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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第36章 防衛構築
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第2話 魔物の露店

 全員の休みの予定を合わせて行った花見。

 休みが終われば仕事をしなければならない。と言っても、今日の仕事は冒険者として引き受けた依頼だ。


 花見が開催されている期間、冒険者たちには迷宮を利用する一般人の護衛依頼が紹介される。さすがに迷宮主でも到達していない階層への転移結晶を用いた転移を可能にすることなどできなかった。

 そこで、冒険者に依頼を出して目的地までの護衛を頼む。

 草原フィールドが目的地なら冒険者の半数以上が護衛しながらでも辿り着くことができる。


 俺に与えられた仕事は、花見をしている場所の護衛。

 迷宮主だから分かっているが、この階層にいる魔物が人を襲うことはない。けれども、そんなことは一般人や冒険者には分からないし、公表するわけにもいかない事実。

 だから襲われないようあちこちに冒険者が控えている。


「それとは別に問題があるんだよな」


 解放された迷宮。

 そこには平民だけでなく貴族も訪れている。安全性の高い迷宮など、そうそうあるはずもなく、珍しいものを見たい興味本位で訪れていた。

 貴族たちには護衛の騎士や雇われた凄腕の冒険者がいる。


「こんな場所でよく酒を飲むことができるな」

「平民にとっては些細なことです」

「貴族である私に相応しい場所を確保してあるんだろ」

「もちろんです」


 そんな話をしているのは貴族と執事と思しき二人組の男性。

 まだ20代ぐらいの若い貴族で迷宮を訪れているというのに手には宝石のついた指輪をいくつも嵌めている。執事の方も青年と言っていいぐらいの年齢で、笑顔を主へ向けているだけで実際にはヘコヘコした様子だ。


 二人とも草原フィールドまでとはいえ、迷宮を攻略できるような者には見えない。もっとも、周囲を固める10人の騎士がいれば関係ない。他にも使用人と思しき人を20人近く連れている大所帯だ。


「おい、お前ら」

「んだよ」


 執事が桜の樹の下で宴会をしていた家族へと声を掛ける。

 酔っていた家長である男性は、相手が貴族の関係者であることにも気付かずに泥酔した様子で返事をしてしまう。


「ここはリシャルレット家のヨルタン様が利用させてもらう。さっさと場所を明け渡せ」

「あのなぁ」


 先に宴会をしていた男性が立ち上がる。


「ここは身分の分け隔てなく全員に解放されているんだ。場所だって長居をするような真似をしなければ先着順だ。こっちは噂になっていた景色を家族に見せる為に朝から訪れたんだ。悪いが、他の場所を当たってくれ」


 酔っていた男性は執事の言い方に対して若干キレそうだった。

 この場合は仕方ない。全ての人に対して等しく解放されているため、身分を理由にしたトラブルを引き起こさないようにしてあり、故意に引き起こした場合には罰せられることを予め冒険者ギルドや迷宮の入口で伝えるようにしている。


 この場には多くの冒険者がいるため証人にも困らない。

 もちろんリシャルレット家の面々にも伝えられている。それでも、執事がこんな行動に出たのは貴族であることを伝えればどうにでもなる、と本気で思っていたからだろう。


「貴様リシャルレット家に逆らうつもりか?」

「う……」


 酔っていた男性もようやく貴族を相手にしていたマズさに気付いて後退る。

 これは放置する訳にはいかない問題だ。


「悪いが、彼の言っていることが正しい。いくら貴族であろうとも、この場所では意味がありませんよ」

「お前は?」

「冒険者です。この場所の安全を確保するよう言われています」


 トラブル解決も俺たちの仕事だった。


「冒険者如きがリシャルレット家に歯向かうつもりか」

「歯向かう? ルールに違反しているのはそちらですよ。つかぬことをお聞きしますが、爵位を教えてもらえますか?」

「伯爵家だ」


 フフン、と胸を張るヨルタン。

 伯爵ならアリスター家と同等ということになる。


「このルールを定めたのはアリスター家です。従わないと言うのならアリスター家と敵対することになりますよ」

「う……」


 辺境を統治する伯爵として有名なアリスター家。

 迷宮から様々な物が得られるおかげで王国南部は物資不足に陥ることがない。その状況を維持しているのがアリスター家。

 対してリシャルレット家など聞いたことがなかった。既に没落寸前の貴族、もしくは何の役職も持っていないため名が知られていないのだろうと予想できる。


 そんな者でもアリスター家を敵にする危険性は理解しているらしく、名前に気後れしていた。

 身分に関係なく解放するルールは俺の方で定めさせてもらったルールだったが、直接キース様にお願いしていた周知してもらっていたためアリスター家の定めたルールとさせてもらった。

 貴族を相手にするならアリスター家の方が効力はある。


「クソッ、こんな所にいられるか! せっかくこんな田舎まで来たのだから少しは街で楽しんでから帰るぞ!」

「かしこまりました」

「兄ちゃん、随分と荒れているじゃねぇか」

「なに?」


 苛立つヨルタンに声を掛ける人物がいた。いや、『人』と呼んでいいのかは分からない。


「そういう時は美味いもんでも食って気を良くした方がいいぜ」


 声を掛けた人物は宴会が行われている場所の近くで露店を開いていた男性。

 今の草原フィールドは商人にも解放されていて多くの者が露店で食べ物や雑貨を売っていた。


「一つ食べてみないか?」

「ふん、平民が食べるような物など……」

「そう言わずに騙されたと思って一つ食べてみな」


 しつこい男を無視して離れようとするヨルタン。

 男から顔を背けたところでヨルタンの前に蒼い髪の美女が現れた。王都での生活が長く、贅沢な暮らしをしていたヨルタンでも見たことがないほどの美人。

 美女の手には皿があり、串が刺さり小さくカットされた肉が乗せられていた。


「どうぞ」

「う、うむ……」


 見惚れたヨルタンが美女に勧められるまま肉を口にする。


「……! う、美味い! こんな肉は今までに食べたことがない!」

「そうだろう! こいつは迷宮で狩って来た魔物の肉を焼いたものだ」

「迷宮にいる魔物……冒険者なのか!?」

「いや、冒険者っていう訳じゃない。けど、自分たちの力には自信があるからな。あちこちを旅しながら美味しい物を求めているのさ」


 そうして得た美食は、自分たちで食することもあれば今のように提供することもある。

 自称美食家の三人組……そういう設定になっていた。


「おい」

「お、兄ちゃんも……」

「何やっているんだ」


 肉を焼いていた男――炎鎧に顔を寄せて尋ねる。

 ヨルタンに肉を提供した美女は海蛇、雑用を引き受けているのは雷獣だ。氷神の出現したクラーシェルのように露店を出していた。


「何、って許可は取っただろ」


 花見が行われると聞いて露店を自分も出してみたくなった炎鎧。

 肉を自分たちで狩り、売る為の露店も自分たちで用意するなら自由にしていいと言って許可は出した。


「俺はこんな肉まで許可を出したつもりはない」

「制限は何もされていないぞ」


 周囲にいる人からは何の肉なのか判断できないだろう。

 だが、迷宮主である俺には【鑑定】すれば一発でバレる。


「これはベヒモスの肉だろ」


 迷宮にはベヒモスもいる。

 けれども、ベヒモスがいるのは人類未踏の領域だ。

 そんな場所にしか現れない肉を出さないでほしい。


「め、迷宮にはこのように美味い肉を持った魔物がいるのか!?」


 ほら、ヨルタンが興味を持った。


「ああ、いるぜ」


 俺の言いたい事を全く理解していない炎鎧が肯定してしまった。

 止める立場にいる雷獣と海蛇も商売が楽しいのか売ることには協力していた。けれども、肯定する姿を見て後悔しているところを見るに二人には事態の深刻さが分かっているのかもしれない。


「よし、この肉を獲りに行くぞ! これほど美味い肉なら必ず売れる。そうすれば我が家も力を取り戻すことが……」


 迷宮攻略にやる気を出すヨルタン。


「悪い事は言わないから止めておいた方がいいぞ」

「なんだと?」

「ベヒモスがいるのは下層。護衛を連れて行くつもりなんだろうけど、そいつらだと上層を攻略するのがやっとだろうよ」

「聞き捨てならないな」


 護衛の騎士が一人出てくる。

 護衛たちの中では最も体が厚く、他の護衛たちの信頼しているような目から指揮官だと思われる男だ。


「美食家如きが偉そうに--」

「ああん?」


 炎鎧が殺気を飛ばす。

 最強クラスの魔物が放つ殺気を受けて心臓の鼓動が速くなった騎士が胸を押さえて蹲る。


「今ので剣に手を掛けたのは見逃してやる。ただし、ここで楽しくない騒ぎを起こすのは御法度だ。アンタは美食家を嘗めたけど、俺は美味い肉の為なら命を惜しむつもりもない。ちょっと殺気を受けただけで倒れるような奴には下層まで行くなんて不可能だ」

「こ、こんなことをしてタダで済むと思うなよ!」


 蹲る騎士を他の騎士が両肩から支え、ヨルタンが執事と共に去って行く。


「さて、じゃんじゃん売るかな」

「売れ行きについては心配していないさ」


 制限をつけずに許可を出してしまった。

 今さら止めさせるつもりはなくなっていた。


「ただし、さっきの言動は頂けない。後で罰だからな」

「あ、おい! 何をさせるつもりだよ!」


 炎鎧の質問には答えず仕事へ戻るため離れる。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 焼き肉奉行リターンズ。美味しい物を食べて身分の差関係なしに皆が幸せな笑顔になれると良いのに。 [気になる点] 貴族と平民の意識の差は楽しいはずのイベントをややこしくしてしまいましたが、さす…
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