第106話 ASURAvs死神 決着
*第106話 ASURAvs死神 決着*
目と鼻の先で大鎌は止まった。
何故か助かった。人工知能が再びこの状況を打破し、死神に勝利する方法を模索する。しかし、何度もエラーを吐き続ける。
不可能だと。分かっている。分かっているが、下された命令は勝利だけである。
修復は終了したものの、破損が酷く、大量にエネルギーを消費した。辛うじて動ける。状態は100%回復できだ訳では無い。多く見積って20%。
酷く重く感じる体を無理矢理動かし、チェーンソードを棒立ちの死神に振るう。
直撃…はしなかった。刃が死神に届く直前で、死神は表情1つ変えずに人差し指と親指の先で刃を挟み完全に勢いを殺しきってしまった。
有り得ない。人間にそのような力など持っているはずがない。死神の力は人知を超えている。
酷く空気が冷たい。排熱口から急激に冷却されているような感覚。奥歯が震える。
彼は、まるで……死神のようだった。
「…………なるほど。“そういう事も有り得るのか”。」
ふと死神が呟いた。
言葉の意味は理解できない。何が有り得るのか?分からない。
「だが…うん。そうだな……。考えるのは後にしよう。とりあえず、この戦いを終わらせよう。」
死神は呟きながら、何かに納得した素振りを見せると。
突然全身に衝撃が走り、壁に叩きつけられた。ナノマシン達が直ちに修復を開始した。
加減されていたのか、全身の修復は直ぐに完了した。しかし、熱暴走は収まらない。オーバーヒート。視界が徐々に薄れ。やがて機能が停止した。
***
「嘘だろ…」「そんな…」「だってアレは…」「我々の」「最高傑作だぞ…」
目の前の光景が、飲み込めない。
世界最高峰の知力と財力を結集させ生み出された、最強のAndroidが、たった一人の少年に倒された。
有り得ない。
有り得るはずがないのだ。
「アレを倒すか…!!ふざけやがって…」
アーノルドが呟く。最高の科学者が、震えている。
Android3機の設計の殆どはアーノルドが担っていた。
アーノルド無くしては、ASURAだけではAndroid3機を製作できはしなかった。
天賦の才能。
その最高傑作でさえ、倒せなかった。
「……実に…面白い……最高だ…!!」
***
「では、コレからは俺の自由にさせてもらう。」
死神は、三本の大鎌を回収しながらそう言った。
無刃、有刃の大鎌を両手に持ち、壁に突き刺さった機械仕掛けの大鎌を、無刃の大鎌で引っ掛け器用に引き抜く。引き抜いた大鎌が地面に落ちると同時に、発熱した2号機も力無く地面に落ちた。
そんな2号機には目もくれず、機械仕掛けの大鎌を蹴り上げ、刃部分を地面に突き刺した。
死神は、突き刺さった機械仕掛けの大鎌に飛び乗った。
機械部分に右足を乗せ、左足を柄に乗せる形だ。
そのまま、ジェットエンジンを起動させ飛行し、防弾ガラス越しの操縦室へと向かう。そして、そのまま2つの鎌を振るい、防弾ガラスを砕いた。
青ざめる人間達を見下ろしながら、死神は鎌をホバリングさせる。
「ふむ、とりあえず俺の行動は黙認しろ。
何も詮索するな。そうすれば、平和的な交渉にも応じてやる。場合によっては、“俺が協力する体制”をとってやってもいい。
ぶっちゃけ、お前らに関わること自体が俺にとってグレーゾーンなんだ。
面倒事にするな。以上、俺は帰る。」
そのまま、死神は飛び立ってしまった。
残された研究者達は、しばらくの時間呆然としていた。
助かったという気持ち半分、死神の態度の急変に理解が追いつかない。
ここまでの事をしておいて、まさか死神は敵対する意志を持たないとでも言うのか……?
その後、直ぐに世界各国との会議が行われたが、死神の要望通り、詮索をせず、行動を黙認することが満場一致で決定した。
“ただ一人を除いて…”