変貌した世界
午前六時十二分、空太はいつも通り高校へ向かっていた、特徴といえば特徴がないというくらい目立つところのない人間だ。でも、何もかもを中途半端に投げ出してしまっていた。そして、そんな中途半端な日々がまた続くと思っていた。いや、そんなこと、考えたこともなかった。あの世界をみるまでは…。
「……んっ……やべっ!」
飛び起きる、ベッドの脇にあるアナログ時計に未だ霞む目線を向ける。
「五時四十五分…」
遅い、昨日、やたら宿題の多い社会担当の先生から出された宿題と格闘していると、何時の間にか二時を超えていた。
いつもはゆっくりと朝食を取り駅へと向かうのだが、この日ばかりは朝食を抜いて駅へと走る。
「はあっ、はあっ、六時十二分か」
ドアが閉まりますご注意ください
聞き慣れた女声の機械音と共に電車は動き出す。
早乙女 空太は適当に空いていた窓際の椅子に座る。正面の大学生であろう、女生徒がイヤホンから耳障りなリズムを刻む。隣には嫌そうな顔をした、サラリーマン風の男が座っている。
全く!悪いやつだ!…誰か注意したら?
それにしたって、
「柴田の野郎宿題出し過ぎだよ…」
しってる、愚痴ってもしょうがないよね。
この辺りは田舎で緑一色だ。近代化するにはまだまだかかりそうだ。
じきにトンネルに差し掛かる。その時。
ガタンッゴゴゴゴゴッ
揺れた。それも何度も。
「おい、どうしたんだよ」
一気に騒がしくなる。
揺れは止まらない、いや、止まった。トンネルを通り切ったその瞬間に。
暗い、はずだった。
「っ!まっ眩しい!?」
声が出なかった、人間、本当に驚いた時は声もでねぇんだなと、考える暇もなく大きな疑問が二つ、空太の頭をよぎる。
一つ、景色。本当なら地面があって横に木やらなんやらあるはずだが、無い。地面すらなくなっているのだ。線路があるのみ。
純粋な真っ白な世界。
二つ、人がいない。だれ一人、あの耳障りだったイヤホンの音もいまは聞こえない。だから、あのサラリーマンが困ることも無い。
そう、ここには空太、一人だけしかいないのだから……。