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第93話 タイムパラドックス

*第93話 タイムパラドックス*




「今までの時間がタイムパラドックスでできた時間…ですの…?」


「ああ、ほぼ間違いない。」


リズの言葉を新は僅かに頷いて肯定する。

薄暗い部屋の中がより一層、静けさを増したのは気の所為ではないだろう。

新が納得したくなかった事実。

今まで過ごしてきた時間が、タイムパラドックスによって出来た別の時間だったという事実。


「で、でも、それは少しおかしいのでは?」


「……一応、理由を聞こうか。」


リズが抗議したい大体の内容は予想がついている。


「タイムパラドックスというのは、“過去を書き換える事によってできる現象”でしたわよね?でも、今までの時間がタイムパラドックスによって出来た時間だというのが本当ならばそれは…」


「“未来を書き換えた時間”、って言いたいんだろ?」


リズが核心を口にする前に、新がそれを言った。

予想通りの内容だったからだ。


「え、ええ。その通りですわ。」


リズは少し驚きながら新の言葉を肯定した。

新は、胸にある内ポケットから死亡予知記録デス・プリダクション・レコードを取り出し、開きながら言った。




「その考えは正しい。

タイムパラドックスは過去を書き換える事によって未来が変わる現象。

なら、その反対は?起こり得るんだよ。

そもそも時間っていう概念は、時姉、時神によって生み出されるものだ。

時間そのものが時神を中心にして回っていると言っても過言ではない。

時神にとって、その時間が“過去”であるならば、タイムパラドックスは起こり得る。

現に、時神にとって昨日までの時間が“過去”であり、元に戻った時間が“未来”なのだから。

少しややこしいが、まとめると、今までの時間を過去としての書き換え、過去を未来として変えてしまったということになる。

うん。自分で言っといてなんだが、ややこしい。」




神語で書かれた中谷蒼の名前をそっと指で撫で、見間違いでないことを確認した後、パタンっと死亡予知記録を閉じた。


これが今回起きた現象の全貌であると予想する。

この予想は、先程も言ったようにほぼ間違いない。

出なければ、手に持つコピー用紙のデータのバグが怒るはずがない。

因みに、何故このようなバグが発生したかというと、このタイムパラドックス自体が異例だからである。

普通じゃなく、ややこしい。

それによって、書類やパソコンのデータだけが前の時間と現在の時間を確定できずにいたからだ。


「で、では、何故死神様はタイムパラドックスの影響を受けていないのですか?

もし仮に、未来の書き換えによるタイムパラドックスが起きていたのなら、死神様もその時間に合わせて記憶が変化するのではないのですか?」


とリズは新に問う。

リズの指摘は的を射ていた。まったくその通りである。

新はタイムパラドックスの影響を受けていない。

でなければ、中谷蒼の事を覚えていないからだ。


「ああ、“普通”ならそうなる。ただ、俺だけが他の神や、生命達とは“例外”に当たるんだよ。

何故なら、俺自身も“時神の能力”が使えるからだ。

俺自身も時神として扱われているんだよ。

更に言うならば、現在時姉は人間として死んでいる。つまり、正式な時神が不在となっている。

だから、今現在の時間では俺が時神ということになる。

死神は、全ての命を管理できてしまう。ソレがたとえ、神の命だとしても。」


「それじゃぁ…つまり、死神様は…」


新の説明の答えを述べる前に、リズは新の見に起きている事態の答えへと辿り着いた。

新は静かに首を縦に降る。


「ああ、タイムパラドックスの影響を受けなかった。この世界では、死んだ人間を生きているはずだと騒ぐ異常者だよ、まったく。」


この世界が可笑しいのでは無い。

新が可笑しいのだ。自分一人だけが異常者であり、この世界とは外れた時間を過ごした、迷い神だ。

突然、今までの普通を奪われ、皆は自分を異常者と見る。

それが新にとってどれだけ…


「…悲しいですわ」


「んぁ?」


不意をつかれたように、新の口から変な声が漏れ出す。

しかし、リズはそれに気づいていないのか何も言わない。

リズの表情を見た新は目を見開いた。


「悲しいではありませんの…。そんなの、あんまりですわ…。」


リズは涙袋を膨らませていた。

自分のことに対して悲しむのではなく、新のために悲しんだ。

他人の為に悲しむことができる人間はこの世の中、一体何人存在するのだろうか。


新は、右手で顔を覆いため息を零す。

そして、左手でリズの頭をワシャワシャと撫でた。


「大丈夫だ。リズ。別に悲しむ必要は無い。」


「でも…でも…」


リズは啜り泣きながら何かを話そうとした。が、その泣き声で、内容は聞こえなかった。本人もそれに気づいているだろう。

新はリズにハンカチを渡してやる。

そして、己の意志を伝えた。


「大丈夫だ。ただ、“やるべき事”が決まっただけだ。」


「…え?」


新のその言葉に、リズは少しばかり惚けた顔をした。

新は話を続ける。


「簡単に言えば、時間をあるべき姿…違うな…“俺の記憶通りに戻す”。ソレが俺のやるべき事だ。」


「そんな事出来るんですの!?」


未だ見えぬ希望の光の存在を知った、リズは喜びの混ざった驚きの声を上げる。


「まぁ、できなくもない。面倒なのは、自分の知らない過去を正確に書き換えなければならない事。

知ってる過去ならまだしも、知らない過去を元に戻すのは正直言って面倒臭い。

それでも、俺は“命の管理人”だ。1人の命が神のせいで勝手に消されたんだ。そんなの許されるはずがない。

そもそも、時姉がやった事は神法第3条、神々はやむを得ない場合、緊急時を除き、己の都合で人間に危害を加え、影響を及ぼしてはならない。に反してる。

命の管理人として、神々の一柱としても、見過ごす事はできない。」


「と言う事は…死神様は…」


新は、首を縦に振った。


「あぁ、過去に飛ぶことになるな。一つだけ心残りは、今の時間が無かったことになる事だな。リズに協力してもらって過去を書き換えたという事実が無かったことになる。それは、なんか…」


そこが少しだけ新の心残りだった。しかし、新の言葉を聞き終わる前に、リズは口を開いた。


「構いませんわ。だって、死神様の役に立てたのですもの。自分て覚えてはなくても、私は嬉しゅうございますわ。少しでもお役に立てたのならそれで。

ですが、一つだけ我儘を言うのなら……もし、時間が元に戻ったその時には、また、私に会いに来て下さいまし。別に、起きた事を話して下さらなくても構いませんわ。ただ、私にデートのお誘いをして頂けると嬉しゅうございますね。」


少しお茶目にそう言ったが、自分の願望をハッキリと口にし、下心が丸出しであった。


「あぁ、考えておくよ。」


新も少し顔を引き攣りながら、そう答えた。

そしてその後、別れの挨拶をした後、新はgateを開き、元いた新幹線の中へと戻って行った。

gateをくぐる途中、リズの口から、「ガンバテ、クダサイ。」と不慣れな日本語で聞こえたのは気の所為ではないだろう。


「あぁ、分かってる。」




* * *




場所はgateをくぐった先、日本。“新がgateを使った場所”。左右に壁のある“線路の上に立っていた”。

新は、真顔になった。

アスキーアートで表すなら、『( ˙-˙ )』が相応しいだろう。


そう、新は単純に間違えたのだ。

先程の新幹線のgateの座標を先程の新幹線の中ではなく、“先程新幹線のあった座標”にgateを開いてしまったのだ。

そして、遠目で見えるは、此方に時速600kmで一直線に向かってくる最新型新幹線リニア2000_α。

現在の最高速度を出せる機体である。


しかし、新の乗っていた新幹線はリニアではなかったはず。“行き”はだ。

新は時速600kmの鉄の塊が迫り来る中、ポケットから旅のしおりを取り出し確認する。


『※行きは通常の新幹線に乗るが、帰りは鏡先生のご要望で最新型新幹線リニア2000_α‬に乗る。』


因みに、あとから知ったのだが、鏡先生とは増区先生と一緒に青ざめていた眼鏡の名前だそうだ。


何故だろうか、空に浮かぶ雲の中でラブアンドピースをする眼鏡の満面の笑みが見えた気がする。


新は手に持つ旅のしおりをラブアンドピースしている眼鏡の顔に掲げ、勢いよく破り捨てた。

そして叫んだ、ちゅんちゅん丸を所持した冒険者の如く。


はい、ネタを察した方々はお手を拝借。

では、皆さん御一緒に、


せーーーーーーの!!




「クソったれぇぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」




ろくに旅のしおりを読んでいなかった新は、そんな事は初耳である。

そして、運転手の視界に新の影が入ったのか、汽笛と軽いブレーキ音が聞こえた。


「うわ、やっべ“shadow”」


イソイソと新は影の中に沈み、新幹線を下から覗く形で回避する。

運がいいのが悪いのか、リニア2000_α‬は自動運転を搭載している。その為、常時運転手が着いている事は無く、その代わり、運転席の後ろに位置する部屋で本部からの通信を受け取っている。緊急時のみ、運転手が着き、操作するという仕組みだった。

その為、新自身の姿は見られていないだろう。

先程の汽笛とブレーキは、線路上に止まった鳥を追っ払うための汽笛であり、逃げ遅れた鳥を轢き殺さないための慈悲のようなものだ。


つまり、新は新幹線のシステムに鳥と認識されたのである。


確か、日本にはこんな言葉があったと思う。


『鳥頭』


3歩歩いて忘れる程落ちぶれた覚えはない。

しかし、そこで思った。




(今現在ここで新幹線が通ったということは…新幹線、東京に着いてんじゃね?)




サーッと新の顔が青ざめていたのは気の所為ではない。

新幹線が通過した後、新は勢いよく影から飛び出ると、青い炎の翼を広げ上空に飛び立つ。

そして、見えない壁を蹴る。

まだ先程乗っていた新幹線東京に着いていないことを祈りながら加速した。

視界に広がる命を確認しながら、桜姬姉さんと百合華の乗る車両を見つけ追跡する。

やっとの思いで追いついた新は、中に誰も居ない休憩スペースを探しgateを開いて中に入る。


下車駅である東京駅に着いたのはその5分後のことだった。


やたら焦った顔をしながら着席し、前髪を力無く垂らしながら、真っ白になった新を異様な目で見るのは1人や2人では無かった。


(死ぬかと思った)




* * *




「という訳で、ちょっと過去いってくる!」


「コンビニ行ってくる的なテンションで言われても困ります。マスター。」


帰宅後、新は嵐の部屋、即ちラボに居た。

真っ先にラボに行った理由は、過去に行くという事を話すという事もあるが、主な理由は、先日の悪魔との戦闘による負傷した場所の検査である。

手術は完了しているのだが、何分なにぶん嵐もアラクネも初見の症状だった為、念入りに検査が行われているのだ。


先日の一件、悪魔戦で新の体に起こったこと。

簡単に言えば、体内の過剰な魔力による体の魔鉱石化。そして、その体内の魔力の急激な消費によるショックで気絶である。


新がベヒモスとの戦いで使った、暴食、そして、“hadesヘイディー's gateゲート”。その2つを同時に使用した結果が急激魔力の消費である。

hades's gateは他の魔法とは違い、攻撃力の“限界”が存在しない。

hades's gateはそれの使用時に消費した魔力によって火力を増すことができる。

だから、新はその時持っていた魔力の50%、魔鉱石化していない通常状態の魔力保有量の約300%を一気に消費したのである。

因みに、魔鉱石化した新の最初の魔力保有量は、通常の約10倍、1000%だと言われている。そりゃ、体が魔鉱石になる訳だ…

魔力を消費してhades's gateを使った迄は良かったが、そのショックに新自身の体が耐えきれず、気絶したというのがこの戦いの末路である。

ようは、新の無茶のし過ぎである。


結果的にベヒモスは敗れていたから良かったものの、倒しきれていなかったらその後どうなっていたことやら…


因みに、現在の状態は毎度毎度の如く、両手両足拘束されており、身体中コードで繋がれた吸盤だらけである。


「マスターは少しは自分の状態を理解するべきです。無茶ばかりして…少しは治療している私の身にもなってください。」


「あはは…すんません。」


嵐は、新に近寄り軽く新の体に触れた。

その瞬間、新の身体中に激痛が走る。それは、焼けるようで、電流が走るようで。兎に角凄く痛い。耐えられぬ程に。


「っぃてぇっっ!!!!!!!!」


「はぁ…触れられただけで激痛の走る体で、今度は過去に行くですか?何の迷惑も考えず行動しないでください。先程まで平気で動けたのはアラクネ様が麻痺させていたからです。」


「痛い痛い痛い痛い!!!!!!突っつくな突っつくな突っつくな!!!!わ、分かったって!!マジすんません!!迷惑も考えず行動してすんませんでしたぁー!!!!だから突っつかないでぇー!!!!」


「やっと分かって頂けましたか?」


と、そこでやっと嵐は新の体を突っつくマシンガンの如き指を止めた。

しかし、実際は本当に軽く突っついていただけで、殆ど力入られておらず、普通ならばこそばゆい程度のものだ。

たが、新の現在の体は軽く突っつかれるだけ激痛が走る程状態は酷いものだった。

新の体は、見えない傷が毛細血管のように身体中をはり巡り体を蝕み、更に悪い事にその見えない傷が塞がっていない。それに加えて“治療不可能”という異常事態であった。


原因は、先程も挙げられた魔力の過剰摂取。

それは、体を魔鉱石化させるだけでは済まなかったのだ。

悪魔との戦闘時、新の体は水晶のような魔力の結晶、魔鉱石になった。それだけならば良かったのだ。

だが、新の体には“亀裂”が走った。それは、体が魔鉱石になるだけでは耐えきれない程の負荷がかかっていた事を指し示していた。後遺症が残らないわけがない。

新は、見えない傷が残った。心の傷などではない。正真正銘の負傷による傷である。

だが、見えない。更にそれは10、20程度はくだらないほどの複数である。


嵐とアラクネにも、それが治る見込みは出来ない。不確定要素が極端に多いからだ。


「だけど…」


だが、新はそれでも話を続けた。

やらなくてはならない事があるから。

助けなければならない人が___“命”があるから。




「それでも、俺は…中谷蒼を救いたい。」




そう断言した。

新の答えは最初から決まっていた。

神のせいで失われた命を命の管理人である死神が見逃すわけにはいかない。

それに、中谷蒼は新にとって大切な友人だから。


嵐は少し動きを止め、新の顔を見た。何かを見透かすような瞳で。

何かを見極めたかのように、嵐は視線んを変え目の前の機械に手を伸ばし、設置されたキーボードを叩く。

すると、今まで新の体の情報が映し出されていた画面が閉じられ、別の画面が映し出された。


そこに映っていたのは…


「分かりました。でしたら、“私達もついていきます”。」


嵐がそう言うと、キーボードの隣にあるレバーを引いた。

直後、ラボ内のランプが光り、新の背後で機械が動き出す。

音に釣られてそれを見ると、床から2本のガラス張りの円柱が出てきた。

その中には…


円柱が限界まで飛び出ると、それは、中身だけを置いて再び床に降りていった。


「ちょうど完成したところだったので、マスターを監視すると同時に、調整も兼ねて私達もついて行きます。良いですね?“リー”、“ラー”。」


嵐は振り返り、そこに並び立つ2体の“女型機械人形”に話しかけた。




「ふっかぁーーーーつ!!!!!!完全復活したぜ!!マスター!!!!5年ぶりの“しゃぶ”は美味いぜぇ!!」




「ご迷惑をおかけしましたマスター。それとラー、それを言うならシャバよ。」




そこには、5年前新の救えなかった2機、いや、二人が立っていた。


「私達はマスターのおかげで救われたんです。それがどれだけ嬉しかった事かは知っています。

次は私達の番です。

私達がマスターを助ける番です。」


「お供するぜマスター!!」


「お供しますマスター。」


嵐は、機械を弄り新の拘束を解除した後、二人の前に立ち新に跪く。

リー、ラーも同様に新に敬意を評し、跪く。




「「「我ら阿修羅、既にマスターに捧げた身。貴方様のために我らをお使いください、マスター。」」」




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