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第94話 絵の具

*第94話 絵の具*




「えーっと…?つまり、嵐、リー、ラーも着いてくると?見張りするために?」


「はい。」


「違うぜ?」


「違います。」


「「え?」」


新のなげかけた質問は、見事にバラバラ。唯一揃ったのは、リー、ラーの返答に対する新と嵐のほうけた声だけだった。


「貴女方もマスターを監視するために行くのですよ。何しに行くつもりですか。」


「ええ~?そりゃ、5年ぶりに動けるようになったから暴れるためだろ?」


「5年ぶりに動けるようになったのですから、マスターともっとお近づきになる為に付いていこうかと。」


「うん。バラっバラ♡」


新は、顔をひきつりながら\(^o^)/ポーズをしていた。

確かに、彼女らの言い分も分からんでもない。

彼女達は約5年間ヘッドホン型の小型ロボットに記憶というデータを押し込まれていたのだから、自由は十分ではなかっただろう。


「貴女達。我々がやるべき事はマスターをお守りし、マスターの力になる事を第一に考えることなのです。いくら感情を頂いたからと言って、使命を放棄するのは見過ごせません。」


と嵐は私欲まみれの2人に注意する。

口調からして、双方の性格はラーは運動したい系スポーツ女子、リーは、ゆるふわ系おっとり女子だろうか?

対して嵐は、アイ・アム・リーダ系真面目女子と言ったところだろうか?


「て言ってもー、嵐だって指名守るどころか。」


「マスターの傷をつついたり。」


「マスターを全身拘束したり。」


「裏では全く真面目口調じゃなかったり。」


「マスター大su…「それ以上はストォーーーーーっプ!!!!!!」」


「「はい、口調崩れた。」」


「なっ!!図りましたね貴女達!!!!」


「前言撤回。実は嵐も私欲に塗れたキュートガールでした。」


「「当たり~」」


「マスターまで!!」


嵐の手によって復活を遂げたリーとラー。

先日までの姿とは似ても似つかない姿の2人は、早速嵐をいじり始めた。

喧嘩をしている訳では無いので止めるつもりは無い。


そんなやり取りを数分間続けた後、新、嵐、リー、ラーは格納庫に来ていた。


何故格納庫に来たかと言うと、新の魔法で過去に行くとは言っても、時間転移は使ったことの無い魔法であり、高難易度の魔法であるため、嵐の発明品からサポートアイテムとなるを取りに来たのだ。

いつの間にそんな物を発明していたのかと尋ねると、「暇でしたので。」と返答された。口調は元に戻っていた。恐ろしいコ…


そして、その発明品の目の前までやってきた。


『てってけてってて~】


「タイムマシ~ン」


青狸……猫型ロボット風に嵐は紹介した。

僕はタヌキじゃな~い!!

しかし、タイムマシンとは言っても、ドラ何エモンのような形ではなく、これまた見覚えのあるカブト虫の様なフォルムをしているメカだった。いっその事全身モザイクかけた方が良いのではないかと思えてきた。


「「マスター全身モザイクかけますか?」」


「なんですか!?」


言いたかった事をリー、ラーがそのままぶちまけた。嵐はツッコミをいれるが、どちらかというとボケているのは嵐の方である。

そして、全員がメ○ブトンに乗り込むと、新、リー、ラーは真顔になった。

なんということでしょう、中までまんまメカ○トンでした。


「どうかしましたかマスター?」


「ウン、ゼンシンモザイク、ニシヨカ?」


「だからなんでですか!?」


「著作権的に?」


「な、何を言いますかマスター!!正真正銘!!私が開発したカブト虫型タイムマシン、通称ロボカブトですよ!!」


「うん。名前もパクってた。御二方、判定お願いします。」


「「嵐OUT」」


「なんでですか!?」


嵐の意外な趣味を目の当たりにした所で、いよいよタイムトラベルを始める。


「ではマスター、このロボ全体に時神の魔力を流し込んでください。その後は私がやります。」


言われた通り、新はロボカブトに魔力を流し込む。すると、フォーンと少しずつ起動音が機内の空気を揺らす。


「魔力充電完了、ロボカブト発信します。」


「では皆さん御手を拝借!!」


「はい?」


「「はーい。」」


「エイト!!」


「セブン!!」


「シックス!!」


「え?ふぁいぶ?」


「「「フォー、スリー、ツー、ワン、ターーーーーーイム、ボ○ーン!!!!」」」


「なんでですかその掛け声は!?!?」


そして、新達は過去へとタイムトラベルに成功した。

16年前、2031年5月5日へと旅立ったのだ。




* * *




タイ○ボカーンと時を遡った先には教科書よりためになるビックリドッキリな豆tis…」


「なんのナレーションですかマスター。それと色々著作権的にヤバそうなのでやめてください。」


「著作権的な意味で全身モザイクかけないと出せないようなメカ作った嵐だけには言われたくない。」


なんだかんだで時間を遡り、辿り着いた2031年5月5日。

現在はロボカブトに搭載されているステルス機能を使いながら、日本の遥か上空を飛行中。

ロボカブトの飛行する姿は、ステルス無しで見ると、ご丁寧に羽を広げて地面と体を並行にさせて飛んでいた。

因みに、本物のカブト虫の飛行する姿は、このロボカブトや、ムシ○ングの様な地面と体を並行にさせて飛んだりはしない。

実際は赤ん坊を両脇から抱え人に手渡すような姿勢で、体を斜めにして不格好に飛んでいる。


「さてと、それでは委員長さんを探しますかっと。」


新は機内の床を見つめるようにして委員長さん、中谷蒼の命を探す。

まずは感覚的にどの辺にあるかを上空から確認し、どの都道府県に住んでいるかを割り出す。

そして、大体の目処がついたらロボカブトを降下させ、正確な位置を確認する。


すると、大体の目処はついていたお陰か簡単に見つかった。

場所は未来の中谷蒼が住んでいた場所と同じ東京。しかし、一光学園のある位置とは離れた神奈川と東京の境目付近の沿岸沿いに建つマンションにあたる場所だった。

新の知る中谷蒼が何処に住んでいたかは知らないので、未来の住む場所と変化があるかは分からないが、それでも、一光学園に通うには、いくら日本の中でも小さい県に含まれる東京でも時間がかかるのではないかと思える場所だった。


しかし、マンションの上空から1人の命だけを見るのは少々見づらい。何故なら、いくつかの命が重なって見えるからだ。

なんというか、見ていると段々ややこしくなってくる。


しばらくの間観察し、父親が出勤した後、午前8時頃、中谷蒼の命が動いた。母親と思われる命と一緒にマンションの外へ出た。

流石にロボカブトに乗りながら観察し続けるのは難しくなってきたので、ロボカブトを自動操縦に切り替え、新達は機体から降り自分の足で追跡することにした。


この時間の明日が初めての誕生日という事もあって、中谷蒼の両親も機嫌が良さそうに見える。

というか、親父の方がテンション高過ぎて正直ひいている。スキップしながらマンションから出てきた髭の生えたダンディーな親父の姿など予想できなかった。

思わず吹いた。


新達は歩いて追跡することになったのはいいが、そこで1つ問題が発生した。


「嵐さん。嵐さん。」


「…なんでしょうかマスター。」


「ロボカブトから出て外気に晒された瞬間、引きこもる場所が無くなったからと言って、俺の“服の中”でひきこもらないで貰えます?」


そう、嵐の現在状態はこうだ。

白髪と青い瞳はそのままにして、黒パーカーに似せた武装の中に、嵐はスッポリと収まり、新の意志とは関係なく、新におんぶされる形となっている。

しかもその間、背中で携帯のバイブレーションのようにガタガタと震えている。

なので…


「ごめん、嵐、“スッゲェー痛い”。マジで痛い!!」


「!!ま、マスター!!も、申し訳ございません!!直ぐに出ますから!!」


「痛い痛い痛い!!暴れるな!!というか動くな!!痛いからマジで!!」


「す、すみません…」


嵐バイブレーションによって新の背中は衝撃多発地帯となり、そのせいで、新の傷が触れられ激痛がはしっていた。

嵐がそのことに気付きじたばたと暴れた後、じっとしているように言われ新の体に軽くしがみつく形になった。

そしてその後、ゆっくりとなるべく触れないようにパーカーの外へ排出された。

その頃には、新は地面に蹲りながら爆風によってできたクレーターの中で死んでいるように倒れていた。

せめて言いたかった、狼牙○風○。


「ごめんなさいマスター。」


「うん。次から気おつけて…」


「それにしても、どうしてそれ程まで激痛がはしるのかしら?」


「それが、原因不明だから私にも処置がしょうがないんです…。」


ルーの質問に、嵐が答える。

しかし、リーは何か考えているのか腕組みをしていた。


「何を考えているのリー?」


「うーん…」


「なんですか?言ってみてください。」


「いや、マスターの見えない傷の事なんだけどさ…」


「俺の傷が?」




「なんか、“筋肉痛”に似てね?なーんつって!!ハッハッハッハー!!」




ピッシャーン!!と新と嵐の頭上に落雷したような衝撃が走る。しかし、リー、ラーはそれに気づいていない。


「そんな訳ないでしょ?そんな初歩的なこととっくに検討済みでしょ?ねぇ?」





「「…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………。」」




「え?考えてなかったの?」


「ハッハッハッハ………え?マジで?」


数分後、新は自信に回復魔法ではなく、成長促進魔法を全身にかけ、全身の激痛から解放された。

結果的に言えば、リーの単純思考で思わぬ発見をした。

身体の痛みの原因は魔力、そして、オーバーチャージによる負荷による魔力細胞圧迫。

筋肉痛に近い状態ではあるが、筋肉を使っていた訳では無い。

名付けるなら、魔力性細胞圧迫痛、略して魔圧痛だろうか。

と考えながらも、若干そんな簡単な事に気づかなかった気恥しさが新と嵐に残った。




* * *




新達は中谷蒼の追跡を再開し、しばらくよ時間が経つ。

しかしながら、至って平和で親子仲良く買い物を楽しみ、母親は愛娘に渡す誕生日プレゼントを選んでいるのか、蒼の目に写すものををよく観察していた。この時の、中谷蒼は年相応の女の子らしい趣味趣向をしているようで、愛らしいユニコーンのぬいぐるみや、キラキラ光るラメ入りのペン。フリルの付いた可愛らしい服。特に、ままごと系の物に目を惹かれていた。

昼食にはファミリーレストランで玩具付きのキッズプレートを頬張っていた。


その光景を見ていると、とても中谷蒼が死ぬようには思えない。

しかし、死亡予知記録デス・プリダクション・レコードに書かれた文字は変わることは無く、今日を指していた。


時刻は午後2時を過ぎる頃。

彼女らは近所の公園へと来ていた。

最近の公園は昔のブランコやシーソー、滑り台が並ぶ素朴なものもあるが、ここの公園は、現代的技術を活用した磁力の反発力を利用したトランポリンに近い遊具や、踏むと音の鳴るタイルが敷かれたり、簡単な動作でゲームが楽しめる壁があったりする。

水道も浄化装置が付けられ、パイプのサビが出てきたりする事は無い。


中谷蒼はその中でも音の鳴るタイルがお気に召したようで少し覚束無い足取りで母親とカエルの歌を演奏していた。

中谷蒼は一歳に満たない割にはワンパクで体力が高いようだ。しかし、暫くすると遊び疲れたのか少し眠そうにし始め、母親に抱かれて寝息をたて始めた。

それから30分程ベンチで休憩してた後、母親が中谷蒼を抱きかかえて歩き始めた。


時刻は3時を過ぎる頃だった。

公園からさほど離れていない交差点。

何故か空気はやけに静かで、空気が鉄鉛になってしまったようだった。

信号待ちをしている間に歩いていた揺れで起きてしまったのか中谷蒼がムクリと目を覚ます。

隣で点滅する信号を横目で見ながら中谷蒼をあやしていると、自分で歩きたがったのか、母親がそっと冷たいコンクリートの上に立たせた。

それと同時に、隣の信号は赤に変り、車道の信号も黄色、赤の順に変化する。

そして、目の前の信号が青に変り、信号待ちをしていた歩行者達が一斉に歩き出す。

無論、彼女らも同様だ。

しかし、中谷蒼は寝起きのせいか、それとも疲れのせいか、足がもたつき歩道に入る直前で蹴躓いてしまった。

母親が中谷蒼を起こしあげようと手を伸ばした。




その瞬間、真紅の絵の具が宙を舞った。




一瞬の出来事のはずなのに嫌にスローモーションに見えるそれの出どころを視線で探る、それは母親の腕から出ていた。

絵の具が弾けるように吹き出したその断面は、白い骨片が剥き出し、筋肉の繊維や血管が破り捨てされたように無残に横に靡いていた。

そして次に目に入るのは、目の前を通過する鉄の塊である。

それは文字通り、鉄板に覆われた戦車のような車である。明らかな改良車両は信号待ちをしていた白い車体の形をスイカを叩き割るように崩しながら突撃した。

そして、ぶつかり合うその隙間から小さな手がはみ出し、糸が切れたようにソレはぼとりと地に落ちた。

その時、自分の手とは比べ物にもならない小さな手の中にも血は詰まっているのだということを知った。

そして、数秒後、母親の目の前に中身の入った小さな靴が転がった。


死亡予知記録は嘘など示さなかった。

それは紛れもない真実であり、たった一瞬の出来事で、残酷で、信じたくない程呆気なく失った。




2031年5月5日午後3時11分3秒


中谷蒼は死んだ。




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