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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第7章 遺跡探索
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第4話 全属性

2VS1の戦い

不運なる大鎌(バッドステートデスサイズ)


 メリッサの握る奉杖の先端に黒い靄のような物が集まり、やがて鎌の刃のような形状を成す。

 それは、まさしく大鎌へと様変わりした杖。


「なに、その大鎌は……」


 魔剣を思わせるような恐ろしい大鎌にアイラがたじろぐ。


「この鎌には触れない方がいいですよ。この鎌には触れ続けている相手の戦おうという気力を奪っていく効果があります。こんなところで終わらせたくなければ触れないようにしてください」


 メリッサが大鎌を振るう。

 大鎌の効果を警戒していたシルビアは大振りに振られた刃を避け、アイラも同じように受けるが服に掠ってしまう。


「……あれ?」


 掠っただけで全身から力が抜けてしまったように膝を突いてしまう。


 あの力には俺も迷宮適応がなければ苦戦させられていたはずだ。

 メリッサが使用している不運なる大鎌は、俺が地下77階で戦ったヘルグリムリーパーが使っていた相手の気力を奪う黒い球体を鎌の形状に変えた物だ。


 まだバッドステートの扱いに慣れていないメリッサではリングの上全てを覆うことはできず、魔法を当てることは難しい。そこで、大鎌の形状にすることによって扱えるようにしていた。ただ、どうして大鎌にしてしまったのか。


「掠るだけでこの威力ですか……十分驚異的です」


 膝を突いているアイラを無視してシルビアへと向かう。


「……!?」


 そこへ気力を取り戻したアイラが大鎌を持つメリッサに剣を振るう。

 バッドステートデスサイズは相手の武器に触れるだけでもアイラの気力を奪うことができる。咄嗟に大鎌を掲げて、アイラの聖剣を受け止めようとする。


「――明鏡止水」


 静かな斬撃が大鎌を斬る。


「え?」


 意外な結果にメリッサが困惑する。

 大鎌の形を取っていたが、それは実体を持たない魔法で造られた物。炎や風を剣で斬っているようなもので、実体を伴わない物を斬ることはできないはずだった。


 しかし、アイラの斬撃はたしかに大鎌を――魔法を斬っていた。


「剣撃の極致に達した者は斬撃でありとあらゆる物すら斬り裂けると伝説で聞いたことがありますが、これがそうですか……」

「明鏡止水なんてスキルがあるおかげで到達することのできた境地だけどね」


 使用者の斬撃を強化するという単純なスキルだが、単純が故にスキルによって得られる恩恵も強大だった。今のアイラは斬ることができないはずの魔法すらも斬れる斬撃を手に入れた。


「これで大鎌は消えたわよ」


 大鎌は斬られた瞬間に形を保っておくことができずに霧散してしまった。

 眷属になったことで大量の魔力を得たメリッサだったが、最上級魔法を使う為には事前に魔力を練り上げて準備をしておかねばならず、バッドステートデスサイズをもう1度使用する為には魔法を使用する為に必要になる魔力を練り上げねばならない。だが。2人が共闘関係にある状況でそこまでの余裕はない。


 これでメリッサの手元に武器は……


勇者の剣(ブレイブソード)


 メリッサの周囲に24本の剣が出現する。


「あれは……」


 迷宮の下層で出現するオークの勇者が持つと言われる剣だ。

 醜い顔をしており、雄しかいないため他種族の雌を攫って繁殖するしかないせいで嫌われているオーク。そんなオークの中に6本の腕を持ち、巧みな剣術を活かして6本の剣を扱う勇者が現れた。勇者は、自らをオークヒーローと名乗り、オークを討伐する為にやってきた冒険者から同胞のオークを守った。

 ……という全く必要のない設定を持ったレベル400の魔物が扱う剣。


 それをメリッサは迷宮魔法で造り出し、自分の周囲に浮かばせていた。


 なぜ、その魔法をチョイスしてしまったのか?


「今の私に扱えそうな魔法の中で最も技量を必要とされる魔法です。剣士である貴女に付き合ってもらいましょう」


 4本の剣がアイラに向かって飛んでいく。


「――ふっ」


 それをアイラは短く息を吐いて斬り捨てる。


 ――パリン!


 斬り捨てられた直後、ブレイブソードが砕け散る。

 魔法で造られた武器は斬られたことによってメリッサの制御を離れてしまい、形を保てなくなってしまう。結果、ブレイブソードは真っ二つという致命的なダメージを受けてしまうと砕け散ってしまう。


「やはり、ダメですか」


 再び4本の剣を飛ばすもののアイラの手によって斬られてしまう。


「いくら剣を出してもあんたには剣技の心得がないせいで、ただ剣の形をした物を投げているだけに過ぎないのよ」


 8本目の剣を斬り捨てた直後、アイラがメリッサに向かって駆け出す。


 その後ろには隠れるようにシルビアが追随していた。障害物の一切ないリングの上では、共闘相手ぐらいしか自分を隠せる物がない。


「その辺りも課題ですね」


 残っていた剣10本をアイラに向かって飛ばす。

 10本の剣が斬り捨てられると後ろを走っていたシルビアが跳び上がって姿を現す。矢避けの風に今も守られているメリッサにナイフを投げても意味はない。シルビアは、アイラの肩を足場に蹴り出すとメリッサに向かって一気に加速。そのまま首を狩ろうと短剣を振るう。


「ソニックアクセラレート」


 メリッサも加速魔法によって後ろへ大きく跳び、リングの端ギリギリ手前まで移動する。


 しかし、瞬時に発動させた魔法は魔力を大きく消耗させる以上に彼女の精神力を消耗させる。


「私の失敗です。途中から最上級魔法を手加減なしで使える状況を喜んでしまったせいで勝つことよりも魔法を使うことを優先させてしまいました」

「負け惜しみ?」

「いえ、負け惜しみなどではなく宣言です」


 彼女が事前に用意しておいた最上級魔法は残り1つ。

 というよりもバッドステートデスサイズもブレイブソードも最後の魔法を使う為の布石でしかない。理想としては、デスサイズによって気力を削いだところへブレイブソードに隠しておいた方の魔法で殲滅するというものだろう。


属性の力(エレメントフォース)


 残っていたブレイブソードがメリッサの前で円形に浮かび、盾のようになる。


「あれ、その剣ってさっきまでのとは違う……?」


 アイラが斬り捨てた剣は全て銀色の剣だった。

 だが、盾のように浮かんだ剣はそれぞれ赤、青、緑、黄、白、黒色の光を帯びていた。


「結集」


 色違いの剣が溶け、混ざり合うと砦で見せたようなレンズへと姿を変える。

 しかし、あの時に使った魔法のレンズは単一色をしていたにもかかわらず、エレメントフォースによって作られたレンズは6色の力が混ざり合っていた。


「私は元々火と風、それから光の適性属性しか持っていませんでした。それが魔神の加護を得たことによって全属性を手に入れました。6つの属性を持っているのではありません。全属性を持っているのです」


 魔法が苦手なシルビアとアイラにはいまいちピンとこないようだが、迷宮魔法で複数の属性魔法の合成ができる俺には分かる。


 火属性魔法によって生み出した炎に風属性魔法を付与することによって威力を増強させる。

 それと同じように魔法は複数の属性を混ぜ合わせることによって強くなる。


 だが、威力に比例するように精密な調整が必要になる。それは、混ぜ合わせる属性が多くなればなるほど難しくなる。


 しかし、メリッサが持っている属性は今では6つの複数属性ではなく、『全』属性という単一属性。

 複数の属性を混ぜ合わせた時の調整が必要なくなっていた。


 そんなメリッサが放つ最強の魔法。


「全ての属性を混ぜ合わせた魔力砲撃。どれだけの威力になるのか試してみたくて仕方ありませんでした」


 さすがに何もない状態から全ての属性を混ぜ合わせるのはメリッサでも難しかったらしく、ブレイブソードに属性毎の魔力を付与させておき、剣ごと魔力を混ぜ合わせることによって魔力砲撃に必要な砲口を生み出していた。


 レンズが変形し曲面を描く。

 変形させたことによって攻撃の範囲が正面だけでなく左右の斜めにも向けられるようになった。この形は、円形のリングの上では有利になる。端に立っているため後方を気にする必要がなく、リングの上全てを攻撃することができる。


「あれは、マズいわね……」


 2人とも発射前のメリッサに近付こうとはしない。

 レンズの周囲には暴力的な魔力が吹き荒れており、まともに浴びるだけでダメージを受けることになる。それを避けるように近付こうとすればリングの上から下りなければならない。


 しかし、希望がないわけではない。


「おそらくあれだけ強大な魔法を使用した後には必ず隙ができる。その瞬間を狙うことができればメリッサに勝つこともできるわ」

「けど、それは自分だけでやってね」

「え……?」

「わたしにはこの状況を打開できるだけの策があるけど、それはわたし一人を対象にしたものだからあなたの面倒まで見ていられないの」

「ちょ……!」


 シルビアがその場を離れると着ていた服を収納して、一瞬で服を着た状態で取り出す。取り出された服は、いつも着ているメイド服。


 なぜ、ここでメイド服?


「発射」


 レンズから放たれた砲撃がリングの全てを吹き飛ばす。


 ……ん? この攻撃ってアイラの後ろから戦闘を見ている俺も射程内に入っていないか?


 俺の魔力値を考えれば耐えられなくはないが、痛いことには変わりない。


「――迷宮操作:落とし穴」


 咄嗟に足元に穴を造って落ちる。

 これで魔法は頭上を通り過ぎていくことになる。


「その手があった!」


 リングの端の方へ走りながら俺の回避方法を見ていたアイラが叫ぶ。

 穴の中に落ちてしまったので直接見ることはできないが、迷宮同調があるおかげでアイラが剣でリングを斬って穴を造っていた。


 あれ、場外扱いにならないのか?


『許可します』


 審判が許可したんだから問題ないか。


 砲撃が頭上を通り過ぎていく。

 穴から見える光景が様々な色に彩られている。


 10秒、20秒――時間が長く感じられたが、30秒に至る前に砲撃が止んだ。


「ふぅ~、もう大丈夫そうだな」


 穴から顔を出してみると、


「マジかよ……」


 生半可な攻撃では傷を付けることすら不可能なはずの迷宮の構造物である観客席がごっそり消失していた。


「あれは、受けなくてよかった」


 アイラも顔を出して観客席を見ていた。


 というかメイド服に着替えたシルビアはどこに行ったんだ?


 もしも魔法をまともに浴びて失格になっていたのだとしたら場外のどこかにいるはずだが、シルビアの姿が見えないどころか気配すら感知できない。迷宮主である俺は、その気になれば眷属がどこにいるのか把握することができる。


 それが全く感じられない。


 まさか、迷宮すら破壊できる魔法が直撃して消滅した?


「少しやり過ぎてしまったでしょうか?」


 仲間に向けるような威力ではない魔法を使用してしまったことに焦ったメリッサが額の汗を拭う。

 次の瞬間、メリッサの首から汗とは違う真っ赤な液体が噴き出す。


「なに……?」


 それは、投げられたナイフによって頸動脈を斬られたせいで噴き出した血。

 大量に噴き出した血のせいでメリッサの服が真っ赤に染め上げられる。


「途中から強力な魔法を使うのが楽しくなったのは、失敗でした……」


 全属性によるエレメントフォースは強力な魔法だったが、同時にメリッサの体を遠距離攻撃から守っていた矢避けの風すら消失させてしまった。

 出血多量によりメリッサが死亡。


 リングの上から消えると服は血がベットリ付いていたが、体に付いていた傷は全て治療されていた。ただ、魔力の使い過ぎと死亡した時のショックにより気絶してしまっている。


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