第108話 目覚め 1
*第108話 目覚め 1*
「知らない天井…」
何故だか分からないが、テンプレートのような言葉が自然に出た。
確か、逃げている最中、エネルギー切れで上空から落下した。その後、何やら黄緑の爬虫類2匹に話しかけられて……気を失った。
機械である私が、気を失ったという表現が正しいかは不明だが、意識を手放したのは確かだ。
「ここは何処…?」
横たわりながら、周囲を見渡す。
知らない部屋だ。
白を基調とした部屋だ。記録によると病室というものに近い気がする。
そして何だか、暖かい。
私は、白いベッドに寝ている状態らしい。体にコード等は付けられていない。引きちぎれた腕もくっついており、全身が傷一つなく修復されている事がわかる。
だが、修復した記録も、再起動した記録も無い。
そもそも、どうやって起動した?
“記憶”に無い。
「…?」
ふと気づく、自信が行った思考の違和感に。自然と記憶という回答が出た。
Androidである私は、記憶というものは存在しない。あるのは“記録”だけ。何故、記憶という表現がすんなりと出たのか?
「自己解析を行う。」
自身の現状を知ろうと、自身に解析を命令する。が、反応は無い。
おかしい。故障しているのだろうか?故障していた場合、視界にERROR表示が出ているはずだ。そうプログラムされている。
再び、外傷が無いか身体に触れ確認を行う。
ぺたぺたと身体に触れ、気付いたことがある。
「……温かい。そして、“柔らかい”。」
おかしい、私の体は特殊チタン合金をベースとして作られているはず。ここまで柔らかいはずがない。
更に、金属特有の冷たさがない。
原子エネルギーで発熱しているとはいえ、全身に満遍なくほぼ一定の温度が保たれているのはおかしい。
ソレらを凌駕する、最もおかしい事。
「“関節”が…無い。」
実際には、関節はあるのだが、ほぼ外皮によって埋まって居てる状態である。取り外しがほぼ不可能なほど。装甲の隙間もうっすらと感触で分かるが、ほぼ分からない。
コレではまるで……“生物”のようでは無いか。
思考がグルグルと回る。理解が追いつかない。
その時、ベッドの周りを覆っていたカーテンが開いた。
「ーーーあら?お目覚めですか?」
中に入ってきたのは、1人のナース服(?)のようにも白衣のようにも見える服装をした女性であった。
だが、ただの女性では無い。
見かけは女型の人間に類似している点が多いが、背中に3対の昆虫のような節のある脚を生やしており、1対の瞳の上下に小さな瞳があり系3対の瞳がついている。
「あら、ごめんなさい。久々の大仕事だったので、少しだけ力を解放していた事を忘れていました。」
女性はそう言うと、手で顔を覆い隠し、開く。
すると、先程まで見えていた3対の内2対の瞳が消えていた。
「刺激が強すぎたかしら?」と昆虫の足で髪をいじりながら恥じらっていたが、色々ツッコミどころが多すぎてまとまらない。
「ん?起きたのか?」
もう1人カーテンを潜り中に入ってきた。
1人の男である。ただ、その顔には見覚えがあった。
白衣を着ているとはいえ、見間違えるはずがない…
あの時の恐怖がフラッシュバックし、全身の筋肉がこわばり、震える。
「…………死神っ!!」
震える、1号機を他所に、女性は死神に話しかける。
「あら?正体を明かされていたのですか?」
「いや、政府のヤツらがつけた渾名だ。皮肉にも、的を得てるがな。」
「偶然ですか……たまたまとはいえ、驚きですね。ハナから人間に、神を見抜く才があるとは思っていませんが…。」
「それができるなら、宣戦布告なんかしないさ。バレた時点で損益が大き過ぎる。」
目の前で、かつての敵と女性が談笑を始めた。
何が起きている…。理解ができない。
すると、死神がこちらを見た。ビクリと全身が震え上がり、身構える。
「そんな事より、アラクネ。コイツの身体に異常がないか確認したあと新しい服を見繕ってやってくれ。」
「そうですね。病室に入ってから1週間同じ服装なのも可哀想ですしね。」
どうやら私は1週間“眠っていたらしい”。
頭が混乱する。簡単に出る普段と異なる表現にも違和感を覚えるし、目の前に恐怖の対象である死神がいる。頭が爆発しそうだ。
とりあえず1号機は、テキトウな答えをこじつけた。
「そうか、コレは悪い夢だ。寝よう。」
「「いや、寝るな。」」