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第90話 冥界の門

*第90話 冥界の門*




「かかってこい悪魔共。“1分以内”に片付けてやる。」


新が静かにそう言うと、悪魔達は互いに顔を見合わせる。

そして、同時に姿を消し、新の目の前まで跳躍する。


「マスター!!」「死神様!!」


嵐と九尾の声がすぐ近くで聞こえた。

しかし、新は至って冷静かつ真剣であった。

新は悪魔達が足に力を入れ、目の前まで跳躍するまでの動作全てを見切ることが出来た。

全てがスローモーション映像のように見える。

自分以外の全てが遅い。

まるで、自分一人だけの進む時間が違うように。


「死神600%から100%、破壊神0%から100%、風神0%から50%、雷神0%から50%、阿修羅0%から100、アテナ0%から100%、邪神0%から100%へ変更。」


新がそう言った直後、悪魔達の拳が同時に振り下ろされる。

圧力と衝撃波、そして拳が新たに向かってくる。

新はその拳全てに軽くノックし、起動を変える。

しかし、起動のみを帰るつもりが、破壊神を100%にしていたためか、その拳は弾け飛んだ。


一瞬の出来事に嵐と九尾、雷人、風吹は呆然としていた。

その間にも、悪魔達の拳は再生しつつあり、同時に反対の拳を繰り出していた。


「“暴食グラートニ”」


そう言うと、新は向かい来る拳を全て“喰らった”。

正確には新が食らったのではない、新の腕が喰らったのだ。

瞬時に右腕の水晶が肥大し、形を変え、龍頭となり、その大顎に並ぶ鋭い牙が悪魔達の肉を引き裂き、喰らったのだ。

たまらず悪魔達はここで初めて叫びを上げる。


しかし、それだけでは終わらない。

新は腕を元に戻すとデスサイズを召喚し、大顎をデスサイズの刃先に移動させる。

鮫型の龍頭はギロりと怪しげに輝く瞳を動かし、悪魔達を見る。

新は足に力を集中させ、全身を吹き飛ばさん程の風圧と共に、悪魔の間を縫うように駆け抜け、デスサイズを振るう。

その時間、僅か3秒余り。


悪魔達の体に複数個の空洞が飽き、“魔力”がヘドロの零れ落ちる。

これでハッキリとした。

奴ら、悪魔達を構成する主成分は魔力。

ソレは、新達の体を作る肉と化した魔力とは別種の物で、新達、神々の神体を構成するのが、魔力“製”の肉だとすると、悪魔達の体を作る肉は魔力“そのもの”、即ち、魔力の“塊”である。

どういう仕組みかは知らないが、魔力に粘度を持たせ、それを自由自在に操り体を作り上げる事で、モードチェンジをも可能とした。

だから、ただ闇雲に斬っていても無駄である。


ならば、どうするか?そんな事、既に答えは見えている。


悪魔達の魔力を“カラ”にすればいい。


言葉にするだけならば簡単な事だが、実際は至難の業、悪魔達の魔力が尽きるのが先か、それとも、自分の魔力が尽きるのが先か。

正に一か八かの賭けとなってしまう。


そこで鍵となるのが母さん、即ち、邪神の魔法だ。

邪神の持つ固有魔法、その内の1つ、“暴食グラートニ”。

暴食の能力は、体の一部を変形させ大顎を作り、そこで作られた口と、自分の口で敵を喰らう事で、相手の“魔力そのものを喰らう”能力である。

しかし、デメリットとして、発動した本人が自我が崩壊するほどの酷い空腹に襲われ正気を失いかける事である。

そのデメリットは、相手を喰い続ければ軽減できるが、自我を崩壊させ正気を失えば、自分の仲間さえも喰らってしまう危険性もある。


現時点の新は正気を保っている。

何故ならば、風神雷神の力を使い速度を上げる事で、“半永久的”に喰らう事が出来ているからである。

しかし、それもいつまで続くかは分からない。

6つの命を同時に使う新は、魔力の燃費が非常に悪い状況下にある。

だから、この戦闘は成る可く早く片付けなければならい。


新は全身に力を入れ、体が壊れんばかりに魔力を流す。

背中から翼を生やし、その翼に大顎を付ける。

そして激突。

翼とデスサイズを振るい悪魔達の肉を喰らう。

悪魔達も反撃しようとするが、新はそれを躱し喰らい、受け止め、斬り裂く。


しかし、悪魔達も殺られてばかりではいるはずもない。

突然、悪魔達の体から蒸気が吹き出し、視界を阻まれる。

そして、新の死角から小型化しスピードが早くなった悪魔達が襲いかかる。


「あまい!!」


新は死角から忍び寄る悪魔達に向けて翼の大顎を向け、喰らう。

驚愕する悪魔達に休みを与える暇も無く一閃。

デスサイズが悪魔達の喉元を喰らう。

直後、悪魔達の体は弾けるように魔力が吐き出され、地面にヘドロを撒き散らす。

しかし、ソレも罠である。

悪魔達はこの状態になっても動き続ける。


だから、新は少しばかり後退しながら翼を伸ばし、ヘドロの飛び散る地面を抉るように落下させる。


「とどめ」


新はデスサイズに魔力を流し巨大化させ、すぐ後ろの地面に突き刺す。

そしてデスサイズをそのまま破壊神のパワーを使い地面を裂きながら押し進め、ヘドロの真下から巨大な大顎で喰らい斬り上げる。

その様子は正に人喰い鮫が人を乗せた船を襲うが如く。

地面に落ちたヘドロを跡形も無く喰らい尽くした。

悪魔達を討伐するまでにかかった時間は“約59秒弱”。

ギリギリだが予言実行となった。


「暴食、“解除”。」


新はすぐさま暴食状態を解除し、自分を空腹から解放する。

敵が居なくなった今、抑えきれなくなった食欲を嵐達に向けてしまうかもしれないからだ。


「次…」


新は、ゆっくりと呼吸しながら魔力の流れを調節し、ポケットから共鳴石を取り出し、息が落ち着いたところで打ち付ける。

そして、目を閉じ、耳を澄まして敵の居場所を探る。


新から正面を12時の方向とすると。

4時の方向に3体、6時の方向に2体、9時の方向に1体。

1番距離が近いのは6時の方向。6時の方向から近いの4時の方向。そして、9時の方向。

近い所から残っている悪魔を全て叩くのが適切なのだろうが、もっと考えるべきだろう。

次に、悪魔達のいる位置と、視界の命の位置を比較する。


4時の方向は人は少ないが避難が続いているようだ、悪魔達とは親父が交戦しているのか?水神火神が消火活動と避難誘導をしているように見える。

親父は悪魔達との戦闘にら集中しているが手こずっているようだ。なんせ、攻略は新と邪神にしかできないのだから。持ちこたえてはいるが、諸刃の剣だ。何時崩れてもおかしくはない。


6時の方向は人は一人もいない。しかし、少し離れた場所に百合華と華菜の命が見える。

恐らく、逃げた方向が悪魔達の居る方向だったのだろう。

悪魔達とは希里、加蓮、付喪、母さんが交戦中。

しかし、母さんが何やら無双している模様。暴食を使っているのか?動きが早い。最悪の場合、小気を失っている。かなり危険な状況。


9時の方向は……なんだこれ?武神とすぐ近くに人間の命が一つ。密着してるのか?

高速移動しながら悪魔と交戦している模様。

武神の事だから人を助けたのは良いが、逃がすタイミングを見失っているのだろう。

民間人を抱えているとなると、すぐに応戦した方が良さそうだ。


となると、動く順番は逆転し、9時の方向、4時の方向、6時の方向が適切だろう。

先程の戦闘で悪魔三体同時討伐でかかったのは約1分。

このスピードならば直ぐに殲滅できるだろう。


新はすぐさま足に力を入れ飛び上がり翼をはためかせる。

「マスター!!」と嵐の声が聞こえたが事態は一刻を争う。

嵐には申し訳ないが、武神の元へ直行した。




* * *




「クッ!! なんじゃこ奴らは!! 何度斬っても粘土のように傷を塞ぎおる!!」


「とりあえず私を降ろして欲しいです!!」


「今降ろしたらあ奴の絶好の餌じゃぞ。」


「頑張って!!仮面ラ〇ダー!!」


「ハッハッハ!!お主は切り替え早いのう!!よーし、任しとけ!!」


とは言ったものの、武神は正直言って限界が近かった。

悪魔の速さは予想よりも遥かに早く、自慢の空飛ぶバイクでも追いつかれてしまう。

なのでギリギリを狙い刀で攻撃を捌いていたが、圧倒的なパワーの差が裏目に出た。

刀が拳に当たる度に刀身が悲鳴をあげている。

魔力を流し強化しているとはいえ、所詮は形あるもの。いずれ壊れる。

それは、武を極める武神にもわかっていることだ。


(だがしかし、今だけはもってくれよ我が愛刀!!)


武神はバイクを上昇させ、悪魔との距離を離そうとする。

悪魔は背中から翼を生やし当然の如く武神を追ってくる。その巨体のため風圧の負荷が大きかったのか、僅かに武神が速さの先をゆく。

そのまま距離を離し雲を越え、武神はバイクを小さく回転させ昇ってくる悪魔と向き合う形になりバイクを急発進させ悪魔の真横スレスレを狙い突撃する。

通りすがりに刀を振るい悪魔を斬り裂く。

しかし、それは空を斬る。


突然、悪魔が蒸気を吐き出し萎んだのだ。

サイズが激変し、刀の刃は悪魔の体に届かず空振りに終わったのだ。

そして、萎んだ悪魔は武神が通り過ぎる瞬間、鋭利な爪を一閃。その爪はバイクをかすった。

その衝撃で機体は揺れ、体制が崩れた。


「クッ!!」「キャッ!!」


苦悶の声が上がるが、なんとか落下しながら体制を立て直し地面スレスレで加速しながら平行移動する。悪魔もそれを追う。

しかし、武神は気づいた。

先程より悪魔のスピードが上がっているのだ。


(まずい!!このままでは!!)


武神は悪魔を振り切ろうと蛇行するが、難なく悪魔はそれを追う。

まもなくして、悪魔はそのバイクの後部に攻撃が届くようになった。


その瞬間、悪魔は地面に落下した。いや、正確に言うならば、悪魔の真上に落ちてきた物によって叩き落とされたのだ。


「なっ!?何事だ!?」


鳴り響く爆音、爆風で待った砂煙が舞い上がり、武神の視界を塞ぐ。

全てが土色に染まった。

武神は刀を一度鞘に収め、周囲を舞う砂煙に向かって居合斬りをし、発射された衝撃波でそれを吹き飛ばした。

砂煙が晴れ、徐々にその正体が姿を見せた。


「武神!!お前はその女を避難させて嵐山の方へ向かえ。そこでこの悪魔が2体母さん達と交戦中だ、援護てやれ。」


立ち込める砂煙の中、青白く光る水晶の男がそう言った。

その姿は、皮膚全体の殆どが亀裂の走る水晶でできており、僅かにその体は青く燃えていた。

間違いない。その男は死神、神藤新である。


武神はその姿に驚愕した。

その理由は彼の体の“水晶”にあった。

体の水晶は、明らかに魔力を持っている事は武神にもわかった。

しかし、それだけでは体は水晶にはならない。

武神は、彼の体を水晶に変えた、たった一つの答えにぶち当たった。


彼、神藤新の体は“魔鉱石”と化しているのだ。


魔鉱石の生成方法は、至極簡単かつ単純。

魔力を持たない物質に圧力をかけながら魔力を無理矢理注入し続け、その物質の構造に魔素を組み込むというものだ。


それを新は、己の体でやってのけたのだ。

自分自身の体に魔力を圧迫する程貯め続け、体を魔鉱石のようにしてしまったのだ。

無茶苦茶だ。


有り得ない光景を目のあたりにし、武神は驚きを隠せなかった。

圧倒的な存在感、圧倒的な力、圧倒的な殺気。

今の彼に適う奴はこの世界に一人もいないだろう。


溢れ出る威圧に武神もその腕の中に佇む小林も息を呑む。

武神は何一つ言葉を発することが出来ず、無言で頷き、指示に従った。


悪魔と新を後にし、グリップを捻る。

その直後、壮絶なる戦闘が再開された。

武神は振り返ること無くバイクを走らせる。

彼の邪魔にならぬように。

彼に“殺されぬように”。




* * *




「ったく、とんでもない再生力だねぇ!!」


ゼウスは次々にholy paladinを召喚するが、悪魔は疲れを知らぬかのように、それらを圧倒する。

単にパワー任せのゴリ押しではない。

途中、蒸気のようなものを吐き出し小型化し、スピードを上げ回避しつつ、掴んだholy paladinをゼウスの方へ投げつけ反撃を入れる。

当然、ゼウスはソレを避けるが、悪魔は未だ余裕を見せている。

holy paladin達に慣れてきているのか、倒される速度が加速していた。


「“lightningライトニング vortexボルテックス”!!」


ゼウスはケラウノスを空へ掲げると、その先に稲妻が渦を巻きながら集まり、10個の雷のリングが完成する。

そして狙いを定め、雷のリングは悪魔に目掛けて発射される。

光速を凌駕する雷のリングは見事悪魔に命中した。“1個だけは”。


(あの速さの攻撃を一撃に抑える速さを持っているのか!!)


その瞬間、悪魔は動きを変えた。

今までholy paladinを捌くだけだった悪魔達が、避け、殴り飛ばしながらゼウスへと急接近してきたのだ。


(まさか、僅かな時間でこの攻撃に適応したのか!?)


悪魔達はholy paladinを薙ぎ倒しながら前進し、ついにゼウスまであと一歩という距離まで接近した。


「クッ!!」


ゼウスはケラウノスを構えつつ、目の前にholy paladinを護衛につかせた。

しかし、その護衛は虚しく、一撃で破壊され消滅する。

5cmと無い距離まで悪魔達は押し寄せ、ゼウスにその爪を立てる。


ゼウスは向かい来る爪を大きく弾き、同時に大きく後退し、着地と同時にケラウノスで弧を描く。


「“celestialセレスティアル poleポール”!!!!」


そう詠唱した瞬間、悪魔達の足下がカッ!!と輝き、次の瞬間、天に向かって光の柱が伸びた。

悪魔達はその光に飲み込まれ、体が砕ける。


しかし、悪魔達はcelestial poleを喰らいながらも前へ前へと突き進み、その鋭利な爪がゼウスの頬を掠める。

そして次の攻撃が来る。

悪魔は体を翻し、尻から伸びる長い尾でゼウスの腹をえぐる。

ゼウスの肺から空気と魔力混じりの血が吐き出される。


(まずい……!!)


しかし、ゼウスと尾で攻撃した悪魔は“異変”に気づいていなかった。

尾で攻撃した悪魔以外の2体の悪魔は何処に行ったのだろうか?




「“暴食”」




次の瞬間、ゼウスの前方、悪魔の後方で青い炎が噴火した。

その炎は、暴れ狂う獣の頭を模していた。

青い炎は咆哮する。そして、地面へ突撃、爆音。

その衝撃波で、ゼウスと悪魔は吹き飛ばされ、お互いが強制的に距離を離される。


次の瞬間、ゼウスは見た。

その世界はスローモーション映像の中のようだった。1秒が何十秒の様に感じる。

そんな空間の中、ゼウスは見たのだ。

地を駆ける青い炎の獣の姿を。

その獣はヒュドラの様に頭が幾つもあった。

その体の中心には人影が見える。

新である。

全身の皮膚が水晶と化した新である。


そして、そのスローモーションで見た一瞬は、直後現実へと引き戻される。


光速を超える青い炎が吹き飛ばされた悪魔を捉え、牙が悪魔の体を引き裂く。

その姿は正に獣。

1つしかない餌を巡り飢えた肉食獣が群がっているようだ。


ゼウスはその光景に息を呑む。

彼は正しく強者。王者。絶対なる最強の2文字に相応しい圧倒的な存在であった。

溢れ出す殺気は時間をも殺す。


(いったい何をしたら、あんな力が!?)


すると、新は震えながら「暴食、解除」と唱えた。それを言った後は尋常ではない疲労を見せた。

無理をしている。それも途轍もない程のだ。

ひと目で分かる程に新は体力を消耗していた。


「……親父は人々の救助と消化の援護をしろ。俺はあと2体を叩く。」


「待て新!!その体は!?」


「……頼んだ。」


新はそれだけ言った直後、翼を広げ天へ舞い上がる。そして、爆風と共にその姿を消した。

ゼウスはその姿を見ていることしか出来なかった。

そこで気づいた。

ケラウノスが振動していることに。

いや、違う。

ケラウノスが振動している訳では無い。

振動、震えていたのだ。

ゼウスは初めて新に対して恐怖を覚えたのだ。

溢れ出す殺気に浴びせられたゼウスはその恐怖のあまり震えたのだ。


「……今は信じるしかないのか。」


「そうですよ貴方。(ニッコリ)」


「本当にヘラさんは神出鬼没だね!?」


あ!妻のヘラが飛び出してきた!

ゼウスは驚いて混乱している。


「ええ、貴方の傍なら何処へでも現れます。だって、私は貴方の『妻』なのですから。」


「分かってるからそんなに“妻”を強調しなくてもいいよ…」


「それでは火神と水神を手伝いましょうか。」


「うん。私の妻はスルーされた上に仕切り始めたよ。」


「文句ありますか?」


「……ナイデス。」




* * *




視界の命を頼りに新は最後の悪魔2体の地点へと翼をはためかせる。

全身から溢れだす魔力と全身を巡る“激痛”に耐えながら光を超える。


今の新の体は、魔鉱石でできていると言っても過言ではない。

普通の神でもこの状態になるような命知らずはいないし、出来たとしてもその状態を維持出来ず体が壊れる。


普通では有り得ない。ならば、現在の新は異常であると言える。

そもそも、新は魔力を他の神とは全く違う流し方をしていたのだ。


通常の神は、魔力を体の細胞に似せた機関の核から魔力を生み出し、全身に魔力を貯めている。

しかし、その量は少量で、幾日か貯め続けなければ使い物にもならない。

だから、食事や睡眠などが必要となる。


しかし、新の場合は違う。

新の魔力は、体の中心、心臓の隣に密集する高圧高エネルギーを放出する特殊な核から生み出されている。

それによって、生成する量は少なくとも、その濃度が段違いなのである。

この特殊な核は、実は他の神でも簡単に作れてしまう。

作り方は至って簡単かつ単純。

魔力を生成する核を一点に集め、一つの細胞に複数の核を所狭しと詰め込む。以上である。

言葉では難しく感じるが、やってみると簡単なのだ。

少なくとも魔力が完全に自由自在に使えるならば誰でも出来る。


しかし、これには大きな弱点がある。


“魔力を全身に流せない”のだ。


一点に集中して核を集めてしまったため、その場所、その特殊な核からしか魔力を得られないのだ。


“だから”、新は特殊な核の位置を心臓の隣にしてあるのだ。


心臓に隣接していることにより、生成した魔力を心臓に集中的に送り込み、“血液”に混ぜて全身に送り出しているのだ。

それにより魔力は普通より早く全身に巡り、尚且つ高濃度の魔力を得ることが出来るのだ。


だがしかし、ここでも大きな弱点がある。


それは“血液”である。

本気で戦闘するようなことがあれば、他の神は全身に散らばった核から満遍なく魔力を得られるので死に至る確率は減る。

しかし、新は体に傷を負うだけで、それが致命傷となってしまうのだ。何故なら、新が全身に魔力を流す鍵となるのは高濃度の魔力を含んだ血管だからだ。

だから、ビートル戦の時、新は死にかけた。

自分の体に希里と桜姬の傷を全て転移させる“transmitトランスミット injuryインジャリー”を使ったからだ。


では、何故その構造が新の現在の姿を作り出しているのか。

その答えは、新の体を構成する“細胞”にある。

新の体は先程の説明の通り、魔力を生成する特殊な核が存在するため新の体を作る細胞は、殆どからの状態である。

生物とは別次元である神の体は人間に似せたその体のほぼ全ての構造が不要である。


だから、新は上っ面だけで中身の無いの体の細胞全てに、通常では溢れて耐え切れない程の魔力を圧縮し、詰め込んだのである。


そして体は変化した。

魔鉱石に近い、その水晶の体に。

無理矢理魔力を詰め込んだ代償は、体の水晶だけではない。


魔力を使う為に、大量の媒体を得るため、全身の隙間から媒体を体内に入れる必要があった。

その為には、体の表面積を大きくする必要性があった。


だから体に“亀裂”を入れた。


更に、全身に負荷がかかった。

慣れない量の魔力を使っているからだ。


そんな状態にも関わらず、新は悪魔との戦闘をしているのだ。

それはもう、体が壊れることなど考慮していないかのように。




* * *




「お腹空いたよォぉぉぉぉおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」




『『ブブフォゥオオォオオオオォオオオオォオオオォォォオオオオオォッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』』




希里、加蓮、付喪、邪神は未だ戦闘が続いていた。

丁度その時、武神が応援に到着した頃だった。

しかし、武神はその光景を見ていることしか出来なかった。


視界に広がるは、2体の悪魔と邪神。

背中から職種が生え、両腕に付いたナイフの牙の大顎。

その姿は、何時もの邪神ではなかった。

欲望に溺れた悲しき少女。

彼女は笑っていた。

全身の傷を増やしながら笑っていた。

狂っている。


現在は邪神が悪魔達を押しているように見える。

しかし、その数秒後、状況は一変した。

悪魔達の動きが変わった。


2体の悪魔は大きく後退し、近寄った。


「そこを動かないでねぇ!!じっくり味わってあげるからぁ!!!!!!」


邪神は悪魔達に向かって突っ込んだ。

しかし、先程も言ったように悪魔達の動きが変わった。


突然、悪魔達の内の一体が隣のもう一体の悪魔を“食った”のだ。

それは文字通りの食事。

突撃しようとしていた邪神も思わず足を止めた。

食われる悪魔はなんの抵抗も見せず、悪魔の腹の中に入っていく。


そして次の瞬間。

悪魔の体が蠢いた。

音を立てながら、体の肉がボコボコと隆起し、体の形が変わる。

筋肉の位置が変わり、徐々にその姿を現す。

その姿は“人”だった。

性別は男性。

身長は先程のパワーモード(筋肉質で攻撃特化した姿)程度。

しかし、その頭には顔があり、武装をしていた。

頭には当然顔があるのだが、先程の悪魔達には顔と呼べる部位は口しか無かった。

しかし、今現在の悪魔の顔には目があり、鼻があり、頭髪、眉毛や髭などの毛がある。

頭部には変わらず角一対が付いている。




「“いやー、まさか、7体全部倒してしまうトハ驚きダ”。」




先程まで片言でしか話せなかった悪魔は、流暢にそう言った。


「まさカ、この“四天王ベヒモス”様がココまで追い詰められるトハ!!!!実に興味深いセカイだココは!!!!」


「何グチグチ話してるの?私は、もう食べたくて食べたくて仕方が無いんだよぉ?」


「フンっ、生憎、キミのような雑魚のを相手ヲしている暇はなくなったのでネェ。」


「あれれ?さっきまでボコボコにされていたのはどっちだっけなぁ!!!!!!!!」


邪神は足に力を入れ、一気に加速する。


「ダメです!!邪神さん!!!!そいつはさっきまでの悪魔とは!!!!」


「関係ないよぉ!!今大事なのは私のお腹を満たすことだけだからァ!!!!!!!!!!!!!!!!」


邪神は完全に正気を失っていた。食欲という欲望に飲まれていた。

今の状態に陥った邪神を止められるのは誰も居ない。

かのように思えた。


ガリッ!!!!!!!!と邪神の腕の大顎が何か硬いものに食らいついた。

しかし、それはとても噛みちぎれるような硬さではなかった。必死に食いちぎろうと、もう片方の大顎がそれに食らいつき、顔についた口で、それの首筋に噛み付く。

それでも噛みちぎれなかった。


「……“少し落ち着け、母さん”。」


邪神が噛み付くそれは静かにそう言った。

ハッとなり、そこでやっと邪神は正気を取り戻した。

視界に広がるは青い水晶。

しかし、その声は聞い慣れたものだった。


「もう大丈夫。あとは俺がやるから。」


「あら、た……?」


最後にそう言った後、邪神は静かに眠り始めた。

眠ると同時に武装は解除され、何時もの邪神となった。

眠る邪神を抱え、新は希里に邪神を預けた。


「本当に、兄上……なのですか?」


希里もその異様な姿の新を少しだけ疑った。

しかし、新は小さく頷くとすぐさま消え、ベヒモスの5m程前の位置に現れた。


「君を倒せばこの戦いは終わるのか?」


「ソウダ。だが、私は死なぬ。何故なら貴様はココで敗れるカラダ!!!!!!!!」


ベヒモスは叫んだと同時にその巨大な足に力を入れ、飛び出した。

しかし、新は何もせず、ただ、「……そうか」と嘆息した。


「そうか……じゃあ、遠慮はいらないな。“暴食”」


新はデスサイズを構えつつ、全身に魔力を流した。

その瞬間、新は青い炎に包まれた。

その炎が吹き出した時は、ベヒモスが残り1mも無い程まで近ずいた時だった。

しかし、新はまだ動かず、魔力を流し続けた。




もっと強く、もっと早く、もっと魔力を!!

絶対に負けない!!負けられない!!!!

この近くにはあの子が居るから!!!!

この世界は!!あの子に必要な世界だから!!!!

今度こそ守る!!

この命が燃え尽きたとしても!!!!!!!!!!!!!!




「シネェ!!!!死神ィイイ!!!!!!!!!!!!!!」


ベヒモスは拳を固くし、新に振るう。

しかし、その瞬間、世界は止まった。

たった一言、たった一言の言葉だけでこの世界の時間は止まったのだ。


「________“途絶なさい”。 」


カチッと機械音が聞こえた瞬間、ベヒモスの体は動かなくなった。

足は付かず、ただその場に停止している。

まるで、彼だけの時間が止まったように。


このチャンスを逃す訳にはいかない。

全身に力を入れ、手に握るデスサイズを振るう。

ただ振るうのではない、奴を殺すのだ。

奴の全てを奪う。それだけの力をこの一撃にかける!!!!!!




「死神、最高にして最強の斬撃……


_______“hadesヘイディー's gateゲート”______




その瞬間、新はベヒモスの背後へ現れた。

青く燃ゆる炎は既に消え、背後ではベヒモスが未だ停止している、かのように思えた次の瞬間、辺りに衝撃波が放たれた。

その衝撃波は直上の突風を巻き起こし、地面を抉り空へ持ち上げた。

そして、その抉られた地面から青い炎が噴火し、ベヒモスを飲み込んだ。


数秒後、辺りに静けさが戻った。

風の音は無く、ただ、その地に月光が降り注ぐだけ。

ただ、それだけだった。

そして、新は、ゆっくりと地面に倒れた。


新が倒れた瞬間を、少し離れた場所で彼女は見ていた。

彼女はゆっくりと歩く。段々とその足は早くなり、新に駆け寄った。

息はあった。

しかし、起きる気配は無かった。


その夜、彼女、藤澤華菜の泣き声が木霊した。


その様子を、ただ1人、何も出来ずに膝をつき百合華は見ていることしかできなかった。


長い夜が開けるのはその約1時間後の事であった。





どうもお久しぶりです!

予言実行、字数1万突破!!


ごめんなさい!!!!!!


どうしても繋げなくては行けなくて!!

勝手な都合で1万超えてすんません!!!!


しかし、残り一話で修学旅行編は終わりの予定です!!

…………終わるよね?うん。終わるはず。

いやー、長かった!!長いです修学旅行!!


では、この辺りで。ここまで読んでくれてありがとうございます!!

また次回!!さよなら、さよなら、さようなら〜


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