愛を謳う手紙
曾ての愛する人からの、突然の手紙に、内容はともかく、胸躍らない女子はいない。
行きたかったコンサートのチケットだけ、ペラリと入っていた、シンプルな手紙だった。
理系男子よろしく、決して上手くはない字だ。大学は卒業したのか、まだ在籍してるのかはわからない。
一字一字、丁寧に書かれた筆跡にも、ときめきを感じる。
お盆も近く、明日は、アメリカへの出航報告も兼ねて、お墓参りへ行く日だ。
父方の祖母は、戦争中に、夫を戦死で亡くした。娘は出征中に病死している。
その後、夫の弟と再婚した祖母。そして有架里の父は生まれた。
母方の祖母は、戦争中に二度、夫を戦死で亡くした。二度とも子供はいなかった。戦後、再婚した夫との間に、有架里と妹のあづみの母は生まれた。
何度も愛を感じたのだろうか?
ろくに会うこともなく結婚するのは、当時は当たり前だったとも聞く。
二人の祖母は、愛をどのように感じ、捉えていたのだろう?
作詞家の有架里は、お気に入りのノートに、鉛筆を走らせながら物思いにふけった。
今時の詞や文章は、SNS向きで薄いものだそうだ……。
読み手を満足させていないという。
と言うのは、曾ては名声もあった作り手の言い分で、果たして本当にそうなのだろうか?
読み手のレベルは上がってないか?
それに応えられる作品を、お金ではなく、信念で世に出せば、後から名声もお金もついてくる筈だ。
ものづくりしかり、サービス業しかり……。
いいものを出すのは当たり前で、関わり方の問題ではないだろうか?
有架里は鉛筆を走らせるのを止めた。
あの人に、「評価」される作品を意識してることに気付いた。こう書けば、凄いと言ってもらえることを期待してしまっている。
そうではない。
あの人も、仕事も、好きだ。死に物狂いでいいじゃないか。
死に物狂いだけど、気持ち良く笑っていられたら、それでいいのだ。
明日はお墓参り。
気持ち良く報告をして、颯爽と旅に出るのだ!
おばあちゃん、甘えさせてね。
頑張る。
有架里は再び、鉛筆を走らせた。




