第27話 闇夜の魔剣
両手を広げるリュゼ。
すると、何も持っていなかったはずの手に2本の剣が現れる。
禍々しい気配を放つ剣――魔剣だ。
「あはっ!」
2本の剣を振り抜く。
それだけで魔物への恐怖から固まって休んでいた10人が斬られた。鎧を纏っていても関係なく全員の体が両断されている。
「あり得ない……」
その光景を離れた場所から見ていたホランド将軍が呟く。
そんな彼を置き去りにして兵士たちを跳び越えて剣を抜く。
「先に進んでいい、って言ったのに……」
リュゼが手にしていた魔剣の1本を上へ投げる。
真っ直ぐに飛んでくる魔剣。迎撃するべく神剣で斬る。
『相手は魔剣。彼女が使っていた「神弓」ほどの力はない』
迷宮核の言葉に頷きながら神経を研ぎ澄まして剣を振り下ろす。
シャルルの使っていた弓。剣を合わせた時に『神弓』と呼ばれる弓を斬ることができなかった。
いくつかの理由があるが、相手の使用していた弓の性能が破格だった。
神剣と神弓。
同じように神の名を冠した武器。それぞれの武器の中でも最高峰だった。
だが、決して斬れないという訳ではない。
『君の神剣は例のオーガによって強化されている。簡単に切断できるはずだったんだけど、彼女が手にしていた矢が弓の力を強化していたんだろうね』
あの時、シャルルは白い矢を手にしていた。
それがシャルル自身と弓を強化していた。
今、斬ったのは人間が使うには強力すぎるほどの力を持つ魔剣だが、神剣で斬れない道理はない。
「さすがは迷宮主」
手にしていた魔剣を投げたことで空になった左手。
そこへ再び魔剣が現れて、右手に持っていた魔剣とも合わせて投げ付けてくる。
投擲される2本の魔剣。切り払い、神剣をリュゼへ向けたところで、今度は4本の魔剣が投げられているのが見えた。
剣を振り下ろして衝撃波を発生させる。風に押されて4本の魔剣が下へ落ちていく。
「へぇ、力業。けどね……」
押された4本の魔剣のうち2本の魔剣が爆発して炎と雷を発生させる。
炎と雷の嵐に挟まれる。神剣を振って二つの嵐を斬ると最初からなかったかのように忽然と消える。残された跡は、地面にある焦げた草のみ。
視界がクリアになったことで追撃を警戒する。
だが、攻撃がなければ敵意を向けられることもない。
正面に見据えていたはずのリュゼの姿も消えている。しかし、探すまでもない。
「ぎゃあ!」
「グフッ……」
魔剣に斬られ、貫かれたことで血を吐いて倒れる兵士がいた。
斬り掛かってきた俺の事なんて構わず周囲にいる兵士を襲っている。
「このっ……!」
兵士たちを助けるべく駈け出そうとする。
が、眼前を2本の剣が飛び過ぎていく。正体は先ほど投げられた魔剣。落とすべく神剣を振り下ろすものの生きているかのように飛ぶ魔剣には当たらない。
魔剣に宿った魔力を辿ると兵士を斬っているリュゼに繋がっていた。
意思に従って動かすことのできる魔剣。リュゼは兵士を斬りながら魔剣を操作している。
神剣には劣ったとしても、少し斬られるだけで重傷を負う。不用意に近付くことができない。
その間にも新たに出された魔剣を投げ逃げようとしていた兵士を貫いていた。
「あははっ、この時代のガルディス帝国軍の兵士はこんなものなの!? もっと頑張らないと簡単に死んじゃうよ!」
斬っているうちにテンションが上がって来たのか笑いながら斬っているリュゼ。
「オラァッ!!」
重装備の鎧に身を包み馬に乗った騎士が、手にしていた槌を振り回しながら近付いていく。
小柄な少女であるリュゼ。馬上から落とされる槌の一撃なんて受け止められる訳がない、と誰もが思っている。
「馬の上でそんな風に振り回せる技術は評価できるよ。けどね……」
リュゼの横を駆け抜ける馬。
騎士の槌も振り落とされていたが、リュゼの拳によって弾かれていた。
そして、リュゼから離れた場所で左右に割れた騎士と馬の死体が転がっていた。
「昔のアタシでも十分に対処可能なレベル。今のアタシに通用する訳ないでしょ」
「ひ、ひぃぃぃぃ!」
「そんな、ラルゴス様が!」
「に、逃げろぉぉぉ!」
周囲にいた兵士たちが逃げていく。
しかし、ここは周囲を魔法使いによって造られた土壁の内部。逃れる為には、唯一の出入口であるレジャーナの南門前の先まで行く必要がある。
もしくは……
「アタシの後ろへ行ってもいいよ。ま、アタシに挑むような勇気があるならの話だけどね」
たとえ戦うつもりがなかったとしても……戦う気がないからこそ無防備な姿を晒す者の背を斬るつもりでいるリュゼ。南門前へ向かったとしても同じだ。
西側の土壁を壊して入って来たリュゼ。
「あれ、逃げちゃうんだ」
東側で待機していた兵士が出入口へと殺到する。
「もう、逃がす訳ないのに」
出入り口の前へ向かって魔剣が投げられる。
その魔剣は、剣の形をしていたものの人よりも厚い刀身をしている。そんな魔剣が数十回と投げられたことで数台の馬車が通っても平気なほど広かった道が塞がれることとなる。
出入口へ殺到していた兵士が踏み止まる。
「退いて!」
そこへアイラが駆け付ける。
既に魔剣を斬る為に意識を研ぎ澄まされており、剣さえ触れれば両断することが可能な状態になっていた。
「やっぱり、アナタたちが邪魔かな」
また投げられた魔剣。
ナイフのような大きさしかない魔剣が風を切り裂きながらアイラへと向かう。
斬る体勢にあった体を後ろへ傾けると眼前を通り過ぎていく魔剣から放たれる風にアイラが後ろへ吹き飛ばされる。
「あら?」
地面を覆う冷気にリュゼが足を止めて下を見る。
足が凍らされて固められている。動きを止めて隙を晒している間にシルビアを前にノエルが続いている。
「もう軌道は読めた」
接近する二人の眷属を視認したことでリュゼから魔剣を操っている余裕が消えた。自動的に生きているかのような動きを続けているだけで軌道を見切り易くなったところを捕まえて叩き折る。折られてしまえば飛び交うことができる魔剣であっても力を失って落ちてしまう。
リュゼへと3人で向かう。
「……だから、アナタたちには興味がないって言っているのに」
呆れたように呟くリュゼの背に波紋のようなものが生まれ、水面から出てきたかのように数十本という剣が姿を現す。
「発射」
四方八方へと発射される魔剣。
魔剣が突き刺さった場所で嵐が吹き荒れて斬り刻み、爆発が焼き焦がし、水に喉を貫かれて絶命している。
出てきたのは全て魔剣。
膨大な数の魔剣があったのはいい。しかし、彼女は一体どこから出していた?
いや、それ以前から次々と魔剣を出現させていた。
最初は収納リングかと思っていたが、最高級品の収納リングが収納しておける量を超える魔剣が放たれた。考えられる可能性があるとすれば、収納しておけるような空間系のスキルをリュゼが有している。
膨大な収納能力。だが、限界も存在しているようだ。
出す時は必ず魔剣を手にしている状態だ。ただし、例外も存在している。先ほどのように空間を拡張させて放つこともできる。
「……何人が犠牲になった」
ホランド将軍が部下に尋ねる。
今の攻撃で犠牲になったのはガルディス帝国軍の兵士のみ。どうやらグレンヴァルガ帝国軍に興味がない、というのは本当らしい。
「もう、そんな事を言っている場合じゃないですよ。生きている人間の数を考えた方がはや、い……」
「ふふっ」
部下がリュゼから見られていることに怯える。
いや、それは怯えを通り越して恐慌へと至っていた。
「い、い、いやだぁぁぁぁぁ!」
「あ、おい……!」
部下が逃げ出す。
リュゼが入って来た穴を利用する為には彼女がいる方へと向かう必要がある。恐慌状態にある者にそんな選択ができるはずがなく、帝国軍が用意しておいた出入口も攻撃されたばかり。投げられた魔剣に貫かれた死ぬ姿を幻視してしまったため向かうことは叶わない。
全ての出入り口が塞がれているように思える。ただし、部下にはもう一つあったように見えたらしい。
「そっちは--」
ホランド将軍が呼び止めるが遅い。
「ぴゃ……」
部下が入って行ったのはレジャーナの門。都市へ入ったところで体がバラバラに刻まれてしまった。今でも開放されたままになっている門は、彼にとって魅力的に見えてしまったらしい。
だが、そこは入った者を斬り刻んでしまう地獄の門。
「リュゼさん」
「なに?」
門の向こうから現れたオネットが呆れた目を向ける。
「ここは私の領地です。このように血で汚してほしくないのですが……」
「ええ、だって我慢できなかったんだもん」
「気持ちは分からなくありません。ですが、私の邪魔をしていることになります」
「……そこまで言うなら手伝ってよ」
「……仕方ありませんね」
門から近い場所にいた兵士へ糸を伸ばす。
「へ?」
反応することすらできないまま四肢を拘束される兵士。
「あはっ」
そのまま額を魔剣に串刺しにされて絶命する。
☆書籍報告☆
発売まで、あと4日。
書き下ろし特典なんて書いたの初めてなので不安です。




