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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第6章 没落貴族
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第20話 家族の再会

 王都からある程度離れた場所で岩陰に隠れると迷宮魔法:転移を使用して馬車で10日掛かる距離を一瞬で移動して、アリスターの街の近くにある迷宮へと戻って来る。

 そこから全速力で走れば俺たちならすぐに街へと辿り着く。


 目的地は、俺たちの住んでいる屋敷。

 そこから裏手にある酒を専門に取り扱っている商店へと向かう。


 中に入ると夕食後の晩酌にと酒を買いに来た主婦とすれ違う。彼女も近くに住んでいる収入の安定した人で、シルビアと一緒に買い物に来た時などにはよくすれ違う。


「いらっしゃい」


 店の中に入ると1人の男性が出迎えてくれた。

 彼は、この店の店主で、初めて利用した時にお互いの名前を伝えており、その時には『ガエリオ』とだけ名乗っていた。


「今日は、何をお求めですか?」


 俺の隣にはシルビアとアイラだけがいる。

 まずは、3人で最低限のことだけを確認に来た。


「こんばんは、ガエリオさん。実は、今日は買い物に来たわけではないんです」


 料理に使う酒などで買い物に来ているシルビアの方がガエリオさんの印象はいいし、シルビアが屋敷に住むことになった日には近所や利用することになる商店へと挨拶に行っているので、礼儀正しい子だと認識されている。


「どのような用件で?」


 買い物客ではない、と分かってもガエリオさんは笑顔を崩さない。


「あらためて名前を聞きます。ガエリオ・ラグウェイさん?」

「……どこで、その名前を?」


 やはり、『ガエリオ・ラグウェイ』だったか。

 初めて会った時に名前を聞いたが、家名まで聞いていなかったからすぐには気付かなかった。


「私は、この街に来てから1度も家名を名乗っていないはず。その名前は過去に捨てた名前です。今は、平民のガエリオです」


 家名を名乗ったわけではなく、貴族でなくなったため平民として生きていこうと家名を名乗らなくなっただけか。

 ここまで聞けば十分だ。


「実は、ガエリオさんに会わせたい人物がいます?」

「会わせたい人?」


 俺たちが横に避け、店の入口が見えるようになると外から1人の少女が入って来る。

 その少女は、外から入ってくる夕陽を全身に浴びて、美しい銀髪がキラキラと輝いていた。


 最初は、少女が誰なのか分からなかったガエリオさんだったが、少女の顔を見ている内に幼い頃の面影と次第に重なり始め、ある人物の名前が自然と浮かび上がってきた。


「……メリッサ?」

「お久しぶりです、お父様」


 会っていなかった5年という時間は長い。

 特に子供の頃の5年は、少女を大人へと変えるには十分な時間だ。


「どうしました?」


 その時、店の不穏な空気を感じ取って奥からミッシェルさんが現れる。


「メリッサ!」


 ガエリオさんとは違って一目見た瞬間からメリッサだと見抜いたミッシェルさんが飛び付いて思わず抱き着く。


 抱き着いた方も抱き着かれた方も涙を流している。


「ごめんね……1人にさせて、おいて……」

「そんな、ことない……寂しかったけど、1人ではなかった」


 泣き続ける2人をガエリオさんが隣に立って慰める。


 ここは、家族が再会する場所だ。

 部外者の俺たちは、退散することにして店から出ようとすると、


「あれ、お兄様もう帰られていたんですね」

「お帰りなさい、お兄さん。それにお姉ちゃんたちも」


 学校帰りだと思われるクリスとばったり遭遇してしまった。


「ただいまクリス、リアーナちゃん。それから……」


 クリスの隣には2人の少女がおり、片方はシルビアの妹であるリアーナちゃんだが、もう1人の少女とは面識がなかった。


「初めまして、クリスちゃんのお兄様」


 銀髪の少女が頭を下げる。

 似た姿をした少女に見覚えがあるから、相手の素性はすぐに分かった。


「私はクリスちゃんの友達でメリルと言います」


 やっぱりメリッサの妹であるメリルちゃんだ。

 それにしても妹3人は、兄や姉が知らないところで友達になっていたのか。


「ええと、なんだかうちの店から人の泣く声が聞こえてくるんですけど……」


 再会する権利はメリルちゃんにもある。


「店に人が来ているんだ。メリルちゃんも知っている人物だから行ってくるといいよ」

「はぁ」


 メリルちゃんが店の中へと入って行くと、人の泣く声が1人分追加された。



 ☆ ☆ ☆



「なんというか……昨日はお恥ずかしいところを見せてしまいました」


 クリスとリアーナちゃんを屋敷に連れて帰り、念話でメリッサに確認してみたところ、まだ落ち着いていないということだったので翌日にガエリオさんの下を訪れていた。


「いえ、5年ぶりの家族の再会です。色々と積もる話もあるでしょう」


 店の奥にある自宅になっているリビングで話をしており、俺の両隣にはシルビアとアイラが座り、正面にガエリオさんとミッシェルさんが座っている。メリッサはその隣に座っており、膝の上にいるメリルちゃんが落ちないように押さえている。再会してからというもののベッタリらしい。


「それよりも君たちにはお礼を言いたい。君たちに出会ってからの数日間に起きた話は聞いた。私たちの領地に現れた盗賊団の正体や彼らの顛末についても聞いている。ただ、娘は自分がしたことは話してくれたが、なぜそのようなことができたのかは話してくれなかった」


 話していないのではなく、話せない。

 俺たちが迷宮と関わりがあることは秘密にしなくてはならない。俺の許可なしには話せないように命令されている。


 俺が許可を出せばメリッサも話せるようになる。


 ただ……。


「メリッサ、お前は話すべきだと思うか?」


 命令されているメリッサは、その意思を伝えることすらできていなかった。


「話すべきではありません。世の中には知らない方が良いことがたくさんあります。知らないことが身を守ることに繋がると考えます」


 その意見には、俺も賛成だ。

 俺は家族に伝えてしまったが、知らない方が面倒事に巻き込まれずに済む。

 メリッサがそう考えたのなら俺はその意思を尊重するだけだ。


「そうですか。娘が決めたことなら私は反対しません」


 ガエリオさんが引き下がる。

 俺もしつこく聞かれたりしなくて安心した。


「ところで、ガエリオさんはなぜアリスターに?」

「盗賊に襲われた日。メリッサだけを逃がした後で、妻にメリルを託して逃がし、私は領主として投降するつもりでいました。ですが、私が領主だと判明すると盗賊たちは交渉をすることもなく私を斬りました。それでも運が良かったのか死ぬようなことにはならず、一命を取り止めることができた私は町の外に捨て置かれました。その後、私のことが心配で近くに隠れていた妻に助けられました」


 盗賊たちの本当の目的は、領主に別の人間を据え置くことだったから下手に生きているよりも死んでいた方がやり易かったのだろう。


「それからは、逃げるように領地を離れました。殺されたはずの私が生きているだけでも問題ですから王都の方へは逃げずに辺境であるアリスターへと逃げてきたわけです」


 それから、身分を隠しながらも領主をやっていた時の伝手を頼って知り合いの商人から店を任せられることになったおかげで生活することができた。その店が、この酒屋らしい。


「私も生活が安定し、お金が貯まれば逃げ延びた娘を探す為の依頼を出すつもりでいました。まさか、娘の方が商売上手で私以上のお金を稼いでいたとは思いもしませんでしたけどね」


 ガエリオさんが苦笑する。

 幼い頃のメリッサは本を読むのが好きな普通の少女で、魔法も少し使える程度で町を買えるような金額を出してくれるパトロンを見つけてくる行動力のある少女でもなかったらしい。


 それもこれも全ては故郷を飛び出してからの5年間で身に付けた能力だ。


「ガエリオさんは、これからどうするんですか?」

「娘に聞いた話によれば既に盗賊たちもいないようですし、まずは王都へ行って娘を育ててくれたテックさんにお礼を言いに行きたいと思います」

「その時は、報酬などいらないので俺たちに依頼してください」

「いいのですか?」

「それが、彼女の望みでしょうから」


 主として付き従ってくれている眷属の望みは叶えてあげたい。

 それが王都までの護衛程度でいいなら簡単な依頼だ。


「ありがとう。君にはいくらお礼を言っても足りないぐらいだ。娘は連れてきてくれたし、娘の願いも叶えてくれた」


 俺は特別なことはなにもしていないと感じていた。

 ガエリオさんたちの現在位置を特定することだって振り子(ペンデュラム・ダウジング)を渡さなくても数日ギルドで待っていれば手に入れることができた情報だ。

 それに盗賊団だって護衛をしていた俺たちを襲ってきたからアジトにいた連中も含めて壊滅させたに過ぎない。


「ただ、そんな相手にこんなことをお願いするのは恐縮なんだが……」

「なんですか?」

「メリッサをしばらくそちらの屋敷で預かってもらえないだろうか」


 ……え?

 せっかく再会した家族と一緒に暮らさずに俺たちの住んでいる屋敷へ?


「理由を聞いてもいいですか?」


 それにはメリッサ本人が答えた。


「私は既に独り立ちしています。再会できただけで十分です。それに屋敷からここまで歩いて5分も掛からない距離です。ですから、私も屋敷に住まわせて下さい」

「父親である私がこんなことを言うのも恥ずかしい話ですが、この家に住んでしまうと娘は忙しく働いている私たちの姿を見て手伝ってしまうでしょう。ですが、才能のある者がこのような酒屋で時間を浪費してしまうのは忍びない。だから、娘には離れた場所で生活してほしいのです」


 たしか部屋はまだいくつか余っていたはずだし、新しい住人が増えても問題はないはずだった。

 こういうことにはメイドであるシルビアの方が詳しいので、彼女の方を見ると頷いてくれた。


「部屋は余っているので構いませんよ」

「ありがとうございます」


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