菜園時ルート
路地で人間観察していたところ背後から視線を感じた私は後ろを見る。
すると目から生気の感じられない金髪の男がじっと私を見ている。
彼は何かを言おうとしていたけど恐怖のあまり路地から高速で逃げてしまった。
芳樹先生との帰り道で誰かの視線を感じたけど気にしないことにした。
食事をしようと外へ出ると屋台を発見した。
しかし、買い物は付き人の魔女がしていたのでお金が必要だと知らなかった。
そもそもお金を持っていなかったのでどうしたものかとあせる。
「これで足りる?」
困っていたところ金髪の彼が髭の男が描いてある紙を出した。
「こっこれ一万円じゃねえか!!」
「お釣りはいらないから…行こう魔女」
しまった制服を着たままなのに昼間顔を覚えられたせいで魔女だとバレている。
「ありがとうございました」
一先ずお金の件は感謝の言葉をのべた。
「…お礼を言われることじゃない」
昼にあったとき、じっと見られて気味がわるかったけど、彼が代わりにお金を払ってくれなかったら危やうく警察のお世話になるところだった。
やはりそこには感謝しなくてはいけない。
「ねえ…明日…土曜だけど御飯食べにくる?」
それはつまり更に食事を貰えるということではないか?
思いがけない言葉に、私はうなづいた。
家のある場所の地図を渡された。
幸い文字ではなく図だったので迷うことなくたどり着いた。
私が住む家と同じくらいのお屋敷。
差し詰人間界の貴族だろう。
「お早うございまーす」
魔女の国で育った私は長い時間夜空を見ている。
せっかく明るい時間が長い人間界で朝日を見ないなんてもったいない。
「…朝なんて言ってない」
「お腹空きましたから」
「…眠い。枕」
「きゃー!」
抱き締められてる。
人間界の人はなんと大胆なことだろう。
「お早う御座います霧仁ぼっちゃま」
彼はうん、と言って椅子に座った。
彼はあくびをしながら食事をしている。
私も食事をいただいた。
あまりにメイドや執事がずらりと並んでいるので人間は魔女より数が多いなあと、圧巻された。
休日が終わり登校する日、屋敷の玄関先に車があって、その中には菜園時君がいた。
「学校…一緒に行こう?」
「ええでは失礼します」
「あ、菜園時さん」
「くんでいいよ同い年だったし」
「はい」
「君に会いたくて普通の時間に来た」
「話題になっていましたね」
「君と公的に騒がれるなら嬉しいよ」
彼が冗談を言う性格ではないというのはわかる。
嬉しいけど照れてしまう。
何気ない帰り道、視線を感じて振り向くと、黒いスーツにサングラスの男がいた。
「御曹司の恋人だろう?」
魔法が使えたら、こんな賊など吹き飛ばせるのに、少しでも近くに魔力があればよかった。
これが修行なのだろうか。
「何してるの?」
「菜園時のボンだな!?」
男が拳銃を持つ。
「逃げるよ」
「はい」
彼が吸血鬼なら簡単に倒せる気もするけど、武器を持った相手にこちらが丸腰の場合、これが最善の方法だ。
「あの…菜園時さんは吸血鬼なんですよね?」
「吸血鬼なんているわけないよ…」
「そうなんですか?」
なんだ冗談だったのか。
「でも…魔女がいることは信じてるんだ」
狙われていた彼の方が危険なのに、菜園時さんは私を家に送り届けてくれた。
「さようなら」
「また明日」
少し舞い上がりながら家に入る。
今回のことで、屋敷内の魔力を集めようと決めた。
「魔力を集める【ゆびわ】よ!家の中にある魔力を回収して!」
微弱な魔力を吸い込んだ指輪が、透明からピンクに変化した。
これで霧仁さんが危険な目に会わないように――――
(って…私ったら魔力を彼のために使おうとしてる)
今のいままで忘れていたけど、魔力は魔女修行のためなんだから彼を守るときに魔法を使ってはだめだ。
「でも…」
そうだ私が彼に近づかなければ、ボディーガードが彼を守る。
もう霧仁さんには会わないようにしたほうがいい。
だけど極端な避け方をしては霧仁さんを傷つけてしまう。
教室内で会話をすませ、放課後は彼が出歩かずすむように、一緒に帰らないようにすることにした。
「最近一緒に帰ろうと誘っても、君がいない。どうして避けてるの…」
「まさか…」
どうして、気づかれたのだろう。
「あの…」
「いいんだ…君は魔女、僕の心を惑わすことが、他愛ないことだってわかっているよ」
霧仁さんは寂しそうに、去っていく。
引きとめよう、わけを話さないと。
「まって、この前私と帰ったせいで、霧仁さんは狙われたでしょう?」
「…命は狙われたけど、あれは、僕に来た奴だよ?」
「でも、車なら狙われることはなかったと思うの」
「…じゃあ一緒に車で帰ろう?」
「え…」
結局断れずに、いつのまにか車で家に帰宅していた。
―――私ったら彼に流されてばかり。学園内では彼と付き合っていると噂され、これでは身動きがとれない。
私が魔女だということは思いっきりバレているが、ハッキリ断言したら修行も中断して魔女界に連れ戻されてしまう。
それに記憶を一切末梢され、彼との思い出が消えてしまうのだ。
「君は僕が嫌い?」
「いいえ」
嫌いなら私はもっと本気で避けるはずだ。それが出来ないのは少なからず好意をもっているから。
「じゃあどうして悲しそうにしているの?」
「私はこの国に花嫁修行にきたんです!」
バレバレでも魔女修行にきたとは言えないので、そういうことにしておく。
「じゃあ君は人間界に修行にきた魔女じゃなくて、ただのコスプレの人?」
ただのコスプレの人の意味はわからないが、認めたくないような気がする。
「……ああ、魔女だって言っちゃいけない決まりがあるんだね」
「はい」
私がこくりと頷くと彼は納得してくれた。
「……その花嫁修行ってなにをやるの?」
「わかりません」
どうしたら合格できて魔女界に帰れるのか、まったく説明されないまま来てしまったからだ。
「取り合えず物語なら敵がやってきて、それを倒してハッピーエンドだよ」
「つまり敵がやってきたら倒してしまえば合格なんですね」
魔女をモチーフとした物語が出回っているなんて、なんだか不思議―――。
「菜園時さん、貴方のようなお金持ちで美形の男性というものはモテるんですよね」
「……お金持ちの時点で人が寄り付くから美形は関係ないと思うよ」
なるほど、人間は顔より金が好きなのね。
「物語では私のようにお金持ちに近づくと、周りから妬まれるシーンがあります」
「……そうだね。現場を生で見たことはないけどリアルでもあるんじゃないかな」
ではなぜ彼に近づく私は妬まれないのだろう。
「菜園時くんはお金持ちなのになぜ周りに人が近づかないのですか?」
「それは人が近づかないようにsecretエージェント達にガードしてもらってるから」
彼に近づいたらガードマンにシベリヤ送りにされるという噂が立ったとかで腫れ物扱いされているらしい。
「それは……寂しいですよね」
姫である自分も、程度は違えど同じような境遇にあった。
「だから、君がそばにいてくれるのがとても嬉しい」
菜園時くんはやっと話し相手となれた私も離れようとしている事が嫌なのだ。
◆決めなくちゃ。
→〔側にいる〕
〔去る〕
「寂しい思いをさせてごめんなさい。私は貴方の傍にいます!」
「君は帰る日がくるんでしょ……いつまでいてくれるの?」
◆菜園時くんは今にも泣きそうな顔をしている。
→〔ずっと〕
〔わからない〕
「私は……できるなら、ずっと貴方の傍にいたい」
「そっか……君の気持ちが聞けただけで嬉しいよ」