敵か味方か
ロープの元に移動してきた。中学生になってから、どれほどこの道場のロープに登ってきたかわからない。辛いながらも、己に挑戦できる、そんなロープだ。ロープというのは確実に握力地獄に落とされる。だからこそやりがいを感じるのかもしれない。
「いまからロープ登り、交代でやっていってもらう。これは競争だ、登れなくなったのが早い奴ほど、この後また腕立ての回数が増える。みんな仲良くなんてことをしてたら、今度は全員が一日中腕立てをすることになるからな。」
どうやら師範は今日は腕力を俺たちに追い込ませるつもりらしい、この腕の状態でロープ登りだけでもかなり辛いが、更に腕立てとなると相当な負荷がかかってしまい、初日からギブアッブなんてことになりかねない。
「さっき潰れたのが早かった奴から行け!」
そう言うと小西、山下がまずロープ登りを行う。二人とも、一時間間が空いたためか、腕力が復活してきたようで、割とスラスラと登っていく。
福田、谷口が次にロープ登りを行う。谷口はロープ登りに苦労してしまうところがあったため、早くもうめき声をあげながら、苦しそうに登る。
そして俺と酒井の番だ。酒井はさすがの腕力でグイグイ登る。俺も負けじと、ハイスピードに登る、本数をこなす上で、時間がかかるとその分腕力はかなり持っていかれる、短時間で登っていくことが必要だ。
そして野田と小西が2本目を登る。こうして一本一本こなしていく。
しかし谷口は3本目、かなり呻きながら、半分ほど登ったところで腕を震わせ、徐々に落ちていく。そして谷口は師範から腕立てを命じられた。谷口の腕はすでにボロボロとなっている。
次に小西、そして意外にも野田が腕に相当きていたようで、落下してしまう。
俺も本数が6本を越えてくると腕がきつくなってくる。酒井も肩で息をしている。何より落下してくる人が増えると休憩できる時間がかなり短くなる福田もついに途中で動けなくなり落下した。
8本目、俺と酒井の番だ。俺も酒井もほぼ握力が残っていない、俺の心は折れかけていた。
歯を食いしばって、なんとか登ろうとするが、どんなに力をこめても腕が曲がらず、上に手が伸ばせない。酒井は俺とは反対に、力を振り絞ってゴールにたどり着く、相変わらず持久力がすごい奴だ。
俺はもう握力が限界だった。震える腕ではもうとうすることもできない。そのまま腕が離れてしまった。すぐに師範から腕立てが命じられるが、腕に力がなく、腕立てもなかなかこなせなかった。そのまま福田も力尽き、結局ロープ登りは酒井が一位だった。
「よし、酒井は休憩していい。他は懸垂10回だ!」
師範からの言葉だ。俺にとっては懸垂は比較的得意だが、この腕力ではこなしきれるかどうか、かなり不安だ。
震える腕で鉄棒を掴む。1回こなすだけでもかなり腕にくる状況だ。
半分の5回をこなしたところでなかなか懸垂できなくなり、何度も離しては再びつかむという形になっていく。握力が残っていない中での懸垂はあまりにも辛い。
俺はもがきながら何とか終えることができた、もはや握力のかけらもないほど腕は疲れ切っている。谷口以外全員苦しみながら何とかこなし終える。
しかし谷口はもはや握力がなく、鉄棒にぶら下がってもすぐ落ちていってしまう。空手着には汗が大量に流れ落ち、表情は苦痛に満ちている。腕が震え続け、鉄棒にしがきつくこともできなくなっていた。まだ懸垂は2回しかできていない。
苦しむ谷口の姿を見て、本当であれば応援の一つや二つしてあげるのがスポーツというものなのかもしれない。しかし俺たちはただただ見ていることしかできなかった。俺たち7人はライバルなのか?それとも地獄を乗り越える仲間なのか?全く答えが出せない。
ただただ、己の体力を回復させ、次なる鍛錬に目を向けることしかできなかった。