでみるし、危なそうならすぐに帰ることにしよう」

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