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第97話 変身

*第97話 変身*




______Take2_______




2031年5月5日へ再び遡った新達は、またも中谷蒼の追跡を開始した。

次は何時何処で死ぬかがわかっている。

追跡しながら嵐は先程起きた事、分かっていることをリーラーに情報を提供した。


「それじゃぁ〜中谷蒼ちゃんは、たまたま巻き込まれたっていうことぉ〜?」


「……結果的にはそうなります。」


「それにしても、マスターの姉貴が…」


「リー口を慎みなさい…」


「…悪ぃ。」


しかし、新にはそんな言葉は耳に入らず、ただ中谷蒼と時姉達を救う方法だけを考えていた。

極力魔力を使わず、自分自身が人間ならざるものと勘づかれず、彼女達を確実に救う方法。

それを考えているが、思いつかない。

条件が悪過ぎるのだ。

下手に魔力を使って記憶改竄するにも今は日中、人通りも多い。

全員の記憶をいじるにも手間がかかる。


そうこう考えているうちに時刻は午後3時に刻一刻と近づいていた。

そして、中谷真子があの横断歩道へと続く道を歩みだした。

初めは彼女達にあの横断歩道を歩かせなければ良いのではと考えた。

しかし、犯人の目的は彼女達では無い。

時子なのだ。

しかも、どうやってあの横断歩道を渡らせないようにする。

ここは都市部から離れているとは言っても東京だ。人通りが少ないと言っても他県の少ないとは訳が違う。

たとえ工事中などの看板を設置しようにもそれより先に歩いている人がその意味を無くしてしまう。


どうする。どうすれば…


何か、何かコレを解決するヒントは無いのか。

辺りを見回しても無数の通行人しかいない。

サラリーマンから休暇を楽しむ学生、親子、老人……


ふと、目が止まった。

たまたま視界に入った人物が、その鍵を握っている気がしたのだ。

その人物とは、親に連れられて歩く“子供(ショタ)”である。

別に新の趣味がそっち系に手を出してしまったとかそういうのではない。

もっと具体的に言うなら、新の目に止まったその子供が着ていた“服”である。


そうだ…その方法なら…


嵐達は新の視線の先と新を交互に見ながら訝しげな目を向けているが、新はそれよりもイメージを高めた。

彼女達を救う方法。

それに必要な力を、“(ライフ)”をイメージする。

そして、必要な道具を創造する準備を終えた。

それと同時に横断歩道の信号は青へと変わった。


「あ、やべっ!!」


「マスター!!中谷様達が!!」


「マスター!!」


リー嵐ラーが順に声を上げる。

しかし、その瞬間、新は既に駆け出していた。


彼女達を救う方法。

この世界で魔力なんてものは人間には知られていない。

ならば、極力魔力を現代に存在するものに変えてしまえばいい。

彼女達を救う。

救うならば、それに相応しい人物、役割になれば良い。

それに最も近づける人物を新は知っていた。

彼の力を呼び覚ます。

新は先日の戦闘の結果魔圧痛になった。

魔圧痛は基本的には筋肉痛に近いものということが分かった。

そもそも筋肉痛とは筋肉の筋繊維が傷つくことによって起きるものだ。しかし、その傷は筋繊維を増幅させて修復する。それが筋肉を鍛えるというものの原理だ。

ならば、魔力細胞が圧迫されてできた傷ならば、“魔力細胞を増幅させて修復する”。


つまり、全身魔圧痛になった今現在の新の魔力量は過去のものを遥かに上回る量を保有していることになる。

それならば、再現することも可能だろう。


この世に存在する者でこの立場に相応しい者。誰かを救う、救える正義の味方、“ヒーロー”になればいい!!


「死神50%“武神”50%」


その瞬間、想像が創造に変わる。

走りながら、手に握られた武神と同じモデルのベルトを腰に巻き付け、もう片方の手に握るカードを構える。

そして、ベルトのボタン、武神の押したのとは違う下のボタンを押した。


瞬く間に辺りに音楽が鳴り響く。

その音楽は新の怒りと戦闘心を表現するように奏でるオーケストラ。

それを面白く思ったのか変に思ったのか、周りの若者がカメラを構え出す。


(それでいい)


顔には生憎認識阻害、そして、カメラには新を写すとノイズが走るように完全に綺麗に映らないような魔法がかかっている。

ならば存分に使える。


そして、新はその言葉を叫ぶ。

自分をヒーローに変える言葉を。




「変身!!!!」




ベルトの前にカードを通過させると、オーケストラはクライマックスを向かえ、体の周りに鎧が現れ、瞬く間に全身を仮面のヒーローの姿へと変えた。

周りの人々も少々驚いている、仮面〇イダーは存在しない空想上の存在キャラクターと思われているからだ。

もしくは“撮影”と思われればそれでいい。


新は加速する。

それと同時に、付近の曲がり角からドリフトしながら急カーブをした鉄の車が姿を現した。


(間に合う!!)


新は更に加速し中谷蒼と衝突する1秒前、中谷蒼から5m離れた位置、鉄の車の間に立ちはだかる。

そして、緊急停止と体の回転を利用した僅かに強化し、人間の持てる最大限の力に調節した右拳を鉄の塊に撃ち込んだ。


鈍い音と、金属と金属がぶつかる音が辺りに響く。

新の拳は鉄の車体を捉えた。

しかし、所詮人間の持てる力。時速100kmの車を止められるわけが無い。


だけど、これが特撮やら映画やらの撮影だと思われているならば、人間の持てる力を僅かに超えてしまっても構わない!!


腕に魔力を流し調節を試みる。

車体をは完全に破壊せず、且つ、自分に負担がかかり、車体を止める力。

コンマ秒と進む時間で調節し、鉄の車の衝撃を吸収しながら拳を突き出し、地面を3m程足で押されながらブレーキをかける。

そして、停止させる。


しかし、計算を誤ったのか腕の鎧に亀裂が走り、隙間から衝撃で潰れ砕けた骨によって吹き出した血が漏れ出す。


それでも、新は未だ前へ進もうとする車体を停止させる。


チラリと仮面の顔で背後を見ると、そこには尻餅をついた幼い中谷蒼の姿と彼女を必死に守ろうとする母親の真子の姿があった。

腕から吹き出す血のせいか衝突音のせいかは分からないが、蒼が泣き出してしまった。

真子は硬直しているようで動けない。

ぼうっとしている場合じゃないだろおい…!!


しかし、新は思い出す。自分が今まで読んできた数々の2次元という物語のヒーローの在り方を。

こんな時どう声をかけるべきか。

どう接するべきか。




「ハーっハッハッハ!!!!お嬢さんもう大丈夫だ!!

何故って?それは……そう、私が正義のヒーロー仮面〇イダー“ハデス”だからさ!!!!

お嬢さんのお母さんも早くお嬢さんを連れて離れていなさい!!」




安心させるため自信に満ち溢れた音程口調で、仮〇ライダーハデスと名乗った。

ハッとしたように真子は蒼を抱えて鉄の車の進行方向から脱した。

しかしその瞬間、さらにアクセルを踏まれたのか車が新を押すパワーが増す。


何故今アクセルが踏み込まれたのか。

答えは明確。

鉄の車の操縦者のターゲットが脱走を図っていたのだ。

横断歩道の目の前に止まっていた車。

その車から時子とその夫は急いで扉を開けて飛び出した。

そう。時子達の死因も衝突事故によるもの。

ならば、あの時死の可能性、一番狙いやすい場所。

それは、ターゲットが信号の前で1番前に止まった時である。

犯人が彼女達を殺そうとしたタイミングにたまたま中谷蒼達がここを通ってしまったのである。

それが中谷蒼の死因である。


後部座席のベビーシートに座る子供を連れて時子達は逃げようとしていた。


ジリジリとパワーが増し、新が徐々に押される。

だけど、押し切られる訳にはいかない。

新は、前へと足を踏み出し、左手に力を入れ、懇親の力で車体に撃ち込む。

車体は鈍い音を立てながら僅かに後ろに下がる。

そして両手で1歩、また1歩と前へと進む。

彼女達が逃げ切るまで絶対に。


しかし、操縦者も諦めが悪いのか普通の車とは桁違いのパワーで車を動かした。

外見からもわかるようにエンジン部まで改良されていたようだ。“リミッターが切れている”。


だけど…




(俺の家族を…そう簡単に殺されてたまるかぁああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!)




残った力を振り絞り腕に力を入れ足を前に、車体押し返す。

道路にタイヤの溶けた黒い跡を残しながら車体が後ろへ押される。


そして、ついに。

時子は車の進行方向から外れ避難した。


すると突然。車体はバックし逃亡を図ろうとする。

しかし、車体は上手くバックする事が出来ない。

何故なら、新が車体を包む鉄板を“掴んでいる”からだ。

右手は確かに拳で、掴みようが無い。

じゃあ左手は?


俺はただ1度として左拳と言った覚えはない。

力を入れ手打ち込んだのは飽くまで左手。“手刀”である。

左手の手刀は分厚い鉄板を貫通し、持ち手を作っていた。

そこをガッチリと掴み逃亡を阻止していたのだ。


(逃がすわけねぇだろ!!)


新は右拳を手刀に変え逃げようとする鉄板に撃ち込み、更に持ち手を作る。

そして、そのまま車体を“持ち上げた”。

最初は前輪。次は後輪。

徐々に浮遊する車体はグラグラと揺れている。

中で犯人が暴れているのが新の視界を通して命が透けて見える。

犯人はどうやら2人組のようだ。


新は掴んだ車体を徐々に高い位置に持ち上げ、一定の高さまで上がるとそれを持ちながらゆっくりと回転し、一周し、向いていた方向が変わった瞬間、イナバウアーをする感覚で車体逆さに向ける形で地面に叩き落とす。

車体は僅かに歪みながら上下逆さまとなった。

見たところ車体を包む鉄板には出口らしきものが無い。

想像するに、犯人は脱出不可能な鉄板に宙ぶらりんで頭ぶつけて気絶中だろうか。

命を見る限り、生命力はあるが動かなくなっていた。

気絶しているのはほぼ間違いなさそうだ。


そして、周りを見渡し探す。


中谷蒼は生きている。

時姉は生きている。


二人共救えた。


コレで終わった。


やり遂げた。


突然の脱力感に襲われるが、注目を浴び続けているこの空間には居づらい。

なので、先に撤退することにした。


新は足に力を入れ走り出し、ビルとビルの間の路地裏を駆け抜け、壁を蹴り逃亡し、その後、変身を解除した。


貯水タンクしか置かれてないビルの屋上から地上を眺めると、少々騒ぎになっているように見える。

しかし、直ぐに警察が駆けつけ自体は収束された。


その光景を見て、貯水タンクの上で空を見上げながら寝転がり、ようやく気を緩めた。


「これでやるべき事は終わったんだ…」




* * *




後々、突然現れた仮〇ライダーは撮影説と実在説と2つで騒がれたが、その当の本人が二度と姿を現す事は無かった為、自体は迷宮入り、都市伝説として語られることになった。

未だ週刊誌には謎の仮面ラ〇ダーの正体は!?のような項目が載っていたりするらしい。


「…………………………というのが、“この世界”の様子です。マスター。」


新は元の時間に戻り、近所のファミレスで軽食を取りながら嵐の情報を聞いていた。

リーラーは期間限定季節のフルーツパフェ大盛りをそれぞれ頬張っていた。

嵐と新の顔は至って真剣。


何故なら…


「過去を変えたのに“元の世界に戻らない”…この世界はマスターの元いた世界じゃないんですね?マスター。」


「ああ、間違いない。」


2人を助けたのに時間は元に戻らず、新はどうして違う世界になったのかを模索しながら、この世界の情報を嵐に集めてもらっていたのだ。


「因みにですが、元の世界とこの世界はどう違うのですか?やはり、あの都市伝説でしょうか?」


新がコーヒーを啜るのを止め、小皿にカップを置いた。


「例の仮面ラ〇ダーの都市伝説。あれは元いた世界には存在した。興味本位で読んだ週刊誌にそれらしい記事が載っていた記憶がある。」


「では、何が違うのでしょうか?」


新はこの世界は元の世界とは別世界だと、それだけで確定付けられるものに気づいてしまった。

それは間違えようがなかった。新にとって分かりやす過ぎたのである。


この世界に、さっき助けた中谷蒼は存在するし生きている。

だけど、元の世界と決定的に違う点がある。


それは…


「元の世界、俺と知り合いで且つ友人だった人が赤の他人になっている。」


どうしてそうなったかは分かっている。

新は過去を変えて中谷蒼を助けた。

そこまではいい。


だけれど…同時に、“助けてはならない”人物を助けていたのだ。




「“会長さん”……“西園寺百合華”が顔も合わせていない赤の他人になっていた。」




そして、その原因は


「俺が考える原因は、時神を助けた事…そこにあると踏んでいる。」


「時神様…ですか?」


「え?いつの間に?」


「どうやったんだ?」


嵐は少し眉をひそめた。リーラーはスプーンの上に乗った一口大のアイスクリームを咀嚼し飲み込んだ。


「嵐は知っていると思うが、1度目のタイムスリップの時、中谷蒼と同時に時神が死んだ。」


「え?どういう事?」


その事を初めて耳にするリーラーは少々混乱している。


「俺も最近知ったんだが、時神は丁度16年前に人間と結婚して、その結婚をするために人間に転生していたらしいんだ。

そして、あの場所に時神が居た。

中谷蒼と轢いたその車の一直線上。横断歩道の前に止まっていた1番前の車だ。

あの車に時神が乗っていたんだ。」


「マジか…」


「それで、何故時神様が原因だとそう仰るのですか?」


新は聞かされた時冗談だと思っていたその言葉を口にした。


「私は死ぬらしい。時神はそう言っていた。」


「「「!?」」」


「最初、中谷蒼が死ぬと死亡予知記録デス・プリダクション・レコードに書かれていた時、中谷蒼が死ぬから時神が死ぬと表示されてしまったんだと思っていた。

だから、中谷蒼と時神を助ければそれで元に戻ると思っていた。」


だけど、と奥歯を噛み締めながら新は続ける。




「時神、時姉はあの場所、あの時間、元の世界でも死ぬはずだったんだ。」




「“そうね”。新が予想する事は合ってるわ。」




嵐とリーラーはビクッとその声の方を見て驚いた。

何故ならその場所、丁度廊下を挟んだ向かいの席に、女性が食事をとっていたからである。

髪は長く美しい白い髪。雪のように白い肌。

そこがファミレスでは無いかのように優雅に食事をとっていた。


「久しぶりだな。“時姉”。」


「久しぶりね。新。」


口元を拭きながら神藤時子は言った。


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