第43話 迷宮都市突撃
「うわぁ……」
都市を出入りする為の門は機能を果たしていない。
仕方なく、サイクロプスが倒れている場所から離れて外壁の上へ着地してから迷宮都市へ入ろうとする。
空から見えていた光景。それでも、自分の目で見てみると全く違った感想が出てくる。
都市の中心に建てられた大きな神殿。内部に地下へと続く迷宮の入口があり、いざという時には神殿を起点に結界が発動するようになっている。しかし、飽和した魔物により結界が機能しなくなり、神殿そのものも完全に破壊されてしまって残骸だけの状態だ。
地下から無限に湧き出てくる魔物。今もオークが入口を破壊しながら出てきている。人間が出入りすることを考えて用意された出入り口。魔物が利用するには小さすぎた。
入口があるのは都市の中心。魔物の餌となる人間がいないことで、迷宮から出てきたもののどこへ行けばいいのか分からない魔物たちが彷徨っている。
おかげで大通りはオーガのような力が強く、体が大きい魔物が闊歩している。運の悪いことに何も知らず大通りへ出てしまったハウンドドッグがオーガの巨大な手に掴まれて口へ放り込まれている。
「あそこを歩くの……?」
「ちょっと……」
嫌そうな表情を隠しもしないアイラ。
鼻を押さえて辛そうにしているノエル。
弱肉強食の世界が繰り広げられているせいで、大通りが血によって紅く染まってしまっている。
迷宮まで辿り着くルートは大通りを利用する以外にもある。
けれども、どのルートにも魔物がおり、戦闘を避けることはできそうにない。そして、そのルートのどれもが狭い道だ。そんな場所で戦闘をしながら走るのは危険が伴う。どうせなら広い場所で戦った方がいい。
「作戦を言う」
気力が失せてしまった二人を見ながらイリスが伝える。
「私たちの目的は迷宮。道中には無数の魔物がいるけど、全部の魔物を相手にする必要はない」
実力を考えれば魔物を一時的に殲滅することは可能だ。ただし、都市ごと滅ぼしてしまう必要がある上、すぐに迷宮から補充されるというジレンマ。
魔物の殲滅にメリットが感じられない。
「進路を妨害する魔物だけ倒す。その為にも大通りを一直線に進む」
反対する意見はない。
6人で横一列に並ぶ。
久し振りの人間。獲物を見つけたことでぎらついた目をオーガが向けてくる。
「おお、かなりの数がいたな」
外壁の上から確認できたのは4体。
けれども、建物の中で眠っていたオーガもいたらしく倍の7体に増えている。
雄叫びを上げながら近くにいた2体のオーガが迫って来る。振り下ろされた腕を叩いて攻撃を逸らすと、オーガの足の間を駆け抜ける。
力が強く、体力のあるオーガは振り向いて自分を無視した相手を追おうとする。追われても困るため後ろからオーガの足を蹴り飛ばす。バランスを崩してしまったオーガが転倒して追うどころではなくなる。
戦闘は避けるべきだが、この程度なら問題ないはずだ。
「なるほど!」
俺の戦い方に何かヒントを得たアイラが頷きながら走るスピードを落としている。
イリスが最初に足の間を剣で腕による攻撃を受け流しながら駆け抜け、シルビアたちが続いている。
「何をするつもりなんだ?」
「いいからいいから」
アイラの横を駆けながら俺もオーガの間を駆け抜ける。
体を前かがみにして足の間を窺っている。オーガの中でも知能が高い方ではないため駆け抜かれたことに気付いていない。
「せいっ!」
鋭く振られた剣がオーガの足首を斬り飛ばす。
足首より先を失ったことで立っていられなくなったオーガが前屈みだった姿勢のまま前のめりに倒れる。
騒ぎに気付いた魔物が近づいてくる。しかし、倒されたオーガが壁のようになっていて近付くことができない。獲物を追うことができない苛立ちは次第に邪魔をしているオーガへと向けられるようになり、小さな魔物たちの攻撃がオーガへ向けられるようになる。
「うわ……」
少しするとオーガが息絶える。
都市の中にいる魔物の中では強いはずのオーガも数の暴力には敵わなかった。
最後のオーガを駆け抜けながら見ている。
「余所見をしない!」
「おっと……」
全てのオーガをやり過ごせたことで安心していた。
いや、油断をしていたところに建物の中に隠れていたゴブリンが武器を手にして建物の上階の窓から飛び出してくる。武器、と言っても家の中にある武器として使える物だ。刃物は包丁ぐらいだ。
示し合わされた奇襲。それでもゴブリンたちは近付くことすらできない。
『グギャアアア!』
飛び出したゴブリンたちが風に巻き上げられて上空へ飛んで行く。
飛ぶ力なんて持たないゴブリン。無力なゴブリンが地面に叩き付けられて屍の山を築いていく。
「そこ!」
シルビアが気付いて路地の入口で待ち構えていた狼の魔物にナイフを投げて突き刺す。
目が5つある狼。気配の操作に優れた魔物で、奇襲を得意としていた。
通り過ぎた路地の入口をイリスが氷で塞いでいく。簡単な氷壁だが、オーガのように力の強い魔物でなければ破ることができない。
「見えた!」
迷宮の入口が目視できた。
すると、迷宮から出てきたばかりのオークと目が合う。
構う必要などない。敵意を向けると、オークはオドオドしながらも棍棒を持つ手に力を込めながら走り出す。
「遅い」
跳ねるように駆けてオークの腹を蹴る。
集団で迷宮から出てきたオーク。先頭にいたオークを後ろへ蹴れば、一緒に出ようとしていた仲間も一緒に後ろへ吹き飛ばされる。
出てきたばかりで可哀想だが迷宮へ戻ってもらおう。
「さっさと入れ」
シルビアを先頭に迷宮へ入って行く。
迷宮の入口があった場所の周囲には何もない。いや、元々は迷宮から出てきた冒険者を相手に商売をする商店が建ち並んでいたのだろう。しかし、建物なんて関係ない魔物によって破壊し尽くされている。
瓦礫の散乱する広場。そこへヒョイヒョイと身軽に瓦礫を跳び越えた魔物が次々に集まって来る。
少々、迷宮へ辿り着くまでに派手に動き過ぎた。それでも、全ての行動を3分以内に終わらせることができたから、魔物との戦闘を最小限に抑えることができた。
「後は自分たちで食い合っていな」
迷宮へ突入する。
獅子のような魔物が飛び掛かってくるが、すぐ目の前にいるのに迷宮内にいる俺へ手を出すような真似はしない。
手を出したくても出すことができない。
やがて、諦めた魔物が迷宮の入口から離れて行く。しかし、俺に注意し過ぎてしまった。上空から接近してきた大きな鳥の魔物に鈎爪に背中を切り裂かれ、そのままどこかへと連れ去られて行く。
陸上の魔物にとって脅威となっていた獅子の魔物が消えたことで他の魔物も集まって来る。しかし、どの魔物も迷宮まで入って来ることはない。
「思った通りだ。ゼオンが迷宮の魔物に言う事を聞かせられなくなっていたように暴走した迷宮から飛び出した魔物は迷宮へ再び戻ることができないみたいだ」
その推論を示すように迷宮へ蹴り飛ばしたオークたちが体をガタガタ震わせていた。
俺を怖がっている訳ではなく、この場所そのものを怖がっているような反応だ。
「こいつらどうするの?」
「害にならないなら放置だ」
それよりも迷宮へ突入したならやる事がある。
「転移結晶は機能しているみたいだな」
触れることによって、それまでに触れたことのある他の階層にある転移結晶への転移を可能にしてくれる迷宮の設備。
全員が手を触れて移動が可能なようにする。他の階層にある転移結晶に触れた訳ではないため移動はまだできない。
「ここまで来れば一安心だ」
道具箱から『転移の宝珠』を取り出す。
使用者を予め設定しておいた場所への移動させる魔法道具。異なる使い方をすれば設定した場所――拠点を定めることが可能になる。
「うん、できそう」
これをイリスが転移結晶に干渉して仮の拠点として登録する。
そうすることで【転移】を使用することによって離れた場所にいても、ここへ戻って来ることができるようになる。
「迷宮の攻略に何日掛かるのか分からない。だけど、暴走して何が起こるのか分からない迷宮で体を休ませる余裕なんてある訳がない」
休息は全て屋敷で行う。
そして、準備が整い次第迷宮へ戻って攻略を進める。
「敵の介入だけが不安だったけど、それも心配しなくていいみたいだな」
転移結晶への干渉だけが可能な可能性は低いと考えている。
「早速、異常事態だぞ」
迷宮の奥から感じる気配。
少なくとも地下1階にいるような強さではない。
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