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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第37章 暴走迷宮
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第3話 ガルディス帝国の迷宮主の思惑

 深海のような紺碧のコートに身を包んだ灰色の髪をした青年。

 コートのポケットに両手を突っ込んだ状態で皇帝の天幕へ侵入していた。こんな事が可能な時点で間違いようもないが、ここまで近付いたのだから断言できる。


 こいつがガルディス帝国の迷宮主だ。


「へぇ、随分と凄い隠密能力だな」


 青年の首へ短剣が突き付けられる。


「本当に俺たちだけだと思ったのか?」


 短剣を突き付けたのはシルビア。

 今だけでなく気配を完全に消した状態でずっと俺たちの護衛をしてくれていた。護衛の人数を最小限にすることでリオを狙う者を釣り上げるのが目的だった。俺が傍にいる護衛を担当していたのは、近衛騎士を納得させるには女性であるシルビアたちでは問題だったからだ。

 今も俺たちの後に続いて天幕に入って来た……はず。

 その事に誰も気付かなかったので護衛としての役割を果たしている。


 一方、短剣を突き付けられた青年は平然としていた。


「アリスター迷宮の眷属か。もちろん眷属に警戒しなければならないことぐらいは理解している。同じ主なんだから当然だろ」


 笑みを浮かべる青年。

 すると、シルビアの顔が苦悶に歪む。


「くぅ……!」


 いつの間にかシルビアの腕に糸が絡み付いていた。

 眷属のステータスでも断ち切ることができないほど強靭な糸。絡め取られたせいでピクリとも動かすことができなくなっている。


「あらあら。女性がそのような声を出してはいけませんよ」


 天幕の隅の方を見れば金髪を捻じって編み込んだ女性が白い毛のついた真っ赤な扇子を手に立っていた。

 舞踏会にでも赴くような動き難いドレスを纏っている。あまりに目立つ格好でありながら俺たちの誰に気付かれることもなく……特にシルビアに察知されることすらなく天幕の中にいたのが信じられない。


「やめろオネット」

「よろしいのですか?」

「ああ。今日は戦いに来た訳じゃない」

「かしこまりました」


 迷宮主の言葉によってオネットと呼ばれた拘束を止める。

 シルビアの腕から糸は消えた。だが、相手は迷宮主だ。警戒を緩めていいはずがない。俺だけでなくリオも剣へ手を伸ばしたままだ。


「さっきの言葉はオネットだけじゃなくて、お前たちにも伝えたつもりだったんだけどな」


 迷宮主が開いた手を俺たちへ向ける。

 直後、全員の武器が地面に転がっていた。


「え……」


 こんなことはあり得ない。

 鞘から抜いた剣を手から落としてしまうのなら分かる。しかし、今の剣は鞘に納められたまま腰のベルトに差されていた。ベルトがそのままなのに剣だけが落ちるなんてあり得ない。


 しかも、同じ現象がオネットも含めて全員に起こっている。

 武器を落としていないのは、最初から武器を所有していなかったガルディス帝国の迷宮主ぐらいだ。


「これが俺の持つスキルの一つ【武装解除(アームドリリース)】。さっきも言ったように話し合いの為に来たんだから武器なんか無しにしよう」


 相手の手から武器を失わせることができる【武装解除(アームドリリース)】。その効力は、武器にまでしか通用しないのか防具の類には適用されていない。まあ、服にまで適用されるなら別の意味で恐ろしいスキルとなる。

 武器なしの素手でも戦うことはできる。しかし、相手は正体不明の迷宮主。今のように特殊なスキルを複数所有しているのは間違いなく、無謀な戦いを挑む訳にはいかない。


「で、話っていうのは?」


 リオもその事が分かっている。

 自分の命だけなら無謀な戦いへ挑むのは自己責任で済まされる。ところが、俺たち迷宮主の死は眷属全員の死へと繋がる。

 安易な行動はできない。


「今のガルディス帝国で起こっている出来事をどう見ている?」

「さっき、お前が肯定したように迷宮にいた魔物が暴走して外へと飛び出している。迷宮主なら迷宮生まれの魔物に命令を聞かせることができる」

「そのとおり」


 非道な事を行っているというのに平然と肯定する迷宮主。


「まさか、お前の目的に協力しろ、なんて言うつもりじゃないだろうな」

「そんなつもりはないさ。なにせ俺の目的は既に達成されている」

「なに……?」


 目的が達成されている。

 彼が行った事と言えば迷宮から魔物を放出させただけ。魔物に都市を襲わせることによって何を得ようとしているのか疑問に思っていた。

 ところが、何も目的にしていないのなら疑問は解消される。


「俺の目的はガルディス帝国を亡ぼす事。そして、それは既に達成されている」

「……どうやら事態はこちらが考えている以上に深刻みたいだ」


 リオが言いたい事が分かった。

 国境から最も近い場所にあった都市は既に壊滅状態。さらに近くにある都市も同様の状態であることが確認されている。


 では、他の場所は……?


 ガルディス帝国全体で見れば北寄りの中心部にある帝都ウィングル。

 帝都から少しばかり北へ向かった先にある迷宮都市イルカイト。

 他にもオンタリアやケルディック、レジャーナといった都市の名前があるのは事前に調べて知っていた。


「大都市だけじゃない。全ての街や村が殲滅の対象だ。もうガルディス帝国に人が住める場所は残されていない」


 人の生活圏は魔物に乗っ取られてしまった。


「そんなことをしていいのか?」


 迷宮に人が訪れない。

 それは新たに魔力を得る手段を失うことを意味しており、維持によって消費するばかりでいずれは迷宮の力が尽きてしまう。

 そうなれば迷宮主だけでなく、迷宮眷属も倒れることになる。


「俺たちの目的が達成できるのなら些細な事だ」

「……っ!」


 微塵も揺るがない瞳。

 彼は本気だ。


「私も同意見です」


 オネットの方を見ると彼女も本気で賛同しているようで、迷いなど感じられない。

 その姿は、主と運命を共にする眷属そのもの。


「それを宣言する為だけにこんな場所まで来たのか?」

「別に手間ではなかったさ」


 テーブルから立ち上がる迷宮主。

 彼からは一瞬たりとも目を離していなかった。


「これで、分かったかな?」


 けれども、気付いた時には目の前から姿が消え、背後にある天幕の入口前へと移動していた。


「俺が迷宮主になって得たスキルの一つ【自在(フリー)】。一度でも行ったことのある場所なら自由自在に移動することが可能なスキルだ。この戦場へも足を運んだ事があって戦場として利用されない頃に来た事がある」


 戦時中でなければ天幕などなく、何の変哲もない平原が広がっている。

 ただ移動しているだけの人を不審に思うことはあっても、態々引き留めたりするような真似はしない。

 その状態なら『ここ』を歩くなど簡単だ。


「俺の伝えたかった事はただ一つ。避難民についてだ」

「人を襲っておいて気にするのか」

「勘違いしてもらっては困る。俺が壊したかったのはガルディス帝国そのものであって、そこに住む人々には一切恨みなんてない。俺の勝手な都合で彼らの命まで奪ってしまうのは忍びない」

「だから、生かしているのか」


 たしかに人々の事を思っているのかもしれない。

 ところが、人々から生活手段を奪っている。生活することができなければ結局は破滅を迎えるしかない。


「国境を越えてそちら側へ移動したのなら一切の危害を加えない事を約束しよう」

「そんな事をしてお前にどんな得がある?」

「強いて言うなら罪悪感が薄れるぐらいだな」


 本気で避難民へ同情している。

 だからこそ、自分から率先して助ける真似はしないが助かる手段ぐらいは用意しようと俺たち……リオへ接触した。


「まあ、最大の理由はお前たち二人の足止めだ」

「やっぱり、この事態をどうにかする手段は迷宮にあるんだな」


 同じ迷宮主である俺たちなら迷宮をどうにかすることができる。


「目的は達成されたと言ってもいい。だけど、今の状態を維持させるのがベストなんだ。だから、邪魔されるのは困るんだ。そっちが邪魔するなら、こっちも相応の対処をさせてもらうつもりだから考えて行動しろ」


 迷宮主とオネットの姿が消える。

 移動系のスキルを使用すればオネットも移動するのは簡単だ。

☆書籍情報☆

書籍化に合わせてタイトルを変更しました。

ダンジョンマスターの“マネーメイク”⇒ダンジョンマスターの“メイクマネー”


マネーメイクへ変更時に感想で色々と言われ、編集さんと相談したところ“メイクマネー”になりました。

実は4月1日から変更してありました。

エイプリルフールとはちょっと違うけど、これが“虚実”になります。

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