7巻
数日後 門の前
「殿下・・私、普通の人間には興味ありませんから・・・お待ちしています。」
「・・・・・お元気で。」
「えっと、その・・・さみしいです。」
哀愁がただよっている。
俺はハルちゃん、ユキちゃん、ミクちゃんとの最後の別れをしようとしていた。
ハーレム崩壊から数日、せめてこの3人は残してくれとサラと交渉してみたが取りつく暇もなかった。
それにしても、本物の王はどれだけやり手だったのか。
この3人だけでなく、宮女全員から慕われていた。
その人柄かテクニックかわからないが、純粋にうらやましかった。
本物の王はどんな人間だったのだろう。
マンガなどでありがちな、腐敗しきった国の愚物の王だったのだろうか。
だが、この慕われようをみていると悪い人間ではなかったようだ。
俺の考えでは愚王=悪だったが、少し認識を改めた方がよさそうだ。
少し哲学的になっていると
「あの殿下、分かれる前に最後にもう一度私と・・」
「・・・・・・・・私も。」
「あの、私もです。」
最後の最後にチャンス到来!!
もしや、本物の王よ、お前の事を見直したから俺に施しをしてくれたのか。
ふん、お前は愚王ではないまさに名君だ。
「殿下、お止めになられた方がよろしいかと。」
横にいた護衛が話しかけてきた。
親衛隊副隊長 ヴィネド=リク
統率64武力68知略61政治63
「なぜだ?据え膳食わぬは男の恥だろ。」
「ゆっくりと、後ろをご覧ください。」
首だけで後ろを見る。
まあ、予想はしてたよ。してましたよ。
王よ、お前はやはり愚王だ。期待させやがって。
サラがいた。
「殿下、今後の事について話をしたいので早くお戻りを。」
「わかっている。だけど、もう少しだけ待ってくれ。」
「待てません。」
「そこをなんとか。」
「無理です。」
「それならば王命だ、下がれ!」
「却下します。」
「王命なのに!!?」
「リク、そっちの腕を持て。」
「わかりました。」
右腕をサラに、左腕をリクに掴まれる。
「リク、お前裏切るのか!!」
「申し訳ございません。ですが、強い者に巻かれるのは人の常。ご了承ください。」
「行くぞ」
引きずられながら、連れて行かれる。
自業自得だが、扱いが雑になってきている。
王なのに・・・
親衛隊駐屯所 会議室
「それで、話とはなんだ。」
「先ほども申した通り、今後のことです。」
「今後と言っても、今まで通り不正情報の収集と親衛隊の強化を図るぐらいしかないだろ。」
「いえ、それでは不十分です。機先を制したことで今は官吏と互角ですが、勢力は向こうの方が上、それに宰相も無能ではありません、きっと動いてきます。」
まあ、確かに見た目こそあれだが、知略・政治はサラより優っているからな。
「それに、我々の目的はこの覇国の都、関陽を治めることではなく、今一度この国全土に王の威光を取り戻すことです。官吏ごときでつまづいていられません。」
今更になるが少し説明すると。
覇国という国は壮大な領土を持つ国家である。
当たり前だが、その領土を王が直接支配するなど不可能である。
そのため王が直接支配する直轄地以外は別の誰か(領主)が治めている。
サラの目的は、直轄地の支配を官吏の手から取り戻すことだけでなく、領主に王家の力を見せつけ屈服させることである。
「何か手を打たねば、我々はジリ貧です。」
何か手をと言われても、ニートだった俺はマンガやゲームの知識しかない。
マンガの知識を使おうにも、俺の読んだマンガは全て腐敗した王家を潰す側の話で参考にならない。
ゲームでは最初から国は統治されていて、国の内部のゴタゴタを治めることなどなかった。
あっても一揆が起きるぐらいだ。それも軍隊を送れば勝手に制圧してくれていた。
だが、黙っていてもしかたない。
ダメ元でゲームでの攻略法でも言ってみるか。
「どこかの手ごろな所に戦を仕掛けるのはどうだ。」
「なぜ、わざわざ敵を増やそうとするのですか。それに、領主達が兵を出すとは思えません。」
「領主を攻めるのに、なぜ領主が兵を出すのだ?」
「何を言っておられるのか、領主達は建前上では我々に忠誠を誓っています。その領主を攻めては血で血を争う時代がきますよ。」
俺はとてつもない勘違いをしていた。
この国はまだ戦国時代に入っていない、戦国乱世に入る一歩手前のような状態だ。
「悪い忘れてくれ。サラには何か考えはないのか?」
「そうですか。そうですね、案としてあることにはあります。」
「なんだ、歯切れが悪いな。」
「ええ、・・その案とは有力領主の力を借りることです。」
「それは危険ではないか?」
歴史に少しでも詳しい人なら、曹操と献帝、織田信長と足利義昭でわかるだろう。
サラの提案では、最初はいいかもしれないが、結局は頼った人間に支配されやすい。
今の官吏による支配から、有力領主の支配に変わるだけだ。
それは、サラの目的とは違う。
「そうです、ですが今はそれ以外の案はございません。」
ここにきて、行き詰ってきた。
だが俺は、どうせサラが何とかしてくれる、考えてくれると安心していた。
この時の俺は何かを出来る気になっているだけで何もしていない、保護者が親からサラに変わっただけのニートだった。