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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第7章 遺跡探索
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第7話 疲れた朝

「おはよう……」


 翌朝、まだ疲れた様子のアイラが1階にあるリビングに下りてくる。

 リビングにあるテーブルには俺とメリッサが席に着いており、朝食を先に食べていた。アイラは朝が弱いらしく、いつもこんな調子だ。


 アイラも自分の席に着く。

 するとシルビアが眠気覚ましのコーヒーを置く。


「ありがと」

「どういたしまして」


 そのまま朝食を用意する為にキッチンの奥へと消えて行く。


 昨日、殺し合いと言ってもいい本気の喧嘩をした3人だが翌日にも引き摺るような真似はしない。

 食卓に着けばメイドもしているシルビアがコーヒーや朝食を準備するし、アイラもメリッサも普通にそれを受け入れて食べ始める。


 ただ、今日はいつもと違ったところがあった。


「なんだか、いつもよりも機嫌よさそうね」


 ちょっとした変化だったのだが、アイラは気付いたようだ。

 たしかにいつもよりも朝食を準備する足取りが軽くなっているし、ニコニコとした笑顔が眩しかった。俺は原因が分かっているが、あえて自分から語るような真似はしない。


 対して俺は疲労からテンションが低くなっていた。今日も仕事は休みかな。


 けど、この場には当事者以外で原因が分かっている者がいた。


「鑑定をシルビアさんに使ってみて下さい。それで原因が分かります」

「今さらステータスの確認をしたところで何が……ぶっ!」


 アイラが口に含んでいたコーヒーを噴き出していた。

 ああ、ステータスを確認すればシルビアの身に何が起こったのか明白だな。


「どうしてステータスが昨日までより1000以上増えてるのよ!?」


 シルビアのステータスの中で最も高い数値は敏捷の約4000だ。それが今朝見れば5000を軽く超えていた。一日で変化できるような数値ではない。


「正確にはシルビアさんの数値が変化したわけではなく、主から与えられる数値が大幅に上昇――1割から2割へと上昇しています」


 やっぱりメリッサは起きてきた瞬間に気付いていた。


 シルビア自身の数値が2倍に増えていたわけではないが、俺から与えられる数値が2倍に増えていた。


 その方法については2人ともに説明してある。


「……ヤッたの?」


 アイラが包み隠さずに聞いてくる。

 だが、シルビアのステータスにしっかり数値として現れてしまっている以上ごまかしは通用しない。


「……はい」


 せめてもの抵抗に目を逸らさせてもらった。


「別にいいではないですか? そういう約束で昨日は喧嘩をしたのですから」

「それは、そうだけど……」

「というわけで今日はアイラさんの番です」

「「え?」」


 俺とアイラの声が重なる。

 メリッサの奴は今なんて言った?


「主は、このままシルビアさんのステータスだけを高いままにしておくつもりですか? それは喧嘩をするアイラさんのことを思えば不公平ではありませんか?」


 言いたいことは分かる。

 ステータスの数値は絶対的だが、それだけが勝敗を分かつわけではない。

 スキルや魔法を駆使した戦術によってステータス差の100ぐらいなら埋められなくはない。

 だが、さすがに1000以上もの差があってはいくらか工夫したぐらいでは埋めようがない。


 もしも今のステータス差でシルビアとアイラが喧嘩をすれば間違いなくシルビアが勝つ。それは、さすがに不公平だ。


「……あたしともヤレ。そんなことを言うつもりはないわ。あたしのステータスも上昇させなさい」


 それ、結局やることは同じなんですけど……。

 けれどもアイラの放つ気迫の前では何も言えない。


 くっ……。


「ステータスを上げさせていただきます」

「よろしい」


 俺の返事に満足したアイラが椅子に座る。

 やれやれ、今夜も疲れることになりそうだ……。


「ちなみに明日の夜は私のステータスも上げてもらうつもりですから」

「はぁ!?」


 3日連続で女を替えてヤレと?


「私だって昨日みたいに喧嘩してしまうこともありますから1人だけステータスが低いのは困ります。アイラさんのステータス上げには協力して私には協力しないなんてことは言わないですよね」

「……謹んで上げさせていただきます」


 もう、後には引けないところまで来てしまった。

 ただシルビアには確認しなければならない。


「お前は、これでいいのか?」


 アイラの前に朝食の卵を焼いた物を乗せられたトーストを置いたシルビアが首を傾げている。


「わたしはご主人様が決めたことに付いて行くだけです。それに、さすがにわたしだけステータスが高いのも気が引けるのでわたしからお願いしたいぐらいです」

「というわけでシルビアの許可も得たことだし、今日の夜は時間を空けておきなさいよ」

「明日は私ですから忘れないようにお願いします」

「……はい」


 夜の予定が決まってしまうと日中は何もやる気がおきない。

 ま、冒険者業は就労時間の決まっていない仕事だし、冒険者の中には大きな仕事を終えたら数日は休む人もいるみたいだから数日仕事をしなかったぐらいなら大丈夫だろう。


 というかこんな話をシルビアの母であるオリビアさんに聞こえる場所でしないでほしい。あなたの娘が大人になりました、という話を聞かれるのも恥ずかしいのだが、それ以上に俺が娘以外の女性とも関係を持とうとしていることを聞かれてしまうのが気まずい。



 ☆ ☆ ☆



「おはよう……」


 2日後の朝、アイラが一昨日と同じようにリビングに下りてくる。

 昨日にはアイラ、一昨日にはシルビアがステータスアップを果たしていたから予定では今日ステータスアップすることになっているメリッサのステータスを確認している。


 俺は昨日の内に確認しているので今さら確認する必要などない。


 これで3人ともがステータスを上げることに成功した。


「うん、これでまた対等な条件で喧嘩ができそうね」


 アイラは現状に満足していた。


 だが、一昨日の朝とは違い不満気だったのがシルビアだ。

 シルビアの様子を不審に思いつつもアイラが自分の席に着き、すぐ近くの席で膝を抱えて椅子に座っている俺を見て驚いていた。


「どうしたの?」


 今朝の俺はげっそりとしていた。

 理由は――メリッサのせいだ。


「疲れているんだ。そっとしておいてくれ……」


 疲れ切った……本当に疲れ切った声が俺の口から零れる。

 人間、本当に疲れてしまうとこんな声になるんだ……。


「あんた何やったのよ!?」


 俺の様子から昨晩ずっと一緒にいたメリッサが何かをしたと思い込んだようだ。


「別に何もしていません」

「じゃあ、なんで朝からこんなに疲れた顔しているのよ」

「本当にお2人と同じことしかしていません」

「嘘、ですね」


 不機嫌なのを隠そうともしないシルビアがきっぱりと答える。

 朝リビングに下りてきた時から不機嫌な様子だったが、俺がメリッサに何をされたのかシルビアは知っているようだ。


「アイラは昨日ぐっすりと眠れた?」

「まあ、それまでに感じたこともないような疲労感があったから泥のように眠ったぐらいだし……」

「わたしも似たようなものです」


 そんな具体的な話をするな!

 実際、2人ともそれほど時間はかかっていない。


 問題はメリッサの方だ。


「わたしは用事があって夜中に起きたんですけど、その時にご主人様の部屋から気配が漏れてきましたけど、あの時で一体何時間が経過していたんですか?」


 シルビアから責められるような視線を向けられて思わず膝に顔を押し付けてしまった。


 俺は悪くない。


「その……起きてきた時間が何時なのか分からないから何とも言えないけど……俺たちは一睡もしていない、です」


 それが俺の疲れていた理由だった。


 迷宮主(ダンジョンマスター)になって人外レベルの体力を手に入れたおかげで数日の徹夜なら気にならないようになっていたが、それ以上に疲れてしまった。


 疲れ果てた俺に対してメリッサは余裕な様子で、


「美味しくいただきました」


 そんなことを言う始末だ。


「あんた何やっているのよ!?」

「私は平気でしたよ」

「やっぱ淫乱魔法使いでしょ!」

「またその言葉を使いますか」


 アイラが剣を、メリッサが杖を手にして立ち上がる。

 条件は対等になったから今度は1対1で戦うつもりのようだ。


 なんだか体だけじゃなくて心まで疲れてしまった。


「ごめん……今日は介入するような余裕がない」


 というわけで傷心を癒す為に旅に出させてもらう。


「転移」


 行き先は告げずに迷宮の地下39階へと転移する。


「「ちょ……」」


 転移する直前にアイラとメリッサの声が聞こえたような気がしたが、気にしていられない。


「ああ、海は広いな」

『ダメだ。これは重傷だ』


 俺の様子を見守っていた迷宮核が呟いていた。

 地下36階から40階は海フィールドで、39階は地平線に夕陽が沈む光景が映し出されていた。もっとも全ては映像で、実際には永遠に夕陽は沈まないし、今は早朝だ。


 だが、色々と疲れてしまった俺にはちょうどいい。


「悪いけど、お前から3日は帰らないって伝えてくれるか?」

『いいけど……』


 幸い食料がたくさん入っている道具箱を持つ俺は飢えとは無縁だ。

 今の俺には少し時間が必要だ。

 搾り取られた体を癒す為の時間が……。


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