第4話 手に入れた遺跡-後-
迷宮内にある遺跡フィールド。
以前の迷宮主も俺たちと同じように冒険者として活動しながら世情を観察し、需要の情報を集めていた。その傍らで財宝を集めることによって迷宮の拡張と維持に努めていた。
彼らも遺跡調査の依頼を冒険者ギルドから斡旋されたことがあった。
その影響もあって迷宮内には遺跡を模倣したフィールドがある。
やはり、手に入れた遺跡そのものを置くならここだろう。
「準備の方はどうだ?」
「あ、ご主人様」
普段からは考えられないが、俺の接近に気付いたシルビアが顔を上げる。彼女の感知能力なら近付いただけで俺に気付く。それだけ今の作業に疲れていた、ということだろう。
「やっぱり、俺もこっちを手伝った方がいいんじゃないか?」
「いいえ、これはわたしたちがやりたいとお願いしたことですから」
「けど、地下69階の階層全部を掃除するのは大変じゃないか?」
シルビアが行っているのは改装された地下69階の清掃。
何百年も放置されていたに等しい状態だったため汚い状態を放置することができないシルビアが率先して綺麗にしていた。
「でも、これが供養になるから作業はさせて」
別の場所から声を掛けられて振り向く。
同じように清掃作業をしているのがノエルだ。元々、ノエルが階層をこのような状態に改装することを提案し、シルビアが手伝っていた。
「迷宮にとってもメリットのある事だから受け入れたんだ。だから、気にする必要なんかないんだぞ」
「大丈夫でしょ。手が空いた時は、あたしたちだって手伝うんだから」
「本当なら全員が屋敷を離れるのはよくないんだけど、ね……」
アイラとイリスも手さえ空けば清掃を手伝っている。
それにメリッサも遺跡に詰めているため屋敷にいる子供たちは母たちに任せている。
「それで、メリッサの作業状況は?」
「一応根を詰めすぎないよう見ていますけど、わたしたちにあの作業が理解できると思いますか?」
「いや、馬鹿にしている訳じゃないんだ」
ジト目で見てくるシルビアに釈明しながら階層を中心部分へ向かって進む。
ゴーレムの生産工場だった第一階層と同様にいくつもの長い通路が交差して迷路状になっている地下69階。だが、中心部分だけは空洞になっているものの周囲を迷宮の壁で覆われて誰も入れないようになっている。もちろん迷宮の関係者である俺たちだけは自由に出入りができるようになっている。
その中心部分は規模こそ小さくなっているものの第二階層で見たゴーレムの生産施設だった。
さすがに老朽化していて動く気配のない施設。
そんな中でメリッサが端末を相手に睨み合っていた。
「どんな調子だ?」
「難しいですね。動力については迷宮の魔力をそのまま利用すれば問題ありませんが、設備そのものが老朽化しているせいで使い物になりません。修理する必要がありますが、まずは修理に必要な部品や道具から造らなければならない状況です。どうにも鉄を打って造った物とは思えません。古代文明時代の人たちは、どうやってこれほどの設備を用意したのか気になるぐらいです」
「つまり、ゴーレムを生み出す為に必要なゴーレムから用意しないといけない状況という訳か」
「幸いにしてデータがあります。修復は不可能ではないと思いますが、数年は必要になります」
メリッサが取り掛かっているのは朽ちた遺跡設備の修復作業。
今いる場所は、以前に訪れた遺跡の第一階層と第二階層、それから第四階層をそのまま持ってきた場所だった。
『まさか遺跡をそのまま持って来るとは思わなかったよ』
感心したように呟く迷宮核。
「遺跡なりに『遺跡』という存在について考察したデータがありましたからね」
誰にも気付かれることなく二つの世界を行き来していた遺跡のゴーレム。
近くにある町で世界情勢について情報を収集していたが、並行して自然環境からも情報を集めていた。
中でも着目したのが夜空。星の位置などから現在位置を割り出したところ、二つの世界の位置はそれほど違いがないことが分かった。
『けれど、あの場所にそんな施設があった記録はない』
可能な限り遡って調べてみたが、あの地域一帯に大規模な研究施設が遺されていた形跡は少なくとも数百年間はなかった。
同じ場所であって異なる場所。
それが遺跡、そして迷宮核の出した結論だった。
『あの世界と繋がってしまったのは本当に偶然だったみたいだね』
二つの世界と場所が繋がった理由は分からない。
だから、境界が閉じてしまった現状では二度と足を踏み入れることができない。
『だけど、一度起きた偶然なら必然に変えることは可能だよ』
……はずだったのだが、迷宮核とメリッサがやらかしてしまった。
『【空間魔法】を用いて迷宮内に蓄積している魔力へ干渉。人為的に次元の歪を生み出すことで別世界への接続が可能になる』
メリッサによれば要領は【天繋】とそれほど変わらないらしい。
そうして、一度は訪れたことのある世界であるためイメージがし易かったおかげで二つの世界を一時的に繋げることができた。
『繋げただけじゃなくて施設をこっちに持って来ちゃうなんて』
さらに【空間魔法】と迷宮について研究を進めている内に条件さえ整っていれば迷宮へと転移させることが可能になったらしい。
「『遺跡』限定の方法です。以前に別世界と繋がってしまうほど不安定な空間だったからこそ空間ごと融合させることができました。それに、融合先が迷宮だったからこそ出来た芸当です。本来、このような事をすれば空間の侵食は、遺跡だけでは留まらずに世界全体へと広がる可能性もありました」
そうならなかったのは階層で世界が断たれているからだ。おかげで地下69階の遺跡とゴーレム生産工場の融合という結果に留まった。
「どうにか施設を復旧させることはできないか?」
「……ゴーレムの生産設備の一部を復旧させるぐらいならできるかもしれません。ですが、命の水関連の設備は絶望的です。おそらく遺跡が遺したくないと思って完全に破棄したのでしょう。今ある分だけで生産するのは不可能だと思います」
「それで構わない」
俺たちが去ってから数百年は経っていると思われる遺跡。
それでも朽ちることなく命の水は元の状態を保っていた。問題は増産する術を知っている者がいなくなってしまったことによって増やす手段がなくなってしまったことだ。
「命の水に関してはコツコツ増やしていくしかない。少量ながらアンデッドの死体と迷宮の魔力を地中深くで圧縮させれば生成できることは分かったんだ」
「……漬物ですか?」
「いえ、どちらかと言えば蒸留に近いかもしれません」
生成方法を聞いて散々な言い方をするシルビアとメリッサ。
今後の方針としては、残された命の水を使ってディアント鋼を少しずつ生成。それを餌に冒険者を呼び寄せる。
「今は冒険者たちの多くが草原フィールドに駆り出されて鉱山フィールドにいるのは付き合いのある鍛冶師から直接頼まれて鉱石の採取に訪れた冒険者ばかりだ。数が少ない間に見落としがあったとしても不思議じゃない」
構造変化によって新しい金属が増やされる処理が色々としやすくなる。
それからタイミングも打って付けだ。今は多くの貴族もアリスターを訪れてくれている。確実に注目を集めるだろう金属に食い付く貴族は多く、迷宮でも活動ができる冒険者に依頼を出す。
「後は可能な範囲でゴーレムの生産ができるようになってくれ」
「それは問題ありませんが、ゴーレムの生産は迷宮でもできるはずですよ」
「けど、それは迷宮の魔力を消費しているだろ」
金属を用意し、変形させることで生み出されるゴーレム。
最初に修理の為に投資は必要となるだろうが、いずれは工場で生産して上の階層で活動させた方が安上がりになる。
「再利用するなら朽ちたゴーレムを利用する手もありますが」
「それはノエルが嫌がるだろ」
通路には朽ちたゴーレムがそのままにされていた。
それらは、全てノエルの手によって埋葬して処理されていた。
「あの子たちはゴーレムだったけど、人間の傲慢で命の水を使って新しく命を生み出されていたの。動力として利用していただけで生きていなかったのかもしれないけど、わたしには死んだゴーレムたちをそのままになんてしておけなかった」
ノエルは、死んだようにも見えるゴーレムを埋葬することに決めた。
「ここがゴーレムたちの墓場か」
「遺跡としては正しい役割なのかもしれませんね」
この世界にも墓として利用されていたと思われる遺跡が遺されている。
そういう意味で正しい遺跡となったのかもしれない。
第35章のリザルド
・命の水(在庫分のみ)
・ゴーレム生産施設
・朽ちたゴーレム(埋葬済み)




