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あるいはこんなシンデレラ

作者: 馬鞍田んぼ

昔々 西洋のある町にシンデレラという名前の娘がいました。

そう、あのシンデレラです。

幼いときに父と死別し、意地悪な継母や姉たちと暮らす・・

当たり前のようにこき使われるシンデレラ、薄汚れた衣服・手入れのままならない髪

その姿はまさに奴隷の様でさえあります。


そんなある日、王城で舞踏会が開かれるという知らせが舞い込んできました。

この国の王子はまだ独り身であり、今回の舞踏会で伴侶を決めるとの噂もあります。

千載一遇のこのチャンス、国中の女たちがこぞって舞踏会に出かけていました。

もちろんシンデレラの継母たちも例外ではありません。


例外なのは「シンデレラ」本人ぐらい。

さもありなん、もし万一にでもシンデレラが王子の目に留まれば

シンデレラを今までどおりに扱えません。

よってシンデレラには留守番を命じたのです。

「今頃お城では舞踏会、私も行きたかったなぁ」

シンデレラは窓辺で頬杖をつきながらつぶやきました。

そのとき不意に

「舞踏会へ行きたいかい?お嬢さん」

と、窓の外から声がしました。

シンデレラが窓の外、庭の木の下に目をやると若い男性が立っていました。

「あなたは誰ですか?」

シンデレラは尋ねました。

「通りすがりの魔法使いですよ。はっきり言って怪しいものです」

と、にこやかに返す若い男性。

突然こんなところに現れたのも、自分から「魔法使い」と名乗るのも

本人の言うとおり「怪しい」としか思えません。

言動にしても「胡散臭い」としか言いようがありません。

しかしその瞳は澄み渡り、彼の心根を表しているようでもあります。

その瞳のせいかシンデレラは警戒心を持つことができませんでした。

それでも何を言っていいのか分からないシンデレラは固まってしまいます。

そこに若い男性は

「ここは少々寒い。出来れば家に入れてはもらえまんか?」

と言葉をかけてきました。

シンデレラはあわてて

「はい!すみません、鍵を開けますから玄関にまわってください!」

と言って「魔法使い」を家に招き入れました。


ところ変わってシンデレラの家の居間。

シンデレラが出してくれた紅茶を飲みながら、魔法使いは再び言いました。

「さぁ、さっきの続きだ。舞踏会へ行きたいかい?お嬢さん」

困惑するシンデレラ、無理もありません。

シンデレラは自分の置かれている状況を魔法使いに話します

「今日は家の留守番をするようにお母さんに言われています。

 申しつけを破ればどんなめに遭うか・・・。

 それにそもそもこんな格好じゃ舞踏会になんて行けません・・・。」

シンデレラはいつも通りの格好だったのです。

俯くシンデレラ。

しかし魔法使いは自己紹介をしたときと同じ表情で

「うむ、状況は理解した。

 要は留守番をサボったことがばれない、舞踏会にふさわしい姿になる

 という条件を満たせば良い。相違ないね?」

と、返してきた。

驚き尋ねるシンデレラ

「そんなこと出来るんですか!?」

魔法使いは不敵に微笑むと

「私は魔法使いだよ、それなりのことは出来る。

 三度目になるが訊くよ、お嬢さん。

 舞踏会に行きたいかい?」

「はい!」

シンデレラは即答しました。


「さて、準備を始めよう。が、その前に・・・」

魔法使いはやはり微笑みながら言いました。

「私の名はローランド。お嬢さん、君の名を教えてはくれませんか?」

シンデレラは「あっ」と声を上げ、次に恥ずかしそうに俯きました。

「すみません、自己紹介が遅れました。

 わたしシンデレラといいます」

シンデレラは名前も知らずに、また自分も名乗らずにただ力を貸してもらおうとしたことが

恥ずかしくなったのです。

その様を見て魔法使いローランドは優しく笑うと

「なぁに、気にすることはない。

 そんなことより、今から私が言うものを用意してほしい」

とシンデレラに告げました。

用意してほしいものとはネズミ・洗濯籠・シンデレラの服そしてグラス一杯のワインでした。


シンデレラの家の庭にて。

言われたとおりのものを用意したシンデレラ。

首をかしげながらシンデレラは聞きました

「こんなもの一体 何に使うんですか?」

シンデレラの問いにローランドは

「もちろん君の願いを叶えるのに使うんだよ」

と返しました。

シンデレラの表情に期待と不安が膨れるのを見ながらローランドは

「じゃあ始めよう!まず君を・・・」

と言いながらシンデレラの頭を人差し指と中指で2回軽く叩きました。

するとたちまちシンデレラの衣服が煌びやかな衣装に変わっていきました。

髪もいつもとは比べ物にならない艶やかさを帯びています。

驚くシンデレラ、自分をつま先から順に確かめていきます。

「君のイメージする『舞踏会にふさわしい姿』を再現してみた。

 お気に召しましたか?姫様?」

と茶目っ気たっぷりに言うローランド。

シンデレラは目に涙を浮かべながら

「ありがとうございます。ローランドさん」

と感激に打ち震える。

「まだ喜ぶには早いですよ。さて次は・・・」

と言いながらさっきと同じように右手で洗濯籠を、左手でネズミをそれぞれ軽く叩きました。

するとたちまち洗濯籠は馬車に、ネズミは馬に姿を変えました。

さっきの感動と驚きの醒め止まぬうちにさらなる驚きに包まれるシンデレラ。

「これで舞踏会へ行く準備は整った。仕上げは・・・」

ローランドが次に手をとったのはシンデレラの服

それを右手の人差し指と中指で2回軽く叩きました。

たちまち服の内側からシンデレラが現れました。

驚くシンデレラ、自分と見つめあいます。

「今 君が見ているのは服に残った記憶。

 私はそれを実体にしたというわけだ」

ローランドは満足げに微笑む

「さて、私に出来るのはここまでだ。

 あとは君自身の問題というわけだな」

しかし不意にローランドは初めて険しい表情を見せ

「最後にひとつだけ、この魔法は日付が変わればリセットされる。

 それまでにここに帰ってくるんだ」

とシンデレラに告げた。

シンデレラはというとぽろぽろと涙をこぼしながらローランドに頭を垂れた。

「あなたのおかげで舞踏会に行くことが出来ます。

 本当にありがとうございます!」

泣き笑いの、最高の笑顔を見せるシンデレラ。

「ところでそのワインはどうするんですか?」

家に入っていく「自分」を見送りながらシンデレラは尋ねました。

ローランドは表情をさっきの険しいものから最高の笑顔に変え

「無論こうするのさ!」

と言いながらワインを飲み始めました。

「うん!これはなかなか!良いものをもらった、感謝する!」

ローランドのその様子にシンデレラはくすくす笑いながら馬車に乗り込みました。

シンデレラが座席に納まると滑るように馬車は走り出した。

「行ったか・・・。果たしてこれで良かったのか・・・」

表情を再び真剣なものに変え『魔法使い』ローランドは遠ざかってゆく馬車を眺めながら

静かにつぶやいた。


ここでしばし時間は流れる。

シンデレラは無事 王城にたどり着いた。

会場に入ったシンデレラに向けられたのは羨望・嫉妬・敵意といったものでした。

無理もありません、今のシンデレラは「埃まみれ」ではなく華美な少女なのですから。

無論 王子の目にも留まり、ダンスを申し込まれるシンデレラ。

頬を染めながら快諾し二人のダンスがはじまる。

会場どころか王城全体が注目する中 舞う二人。

万来の拍手、祝福と感動があらゆる負の感情たちを洗い流しました。

そして・・・

時間が止まった・・・


何一つ 動くものもなく

総てが静止した世界に

シンデレラは独り 流れる時間の中にいた

「夢は見れたかい?」

シンデレラに問いかける声

しかし姿は何処にも見当たりません

「ローランドさん?いったいどこに?」

そう、声の主はあの魔法使いでした。

「シンデレラ、あなたは王子と結ばれない方が幸せだと、私は思う」

魔法使いはシンデレラの問いかけに答えることなく、ただ自分の意見を述べた。

「どうして?」

再びシンデレラは問いかけます

「君はあまりにも弱くて強い。

 だから王家の一員となることはお勧め出来ない」

やや強い口調で魔法使いは答えます。

「謎掛けのようなことを言わないで!

 そんな言い方じゃ何もわからないわ!」

シンデレラは彼女にしては珍しく苛立ちを含んだ声で返します。

「じゃあはっきり言おう。

 君は他人の為の労働を惜しまない

 君は自分の負担を省みない

 君は・・・『誰か』の上に立つことが出来ない」

魔法使いは淡々と一切の感情を切り捨て言い切りました。

「他人の為に他人を犠牲にすること、それが必要になったとき・・・

 君にそれが出来るのかい?今まで『自分だけ』を犠牲にしてきた君に」

魔法使いの問いかけにシンデレラは俯き、言葉を失いました。

王子と結ばれ、妃になること。

その意味を突きつけられ、自分は浮かれきっていた自分を見つけたのです。


「わたし・・・いったいどうすれば・・・」

シンデレラは呆然としながら呟きました。

「そう難しいことではないさ」

いつの間にか姿を現した魔法使いはシンデレラに言葉を投げます

「選べばいい

 王子と結ばれ王家の一員として国と民を背負うか?

 元の生活に戻るか?」

魔法使いはなんでもないことのように言います。

「そうね・・・

 わたしなんかには・・・無理だったのよね・・・

 誰かを背負って生きていくなんて、出来っこないもの・・・

 わかったわ、元の生活に・・・戻ります」

シンデレラは目に涙を浮かべながら、それでもはっきりと言い切りました

魔法使いは満足そうに微笑むとシンデレラの家でやったのと同じようにシンデレラの額を二度叩きました。

するとシンデレラの姿は掻き消えてしまいました。

それに続いて魔法使いの姿も掻き消えました。

二人がいなくなり、再び時間が流れ始める会場。

しかし、さっきまでの主役が突然 消えてしまい大騒ぎになってしまいました。

そう、さっきまでそこにいた少女は「何の痕跡も残さず」消えてしまったのです。


再びシンデレラの家

魔法によって戻ってきた二人

タイミングを計ったように消失する魔法使いの魔法

馬車も二人目のシンデレラも、そして本人を飾っていた衣装も

全て本来の姿に戻っていきました。

「素敵な夢をありがとう、ローランドさん」

シンデレラは微笑みます、儚げに。

そんなシンデレラにそっと手を差し出すローランド。

「一緒に踊ってはいただけませんか?

 美しいお嬢さん?」

優しげな笑顔で、ひどく真剣な目でローランドは問いかけます。

「ローランドさん?」

戸惑うシンデレラ、今の自分は元の「埃まみれ」

なのに自分を「美しい」と「踊ってほしい」と言ってくれる人がいる。

しかし戸惑いは喜びに変わり、喜びは笑顔を生んだ

「喜んで」

目に微かに涙を浮かべ、シンデレラは彼の手をとりました。


こうして始まる二人だけの舞踏会

観客は夜空に浮かぶ月と星

心が満たされていくのを感じるシンデレラ

そんな折、ローランドは囁きます

「三つ目の選択肢

 私と一緒に来ないか?」

思わぬ問いかけにシンデレラは驚きました

しかし、答えはもう決まっています。

「あなたと一緒に『行く』ことは出来ないわ

 でも、許されるなら・・・あなたと『生きて』いきたい」

ここを離れるわけにはいかない、それは自分が選んだことだから。

しかしこの人と一緒にいたい、それは自分が望んだことだから。

ローランドはその笑みを深くした

「私も、あなたと生きていきたい。

 故にこの地に根を下ろそう、大切な人と共に在るために」

こうして「埃まみれの少女」と「魔法使いの青年」は結ばれた。



ある国の、ある町に変わり者の夫婦がいました。

妻は身なりこそ質素ですが、聖母の如く優しく穏やかで

生活能力のない母と姉たちの世話をするため自宅と母達の家を往復する毎日です。

夫は掴みどころのない性格ながら、誰に対しても誠実で

不思議な薬で治療を施す医師として町中を歩き回る毎日です。

真面目で親切なこの夫婦は町中の人気者です。

その気になれば今以上の生活をすることも

町の長になることだって出来るのに

二人にその気はありません。

理由を聞くと二人は決まってこう答えます

「背負うものは家族だけ

 この町で暮らすときに決めました。

 それに何より・・・今 幸せですから」


あるいはこんな物語

華美で絢爛な世界ではなく

穏やかでささやかな幸せ

あるいはこんな・・・happy end


はじめまして、馬鞍田んぼ と申します。今後もぼちぼちやっていくんで指摘・感想・苦情・応援どれも歓迎します。読んでくださった皆さんのコメントお待ちしています。

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