第23話 弾丸の価値-中-
ゴーレム生産施設。
そこは戦闘を行うゴーレムを生産するばかりではない。ゴーレムが使用する為の武器も生産している。
ミキサーに使われた刃も生産されている。
『遺跡』では特殊な武器を備えていたゴーレムが多様にいた。
それらの武器を生産して装備させることができればゴーレムは今よりもずっと強力になる。
けれども、強力な武器よりも優先して生産させた物がある。
「それが弾丸だ」
生産施設の机の上に弾丸を置く。
数十発という数の弾丸が転がっているが、
「あの『遺跡』で最も使われていた武器は?」
「それは--」
同行したアイラが自分たちの戦った相手を思い浮かべる。
棒、ミサイル、弾丸、剣、疑似魔法……
「いや、考えるまでもないだろ」
あの時の戦いだけでも使用された弾丸は少なくとも数百発はある。
戦いにおける使い方によって弾丸は消費量が最も激しい。
「1階にいた猟犬なんて何体もいたのに全員が無尽蔵かって思えるぐらい撃ち続けていただろ」
当時の状態を取り戻すつもりなら銃弾の補充は不可欠だった。
テストで作ってみた対人用の弾丸。弾丸そのものは柔らかい素材で造り、衝突と同時に衝撃を発生させるよう工夫していた。
ただし、工夫を加えるせいで手間が掛かる。
特殊弾の製作に成功したものの造れる数には限りがある。
「だから銃弾の生産を急がせていたんだけど……」
街を歩いていたところ思わぬ出会いがあった。
「でも、そんなに儲かったの?」
「分かっていないな。定価で売ったけど、それでも弾丸は単体で高いんだ」
高価な弾丸。
それに引き換え弾丸を1発造る為に要した費用は限られている。弾丸作製に必要となる鉛や銅などの金属は迷宮の鉱山フィールドから得られる。
そして、弾丸への加工は全て生産施設がやってくれる。
経費はほとんど必要としていなかった。
高値で取引される商品を安値で手に入れて売る。
商売において最も確実に稼ぐ手段だ。
「問題があるとすれば銃を扱う人が少ないことなんだよな」
高値の弾丸。
銃を扱う為に高い技量を求めており、整備にも他の武器以上に繊細さが求められている。
急所へ一発が当たればステータスの低い者でも十分な威力を発揮することができる。しかし、その為に金と技量を必要としている。
そういった経緯から普及されていなかった。
「ですが、昔は銃を扱っている人は相当数いたようですよ」
「本当か!」
「はい。ですが、昔と言っても古代文明時代の話ですけど」
端末を調べているメリッサが教えてくれる。
今よりも平和だった時代。
魔物を討伐する為に必要なレベルは上がり難く、人々は強くなることに苦慮していた。
「その点、銃はいいですね。力のない者でも魔物を倒せるだけの力を与えてくれます」
イリスの足元に【道具箱】が現れる。
勝手に開いた蓋の中に入っていたのは10センチ程度の長さしかない銃――ハンドガン。
引き金に手を掛けた状態でメリッサが真っ黒なハンドガンを俺へ向ける。
「ですが、同時に弱点も抱えています」
引き金が引かれ銃口から銃弾が発射される。
至近距離からの射撃。咄嗟に右手の手刀で切り払うと後ろの地面に両断された銃弾が転がる。
「おい、危ないだろ」
「平気だったではないですか」
「それは結果論だろ……」
「結果論? いいえ、今のは必然です」
無事だと確信していたメリッサ。
銃は強力だが、真っ直ぐにしか飛ばすことができず、一般人からすれば捉えることができないほどの速さだが俺はしっかりと捉えることができていた。
目の前で発射された弾丸。自分へ真っ直ぐに飛んでくる光景が見えていたこともあって手刀を正確に叩き込むことができた。
「私でも捉えることができます。このようなレベルになると銃は武器に成りえないのですよ」
特殊弾によって様々な効果を生み出すことも考えられるが、それでも劇的な効果を生み出すには至らない。
「でも、あたしは憧れるけどね」
もう一丁のハンドガンを手にして目を輝かせながら眺める。
「なんというか、発射した時の『バン!』っていう音が爽快なのよね。高くないなら、あたしの遠距離用武器として予備に欲しいぐらいよ」
「欲しければあげる」
「いいの!」
イリスから許可を貰ったことで子供のように喜ぶアイラ。
弓をあげていたはずなんだけど、両手を必要としている弓は予備として持つには相応しくない。ハンドガンなら片手でも扱えるからちょうどよかったんだろう。
試しに、と言わんばかりに壁へと銃を向ける。
「待て待て……!」
壁は頑丈にできている。銃弾が当たった程度ではかすり傷をつけるのが精いっぱいだ。それでも、せっかく造った施設が破壊されるのは忍びない。【土魔法】で床から円形の的を造る。
バンバンバンバンバンバン――!
アイラの持つ銃から弾丸が発射される。
「おい……」
「いやぁ、ごめん」
目の前にあるのは無傷な的。
それから銃弾が当たったことでかすり傷のついた壁。
「銃ってけっこう難しいのね」
アイラの撃った弾丸は1発として的に当たらなかった。
「弓なら、この程度の距離は当てられるんだけどね」
「お前だって最初から弓を扱えた訳じゃないだろ」
父親から弓の扱い方を教わることで当てられるようになった。それまでは弓を手にしたとしても的へ当てることができなかったはずだ。
銃だって同じ。練習をしなければ当てられるようにならない。
「銃弾ちょうだい」
練習に銃弾を貸すのは構わない。
ただし、ここで練習されるのは困る。
「せめて最初の内は屋外で外しても人の迷惑にならない場所でやってくれ」
「そんな場所ある?」
「ここは迷宮だぞ。それぐらいの場所はいくらでもあるぞ」
アイラと共に地下81階の廃都市へと転移する。
廃都市の外は荒野になっており、魔物がいるだけで何もない場所であるため的を外れたとしても誰かに迷惑が掛かることもない。
「ここなら問題ないぞ」
「ありがとう」
アイラの傍に銃弾の詰まった箱と予備のハンドガンを置いていく。
「練習に夢中になるのはいいけど、ほどほどにして帰って来いよ」
「子供じゃないんだから、それぐらい分かっているわよ」
☆ ☆ ☆
弾丸の生産状況。
ゴーレムへの装備を考えていると夕方になっていた。
「ただいま」
「……おかぇり」
屋敷へ帰ると眠たい目を擦りながらシエラが迎えてくれる。
他の子たちと眠っていたようで俺が帰って来たことに気付くと起きだした。
「おかさんは……?」
キョロキョロと周囲を見てアイラを探すシエラ。
そういえば、あれから数時間が経過しているのにアイラの姿を全く見かけない。
「あいつ、まさか……!」
急いでアイラの反応を追う。
「やっぱり……!」
まだアイラの反応が地下81階の荒野にあることを探知。
急いで転移すると穴だらけになった的を前にして銃を構えるアイラの姿があった。
「まさか、あれからずっと練習していたのか」
「どうよ! ようやく当たるようになったわよ」
俺が転移してきたことに気付いたアイラが振り返りながら言う。
「うわ、いったい何発の弾丸を撃ったんだよ」
地面に転がる薬莢は少なく見積もっても数百発。
俺は、こんなに置いていった覚えはないし、ゴーレム用に作成した弾丸もここまでの数はなかったはずだ。
「予備の弾丸が尽きた後はあたしが自由に使っていい迷宮の魔力で作成させてもらったわ」
「そこまで入れ込むか」
アイラの熱中ぶりには呆れるしかなかった。
限られた数の弾丸だけを与えれば自然と止めるだろうと思っていたのだが、熱中し過ぎてしまっていた。
「そろそろ帰るぞ」
「え、もう……?」
「的がもうボロボロだろ。それにシエラだって屋敷で待っているんだ」
子供じゃない、と言っていたアイラ。
自分の娘が帰りを待っているのだから、ほどほどのところで止めてもらう必要がある。




