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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第37章 暴走迷宮
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第75話 雪の精と巫女

 砂漠と雪原の攻略。

 さすがに攻略を終えた頃には、陽が暮れてしまっていたため探索を切り上げて屋敷へと戻っていた。


 屋敷へ帰るなり家事などやることはある。

 その間に時間を持て余してしまったためイリスを連れて迷宮へと移動する。


 移動先は、アリスター迷宮地下71階。

 地下71階から75階は氷雪フィールドになっており、階層は雪と氷に覆われている。

 イルカイト迷宮とは違って5つの階層は隔たれており、転移魔法陣の使用でのみ移動が可能となっている。

 それぞれの階層によって環境も異なっており、新たな施設を設置するなら適した階層が存在する。


『ようこそ、お越しくださいました』


 いつものようにビッグフッドが迎えてくれる。

 猿のような巨漢の魔物だが、精神が紳士的なせいか所作も紳士的な魔物だ。そのため俺を『主』、イリスたち眷属を『奥方』として慕ってくれている。

 用件は事前に伝えていたため待っていたようだ。


「あたらしく泉を作りたい」

『承知しております』


 新しく設置しようと考えたのは、雪精の水がある泉だ。

 こちらへ赴く前に『ヘルアントの砂』と『雪精の泉』は【魔力変換】を終えている。

 どちらも苦労に見合うだけの魔力が得られた。


 迷宮としては、今後も同等の収入が得られるようにしたい。

 だが、『ヘルアントの砂』は階層と一体化したヘルアントが必要になる。さらに言えば、そもそも迷宮にあった魔力をそのまま得ているようなもの。臨時収入は得られたが、今後も生産し続けられるような代物ではない。

 せめて、『雪精の泉』は作れるようにしたい。


「でも、本当に上手くいくの?」

「時間さえ掛ければ成功するだろうさ」


 『雪精の泉』は言ってしまえば大量の雪精が宿る泉。

 大量の雪精が生活するようになり、数十年という時間を掛けて力が溶けることによって泉が生成される。

 迷宮だからこそ大量であっても雪精が生活するには問題ない。


 問題となるのは、時間の部分だ。


「俺たちが生きている内にイルカイトの迷宮と同等の収入が得られるようになれば御の字だろ」


 次代に託す。

 という意味では効果があるだろうが、託された次代は俺たちとは関係のない人たちになるはずだ。迷宮核がどんな人を選ぶつもりなのかは分からないが、これまでの事からして無関係な人が選ばれるはずだ。

 選定について文句を言うつもりはない。だからこそ、次代の迷宮は次代の迷宮主が色々と考えればいい。


「さっさと収入が得られるようにするにはどうすればいいのか?」


 最初から雪精の宿った水を用意すればいい。

 普通の場所だったならば、水の場所を移し替えただけでは逃げ散っていくことになる。だが、ここは雪精が好む魔力が豊富にある迷宮。なによりも雪精が好む場所を同じように好む魔物が生きている。


『新たに泉を作るのなら、こちらがよろしいでしょう』


 ビッグフットに案内されたのは、地下71階にある大きな湖の近く。

 周囲を木々に囲まれた開けた空間で、魔物も特に寄り付かない場所。

 自然に溢れていて、危険が少ない。そんな場所の方が望ましい。


「んじゃ、さっさと済ませることにするか」


 魔法で穴を掘り、壁を固める。

 穴の上に【宝箱】の魔法陣を出現させ、傾けた状態で半分だけ魔法陣から出すと回収した雪精の泉にあった水が流れて満たしていく。

 数分すると、新たに作った泉にも水が満たされる。


「う~~~ん」


 新たな泉を見ながら唸っていた。


「思ったほど雪精が宿っていないな」


 見た目は同じように澄んだ泉。

 だが、感じられる雪精の数は減っていた。


「けっこう無茶な移動だったから雪精も逃げたんだと思う」


 イリスの言う通りなのだろう。単純に泉の水を入れ替えただけでは雪精の泉を再現するには至らなかった。


『この問題は致し方ないでしょう』


 慰めるようにビッグフットが俺の肩に手を置く。

 迷宮にも雪精はいる。しばらく時間は掛かるだろうけど、雪精の宿った水があることで普通に用意するよりも早い時間で再現できるはずだ。


「……ん?」


 雪原の様子を確認してから帰ろうとすると、イリスが足を止めて振り向いた。


「どうした?」

「なにか笑い声が聞こえた」


 女の子がクスクス笑うような声だ。

 しかし、迷宮に女の子がいるはずがないし、少女のような魔物も雪原フィールドにはいないはずだ。


「……やっぱり聞こえた」


 イリスには聞こえている声。

 少し不気味に思いながら傍にいると泉の方へと近寄って行く。


「いた」


 泉の傍で屈むイリス。

 手を水面へ近付けると笑顔になっていた。


「なにかいるのか?」

「見えていないの?」

「ああ」


 俺には何も見えないし、気配を感じることもできない。


『ああ、それは彼女が私の契約者だから、ですね』


 誰もいなかった場所に美女が現れる。

 イリスと契約をして【加護】を与えている氷神だ。


『雪精、というのは魔物ではありますが、精霊であるため氷神の眷属に近しい存在です。そして【氷神の加護】を保有している彼女の事が、雪精たちにとっては自らの神と同等の存在に見えているはずです』


 さらに、ここはイリスが代行者を務めるアリスター迷宮。

 イルカイト迷宮にいた雪精は、迷宮が暴走状態にあったせいでイリスを前にしても問答無用で襲い掛かってきたが、雪精にとってイリス以上に親しむことのできる相手はいない。


「俺にも見えてきましたよ」


 イリスの傍に蒼い光がいくつも浮かんでいる。

 まだ薄らと見えている程度の濃さだが、たしかに雪精はそこにいた。


「特にイリスの胸辺りが気に入っているのか漂っていますね」

『それは仲間の気配が強いからでしょう』

「あ、俺がプレゼントしたネックレス」


 雪精の結晶から作ったネックレスをイリスは今も身に着けている。

 ネックレスから自分と似た気配を感じ取った雪精たちは強い興味をイリスに対して抱くようになっていた。


「ねえ、協力してほしいんだけどいいかな?」


 雪精の光が明滅する。


「ありがとう」


 意思を感じ取ることのできるイリスは、それを肯定だと受け取った。


「この階層にも君たちの仲間はいるはずなの。もっと多くの仲間を集めて、この泉で遊んでくれる?」


 雪精は存在が不確かであるため、今の状態では【鑑定】を使用しても詳しい情報まで読み取ることができない。

 泉の件に関しては、イリスに任せていると泉が弱々しくはあるものの光を放つようになる。

 その光景はイルカイト迷宮で見たのと同じだ。


「成功したのか?」

「うん。雪精の質で及ばないなら数で補えばいい」


 元から泉に宿っていた雪精に頼んで、迷宮にいた雪精を説得してもらった。

 遊ぶのが大好きな子供みたいな雪精たちは、泉で遊ぶのがどれほど面白いのかを説き集まってもらったようだ。

 雪精の泉として元の効果を発揮するには、もっと多くの時間は掛かるだろうが、それでもイリスが説得してもらうようお願いする前よりはずっと短い時間で以前の状態を取り戻すことができるはずだ。


『では、ここを安全地帯として定め、魔物が近寄らないようにした方がよろしいでしょう』

「できるのか?」

『問題ありません。私や、私と同等の強さを持つ者が常駐していればいいだけの話です。魔物にとって力は絶対ですからね。私に逆らってまで泉に近寄りたい、と考える者が現れないようにするだけで十分です』


 雪精の泉の門番をビッグフットに任せ、明日以降の攻略に備えるため迷宮を離れる。

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