表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
102/120

第92話 ノイズ

*第92話 ノイズ*




初めに、前回のおさらいをした後、一光学園2年A組委員長、中谷蒼について話しておこう。


前回、新の通う一光学園2年一同は、修学旅行で京都へ訪れていた。

風情ある京都の街並みに癒されながら皆それぞれ修学旅行を満喫する。


しかし、突如として消えた獣神九尾が現れた。

九尾は百合華と華菜を人質に取り、新達を敵に回すが、実は九尾は裏切りなどではなく、独自にスパイとして潜り込んでいた事が判明するが、その事は敵のボスも察知していたようで、新たな敵、数体の謎の生命体、通称『悪魔』が送り込まれた。

悪魔達は京都一帯を蹂躙し、街を破壊し、人を襲い、神々にまで手を掛けた。

その際、新は担任である華菜に正体がバレてしまう。


とてつもない力を持つ悪魔達に圧倒されながら、新は華菜を逃がし死の覚悟を決めるが、そこへ神々達が応援に駆けつけた。

そして、鍵を握っていたのは、新の母、邪神の能力『暴食グラトニー

暴食を使える邪神と新の活躍により、ついに、悪魔のボス、ベヒモスが現れる。

そして、新は自信の持つ最強の斬撃でベヒモスを仕留め、勝利をものにした。


しかし、修学旅行最終日、委員長さんこと中谷蒼が喪失。死亡予知記録デス・プリダクション・レコードには過去、16年前に死亡していると示されていた。


おさらいが長くなってしまった。

それでは、彼女、中谷蒼について話そう。

中谷蒼こと委員長さんが新と知り合ったのは、ちょうど一学期中間テストの前だった。

ビートルとの戦いで深い傷を負った新が遅刻して登校した時だった。

彼女は、百合華を庇ったせいで、代わりに不良グループに絡まれてしまった。

そして、“運の悪いことに”も、彼女ら不良グループは、中谷蒼と同一中学出身だったようだ。


運の悪いことと表記したのには理由があった。

彼女には、秘密があったのだ。

中学の頃、彼女の身に何かが起きた。

それは、まだ新も知らない事だ。


それから間もなくして、彼女は新との留学によって新の正体を知った。


出会ったきっかけは衝撃的なものだった。しかし、神の正体を知ることは、百合華と似たのようなものだった。

巻き込まれた。

それが、神の正体を知る人間達の全員の共通点である。


では、何故、彼女は消えたのだろうか。

ずっと居たはずの彼女は突如として姿を消した。

それも、元々居なかったように…


それは、この物語の原点に溯る。

コレが始まりだった。

コレが全ての物語の始まりだった。

彼女が居なければ成立しなかった答え。

全てが彼女が握る世界、時間だった。


コレは、俺、神藤新にすら予想の出来なかった、どうしようも無く理不尽で、曲げる事の出来ない真実だった…


コレはいわゆる後日談のようなものだ。


さて、物語の膜を開けよう。

この物語の原点を語聞かせよう。




* * *




「嘘…だろ…?何で…。」


脳内で中谷蒼の過去がフラッシュバックする。

出会った鬼神流きっかけは、ただの偶然であったかもしれない。

しかし、彼女は新の中では数少ない、人間の知り合いであり、友人であった。

彼女が実際、新のことをどう思っていたかは知らない。

ただ一つ、言えることは、新にとって中谷蒼は、欠けてはいけない人間という存在の1人となっていたという事である。


新は、その場に崩れ落ちた。

ぼやけた視界に光は無く、ただ、脳内で記憶が巡る。


「お、おい!!大丈夫か神藤新!?」


「えっちょっ!?新!?」


「しっかりして新!!」


なんだなんだと、車内が座喚く。

寝ていた教員達も騒ぎに気づき、辺りを確認するが、既に生徒達は体を前のめりにして新の方を向いている。

華菜が静かにしろ!!と鬼面のような顔を見せると、一瞬にして静けさが戻ってきた。

それはもう、寒気がするほどに。


そんな事は、今の新には関係がなかった。

ただ無性に吐き気がする。


少なくとも、この場にいる桜姬を含めた面々は中谷蒼を知らない。

記憶操作の影響だろうか?

それとも、中谷蒼という存在は、新にだけ見えていた幻覚だったのだろうか?

そんなはずは無い。有り得ない。不可能だ。

もし幻覚とするならば、鮮明かつリアルな一人の人間、中谷蒼の存在概念の幻を作り出すことは出来ない。

それは、新でさえも作り出すことが出来ない。


ならば、記憶操作の影響のない地域では?

だが、記憶操作をされた地域外で、中谷蒼と面識がある知り合いなど……


“いた”


たった一人。新と中谷蒼と面識があり、尚且つ、記憶操作の範囲外に居た人物が1人だけ。


新は、内ポケットを漁り、スマホを取り出す。

そして、目的の人物の名前の欄に辿り着くと、急ぎ足で号車を移動しながら、電話をかける。


電話は電波の関係か、直ぐには繋がらない。

新が1つ扉を抜けた瞬間、電話は繋がった。


新の知り合いであり、中谷蒼のことを知り、尚且つ、記憶操作の範囲外に居た人物。

それに当てはまる人物は…




『Hello!! Beloved Mr.Death!!!!(もしもし!!愛しの死神様ぁ!!!!) 』




新の知る中では、エリザベス嬢、ただ1人だけである。




* * *




「急な電話で申し訳ないが、単刀直入に聞く。今年の一光学園イタリア留学生は俺を含めた他に誰かいたか?」


『え?留学生、ですか?ええ!!覚えていますとも!!死神様が私に真の姿を現していただいた出来事など忘れるはずもありませんっ!!

それは、恐ろしい程に美しく、葵炎を纏っておいででしたわっ!!

私の胸はキュンキュンっと高鳴り…』


「思い出話はいいから、答えだけ教えてくれ。他に誰がいた?」


『むぅ…、せっかちですわね。でもそんな所が、愛おしいのですわっ!!』


「い・い・か・ら!!他に誰がいた!?」


少しいじけつつも、リズはその言葉を口にした…


『確か、“西園寺百合華”という方でしたわ。嫌に死神様と親しげで、少々妬いていたのですわよ?』


そう言った。

確かに口にした、西園寺百合華と。

そんなはずは無い。

嘘だ。


「そうだ!!“資料”!!」


『資料?ですか?』


「そうだ資料!!リズが裏ルートで盗んだ一光学園留学生の資料!!それがあったはずだろ!!

今すぐ調べてくれ!!」


『死神様が私のことをリズと呼んでk』


「早く調べてくれ!!!!」


『もぅ!!少し落ち着いてくださいまし!!何があったんですか?説明してください!!』


焦っているせいか、リズの機嫌を損ねたようだ。

打ち明けるべきか。協力を求めるなら、打ち明けるべきだろう。

しかし、彼女をまた巻き込んでしまってもいいのだろうか?

良いわけない。そんな事は分かっている。


『“巻き込んでくださいまし!!!!”』


「__っ!?」


口に出していただろうか?いや、出てないはずだ。


『死神様は、何かが起きて私を頼ってくださったのでしょう?私はそれがとても嬉しいの!!

死神様のために、私にしかできない事があるって。その事実がとても嬉しいんです!!

だから!!私を頼ってください!!

私を、“貴方の物語に連れて行ってください!!!!”』


電話越しで息を荒らげながら、リズがそう言った。言い切った。

新の迷いをぶち壊した。


「まったく…貴女って人は、本当に我儘ですね…」


ため息混じりに新は、呟いた。

しかし、その言葉を口にした口角は上がっていた。


『そうですよ?私はとても我儘です。だから、貴方の事も諦めない。私は、貴方を愛しているのだから。』


「さようですか…。ならば俺は、貴女を“頼ります”。力を貸してください。エリザベスお嬢様。」


『リズ、と読んでくださらないのですか?先程は呼んでくださったのに。』


少し拗ねたように、リズは言った。

少しだけ、新は意地悪なのかもしれない。

心の内では、いつもそう呼んでいるのに、言葉にはしない。


だけど…


「ああ、そうだったな。リズ。」


少しだけ、心の内を表に出してみようと思う。


『っ!!死神様のヴォイスが私の耳に直接“リズ”と呼びかけていますわっ!!!!!!』


前言撤回、心の内は内側だけのものにしておく。


しばらくの間、電話の向こう側で資料を漁る音やら、パソコンをタイピングする音やら、何故かティーカップに紅茶が注がれ、菓子を頬張る音が聞こえた。

後半の音が聞こえた時は、思わずつこっんだ。


そして、約5分後、結果が出た。

そう、誰が留学に来ていたかが判明するのだ。


しかしそれは、新の望むものだったのか。違わないかもしれない。だが、それは中谷蒼失踪の原因を示すものであり、その明確な証拠であった。


『なんですの…?コレは…』


「結果が出たのか?」


『ええ、出たには出たのですが…』


新はその先の言葉に耳を疑ったが、紛れもなく、新が聞き取った通りの意味だった。




『_____パソコンに記録されたデータに“ノイズ”のようなものが見えますわ…』




「は?」


『いえ、ただのラグでしょう。しかし…気になるのは、ノイズが起きる度に“情報が入れ替わっている”ことですわね…』


その言葉で、新は答えに辿り着いた。

しかし、絶対的な証拠ではない。

確かめる必要があった。


「リズ、今部屋の中にリズ以外誰かいるか?」


『え?いえ、誰もいませんわよ?』


「なら良し。“gateゲート”!!」


直後、新の隣の空間に穴が開く。

そして、新はその穴に頭を通し、潜り抜ける。


「え?なんですのってホォワァィィイイ!?!?!?」


突如として、リズの隣に新が現れ、驚愕する。

その声に反応して、近くを歩いていた警備員が扉を開く。

それと同時に、新は“shadow”を使い、影の中に落ちる。

扉が完全に開き、警備員が中の様子を伺う頃には、完全に新の姿は影の中へと消えていた。

扉とリズの間にはカーテンがあったので、姿さえ見えなければ、警備員が向こう側から変な位置にある影などに気づくはずもなかった。


「お嬢様大丈夫ですか!?」


「い、いえ、お気になさらず。虫に驚いただけですわ。」


「そ、そうですか。では、失礼します。」


「はい。ご苦労さまです。」


と言って、カーテンの向こうで敬礼した警備員は扉を閉じて再び仕事に励む。

随分と仕事熱心な警備員だった。

まぁ、そんな気合がなければ、エリザベス家を守護することなど出来ないだろうが…。


「今すぐそのデータを見せてくれ。」


「し、死神様!?どうやってここに居らして!?」


「魔法で空間に穴開けただけだって………………………うん、この場合俺は前より盗撮写真増えてる事に対しての疑問と、あの抱き枕は何?そして何故少し湿っているのかっていう疑問と、何故下着姿っていう疑問の3択がありますが、どれから聞けばいいでしょうか?」




「どれにも触れないでくださいましぃ!!」




「個人的にはツッコミたいところですが、問いただすと面倒な返答が返ってきそうなので辞めておきます。」


「……此方としてはソレが良いのですが腑に落ちません。」


数ヶ月ぶりの突然な再会を果たし、積もる話も……無いな。うん。

という訳で本題に入る。

そして、新はそのデータに目を通した。

新の予想はほぼ間違い無いだろう。

そして、新はその決定的な証拠を見つけた。


「リズ、このデータを“印刷”してくれ。」


「え、ええ。いいですわよ。」


パソコンを弄り、数回のクリック音が響いた後、近くに設置されたプリンターが呻き声を上げながら、印刷物を吐き出す。

新は、それを手に取ると、頭を抱えた。


「なんですの…コレ……“明らかに普通じゃありません”。」


新の予想は“正しかった”。

それは途轍もなく面倒な答えだった。

そう、面倒なのだ。


委員長さんこと中谷蒼が失踪した理由。その答え。

新は、その“ノイズのかかるコピー用紙”を眺めながら言った。


「“タイムパラドックス”」


「タイムパラドックス…ってあの映画のモチーフなどに使われる過去を書き換えるアレですの?」


「ああ、その通りだ。過去を知ったものが未来からそれを変える。つまり、過去を書き換えると、それと同時に未来も書き変わる。全く違うとまでは言わないが、違う世界が出来上がってしまう現象だ。」


「でも、それはフィクションですわ。実際にそんな事は……」


「“時神”、時姉なら過去を書き換える事もできる。」


「死神様のお姉様ですの?」


「ああ。神藤時子、俺の姉だ。

時姉の固有魔法は時間操作。タイムトラベルだって可能にする魔法。しかも、神の中で使えるのは時姉と俺以外は居ない。」


「じゃあ、死神様のお姉様が過去を書き換えたってことですの?」


「いや、“その可能性は低い”。」


「な、なんでですの!?実際に今が変わってしまったじゃないですの!!」


リズは少し頬を膨らませながら抗議する。

どうどうとリズを宥めながら話を続ける。


「理由は酷く単純。時姉も死んでいるからだ。」


「え?」


「時姉は20年くらい前に、人間に転生してそして死んでいる。だが、時姉人間に転生する前に、未来にタイムスリップした。そして、丁度昨晩、元の時間に帰った。つまり、死にに行った。

さて問題です。先程の話を踏まえた上で考えられるこのタイムパラドックスの原因は?リズさん、お答えください。勝負を賭けたアタッ〇チャンス。」


テテンッ!!とどこか聞き覚えのある音が新のスマホから鳴り響いた後、カウントダウンの音が鳴る。


「え!?、え、ええっと…“お姉様が過去に戻ったこと”ですの?」


「その通り。このタイムパラドックスの原因はそこにある。

しかし、そこで次の疑問が出る。

じゃあ、何故時姉が帰ったと同時にタイムパラドックスが起きたのか?」


「それは……」


「コレは、俺が答えるよ。“納得がいかない自分を納得させるためにも”。」


「どういう意味ですの…?」


首を傾げるリズを見ながら、新は少し深呼吸をする。

そして、ドゥーンっ、と実際にそこには無い空想の回答ボタンを押した。

自分が納得するために、その言葉を口に出した。




「答え、そもそも今までの時間が書き変わった時間、“今までがタイムパラドックスによってできた世界”だった。」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ