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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第37章 暴走迷宮
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第72話 雪精の水-後-

 アイスベアの懐へ飛び込むと剣を振り上げる。

 その瞬間を待っていたかのようにアイスベアも鋭い爪を伸ばした状態で振り下ろしてくる。

 足を直前で止めて後ろへ傾けて回避する。

 しかし、頭上まで迫った瞬間に爪を覆うように青い光で作られた爪が伸びる。冷気で作られた爪、回避したはずの俺にも届く距離だ。


「【跳躍(ジャンプ)】」


 青い光の爪が空を切って地面に突き刺さる。

 急いで地面から爪を引き抜くアイスベアだったが、背中に走る強烈な痛みに呻き暴れる。


「さすがにボスだけあって硬いな」


 強靭な肉に守られている体。普通の武器では傷をつけるだけでも苦労するだろうけど、神剣の前では無意味。

 後ろを振り向いたアイスベアを無視して体の至る所を斬っていく。


「デカい体だと斬っていくのも大変だな」


 斬られることに耐えられなくなったアイスベアが体を丸める。


「さて……」


 トドメを刺そうと剣を構える。


 正面に立ったアイスベアと目が合う。

 次の瞬間、体を丸めていたアイスベアがバネのように飛び出してくる。


「なるほど。俺に攻撃を当てられないから一撃に力を込めたのか」


 アイスベアの巨体では剣を構えた状態から回避するのは不可能。

 計算はしていないのだろうが、本能でどうすればいいのか判断していた。


 もっとも……


「【跳躍】」


 それは、回避する術を持たない者への対処法だ。

 突っ込んで来たアイスベアの上へ移動すると、落ちた勢いを利用して首へ剣を突き入れる。さらに剣を突き入れたまま下半身へ移動して斬る。


 痛みを堪えながら立ち上がるアイスベア。


「もう眠っておけ」


 立ち上がったアイスベアの両足を斬る。

 鮮血に染まる雪原。自分の縄張りへ侵入した人間を狩ろうとアイスベアが手を伸ばすが、ゆっくりとした動きで伸ばされた手を切断するのは容易だ。


「お前は強いよ。こんな寒い場所でも冷気をものともせず動けて、これだけ斬られても生きていられるぐらいタフだ。普通の奴らだったらどうしようもなかっただろうな」


 アイスベアの手が届くことはなく、気付けば地面に倒れて絶命していた。

 周囲を見ればノエルたちの戦闘も終わっている。


「肉の回収は任せてもいいか?」

「ま、後片付けまで含めてやっておくわよ」


 早速、一箇所に熊肉を集めているノエル。

 その様子をアイラが呆れながら見ていた。

 周囲に魔物の反応はないし、隠密能力に長けた魔物がいたとしても夢中になっているノエルを魔物に気付いたシルビアが守ってくれるだろう。


 メリッサとイリスを連れて森の奥へ進む。


「わぉ」


 木々の途切れた広場。

 そこには蒼い輝く泉があった。


「ちょっと失礼します」


 泉へ屈んだメリッサが容器に泉の水を掬う。

 容器に入れられた水は、向こう側がそのまま見えるほど澄んでおり、水面から蒼い輝きを放っていた。


「光については水に含まれた魔力が空気と反応することで起こってようです」


 水がどのような性質を備えているのか。【鑑定】を使えばすぐに分かるのだが、好奇心が刺激されてしまったらしく考察に没頭していた。


「毒はないか?」

「……はい。そのような性質は確認されません」


 容器の水に何らかの液体を加えて反応を見るメリッサ。

 どうやら飲んでも問題がないみたいだ。


「雪精の水――膨大な量の魔力を含んだ氷が解けたことで生まれた水が地下に流れて濾過されたことで神聖な水になったらしいな。これだけの神秘を含んでいれば、どんな毒でも吹き飛ばすことができるっていうのも頷ける」


 迷宮だからと言って簡単に生み出せるような代物ではない。この階層にある氷が永い年月を掛けて解けることによって生まれる代物。

 非常に貴重な代物だ。


「よし、全部回収するぞ」


 それを全て奪い尽くす。


「ははっ、貴重品であろうと奪っていく。まるで強盗」

「人聞きの悪い事を言うな」


 泉に道具箱を沈める。

 後は道具箱に任せておくだけで全ての水が収納されていく。


「俺たちは有効利用させてもらうだけだ。決して暴力にものを言わせて奪い取って行く訳じゃない」


 十分近く待っていると全ての水が収納され、泉の底が見えるようになる。

 随分と深い泉だったようで、底に転がっている物が小さくしか見えない。


「……ん?」


 泉の中心。そこに光っている物が落ちているのが見える。


「何か落ちていますね」


 雪精の水を全て回収した頃には、シルビアたちもアイスベアの回収を終えたようで合流しており、目の良いシルビアは転がっている物を捉えていた。


「宝石、でしょうか」


 距離があるため【鑑定】も使えない。


「私が行ってくる」


 相性の問題から活躍できなかったイリスが泉だった場所を下りて行く。

 イリスの視界を借りて見せてもらった泉の底には、ガラスのような指先程度の大きさしかない破片がいくつか埋まっていた。ガラスのように見えるが、これらは高純度の魔力が圧縮された結果、物質化した魔力の結晶。

 貴重な代物ではあるのだが、イリスが近くを歩くだけで砕けてしまう。今までは泉の中にあったからこそ形を保つことができていたが、空気に触れたことで一気に脆くなっている。

 魔力結晶を利用するなら専用の容器に入れ、錬金術師による加工が必要になる。


「こんな事なら先に回収しておけばよかったな」

「全ては後の祭りです。【鑑定】を使ったとしても、雪精の水が鑑定されて魔力結晶があることに気付くことはできませんでした。それに、回収するなら泉を泳いで底まで移動する必要があります。さすがに、こんなに凍て付いた状況で泳ぐなんて自殺行為もいいところです」


 回収が困難だった事を色々と言って教えてくれるメリッサ。

 しかし、雪精の水について考えることがあるのか俺に言っているようで、ほとんど独り言に近い状態だ。


「ま、あの中心にある物に比べたら欠片なんて大した価値がないだろ」


 泉の中心に転がっていたのは、拳サイズの魔力結晶。それも空気に触れても崩れることなく形を保っていた。

 道具箱から魔力結晶を保存できる容器をイリスが取り出して収納する。

 今は形が崩れていない魔力結晶だが、いつ崩れてしまうのか分からないため必要な措置だ。


 他に転がっている欠片は無視してイリスが上がって来る。


『おおっ!』


 女性陣が光り輝く結晶を前にして目をときめかせていた。

 やはり、女性として宝石に憧れがあるらしい。


「ダメですよ。これは宝石として利用するよりも【魔力変換】した方が効率的なんですから」

「まあ、ね。あたしたちも本気で欲しい訳じゃないからね」


 泉の底へ赴いた成果を見せてから道具箱へ収納される。


「おい、髪に何かついているぞ」

「え……」


 収納する為に屈んだイリスの髪に何かがついているのが見えた。

 それが光物だったからこそ、光を反射して目についた。


「魔力結晶の欠片だな」


 先ほど回収した拳サイズの魔力結晶に比べれば微々たる物。

 それでも、形が崩れることなく存在している。


「いや、これは抜け殻みたいだな」


 内包していた魔力が抜けて宝石のようになっている。

 これは【魔力変換】するほどの価値もない。


「ちょっと手を加えるか」


 魔法で形を整え、紐を通せる穴を開ける。


「せっかくだから、ちょっとしたプレゼントだ」


 雫のような形に整えられた結晶をネックレスにしてイリスの首に通す。


「……ありがとう」


 普段は見せないほど照れている。


「いいなぁ」

「次に何か手に入れたら、わたしたちにもプレゼントしてくださいね」

「何か手に入ったらな」


 アイラとシルビアからも強請られてプレゼントすることが決まった。


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