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共通シナリオ・修行に来たのであって婿探しに来たわけではないはずです。

私は魔女だけが暮らす魔女界の王女。

昔男の魔法使いと女魔法使いが仲違いし、国を分けたのが始まりだった。


16歳の誕生日パーティーの日、魔法の使えないただの人間の暮らすところで修行を命じられる。


『姫として立派な女王をめざすのですよ』

私を玉座から見下ろすのは女王、私の母親。

物心ついた日から、あの人から向けられるの冷たい眼差しは嫌だった。


『はい、母様』

笑顔を向けても無駄、母が笑うことはない。

だから私も母に笑いかけるのはやめた。


「魔法が使えないなんて本当かしら」

ここは人のたくさんいる都心、魔女は魔力を感じる力があるが、その気配が少しもない。

空間そのものに魔力が存在しないようだ。


ためしにこっそり呪文を頭に浮かべて見る。

やはり、魔法が使えない。


「大丈夫かな…でも」

いつでも使えた魔法がないのは不安だけど建物の作りが住んでいた場所とは異なっていて、わくわくする。


同い年くらいの茶髪の“男”と思わしき人が目についた。


(背が高い…)

魔女しかいない国の城で育った私は、男というものを目にしたことはなかった。


背が高くて髪が短くてがっちりしているのが男、と聞いていたけど、周りの人間より可愛いらしい顔をしていた。


こういうのを簡潔になんと呼べばいいのか、辞書を見てものっていない。


「まちたまえ…話しは終わっていないぞ茶川」サーモンピンク色の髪の男は茶髪の彼が向かった方角へ走り、立ち止まってを繰り返し息を切らせてぜえぜえ苦しんでいる。


思わず自分のピンクの髪と見比べる。

あっちのほうが可愛い色をしている気がした。


「巻神、周囲の迷惑だ静かに歩け」

銀髪の男は棒のような物で叩いた。


「痛いじゃないか!君はお寺の和尚さんか!?」


懐中時計をとりだし、時間を確認した。

そろそろ登校の約束の時間、勇気をだして路地を出なくては。


「そこの、こないけったいなとこで何してはるの」

長いパープルの髪をひとつに結って型から下げた男、なんたが所々にわけがわからない言語が混じっている。

ここの人から見れば外国人という奴だろうか?

辞書を引きながら考える。


「エクスキューズミー?」


外来語辞書や和英辞書には乗っていないので、適当にごまかそう。


「馬鹿にするんも大概にしい。せやからこないなとこ来たくなかったんですよって」

「こういうときなんと言えば……」


謝罪、謝るという言葉が辞書に乗っている。


「ごめんなさい?」


今まで謝ったことがないので知らなかった。

使い方は間違ってないだろうか心配。


「疑問系?まあええわ……遅れたカッコの娘はん」


もしかして魔女の正装はこの国で着てはいけないの?


しまったそんなことを知った以上、出るに出られない。


「……ねぇ」

柔らかそうな金髪に白いシャツ、光のない紅い瞳の人間離れした男が、じっと見ている。

なにを考えているかわからない、未知の雰囲気を持つ彼の視線に、ぞわりと背筋が粟立つ。

気がつけば路地を抜けて無我夢中で走った。


私は人間の世界についたら寄り道せずにまっすぐ同い年の男女がいる学校に行けと言われたけど、空気中に魔力がないなら魔女界の誰にも見られていないかも。

レストランやケーキの店がずらりとならんでいる。

寄り道しようかな――――?

いけない、レストランの誘惑にひっかかりそう。


「ミルフィナさん」


淡い緑色の髪の大人が、後ろから声をかける。


「遅いから迷ったんだと思っていました」

いきなり言われても話が飲み込めない。

人間界の学校で待ち合わせするのは母が調査させている魔女の女性だったはず。


「話は聞いていると思うけど、君の親戚で、僕の同僚の先生に代理を頼まれた芳樹藍斗(らんと)だよ」

「迷ってしまって…」

視線がレストランやケーキ屋に行く。

道に迷って心も迷っていたのだ。

ぎりぎりのところでむかえが来てくれて助かった。


ようやく学校に着く。

潜伏中の魔女は現れない。


「あの…本来来るはずだった人は…」

「マデル先生は早退したんだよ

昨日から具合がよくないらくてね」

魔女同士で話せると思っていたのに、しばらく人間界で孤立するのか、困ったな…。


「きょろきょろしているけど、学校は初めて?」

芳樹先生はにこりと優しい顔をしている。

魔法さえあればなんでも済む魔女の国に学校なんてなかった。

「はい、勉学は家庭教師に教わりました…」

王女なので女王になるべく最低元のことは学べた。

その家庭教師は魔女だということはしっかり伏せた。


「僕は別のクラスの担当だから、後は金代先生に聞いてね」

芳樹先生は隣の扉をがらりと横にスライドして入った。


なるほど、こうやって開けるのね。

城のドアは押すか引くものが多く横のは初めてみた。


「わけあって転入して来たハーフのミイナ=百桃(ひゃくとう)だ取り合えず仲良くしろ」

サラリとした黒髪、持っているのはチョークではなく甘い酒の匂いのするチョコレート。


「せんせーい!授業中にチョコレートはないとおもいまーす」

手を上げて抗議したのは今朝見かけたサーモンピンクの髪の人だった。


「今はホームルームでーす」

たしかに間違ってはいないが屁理屈である。

なにも授業中でないからいいというわけではないだろう。


「いい大人がくだらない言い分けするんですかあきれますよ」

「それには同意する」

後ろの席には棒で叩いた人もいる。


「煙草よりマシだけど腹減るんだよな」

と誰かが言うと、一人が立ち上がった。


「しずかに、先生がこんななのはいつもの事だ授業に支障がないなら目を瞑ろう」

最初に目に止まった茶髪彼だ。


「委員長が言うなら」

「こんな、だけど授業はまともだしね」

皆なにも言わなくなったけど、そんなにすごいの?


人間界の文字が読めなくて黒板に何が書いてあるかまったくわからないので、ちらりと周りを観る。

先生がわからない問題がある子一人一人の箇所を周り、教えていた。


授業時間が終わり、呆然と周囲の様子を見ているだけで放課後になった。


「百桃、日本語がわからないならお前の国の言語で授業してやるから…どこだっけ?」


魔女の世界の言葉は暗号になっていて、人間界にあるものではない。

だから言葉はだけなら翻訳ピアスでなんとかなっても、文字はわからない。


「金代先生、理事長がお呼びでしたよ」

危ないところで芳樹先生が現れた。


「わかった。百桃、放課後暇なら残れよ」

「えっと…」

家の片付けがどうとか、言い訳をして帰ろう。


「それで、住む家が…」

芳樹先生に連れられ、見慣れない家が並ぶ道を歩く。


向かいにホームルームで先生と言い合いをしていた三人がいる。


「あ、芳樹先生」

茶髪の彼はこちらに気がついて、三人が向かって歩いて来た。


そういえば茶髪の彼は委員長と呼ばれていたけど、私もそう呼べばいいの?

名前には君をつける、つまり委員長君。


「あの…委員長君」

「俺は茶川、流石に学校出てまで委員長呼びはやめてくれない?」

怒っていても可愛い。


「さすがに委員長君にはわらわせてもらったよ僕は情熱の貴公子、またの名を巻神朱羽(まきかみしゅう)

たしかに赤に近い髪は情熱、そのわりに彼から手渡された花はピンクの桜、赤っぽくはないし、彼のイメージとは少し違う。


「貴公子…」

「真面目に受け取らなくていい。俺は原比良だ」

彼はあまり語らず名前を言った。


「どうでもいいけど薔薇じゃないんだね」

茶川君が呟く。

「…薔薇科アレルギーらしい」

原比良君も小声でこたえた。


「…桜も薔薇科だよ」

「道理で巻神が動かないわけだ」


「大変だ…悪いけど近くに君の住む家があるからそこへ運んでいいかな?」

芳樹先生が巻神くんを背負う。


そんな状況で断るわけがない。


ついた場所は城よりは小さいが、富む魔女達が住む屋敷と同じだった。


「話には聞いていたけど広いお屋敷だね

一人で住むなんて掃除が大変じゃないかな」

そう芳樹先生は言った。


さいわい屋敷内に魔力を感じる。

当分はなんとかなりそう。


「うーんまさに僕にふさわしい邸宅だね諸君」

「まったく人騒がせな…帰るぞ」

「それじゃあ」

みんなぞろぞろ帰ってしまった。


「さて、食事はどうしたら…」

家に食べ物がまったくない。


つまり食べ物は外で調達しなくてはならないということね。


●夜の買い物は不審者に注意・脂肪は敵だ!・ニアミス


夜道を歩く茶川君を追いかけようとしたけど姿が見えないので諦めることにした。


「へい嬢ちゃんなんにする?」

急に髭をはやして頭に変なものを巻いた中年店主に声をかけられた。

いいにおいのする食べ物を焼きながらどれにするかをたずねてきた。


「えっと普通のたこ焼きというのを食べてみましょうかと」

なんだか丸くてかわいいから。


「お嬢ちゃんお金、350円になるけど」

「お金?」

聞きなれない言葉に辞書を開く。

自分で店を回ることはなかったので買い物にはお金が要るなんて知らなかった。


「…僕が代わりに払うよ」

誰だろうと振り向くと今日の朝方路地にいた金髪の男の人だった。

一枚の紙を置いて私の手を引いた。


「払っていただいてすみませんお金は返しますから」

多分家のどこかに金貨があるはず。

なければ宝石を売って用意するつもりだ。


「…別に返さなくていい」

「あの…何処に向かっているのですか?」

「…僕の家」

「お名前…聞いてませんよね私はミ…百桃ミイナです」

危うく本当の名前を言うところだった。


「僕は菜園時…わけあって人間界に人間として生誕した前世は吸血鬼の王だった」

彼は吸血鬼の王?

なら目に生気がないのも頷ける。


「明日は土曜…食事に困ってるなら家で食べればいい…僕の家はここにあるから」

地図を渡された。


「ぜひいきます」

明日の食事に困らないのはありがたい。


屋敷に向かう途中、原比良君と巻神君を見かけた。

手を振られたので手をふりかえす。

茶川君は一緒ではないよう。

昨日は三人でいたから仲がいいのかと思っていた。


「…眠い…朝に来てなんて言わなかったのに」

日の光を浴びながら目を擦る。

そういえば吸血鬼は日の光に弱い筈なのに平気なの?


私は食事をしてすぐに屋敷から出る。


「僕は用済み…?」

「いえそういうわけでは」

一応人間界で学ぶ為に来たのだからあのまま不自由ない屋敷にいると堕落してまずいきがする。


屋敷の門を出ると茶川くんがこちらを見ていた。


「こんにちは」「こんにちは…そこって菜園時の屋敷だよね?」

ああよかった驚いている表情ではあるが怒ってはいないようだ。


「お知り合いですか?」

「知り合いっていうかクラスメイトだよ…菜園時グループの御曹司だから有名、いつも昼間は来ないけど成績と単位は取れているからまあ黙認してる」

委員長というくらいだからきびしいのかと思っていた。

先生のことも許していたし、勉強ができるならいいと考えているのかも。


何も言えず去るのを見つめて、私も屋敷に帰ることにした。


----


日曜日は何もせずぼうっとしただけで終わった。

魔法がないだけでやることが制限されて不便だ。


「え!?マジで!?」

なんだか教室の中が騒がしい。

「おいみんな!菜園時が来てるぞ!?」

確か茶川君が“ほとんど登校しないけど、単位は取れているから”と言っていたような。


教室に入ると確かに彼は席に座っていた。

クラスメイトは男女問わず同じような表情で菜園時君を噂している。


「みんな静かに、本来は来ているのが当たり前なんだから

君達が驚く方がおかしいよ」

茶川くんが落ち着かない様子の皆をまとめた。


「はーい皆静かにー今日は新しい先生が来たぞ」

新しい先生と言われ、皆がまたザワつきはじめた。


「三井です、よろしゅう」

教室に入る新しい先生、それは二日前に路地で声をかけてきた紫髪の人だった。


女子達が急に歓声を上げた。

たしかに整った顔立ちではあるけど、何度もきゃあきゃあと声を上げられて耳が痛くなりそう。


「はいはいイケメン教師が赴任したからってー

なんかこう、態度変えられると妬けるというか、悲しくなるなあ」

対して気にしている様には見えない金代先生がチョコレートを食べながら言った。


「俺達男子は先生の味方だぜ!」

「三井先生は先日退職したマデル先生の代わりに京都から派遣されて来た」

マデル先生って…、もしかしなくても私の協力者の魔女じゃ!?


開いた口をぱくぱくとしてしまう。

「そんなにチョコが食いたいか?」

金代先生が私の口元にスティックチョコを近づけて、食べさせようとしているのかと思っていたら、遠ざかった。


「残念、チョコは俺のもんだ」

「なんやの、東京の教諭は、こない如何わしいこと、してはりますの?」

三井先生が金代先生と何か話している。


「あ~よくわからなかったんで~今度関西弁教えてくれません?」

二人から険悪な雰囲気が漂っている。


「金代先生、三井先生、授業始めるんですけど…」

廊下にいる芳樹先生の顔は二人に遮られてよく見えない。


「…はい」

「すんまへんえ」

二人の教師は脱兎の如く教室を去った。

急に怯え出してどうしたんだろう。

芳樹先生は今日も素敵な笑顔を浮かべているのに。




「あ、委員長」

学校内なのでそう読んだ。

「部活の事だけど何か入りたいのある?」

「いえ、特には」

部活という集まりがあるようだが、そろそろ修行をしたい。

「まあ見つかったら行ってよ」

茶川くんは去った。


「菜園時さん」

「…君に会えて嬉しいよ早くきたかいがあった」

「ありがとうございます?」


菜園時さんが先生に呼ばれて名残惜しそうに去った。


「ちょっといい?」

この女子達は知らない顔だ。

「はい?」


ついてこいと言われたので、ついていくと人気のない場所で囲まれた。


これはまさしくクーデターというものではないか!!


「男子に色目つかってんなよ!!」「ついさっきも茶川くんと話したと思ったら菜園時くんと話してて」

「菜園時くんはともかく茶川くんはみんなの茶川くんなんだから!!」「あんた茶川くんと同じクラスだからって調子のんないで!!」

背の高い女子が私の襟首を掴んだ。


仮にも魔女界の次期女王の私に乱暴な行為を働くということは、毅然とした態度で罰っさねばならない。


「無礼者!!」

軽く掴んでいた手をはらった。


「このっ…!」

拳がふり下ろされそう。


「なんや可愛くないことしはるわキミ等」

「三井先生!?」

拳を手で受け止めて、助けてくれたのは三井先生だった。


「やばっ…」

囲んでいた人は逃げていく。


しばらく呆然としていると、笑い声が聞こえたので、私は振り向く。

「いやー俺がかっこよく登場して、華麗に助けたかったなあ」

拍手をしながら金代先生が現れた。


「チョコばっか食うて脂肪の塊のあんたはんに何ができますの?」

「デブじゃないし、これカカオ99%のだけど?」

2人がまた小競り合いを始めようとしている。


「はいはい、まあ落ち着いて」

芳樹先生がなんとか場をおさめてくれた。


「一先ず百桃さんは一人で行動しないほうがいいよ

信頼出来る人と帰ったほうがいいね」

先生も先程の事を察した様子で、帰り道に絡まれたら危険だと言っている。


「はい…」


一先ず誰と帰るか、行動するかを考えながら教室へ入った。

---

丁度バッタリ会った彼と帰った。

---

さて、今日こそ魔法の修行をしないと。


ここは魔力が少ない人間界。

裏を返せば少ないだけで完全にないわけじゃない。

探せばきっとどこかにある筈――。



目を閉じて探りを入れると、何かを感じる。

行ってみると、縦に長く廃されし混沌なる建物があった。

その近くからわき出る、静かで黒く淀んだ空気の中に、微かな魔をかぎとる。


「魔力吸引…」


指輪にその場にある魔力全てを注いだ。


目的も達成したので、家に戻る。


――――このとき、私は何かを見落としていたことに、気がついていなかった。


後に後悔することになる。

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