担任卒業
なんか知らんけどやらかしたらしい。
今俺は保健室にいる。そして目の前には山田溥儀子、俺の投げたチョークが直撃してぶっ倒れた。ちなみにチョークを投げたのは俺だけではなく、俺のクラスの担任の小林大和も投げ、それも当たった。左右からのダブルパンチだ。両方とも体育系の人なので物凄く痛かったはずだ。
そう思っていたら目の前の溥儀子が目を覚ました。
「あれ?なんで私ここに?………う、うわぁ!山谷君?私、なんでここに?」
「ああ、俺の投げたチョークがお前に当たった。そんだけ。 あと小林のチョークも。」
「え?てか何やってたの?」
もう、いったい山谷君は何をやっているのかわからなかった。チョークを投げたってなんですかっ?本当にわからない。自分がここにいる理由は分かったけれど、ほかの色々なことがわからない、というかなんか熱い、なぜだろう?夏でもないのに変な汗が背中にある気がする。……そして今見ている光景がとてもゆっくりと動いているように見える。
「お前、どうした?なんか顔、赤いぞ?風邪でも引いたんじゃないのか?」
山谷は山田のことを心配し、額に手を置こうとする。
その瞬間、山田は何をされるのかわかった。
なので山谷君の方向を見ていた自分の顔面を反対側に向かせる。
「なんだよ?せっかく親切に熱があるかもしれないから心配をしてやったのによぉ?」
「べ、別に大丈夫よ!や、山谷君に心配なんてされなくても」
そう言っても実はとても嬉しかった。そう思ったついでに自分が疑問に思っていたことを思い出した。
それは、
いつの間にか自分は山谷晴樹のことを好きになってしまっていたことを。
そしてさらにさらについでにどうして好きになってしまったのかも思い出してしまった。今ちょうどその本人が目の前にいる状況下では一番思い出したくないことだった。
これは昨日のことだった。
たまたま歴史の授業で中国が清の時代だった時のことを習っていた。
そしてそこで清、最後の皇帝について学んだ。
「清、最後の皇帝の名前は溥儀と言います。ここ、テストに出るかもしれませんのでしっかりと覚えるように。よく漢字を見ておきましょう。特に溥儀の溥、注意しましょう。」
そう先生は言いながら溥儀、と黒板に文字を書いていく。すると周りの男子たちが、
「え?これ、山田と同じ漢字じゃねぇ?溥儀?なんか名前ダセェなぁ、ぷっオモシロ〜」
「溥儀ってこんな感じの顔らしいぜ?」
ちょうど教科書についていた溥儀の顔写真を私に見せてくる。
「なんか、顔似てんな(笑)ぷっ、やべぇ腹筋崩壊しそう。」
「そもそも性別違うだろ、メガネかけてないし。」
「メガネつけてなかったら超似てるってば。」
「確かに…」
「ブハハハハハハwwwwww。」
本当に嫌だ、人の名前で笑ってきて、さらには「顔が似ている」なんて言うだなんて。はぁ
その時、
「おい!、お前ら、人の名前で遊んでんじゃねぇぞ?」
「あぁん?」
「うるせえな山谷、そんなもん俺らの勝手だろ。お前、そんなにも溥儀子のことを守りたいのか?」
それを聞いた私は一瞬だけうれしかった。人にそんなことを思ってもらうのがはじめてだったから。
「ちがう、」
「はぁ?」
「俺が言いたいのは、溥儀子のことじゃない、清、最後の皇帝、愛新覚羅溥儀のことを馬鹿にしたことにキレてんだよ!」
え?そうだったの?まさかの私じゃなくてそっちのお方だったパターン?マジでショック。さっき期待したこの気持ちを返せ!!
「おーい、そこ、うるさいぞ!今は授業中だぞ。その話なら授業後にやれ~」
「うるせぇ、このクソ教師、黙ってろ。」
「え?あ、はい。おい、お前ら〜授業を続けるぞ〜」
まさかの教師と生徒の立場が逆転してた。そして山谷君が叫んだ。
「いいか?そこのお前ら、愛新覚羅溥儀は、そこにいるやつとは根本から全てが違うんだよ。こっちは皇帝だからな。そこに突っ立ているただの一般市民とは違うっ、まぁ、俺も一般市民だけどな。」
「お、おう」
もう山谷君の言ってることがよくわからなくて向こうはなんか動揺をしてしまっている。
「先生、授業を妨害して悪かった。」
「おう、問題児のお前から先生に謝りに来るなんて珍しいな。」
「今日の単元は俺の好きなところだからな。特別なんだよ。」
そんなことがあり、授業は終わった。
すると放課に山谷君が私の席にやってきて照れながら言った。
「さっきは色々言って悪かったな。あんま気にしなくていいぞ。あいつら、愛新覚羅溥儀をバカにしててウザかっただけだ。じゃな」
そう言って、廊下に出て、猛ダッシュをして行ってしまった。
それ以来、私は山谷君のことが好きになっていた。
別に自分のことを守ってもらったのではない。多分他人に話したら
「何それ?そんなことで好きになったの?」
なんて言われそうだが、私にとってはとても嬉しかった。なんせ、人を「好き」になることが初めてだったから。
つまり、これは私にとっての「初恋」であった。
「おーい、どうした?ぼーっとして、小林がきたぞ?」
思い出していたら、いつの間にかぼーっとしていたらしい。そして先生が来たみたいだ。
「よう、山田、体調はどうだ?って山谷!なんでお前がこんなところにいるんだ?ただの問題児からさらにレベルアップをして変態にまでなりやがったのか、そうなってしまったらこの俺でも止めることができなくなってしまう。」
「は?何が変態だよ。しっかりと人としての礼儀だよ、見舞いに来てやったんだよ。お前と違ってな。人よりも職員会議を優先したヤツが何を言う。」
図星だったのか、小林は顔をしかめた。
「確かに見舞いよりも職員会議を優先したのはそうだ、しかし、教師というものだから仕方がないだろう。」
「で、会議の結果はどうだったんだ?」
この問題での一番の問題は、教師の投げたチョークが生徒に当たったことだ。山谷が走り回っていたことよりも問題だった。」
「結果はお前に最初に言うことになるのか。なんかいやだな。」
いつも終わっている汚らしい顔面がさらに終わって言葉に表すことができないぐらい気持ち悪い顔で言ってきた。
「お前のいる3年5組の担任をやめさせられた。まぁ、お前にとっては嬉しいかもしれないがな。」
山谷の予想のしていない回答だった。
しかし、担任が変わるのは良かった。このウザい教師から他の教師に変わると思うと胸が踊る。
「え?先生、うちのクラスの担任ではなくなってしまうのですか?」
残念そうに溥儀子が言う。
「そうだ、仕方がない。山谷に乗せられた俺が悪かった。短い間だったな、お前ら。」
小林は溥儀子に手のひらを伸ばし、握手を求めた。
「まぁ、担任ではなくなってしまうが、保健体育は俺のままだからな。」
「………先生、」
溥儀子と小林の大きな手と、その大きな手を見た後に見る小さな溥儀子の手が合わさり、握手をした。
「山谷、色々あったな。鶏を売ったり、火炎放射器で俺の髪の毛をパーマにしてくれたり、教室の全てのチョークを電動ミキサーで粉々にして授業をできなくしてくれたり、プロジェクターの光がわざと俺に当たるように鏡を置いて反射させてみたり、…」
今思い返すとどれもこれも面白いな、と山谷はおもった。
「もうこれが最後だ。」
握手を求めてきた。ここは人間として、人類として、たとえ憎かった教師でも握手をする。
「ああ、保健体育の時以外はな、一体何が起こるのか、楽しみにしてろよ。」
強く、強く、握手をした。
その後家に帰り、色々して寝た。溥儀子は特に何もなく、なぜだが知らないが、突然俺と帰ろうと言い出し、途中まで一緒に帰った。
朝、学校に来ると、黒板にプリントが貼ってあった。黄色い、ニコちゃんマークの書いてある磁石で。
3-5の担任、小林大和先生は担任ではなくなりました。その代わりにコンピューター部顧問の白崎朋美先生が担任となります。
俺の現在所属している部活、コンピューター部の顧問、白崎朋美が担任を務めるらしい。
白崎朋美が担任なのはとても嬉しい、なぜなら、教師の中で一番のまともだからだ。




