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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第37章 暴走迷宮
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第77話 亡者の鎧・真紅

 食堂の真上にあるダンスホール。

 広く、高い造りになっており、この場所だけは2階層分のリソースが割かれている。


 駆けながら跳ねた巨体の鎧がノエルへ剣を振り下ろす。

 剣を向けられたノエルは迎撃しようと錫杖を掲げるが、明らかに力負けするのが分かる。


「え……?」


 剣が届く直前、ダンスホールを駆けるシルビアが抱えて離れる。

 ノエルの立っていた場所に剣が突き刺さる。ゆっくりとした動作で引き抜かれると床に穴が開いているのが見える。


 真紅の鎧が自分を取り囲む6人を順に見つめる。

 しっかりとした意思があり、騎士のような実力を持つ亡者の鎧(リビングアーマー)は最も脅威となる人物を見定めている。


「俺、か」


 一度は吹き飛ばすことに成功した俺に狙いを定めていた。


「ねえ、あいつ何者なの?」


 吹き飛ばされたところを助けてくれたアイラが尋ねてくる。


亡者の鎧(リビングアーマー)真紅(クリムゾン)。奴も進化した魔物なのは違いない。ただ、ヘルアントや雪精のように進化したことでボス以上の力を手に入れた訳じゃない」


 元々ボスだった魔物がさらなる力を手に入れた。

 純粋に強くなったこともそうだが、暴走状態になったことで解放されてしまったことの方が問題だった。


「あいつ、俺たちがここに現れることを知っていて先回りしていやがった」

「先回りなんて可能なの?」

「この階層のスタート地点はここだけだ。迷宮で生きている魔物なら冒険者がどういった行動をするのかぐらい知っていてもおかしくないだろ」


 転移したばかりで状況を把握できていないところを狙う知性もある。

 騎士のような出で立ちのクリムゾンが剣を構える。


「――来る!」


 一気に加速してくるクリムゾン。

 隣にいるアイラを抱えて跳ぶと剣が足元を通り抜けて行く。


 ガガガガガッッッ!

 剣先から放たれた斬撃が後ろにあった壁を次々に斬り裂いていく。


「アイラ!」


 抱えていたアイラを上へ放り投げる。


「やっぱり!」


 空中にいて斬り易いはずのアイラには目もくれず、振り切った剣を戻して俺の方へ剣を突き出している。

 クリムゾンの標的は俺に定められている。

 なら、回避よりもすべきことがある。


 振られたクリムゾンの剣へ自分の神剣を叩き付ける。


「なん、で……」


 あらゆる物を斬ることができる神剣。

 その刃を押し当てられた、というのにクリムゾンの剣は力任せに押し進めようとしている。


「……そういうことか!」


 剣に【鑑定】を使用して分かった。

 あの剣には大量の死霊が纏わりついている。片っ端から死霊を斬って消滅させているが、新たな死霊が盾となって剣が斬られるのを防いでいる。


 マズい。クリムゾンのステータスは異様に高い。俺には若干だが及ばないはずなのだが、押し切られてしまうような気配がある。このまま受け続けていると手詰まりになる可能性がある。


「……悪いな。こっちは6人で戦っているんだよ」


 頭上を通り越えたアイラが着地するとクリムゾンへ背後から斬り掛かる。

 さらにイリスとノエルが左右から斬り掛かることで四方から同時に攻撃を加えている。


「硬い……!」

「……押し返されそう」

「凍らせるのも無理」


 アイラ、ノエル、イリスの同時攻撃でもビクともしない。

 イリスは斬り掛かると同時に冷気も流し込んでいるようだが、鎧が凍り付くようなこともない。


 物理耐性だけでない、魔法に対する耐性も高い。


「……どれだけの魂を食ったんだ」


 以前に戦ったことのあるスケルトンロード。アレも他者の魂を喰らうことで強くなることに成功した。

 レベルはクリムゾンの方が低い。だと言うのに、ステータスはクリムゾンの方が高かった。


「喰った魂の性質の違いか」


 スケルトンロードは一般人の魂も喰らっていた。そのため、喰った魂の数に比べて質は低かった。

 だが、クリムゾンが糧としたのは亡者の巣食う館にいる膨大な数の怨霊。それに迷宮に踏み込んだ冒険者。それぞれの強さがスケルトンロードとは比べ物にならない。


「けれども、アンデッドであることには変わりありません」


 【祝福の聖槌(ブレッシングセイクリッドハンマー)】。

 魔法陣から放たれた聖なる光がクリムゾンへ押し当てられ、視界が光に奪われる。

 対アンデッド用の魔法の中でも最も強力な魔法。聖なる魔力が込められた光をアンデッドに叩き付けることで、アンデッドに囚われている魂を押し出して浄化することのできる魔法。


 事前に魔法を使うことを念話で教えられていた俺たち4人は咄嗟に後ろへ跳ぶ。

 この魔法なら、さすがに……


「うお!?」


 真っ白な光の向こうから黒い剣が突き出されてくる。

 視界を奪われている状況で、気配だけを頼り最低限の防御をする為に剣で胸の前を守る。


「……っ!」


 正確に心臓のある場所へ突き出された剣が神剣に直撃する。

 盾のようにしていた神剣と共に後ろへ吹き飛ばされると、今度は壁に叩き付けられる直前にシルビアにキャッチされて助かった。


「あの野郎……」


 真っ白な光の中でも平然としているクリムゾンが歩み出てくる。


「嘘……」


 その光景が信じられずメリッサが力を抜いてしまう。

 【祝福の聖槌(ブレッシングセイクリッドハンマー)】の為に注がれていた魔力が尽きたことで、白い光も消えてしまう。


 高い物理耐性と魔法耐性を持つ鎧。

 おまけに攻撃力も高いため攻撃を受ける訳にもいかない。


『全員、聞け』


 声には出さず念話で伝える。


『――逃げよう』


 それがクリムゾンに対して俺の出した結論だ。


『でも、逃がしてくれるとは思えないわよ』

『誰かが残るしかない』

『いえ、逆の方がよろしいでしょう』


 イリスの提案にメリッサが反論する。

 足止めに残る人物がいたとしても、全員を生かすことを選びたい。


『私たち4人が残ります。シルビアさんは地図に表示されない敵が現れた時に備えて主に同行してください』

『分かった』


 地図を見れば、次の階層へ行く為の転移魔法陣や敵の位置も知ることができる。だが、稀にだが例外が存在する。そういった存在に対してシルビアの力は必要となるため未知の場所を探索する時にはシルビアの存在が必須となる。

 そして、俺は先へ進まなければならない、


『頼ん、だ……』


 こちらが逃走の意思を抱いていることに感づいたのかクリムゾンが剣を手に突っ込んでくる。


「あんたの相手はあたしたち」


 アイラの蹴りがクリムゾンの顎に突き刺さり仰け反らされていた。

 そこへ浴びせられる氷柱と魔力弾の応酬。ダメージがあるのか分からないが、いつまでも続く攻撃にクリムゾンの足が止まっていた。


 こっちは彼女たちに任せて先へ進む。



 ☆ ☆ ☆



「そろそろいいだろ」


 52階にあるダンスホールから52階を攻略し、さらに53階も踏破して54階の入口に当たる転移魔法陣。

 地図があるおかげで最短距離が分かり、シルビアの案内もあって魔物との接触を最小限に抑えることができた。


 あれから2階層の移動。もう十分に離れただろう。


「みんなは大丈夫でしょうか」


 強敵との戦闘中における念話は危険を伴うため極力避けるようにしている。

 向こうの状況は分からない。それでも、全員との繋がりを感じられることから無事だと信じたい。


「ま、喚び出せば分かることだ」


 【召喚】で足止めに残った4人を喚び出す。

 魔法陣の上に現れた4人は全員が斬られた傷を負っていたが、致命傷まで受けた者はいなかった。


「無事だったか」

「無事じゃないわよ。服をこんなにボロボロにされているんだから」


 アイラが文句を言っている。

 最も被害の大きいメリッサが座り込む。4人の中で最も厄介なのはアンデッドにとって弱点である【聖】の力を使うことのできるメリッサだったため狙われてしまったのだろう。


 足止めに残ってくれていたのだから少しは休ませてあげたい。


「悪いけど、休むのはもっと先に進んでからにしてもらおうか」


 あの場から敵がいなくなったことでクリムゾンがこちらへ向かっているはずだ。


「俺たちの場所は知られていると思った方がいい」


 最初も奇襲に成功したことから移動のタイミングまで知られている。

 現在位置ぐらいは何らかの方法で知ることができるはずだ。


「さっさとこんな場所は抜けることにするぞ」

「仕方ないですね」


 メリッサに手を差し出して起き上がらせる。


 その時、部屋の隅に置かれていた鎧が動き出して音を立てる。ゆっくりと部屋の入口を塞ぐように立つと血管のように鎧に線が走り、次第に太くなると鎧全体が真っ赤に染まる。


「まさか……」


 自然とそんな言葉が漏れた。

 気付けば普通の『亡者の鎧(リビングアーマー)』でしかなかった鎧が『亡者の鎧(リビングアーマー)真紅(クリムゾン)』へ変化していた。


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