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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第7章 遺跡探索
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第6話 シルビアの吐露

景品贈呈回です

「う、うん……」


 ベッドで眠っていたシルビアが目を覚ました。

 意識を覚醒させたばかりの彼女は額を押さえながら上半身を起こす。


「ここは、わたしの部屋?」

「そうだ」


 まだ寝ぼけているようなので読んでいた本を閉じて簡潔に状況を説明する。


「たしか地下57階のリングで気を失ったはずですけど……」

「その後、俺がここまで運んだ――いや、移動させた」


 一人で屋敷まで戻って来ると屋敷の中にいたオリビアさんに3人の看病をする為の準備を頼んで、その場で『迷宮魔法:召喚』を使用した。3人を転移させるとそれぞれのベッドに運び、着替えや体を拭くなどの作業をオリビアさんにしてもらった。


「母さんにも迷惑を掛けてしまいました」


 気絶してから何が起こったのか説明するとシルビアが落ち込んでしまった。

 アイラとメリッサも同じような反応をしていたな。


「2人はどうしていますか?」

「メリッサはベッドに運び込んでから2時間ぐらいで起きてきて普通に夕食を食べたら疲れが限界だったらしく今日はもう眠っている。アイラも1時間ぐらい前には起きたけど、シャワーを浴びて今日は寝るみたいだ」


 2人とも相当に疲労していたみたいだった。

 そこで、シルビアも今が夜なことに気付いて窓の外を確かめていた。既に陽は暮れており、もうすぐ日付が変わろうとしていた。


「わたしが、一番遅いなんて……」

「仕方ないさ。お前が一番疲れていたんだから」

「けど……!」


 おそらくシルビアは自分の失態が許せないのだろう。

 今日は朝食を用意しておいたぐらいでアイラと喧嘩を始めてしまった。そのまま今日が終わろうとしているということは、普段しているメイドとしての仕事がほとんどできていないということだった。


 もちろん屋敷は普段から清掃されており、今日だってオリビアさんがいたため家事について何の問題もない。

 むしろオリビアさんからは娘に付いていてあげてください、と頼まれた。

 基本的にシルビアの部屋におり、他の2人が目を醒ましたら俺を呼びに来るように頼んでおいた。


「今日ぐらいはゆっくり休んでおけ」

「そういうわけには……! 今からでもできる仕事があるはずです。わたしの体力なら徹夜で仕事をしても大丈夫です!」


 それは、普段の全力な状態の話だ。

 今の疲労した状態で仕事をさせれば間違いなく倒れる。


「どうして、そこまで仕事をしたがるんだ?」


 シルビアの様子はちょっとおかしい。

 まるで何かに憑りつかれたように仕事をしたそうにしていた。

 せっかくだし以前から気になっていたことを聞いてみよう。


「俺はたしかにお前のことを眷属にしたけど、別にメイドみたいな仕事までしなくていいんだぞ。何か他にやりたいことが見つかれば、そっちをやっても――」


 俺の言葉を聞いていたシルビアが首を大きく振っていた。

 そのまま縋りつくように隣の椅子に座っている俺の両手を掴んでくる。


「捨てないで下さい。お願いします……!」


 シルビアは今にも泣きだしそうな顔をしていた。

 その表情はこれまでに見てきた彼女からは想像もできない。


「捨てる、って俺はそんなことしないぞ」

「頭では分かっているんです。でも……」


 心が不安で押し潰されそうになっていた。


「わたしは、あの日から全く成長していない村娘のままです。どれだけステータスを上げようとも心まで強くなるわけではない」

「一体何が不安なんだ?」

「覚えていますか.初めて会った時のことを」


 シルビアと初めて会ったのは王都の路地裏でのことだ。

 父親を捜すべく奴隷商から逃げ出してきたシルビアが逃げている姿を偶然にも見つけてしまった。最初は関わるつもりはなかったが、面白そうだと思った迷宮核(ダンジョンコア)に言われるまま関わり、奴隷だったシルビアを買うことになった。


 あの時は、「面倒なことを……」などと思ってしまったが、今となっては一生懸命俺に仕えてくれるシルビアと出会わせてくれたことに感謝していた。


「当然覚えている」

「あの時、わたしは父さんを探す為に逃げてきたと言いましたが、本当のところは違うんです。何も分からないまま奴隷商に連れて来られて奴隷にさせられたわたしは、奴隷商で一晩過ごして逃げ出したい衝動に駆られてしまったんです」


 店は商品の価値を保つ為に衛生には気を使っていた。

 しかし、シルビアと同じように将来を不安に思った新人が環境や恐怖によるストレスが嘔吐や失禁。そういうものが突発的に起こるため決して綺麗と言えるような環境ではなかった。


 それに売れ残った奴隷。これほど悲惨な存在もいない。

 本来は商品の価値を保つ為に綺麗にされているはずの奴隷だが、何日も体を拭かれることすらなく、出される食事も質素なものだった。こうした売れ残った奴隷が新人から見える場所に置かれていた。こうして見せることによって、売れ残ればどうなるのか見せつけていた。


 奴隷として売られたくない、だが売られなければあのようになる。


 シルビアも恐怖から隙を突いてどうにか逃げ出してしまった。


 奴隷商もそれは計算したうえでの行動だった。一度自力で逃がしたうえで捕らえることで逃げ出そうという意思を砕く。もっとも逃げた先で販売先が見つかることは予想外だっただろう。


「ご主人様と初めて会った時、父さんのことよりも『誰でもいいから助けて』と願いました。そうしたらご主人様は本当にわたしのことを助けてくれました。それだけでなく父さんまで救ってくれました」

「でも、あれは……」

「いいんです。父さんは騙されていたとはいえ、罪を犯してしまいました。ああして落ち着くべき状況に落ち着いただけでも救われたと思います」


 俺としてはラルドさんもこの屋敷で過ごしているのが一番望ましい結末だった。

 けど、もうその現実は叶えることができない。


「わたしたちはご主人様の手によって救われました。けど、弱いわたしは同時にご主人様から捨てられることに恐怖を覚えてしまったんです」

「恐怖?」

「ご主人様に捨てられたら奴隷商へ戻ってしまうのではないか? そんな想いがわたしの心を縛っているんです」


 それで俺に捨てられないように尽くしていたのか。

 彼女にとって尽くすことで倒れてしまうよりも俺から捨てられてしまう方がよっぽど恐怖だったらしい。


「こんな女、面倒なだけですよね……ごめんなさい、いらないと思ったなら捨てていただいても構いません」


 そんな悲しそうな顔で言うな。


 別に一生懸命尽くしてくれるシルビアをちょっと失敗したぐらいで捨てるつもりはないし、俺は眷属にしてしまった以上は最後まで面倒を見る義務が主にはあると考えている。


 だからシルビアの不安は杞憂なのだが、言葉をかけて諭したぐらいで不安が払拭されるようならこれまでの会話でシルビアの不安は消えているはずだ。

 だが、1日だけ奴隷だった時から何カ月も経っているのにシルビアの不安は拭いされていない。


 俺がするべきは言葉をかけることなんかじゃない。


「分かった。尽くすことで不安を払拭することができるって言うならこれから思う存分尽くすといいさ」

「いいんですか?」


 俺がするべきことは、彼女の不安を受け止めてあげること。

 そのためにもシルビアの奉仕を受け入れる。


「ただし、条件がある」


 働き詰めではいつか本当に壊れてしまう。


「たまにでいいからワガママを言え」

「ワガママ、ですか?」

「そうだ。そのワガママを俺が叶える。俺は鈍いところがあるから本人から言われないとお前が何を望んでいるかなんて分からないんだよ」


 ちょっとしたご褒美をあげることが目的だった。

 そもそも冒険者として得た報酬は4人で等分しているにも関わらず、シルビアが自分の為に使っているところを見たことがない。今回の喧嘩の発端にもなった俺の為に作ったプリンの材料だって、余った材料で作ったと言っていたが実際にはシルビアが自腹で出していたはずだ。

 いや、俺に尽くしたいシルビアにとっては自分の為に使っているのかもしれないが、それでは俺が彼女に何かをあげたような気にならない。


「ワガママ……」


 シルビアが自分の願望について考えている。

 これで、明日あたりにでも何か望みがないか聞いて……おや?


「では、1つお願いしてもいいでしょうか?」


 俯いて表情を見せないようにしたシルビアが顔を真っ赤にしながら尋ねてきた。

 嫌な予感がする。


「何でも言っていいぞ」


 しかし、受け入れると決意してしまった手前シルビアの要望を拒否するわけにはいかない。


「だったらわたしに今日の景品を下さい」


 景品……?


『ついにキタ!』


 迷宮核が喜んでいる。

 また盗み見していやがったな……!


 いや、それよりも景品って……。


『もう、鈍いな。君の童貞のことだよ』

「ぶっ!」


 思わず吹き出しそうになってしまった。

 あれって本気だったの!?

 いや、戦っていた本人たちは本気だったのかもしれない。


「いや、こんな方法でするのはちょっと……」

「わたしのワガママは聞いてもらえないんですか?」


 そんなねだるような目で見られても……。


 とにかく部屋に居辛くなってしまっため椅子から立ち上がる。が、俺の手を掴んでいたままのシルビアによってベッドへ投げ飛ばされ、シルビアが俺の上に馬乗りになる。

 ……え?


「大丈夫です。わたしの得た『奉仕術』のスキルは、普段は家事能力にしか反映されないスキルですが、こういうことにも反映されるスキルなんです。なので知識だけなら豊富にあります」


 シルビアの指に嵌められた指輪が光った直後、彼女の着ていた寝間着が一瞬で収納されて消える。寝かせる為に下着を着させられていなかったため何一つ身に付けていない姿になった。


「景品が欲しい――そんなワガママは受け入れられませんか?」

「う……」


 もう、なるようにしかならない。

 俺は潔く景品となるしかなかった。


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