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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第37章 暴走迷宮
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第12話 暴走への絶望①

クッッッソ重たい設定を用意したよ。

ニックス視点で進めていきます。

 ガルディス帝国は、元々はいくつもの小国が併合したことで生まれた国。

 けど、僕たちの世代にとっては関係のない昔の話。小国の一つに過ぎなかったガルディス王国だった頃の事なんて関係ない。


 商会の下働きとして働く父とウェイトレスとして働いていた母の子供として生を受けた僕。貧しいながら僕たち3人の兄弟を精一杯育ててくれた。幼い頃には我が侭を言って子供用の剣を買ってもらい、それを振って見様見真似の剣術を身に付けようとした。

 目指すは街を守る騎士様。


 同じような事を考える子供は何人もいるのか空き地で剣を振って練習をしていると何人もの子供が集まるようになった。

 ゼオンと会ったのは、そんな時だった。


「君は、どうして騎士様になりたいの?」


 きっかけが何だったのかは覚えていない。

 ただ、何気ない話から騎士を志す理由を話すようになった。


「そういうニックスは?」

「僕の家は貧乏だからね。騎士様になれば楽ができるようになるし、弟たちにお腹いっぱいになるまでご飯を食べさせてあげられるようになるからだよ」


 騎士の仕事は危険が伴う。なにせ緊急時には自分の身を犠牲にしてでも仕えている相手を守らなければならない。子供だった僕にはそんな事が分からなかった。

 それでも騎士になることを夢見て鍛錬に励んでいた。


「俺の家は貴族だったらしい」

「え、でも……」


 子供同士遊んで相手の家へ行ったこともあった。

 その時に案内された家は掘立小屋みたいな家だった。すき間風も流れていて、お世辞で『家』と呼ぶのがギリギリ。お菓子も出されたけど、よく分からない草をすり潰して団子にした物だった。

 僕の家も貧しいと思っていた。まさか、それ以上に貧しい生活を送っている人がいるなんて思わなかったぐらいだ。

 とても貴族とは思えない。


「俺のひいお祖父さんが貴族だったみたいなんだ。だけど、お祖父さんが子供の頃に家が潰されちゃったみたいで、お祖父さんも父さんも貴族にまたなろうと頑張っているんだ」


 貴族の没落はよくある話。

 新しく興る貴族がいれば潰れてしまう貴族もいる。

 無関係な人の話に聞くだけなら気にも留めないけど、友達の話として聞くと辛いものがある。


「俺はお祖父さんと父さんが何をしているのか知らない。母さんはいっつも疲れた顔をして何も教えてくれない。だから、俺が剣で騎士になってあげるんだ」


 大好きな母親を笑顔にしてあげたい。

 子供だったゼオンが抱いていたのは、そんな想いだった。

 その頃の僕たちに知る由はなかったけど、ゼオンのお祖父さんとお父さんは無茶な商売に手を出して一獲千金を狙っていた。けど、どの商売も上手くいかなくて、日雇いの仕事をしながら生活費を稼いで、貴族だった頃の残された資産を売って借金の返済に充てていた。

 家は取り潰されてしまったけど、資産だけは残されていたのが唯一の救いだったのかもしれない。


 けど、とうとう最後の資産まで売ってしまった。


「あれ、お母さんは?」


 ある日、ゼオンが起きると母親の姿がどこにもなかった。いつも起きれば用意されているはずの朝食がなかったことから母親の不在を知るのは簡単だった。


「お母さんは、もういないんだ」

「え……」

「これからお祖父ちゃんとお父さんの3人で生きていこう」


 ゼオンの母親はマディン家が購入した奴隷だった。

 没落し、残された資産を食い潰しているだけの男との間に子供を設けてくれる女性などいるはずがなかった。それでも貴族としてのプライドを捨て切れない祖父は自分の息子に女性を宛がった。それが奴隷の女性だった。


 子供だったゼオンへは母親が家を出て行った、とだけ説明された。それでも勘のいい子供だったゼオンは母親と二度と会うことができないことを悟っていた。


「お母さんは、お父さんとお祖父さんに売られたんだ」


 二人だけの秘密として教えられた。

 子供を産んだことで用済みになった女性だったが、幼い子供を育てる為に必要な存在だった。それでも追い詰められたマディン家は、子供まで産み老いて幾許かの金額にしかならないのに母親を売ってしまった。

 その成果は、夕食のメニューに肉が追加されることで現れた。


 寂しくなったゼオン。

 けれども、彼の顔は笑っていた。


「あんな貧しい家にいるよりいいよ」


 価値が低くなったことで条件のいい人に買われる可能性は低くなった。もしかしたら嗜虐趣味のある人に買われて苦痛を味わされる毎日を送ることになってしまっているかもしれない。

 それでも、貧しいのに見栄だけは貴族並の家にいるよりは幸せになれる。

 母親の幸せを思ってゼオンは笑っていた。


「俺がやることは変わらない。マディン家を必ず復興させてみせるんだ!」


 寂しくなったゼオンが拠り所にできたのはそれぐらいしかなかった。

 お互いに切磋琢磨しながら剣術の練習をしていると、引退した騎士が慈善事業の一環として貧しい子供に剣を教える機会に遭遇した。教えてもらえるのはテストに合格した数人だけだったけど、僕とゼオンは見事に合格にして剣術を教えてもらえることになった。


 剣の練習に朝から励んでいると昼食を貰えた。

 貧しい生活を送っていた僕とゼオンだったけど、騎士からの指導ということで家族は快く送り出してくれた。僕たちみたいに貧しい生活をしていて働ける年齢になったら生活費を稼ぐ為に働くのが当たり前。僕もそうするものだと思っていただけにその時の状況に困惑していた。

 けど、貴族になろうと考えているゼオンはそんな事を考えずにひたすら剣の練習に打ち込んだ。


 そんな生活が何年も続いて成人が見えた頃、


「彼らが先輩の育てた子供ですか?」


 後の僕たちの隊長となるヴェルムさんが訪れた。


「育てた、なんてものじゃないさ。引退後の暇潰しに剣を教えていただけだ。子供たちに飯を食わせたとしても困らないだけの蓄えはあるからな」

「奥さん、嘆いていません?」

「……あいつのことは気にするな」


 先生の奥さんは知っている。

 僕たち子供には優しいんだけど、旦那さんの先生には凄く厳しい。先生たちには独り立ちした子供が二人いて今は一緒に生活していない。だから僕たちと一緒にいると息子さんたちが幼かった頃を思い出して優しくしてしまっていた。


「今、才能のある若者で少数精鋭部隊を編成しようと考えています。彼らの中から何人か連れて行っていいですか?」

「……こんな子供をか?」

「はい」

「例の作戦はどうなった?」

「それが頓挫したから急遽必要になったんですよ」


 本当なら騎士に成り立ての若者から精鋭部隊を編成するつもりだった。

 けど、騎士としては十分な力を身に付けている彼らは現状で満足してしまって上層部が期待するような力を身に付ける為の無茶をすることがなかった。なによりも編成しようとしている部隊は、失敗した時には使い捨てにされる部隊だった。


 そんな事を知らない僕たちは……


「この中に本気で騎士になりたい、と考えている者はいるか? もし、本気で考えている者がいるなら俺についてくるといい。騎士にしてあげられる保証はない。けど、最後までついてこられた騎士になるには十分な実力と功績が備わっているだろう」


 騎士になれるかもしれない。

 そんな言葉に踊らされて部隊へ志願した。


 その後は、隊長の元で厳しい訓練を受けて何度も戦場へ何度も送られて実戦の中で実力を身に付けていった。戦場を生き残れない者が何人か出てしまったけど、僕たちは戦場を生き残った。


 そんな命の危機を何度も感じる生活が何年も続いて18歳になった時――隊長が男爵に昇進することになった。

 叙爵を喜ぶ部下の僕たちだったけど、それが宮廷での権力闘争の結果だっていうことに隊長だけが気付いていた。僕たちは功績を挙げ過ぎてしまった。その状況を危惧した貴族たちが戦場から遠ざける為に爵位と土地を与えるよう動いた。

 戦場で活躍したい隊長だったけど、権力という大きな力には逆らえなくて爵位を受け取るしかなかった。


 意に沿わない昇進だったけど、昇進は隊長も素直に嬉しかった。

 そして、僕たちも騎士の元で動く特殊な兵士に過ぎなかったけど騎士になることが正式に決まった。


 ――ある一人を除いて。

☆書籍情報☆

5月1日BKブックスより発売!

Amazon等で予約できますよ!

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