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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第36章 防衛構築
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第3話 手に入れた遺跡-前-

 迷宮地下25階。

 鉱山フィールドの最奥を訪れると穴掘りに勤しんでいた。

 穴掘りと言ってもスコップを使って手で掘っている訳ではない。【土魔法:落とし穴】で掘削し、下へ掘り進めている。


「どんな感じ?」


 上からアイラの声が聞こえる。

 気付いたらけっこうな深さになっていたようだ。


「げっ、随分と掘ったな」


 直径5メートルの穴。

 見上げれば50メートルは上に穴の入口が見えた。


「この辺か?」

「ちょっと掘り過ぎ。もう2メートルは上へ移動して」

「了解」


 アイラと同じように上で待機しているイリスの指示に従って掘った土を穴へ戻して底の高さを調節する。

 ちょうど直前に俺が立っていた頭の上ぐらいの高さに到達したところで魔法を止める。


「この辺で問題ない」

「え、おい……」


 50メートル近く上からイリスが飛び降りてきたのでキャッチして受け止める。

 両腕に感じる衝撃を堪える。


「あんまり危ないことをするなよ」

「これでも信頼していたから下りた。それに、ちゃんと受け止めてくれた」


 イリスの力なら難なく着地するのも難しくない。

 だからと言って怪我をするかもしれない状況を見過ごすことはできない。


「あたしもそっちへ行った方がいい?」

「掘り出すだけだから二人もいれば問題ない」


 穴の底から【土魔法:鉱物探知】を使用する。地中や壁の中に埋まっている鉱物の位置を特定することができる魔法。

 目的の鉱物を見つけると傷付けないよう慎重に手で掘っていく。

 最初から正確な位置が分かった状態で穴を掘っていたため少し掘るだけで目的の物を見つけられた。


「どうやら成功したみたいだな」


 銀色に輝く鉱物を手にして確信する。


「あった?」


 上からアイラの暢気な声が聞こえてくる。

 下の様子から目的の物を見つけたことをなんとなく察したようだ。


「すぐに戻る!」


 声を掛けてくるのは一人で待っていることが退屈になってきたからだろう。

 銀色の鉱物を手に持ち、もう片方の手でイリスを抱えて浮かび上がると穴から脱出する。


「誰にも見られていないか?」

「うん、近くには誰もいないわ」


 穴を掘った場所は、坑道の長い道の中央。

 何もない坑道、人が隠れられる場所など大きな岩ぐらいしかないためこっそりと俺たちの作業を見られる心配のない場所。何よりも迷宮を利用する冒険者に出回っている情報では、価値のある鉱石が採れないと知られている場所を選んだ。

 まあ、迷宮主である俺がそのように設定したから当然と言えば当然だ。


「おお、見た目はあたしたちの知る物と同じじゃない?」

「試してみるまでは分からないぞ」


 採掘してきた鉱石を放り投げる。

 手から離れた鉱石に向かって【風刃】を叩き付ける。さらに風を受けて吹き飛ばされた鉱石へイリスが氷柱を当てて冷気を纏わせる。


 地面に転がる鉱石。

 遠目には特に変わりがないように見える。


「成功でいいんじゃない」


 変わりがないからこそアイラが言うように成功だった。


「もっと詳しく調べてみないと断定はできないけど、どうやら『ディアント鋼』の生成には成功したみたいだ」


 ディアント鋼。

 遺跡の壁や床、最奥にいた主の体に使用されていた特殊な金属。その金属には、魔法の威力を減退させる力があり、異様なまでの耐久力を誇る。

 特殊な金属と言えばミスリルがある。魔法銀とも呼ばれる金属で、魔法との親和性が高いことから魔力を流すことによって武器としての力を高め、外からの魔法に対して強い抵抗力を保有している。しかし、その反面に魔力を流していない時の物理攻撃に対しては脆いところがあるため扱いに注意が必要な金属だ。


 ミスリルと同様の効果を保有しているディアント鋼だが、ミスリルと違って魔力を流していない時でも高い物理耐性を有している。おまけに魔法への抵抗力も強いとなっている。

 まあ、メリットばかりではなくデメリットもある。魔法への抵抗力が強過ぎるせいで味方からの強化魔法に対しても強い抵抗力を発揮してしまう。内部の動力源としか魔力を使用していなかったゴーレムなら問題なかったのだが、武器の素材として利用するには不向きな金属だ。


「有効利用するなら防具としてだろうな」


 籠手にでもディアント鋼を混ぜておく。そうして飛んできた魔法に対して籠手を装備した腕を掲げることで飛んできた魔法を弾く。

 盾や鎧に利用できないのは生産量の問題があるからだ。


「でも、これっぽっちしか生成できなかったの?」

「仕方ないだろ。生成方法が特殊なんだよ」

『僕も存在を知らなかった金属だからね』


 古代文明時代を生きていた迷宮核も知らなかった金属。

 遺跡の主となった男が『命の水』を研究する傍らで偶然にも生成に成功した金属だったからだ。


『ディアント鋼に使われているのは生命力そのものだよ』


 新たに命を生み出すことができるほどの力を有している命の水。

 魔石の研究も肝心だったが、それと同じくらいに新しい肉体の開発にも注力しなければならなかった。


「で、これが持ち帰った命の水の成果っていうわけ」


 あまりに危険な代物である命の水。

 脱出時には、ラチェットさんもいたため俺たちがそのような代物を持っているとは知られたくなかったため放置して脱出を優先した。


 けれども、回収することができたためディアント鋼生成の為に利用させてもらった。


「俺たちには命の水をディアント鋼にするような生産施設はない」


 生成方法のデータはもらっているものの施設が不完全である上、遺跡が想定していなかったためもらったデータには施設を復旧させる方法はなかった。

 だから、全く別の方法で用意する必要があった。


『足りないのは、命の水をそのまま用いても不足している生命力。溢れる生命力を凝縮させて鉱石に変えられるだけの技術。どちらも迷宮主らしい方法で解決したものだよ』


 迷宮には膨大な生命力が溢れている。大量の魔物、これまで迷宮へ挑んで敗れていった者たちの魂、周囲の土地からも集めた魔力。

 さらに施設はないが、天然の土壌は存在している。


『アンデッドの死体を埋めた鉱山の地中で命の水が滴る状況を作り出す。地中深くでのみ得られる圧力とアンデッドの持つ生命力によってディアント鋼にまで作り変えてしまう』


 どうにか迷宮でもディアント鋼の生成が可能なことが分かった。

 次に解決するべき問題は、命の水の残量に関する問題だ。


「今回採取することができたのは掌に乗る程度の大きさしかない。けど、命の水はその10倍の量は使用しているんだ」


 これでは効率が悪すぎる。


「当面は『他では絶対に手に入らない金属』を売り文句に冒険者を集めるつもりだから少量でも構わない」


 できれば奪い合いが発生しない程度には定期的に供給できるようにしたい。

 ただし、迷宮の魔力を消費して命の水やディアント鋼を直接生み出すなど問題外だ。どちらも消費魔力が多過ぎて支出に見合うだけの収入がない。


「でも、何か方法は考えているんでしょ」

『残念だけど、僕たちが手に入れた遺跡は既に朽ちていて使い物にならない。ディアント鋼で造られている遺跡はともかくとして設備にまで使われていた訳じゃないから施設として使うことはできないね。設備が生きていれば命の水を生成することも可能だったんだろうけどね』

「ない物を強請って仕方ない。命の水っていうのは、膨大な魔力を生命力のある液体に変換した物だ」


 だから地脈の交わる場所に例の施設は建てられていた。


「迷宮も同じような条件は満たしているんだ。方法はない訳じゃない」


 それに生き残っていた設備を利用して既に着手している。

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