第89話 Another Life
*第89話 Another Life*
再び場所は変わり京都の街中。
此処は先程まで商店街や、新達の泊まるホテルが建っていた場所である。
しかし、今は火の海と化し、人々の悲鳴が京都中に鳴り響く。
火の粉が蔓延し、次から次えと火災の範囲は広がっていく。
消防隊が駆けつけ消火活動を行うものの、一向にその炎の勢いは収まらず、その勢力を広げる。
人々は言う。
その炎は、まるで生きているかのようだったと。
川があっても、炎はその上を渡る。
勢いは止まる様子を見せない。
人々は逃げるという選択肢しか与えられなかったのだ。
水さえ燃やす異常な炎。
ヘリで土をかけ鎮火を試みるが、そのヘリは次々に墜落していった。
何かに襲われるように。
消防隊は消化することより民間人の避難を第1に絞り行動し始めた頃、彼らは京都に到着した。
「なるほど、だから“私達”が呼ばれたのね。」
「“俺っち”を呼んでもあまり意味が無い……あぁ、なるほど。そういうことか。」
1人は青みがかった銀髪の女性である。
つり目だが、どこか大人しそうな瞳の彼女は、背中に付けた折りたたみ式の大型の弓を広げ、腰につけた筒から矢を1本取り出した。
もう1人は、橙色に近い赤髪の男性である。
虚ろ目かつ暗いクマが目立つ彼は、やっと納得したように、腰に差した50cm程度の指揮棒のような杖を取り出した。
「そういうことだよ、“水神”ちゃんに“火神”君。
今ここで必要とされるのは君たち2人の力だ。やってくれるね?」
「ええ、ゼウス様の御命令とあらば、そのように。」
「やれるだけはやる。」
「よろしい。じゃあ、“彼ら”の相手は私が引き受けよう。2人は消化と人間達の避難の手助けを頼むよ?」
「了解。」「わかった。」
ゼウスは2人の前に立ち、12時の方向に向かい合うようにして立つ黒い“悪魔”を観察する。
「やあ、私はこの世界の全能神を担うものだ。君は誰かな?噂の悪魔くん。」
『…………。』
「答える気は無いのか…」
ゼウスは嘆息する。
その後、右手をゆっくりと正面に突き出した。
すると、その手に上空から雷が直撃する。
ゼウスは瞬間的に落ちたソレを掴んだ。
ソレは1本の槍だった。
しかし、普通の槍ではなかった。
その槍は斧ともなり得ることができ、鎌ともなり得ることが出来る。
_____ 鎌斧槍 “ケラウノス” ______
彼、ゼウスの雷で作られた最高にして最強の武器である。
「“holy paladin”!!」
続けてゼウスはそう叫ぶと、辺りに雷が次々と降り注ぐ。
地面を砕き、付近の電灯を壊しながら落雷し、その中から、光の騎士達が姿を現す。
しかし、騎士達が現れてもなお落雷はおさまらず、騎士達は数を増やし、やがてその場一体を埋めつくしに整列し、立体陣形を作った。
「僭越ながら、私は戦いは不慣れでね、数の暴力を使わせていただくよ。」
ゼウスの呼び出したその数、約1000に及ぶ騎士達は、武装し、光の翼を広げ宙に浮いていた。
ソレは正しく軍隊……否、“光の騎士団”である。
神々しい光に包まれた光の騎士団は、ゼウスの指示の元、弓兵隊が長弓を構え光の矢を引き、槍兵が突撃の体制をとる。
「じゃあ、“戦争”を始めようか。」
* * *
「わぉ☆僕達のスピードについてくるなんてやるねぇ〜☆」
「ビックリだよね♡でも最速夫婦は負けないぞっ♡」
2人は雷風を纏い悪魔と拳をぶつけ合う。
雷人と風吹の主な武器は格闘だった。
魔法の雷と風を纏い、自分自身を加速させ、神速の領域で敵を滅多打ちにする。それが、2人の戦法だった。
しかし、驚くべきことに、悪魔はそのスピードに追いついていた。
追いつくとは言ってもギリギリだが、2人の繰り出す拳や蹴りに反応し、受け流し、僅かなモーションで避け、カウンターを図る。
が、ギリギリついていける相手は2人である。
流石に全てを捌ききれるほど、悪魔は俊敏ではなかった。
反撃しても、2人の内どちらかがガードし、フリーな方がさらにカウンターをキメる。
抜群のコンビネーションを2人は持っていた。
一方、苦戦していたのは嵐であった。
『コイツっ!!硬い上に速い!!』
「そんな事見ればわかります。集中してください。」
嵐は至って冷静であった。
操縦者である嵐が慌て、相手に隙を突かれれば、たった一撃で機体は破壊され、生身で悪魔達に挑まなければならない。
そうなれば、彼女に勝ち目は殆ど無く、元も子もない。
『そう言われても、これはちょっと厳しいんじゃない?』
ラーが言う通り、嵐は苦戦している状況下にある。
相手の攻撃は全ては捌ききれないが、かすり傷程度で耐えている状態である。
「2人は援護することだけを考えてください。私が先陣を切ります。」
『つまり、いつも通りってことね?』
『それしかねぇよな!!』
しかし、そんな嵐達を他所に、彼女らの守る“新に近寄る者”がいた。
その事は、全方向の映像が映し出されるコックピットに立つ嵐が気づかぬはずがなかった。
『“九尾”!?』
『このタイミングで狙ってきたの!?』
「クッ!!マスターッッッッ!!!!!!」
九尾の手はゆっくりと新の頭へと近づき、その鋭い爪が新の首筋に触れる。
「ッッッッ!!!!!!!マスタァアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
嵐は叫びながら、向かい来る悪魔を他所に、新の方へ駆け出した。
この世で一番大切な人が、今、目の前で奪われようとしているのだ。
(そんな事、させない!!!)
「殺させてたまるかぁぁぁあああ!!!!!!!!!!!!!!!!」
『『ちょっ!!嵐!?』』
フルパワーで接近し、九尾を吹き飛ばす勢いで拳を振るう。
当然の如く悪魔達は嵐を追うが、雷人と風吹がそうはさせなかった。
悪魔達の前に立ちはだかり、さらに加速し、三体同時に相手をする。
恋愛感情を大切に思う2人は、恋する乙女の行く手を阻む者を通させる訳がなかった。
2人に援護され加速する嵐の鋼の拳は、ガコッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!と鈍い音を立て衝突する。
しかし、その拳の先には、シールド型の化身が立ちはだかり、この身を犠牲にして九尾を守り通した。
そして、嵐の耳にやっと届く程度の大きさの声が九尾から発せられた。
「“良かった”。まだ息はありますね。」
一瞬、思考が停止した。
彼の口から思わぬ声が発せられたからだ。
すると、九尾は懐から包を取り出し、その中から淡く光る半径5mm程度の宝玉を1粒、新の目の前に差し出した。
「“ソレ”は!?」
『『“魔結晶”!?!?!?“』』
九尾の取り出したソレは、先程、嵐が新に渡そうとしたものであった。
悪魔に吹き飛ばされた品たが、何故彼が持っているのかという疑問が嵐の脳内に浮かぶ。
「まさか、竹林の中から“見つけ出した”のですか!?」
その通りである。
彼、九尾は、そもそも悪魔に倒されてはいなかった。
“倒されたフリ”をしたのだ。
だから、とある協力者のおかげで九尾は生き延びたのだ。
しかし、敵側に渡った九尾が何故見方を?
その疑問の答えが出る間もなく、使い方を知らないはずの九尾は新の口に魔結晶を1つ入れ、飲み込ませた。
ゴクリと喉が膨らみ、体内に魔結晶が入っていく。
___________ドクンッ!!
新の体が跳ねた。
その瞬間、身体中から淡い青色の炎が吹き出し、全身を包んでいく。
その光は辺りを照らし、大きくなる。
「………………“遅せぇ”よ九尾…マジで死ぬかと思ったぞ。」
掠れた声で、新は言った。
体は完全に再生し、ゆっくりと立ち上がる。
___魔結晶___
ソレは、文字通り魔力の結晶体である。
嵐の発明したものでコレを体内に取り込むと、質量に比例して魔力を瞬時に回復することが出来る優れもの。
新もそんなモノが修学旅行中に完成しそうだという連絡は聞いていたため、その詳細は知っていたのだ。
嵐が引きこもり隊から脱退し、完成した魔結晶を持ち、応援に駆けつけたのは本当に運の良かった事だった。
「フンっ、よく言いますね?“無茶な頼み”をしたのは貴方ではないですか?」
「まぁ、そうだけど。お前を死に際から助けたのは俺だけどな?」
「情報を得てきたのは私ですが?」
何が何だか分からない嵐を他所に、新と九尾が言い争う。
「あ、そう言えば嵐、外に出られたんだな!!家に帰ったらお祝いしなきゃなっ!!!!」
「…………………。」
唐突に言った新の言葉に、嵐は黙る。
「ん?どうしたの嵐さん?」
「………………て…」
「え?はい?」
「人を心配させといてソレはないんじゃないですかぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
スピーカーが僅かに音割れしながら新の頭に響く。
九尾はあまりの雑音に耳を塞いだ。
「どれだけ私が心配したと思っているんですか!?マスターが死んでしまったら…私は……!!」
それが嵐の心の叫びであった。
失いたくないから、自分の弱さを乗り越え、恐怖を乗り越え、外の世界へ飛び出した。
苦手な会話も乗り越えた。
大切な人を救うために助けが欲しかったからだ。
それだけ失いたくないからだ。
「すまん……心配かけて。
でも、助かった。
嵐の発明のおかげでここに立つ事が出来る。
ありがとう。」
彼女の気持ちを察し、新は謝り、そして礼を言う。
すすり泣く声がスピーカーを通して聞こえたが、やがて消えた。
「分かったのなら良いです。ダメなマスターを持つと苦労しますね。」
「本当にごめんって。」
「そうそう、私にも謝ってもらいたいものですね?見せつけるだけ見せつけといて何も無しですか?(ジト目)」
「それより、奴らを。」
「ああ、分かってる。」
「無視ですか!?!?!?」
気を取り直した新達は、悪魔達と向き合う。
彼らが話している間、悪魔達の相手は雷神と風神がしていてくれたらしい。
「復活おめでとう新☆」
「と、りあえず、早く助けて欲しいかな♡っ!!」
「2人もありがとう。だけど“もう少しだけ頑張ってくれ。その後は、俺が“全部終わらせる”。」
「マスター!!また無茶を……!!」
「大丈夫、もう倒れないし負けない。
せっかく嵐に助けて貰ったんだ、無駄にはしない。
それに、“攻略法”も見えた。」
「本当か!?」
それを聞き、九尾は仰天する。
「多分な。攻略の鍵は“母さん”が握ってる。」
「邪神様ですか?」
「そうだ。前に性転換させたれた後に、母さんの魔法を色々聞いたんだよ、色々実験台にされたけど……
その中に奴に効果的な魔法があった。それを使う。」
そう言うと、新は九尾のてから包に入った、ありったけの魔結晶を口の中に放り込んだ。
「ソレは!!」と嵐が止めるが、既に遅し。
魔結晶は新の胃の中である。
瞬間、新の体が真青の炎に包まれた。
その炎は、先程の炎とは濃度が違った。
より濃く、より強い炎だった。
炎の中、新は言った。
ソレは、以前から知っていた魔法。
ソレは、母さんから貰った魔法。
「死神“200%”!!!! “doubleダブル lifeライフ”」
その魔法名を言った直後、新の体に激痛が走り、体の一部が再び水晶と化していく。
激痛もそのはず、double lifeは通常2人以上で使う魔法で、その能力は、他者の命を自分に植え付け、合計2つの命を保持し魔力と身体能力を強化するというものだ。
それをたった一人で行ったのだから体に負荷がかかる。
なんせ、たった一つの命を二つに“分裂”させているのだから。
「キュァァァアアアアアアアアア゛ア゛アアアアアアア゛アアアアア゛ア゛アアアアアァアアアアアアアアアアアアァァァォアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!」
叫びと共に衝撃波が生じ、空間を揺らす。
それと同時に、少しずつ炎が体に吸い込まれていく。
しかし、それでもまだ“器”が足りない。
まだ零れている。
器が足りないならば、また“増やす”だけである。
「死神“300%” “triple life”!!!!!!!
“400%” “quadruple life”!!!!!!!!
“500%” “quintuple life”!!!!!!!!!!!!!
“600%” “sextuple life ee eee E EEEE EE゛ E゛ E゛ E゛ E゛ E゛ E゛ E ゛ E゛E゛”!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
直後、炎は一気に体の中に入っていき、全て体に収まった。
呆気にとられた嵐達は呆然とするだけであった。
400%を超えた時、辺りに繰り出していた衝撃波は威力を増し、悪魔達をも吹き飛ばし、全てが何も出来なかった。
そして、全ての魔力を取り込んだ死神は、そこに立っていた。
全身の約7割が水晶と化し、耐えきれなかった皮膚の殆どに亀裂が走っている。
その隙間から未だなお淡い炎が漏れだし、小さく揺らぐ。
彼の瞳は青い炎のように美しく青く燃える。
それが、彼が全ての命を管理する死神の象徴であるかのように。
お久しぶりです!!
いやはや、とても暑い日々が続き、泳ごうと川に入る少年少女達が次々に流されヘリが飛び回り、台風に怯えながらも書き続けた肆季紙でございます!!
ええ!!そうですとも、自然の脅威は怖いですとも!!
逃げ場なんぞありゃしません!!
そんな中、お気づきでしょうが、今回は一日に粗同時2話更新でございます。
実の所、本当は1話でまとめようとしたのですが、筆が進みに進んでしまい、1万字を超えてしまったのです、はい。
そりゃ、長い文章は読みづらいですとも。
という訳で、2話に分けさせて頂いたという事です!!
今回は話を早めに切り上げ、ここらで少し予告させていただきます。
ついに復活!!死神新!!!!
6つの命を駆使して挑むは謎の悪魔の軍勢!!!!
勝利の鍵を握るは母の力!!
さてさて、どうなる!?
次回!!!!
多分、長くなります。
1万字を超える可能性が高いです。ごめんなさい。
ここまで読んでくださった読者さんありがとうございます!!
では、ばいちゃー!!