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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第6章 没落貴族
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第19話 買い戻し

 ペンダントも回収してしまうと、改めて周囲に転がっている死体を見る。

 誰もがペッシュ王子と同じようにミイラのようになっていた。


 彼らは死体が長時間放置されたことによって腐ってしまったミイラとは違う。

 砦の上空に発生した太陽の乱気流は、物体を焼くような能力はないが、強烈な熱を生み出し、気流を発生させて熱を周囲へと流す。だが、砦は俺の迷宮操作によって熱の逃げ場まで封じられた。


 結果、砦の中は蒸し窯のような超高温となり、中にいた人々は体内の水分をあっという間に失い、片腕を失うだけで済んでいたペッシュ王子も干乾びたミイラへとなってしまった。


 正直言って、この状態では装備品がなければ死体を見てもペッシュ王子だと判断するのは難しい。


 彼らには謎の死を遂げてもらう必要があった。


「俺たちが討伐に来た時にはほとんどの盗賊が不審死を遂げており、俺たちは最後に十数人の盗賊を討伐したってところだな」


 さすがに4人で200人以上の盗賊を討伐するのは不審に思われる。


 そこで、不審を上塗りする為にさらに大きな不審で覆い隠してしまう。

 今後、何らかの調査が行われることがあったとしても奇病のような物に殺された死体を不審がるばかりで蒸発した肌の下にある切り傷には気付かないだろう。



 ☆ ☆ ☆



 その日の内に王都へ戻ってきた俺たちは、その足で冒険者ギルドへと赴いていた。


「今、なんと……?」


 俺の言った言葉が信じられずに受付嬢のリリアナさんが再度聞き返していた。


「ですから、ここから南東の場所にある盗賊団を壊滅させてきました」


 はっきりと告げるのだが、リリアナさんは未だに信じられないようだった。


「あの場所を根城にしている盗賊団には冒険者の皆さんも困らされていたので、大規模な討伐隊が王都から派遣されたことがありました。ですが、何度討伐隊を派遣しても情報が漏れてしまっているのか討伐隊が辿り着いたアジトは空になっていました」


 おそらくペッシュ王子の仕業だろう。

 王族という立場を利用すれば本人が王都にいなくても情報を手に入れる手段はいくらでもある。


「それを、たった4人の冒険者が討伐しただなんて……」


 正確にはメリッサは冒険者ではないのだが、訂正するような真似はしない。

 だが、4人で全員を討伐したという点だけは訂正しなくてはならない。


「それが、俺たちが砦に行った時には既に多くの盗賊が奇病かなにかで倒れた後でした。生きていた何人かは相手にすることになりましたけど、弱った相手だったので簡単に倒すことができました」


 そういうことにしておく。


「分かりました。ただ、皆さんは討伐依頼を受けていたわけでもなければ盗賊たちには懸賞金が懸けられていたわけでもないので報酬は出ませんよ」


 懸賞金はペッシュ王子が手を回しておいたおかげで懸けられていない。

 もしも多額の賞金を懸けられるようなことになれば俺たちほどではないにしろ力のある冒険者が討伐にやって来ていたはずだ。結局、その苦労も報われずに俺たちに討伐されてしまっているが。


「ええ、報酬が出ないことは気にしなくても大丈夫です」


 全く問題ない。

 盗賊団から奪った財宝がそのまま残されているため報奨金のような些細な金額に拘る必要はない。


 ただし、毟り取れるところがあるなら毟り取る。


「盗賊団が貯め込んでいた財宝は俺たちが全て回収しました。中には家紋の彫られた短剣とか持ち主の分かりそうな物がありましたよ」

「そうですか、もしかしたら元の持ち主が買い戻しにやって来るかもしれませんので、数日はこちらに滞在していただくことになるでしょう」

「いいですよ」


 その日はギルドの近くにある宿屋で1泊した。ちなみに部屋は男子部屋と女子部屋で2部屋取った。シルビアと一緒に泊まった時のように1部屋で一緒に寝るような真似はしない。


 明けて、翌日。

 俺たちはギルドの2階にある応接室を1つ使わせてもらっていた。


 朝から仲間内だけで待っていると、昼前になった時間になってようやく来客が訪れた。


「失礼します、ご主人様。お客様がいらっしゃいました」

「通してくれ」

「はい」


 応接室の入口で待機していたシルビアが応接室へと近付いてくる相手を迎える為に外へと出て行く。ちなみにシルビアの今の服装は冒険者用の服装ではなく、家で家事をする時に着ているメイド服だ。来客を出迎えに行ったシルビアはどこからどう見てもメイドなはずだ。


 シルビアが戻って来る。

 その後に続いてスーツを着た男性が3人の護衛を伴って応接室に入って来る。


 ソファに座っていた俺とメリッサが立ち上がり、男性を笑顔で迎える。


「初めまして冒険者のマルスです」

「メリッサと申します」

「ほう、粗暴な冒険者にしては礼儀正しい者がいたではないか」


 男性が俺たちの対面にあるソファに座る。

 護衛の3人はソファの後ろに立つ。


 俺たちもソファに座る。後ろにはアイラが護衛として立ち、男性に紅茶を出したシルビアが入口近くに立つ。

 全員の役割を考えた結果、こういう立ち位置になってしまった。


「それで、盗賊を討伐した我々の下へ来たということは盗賊団に盗まれた財宝の買戻しが目的ですか?」

「何を言う! あれは、元々当家の家宝だ」

「だが、奪われてしまった。この国の法律では、盗賊を討伐した者に財宝の所有権が与えられる。だから元々があなたの物だったとしても私の所有物となる、と国の法律できちんと決められているはずです」

「……いくら積んでほしい」


 男性は先祖代々続いてきた貴族だ。

 そんな人物が国に定められた法律に反したとなれば問題になる。

 だが、それでも家宝は取り戻したい。

 だから、男性は金で取り戻すことを決意した。


 もちろん国の目など気にする必要のない交渉の場なのだからふっかけさせてもらうことにする。


「盗まれた家宝はどのような物ですか?」

「白鳥を象った家紋が施された金色の短剣だ。あれは、先祖代々受け継いできた宝で、当主であることを示す財宝の1つだ。盗賊に襲われた際に慌てていたせいで落としてしまったが、取り戻すチャンスがあるのなら取り戻したい」


 男性の事情は分かった。


「あったか?」

「ありました」


 シルビアが目録を見て確かめる。

 交渉がスムーズに行くよう昨日の内に目録は作っておいた。


 盗賊から回収した財宝があることを確認したシルビアがソファの後ろに置かれた箱の前に屈んで中の物をゴソゴソと漁る。もちろん中身の入っていない普通の箱だ。箱を漁る振りをして収納リングから目当ての短剣を取り出す。


「こちらでしょうか?」

「おお、これだ……!」


 男性が手を伸ばすが、シルビアがスッと手を引いて短剣を俺とメリッサの前に置く。


「どういうつもりだ!?」

「本物があることが分かったところで交渉と行かせていただきたいと思います」


 俺の役割は挨拶と実力のある冒険者だと分からせること。

 冒険者と言えば男の方が強い職業だと未だに考えられており、女性陣の誰かが代表して話をするよりも相手を威圧することができる、ということでリーダーでもある俺が代表者になっていた。


 隣に座るメリッサの役割は相手との交渉。

 入口近くに立つシルビアは訪問者の対応。

 後ろに立つアイラは剣士として護衛。


 それぞれ役割が決まっている。


 問題は、交渉時において目利きのできる者がパーティ内にいないことだった。メリッサもある程度の知識は持っているが、財宝の詳しい価値までは割り出せなかった。


 だが、俺たちにはもう1人頼りになるメンバーがいる。


『見てみなよ、この短剣。明らかに観賞用の短剣だけど、使われている金は本物だよ。それに彫られている家紋も精巧だ。これを造るには相当な実力を持った職人でないと無理だね。それらを加味すれば金貨100枚はするんじゃないかな』


 迷宮において様々な財宝を目にしてきた迷宮核(ダンジョンコア)が適正価格を割り出す。


『というわけで金貨150枚から行ってみようか』


 それを基にメリッサが交渉する。



 ☆ ☆ ☆



「いや、凄い儲かったな」


 2日間、買い戻し客を相手に交渉を続けた結果、俺の目の前には金貨1500枚がいくつもの袋に分けて詰められていた。


 買い戻し金額を提示された人々は、高額な金額に今にも怒り出しそうだった。

 中には連れてきた護衛に俺たちを襲わせて財宝を奪おうと画策した者もいたが、例外なく全員がアイラによって気絶させられた。当然、奪おうと画策した彼らには謝礼金も含めてさらに金額を吊り上げさせてもらった。


 道具箱の中には、まだ持ち主の分かりそうな財宝が残っているが、これ以上荒稼ぎする必要はない。


「さて、依頼も盗賊退治も終わったことだし、アリスターに帰ろうか」

「そうですね」

「けど、王都の観光は今度来た時にすることになるわね。今は、それよりもメリッサを両親のところへ案内したいしね」

「みなさん……」


 振り子(ダウジング・ペンデュラム)を使ってメリッサを両親の下まで案内することは既に決まっていた。


 寄り道をすることになるが、護衛対象が商人ということもあって途中の村や町で泊まることを前提に日程を考えていたため、当初の予定よりも早く王都に到着することができた。

 多少の寄り道なら大丈夫だろう。


 その時、コンコンとドアがノックされる。


「少々お時間よろしいでしょうか」


 入って来たのは王都にある冒険者ギルドで俺たちの担当になってくれたリリアナさんだ。

 リリアナさんは少し慌てた様子で1枚の紙を持っていた。


「どうしました?」

「実は、今朝メリッサさんの両親に関する情報が手に入ったのですが、来客中だったため連絡が遅れてしまいました」

「ごめんなさい。そういえば依頼を出していましたね」


 俺と同じようにギルドで捜索依頼を出していたメリッサだったが、既に家族の居場所は判明しているので捜索依頼の必要はなくなっていた。ただ、色々と忙しかったせいで後回しにされていた。


 でも振り子(ダウジング・ペンデュラム)を使わせてあげたおかげで家族の居場所はほとんど判明しているような状態なんだよな。


「私の家族がいる場所は、ある魔法道具のおかげで分かっているので依頼は取り下げておいてください」

「これから行かれるのですか?」

「はい」

「そうですか。アリスターという辺境の街に行っても元気に過ごして下さい」


 ……え?


「あの……その手に持っているのは、情報を集める為に描いた似顔絵ですか?」

「そうですよ」


 リリアナさんから似顔絵を見せてもらう。


 うわ……。


「あれ、この人って……」

「ガエリオさんですよね」


 アイラとシルビアも気付いたらしい。


「メリッサ。お前の家族の名前を聞いてもいいか?」

「はい。父がガエリオ、母がミッシェル。妹の名前がメリルです」


 妹については、面識がないがガエリオさんとミッシェルさんなら知っている。


「わたしはメリルちゃんも知っています」

「あたしはガエリオさんの名前は知らなかったけど、顔だけは知っていたわ」

「……?」


 メリッサが首を傾げている。


 俺たちの反応は、まるでガエリオさん一家と面識があるようなものだ。

 実際、ガエリオさんたちとの面識はある。


 どうして、家族を探している話を聞いた時に名前を聞かなかったんだ。


「ガエリオさんたちだけど、俺たちが住んでいる屋敷のすぐ近くにいるぞ」

「……え?」


 どうにか絞り出した声。

 とにかく目的地はアリスターだけとなった。


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