いきなりラスト!
「へぇ、留学するの」
「うん」
波留が留学のため一年アメリカに行くと知ったのは、なんと波留が旅立つ2週間前だった。
「気付かなかった…」
波留は自分から言わないし、噂なんて普段私は聞かないし。
「え、ちょ、マジでぇぇ!!」
気がつくと、隣に並んでいる藤川が叫んでいた。
「藤川」
「正太郎、うるさい」
私のとがめるような声と、波留の非難するような声が重なる。
「でも、留学とか聞いてないし」
しどろもどろになりながらも、そう言う藤川。
「だって言ってないもん」
波留は悪びれるどころか、もうすでに開き直っている。この子なら、大事なことを言うかどうかは自分の気分次第なのだろう。というか、留学が大事なことって分かってない気がする。
「そっか、離れ離れになるね」
「うん」
「一年、留年になるんだよね?」
「もしかしたら、向こうの高校をそのまま卒業しちゃうかもしれない」
「そっかぁ」
たんたんと呟く波留に、今更ながら自分は何一つ距離を縮められていないことに気づく。
持ち前のマイペースさでクラスから浮いていた波留は、持ち前のマイペースさを発揮させているようにみえて、実は弱い自分を隠しているだけだったりする。
波留は留学することで何を変えたいんだろう?英語の勉強、だなんてきっと考えていないんだろう。それよりももっと深い、価値観や自身の変化を見据えていそうな気がする。
考えていないように見えて、実は周りをよく見て、自分とまっすぐ向き合っている子だから。
「お土産、チョコレートがいい」
「何年先の約束だよ」
珍しく、今日は藤川に突っ込まれた。
「良いじゃん。向こうのチョコレート、美味しいって聞くし」
「分かった。覚えてたら、買ってくる」
「ありがと、波留」
波留の頭を撫でると、波留が嬉しそうにすり寄ってくる。こうやって波留の柔らかな髪を感じるのも、もう数えるほどしかないんだろう。
そんなに感慨深い思い出なんてないけれど。
そんなに意味のあることはしていないけれど。
むしろ、意味不明なことしかしてないけれど。
それでも、一生の思い出になるんだろうなぁ…。
「波留、がんばっていってらっしゃい」
「うん!!」
波留の笑顔を見られるのも、もう少し。
今はちょっと早い、感傷に浸っておこうかな。
いきなりですが、これで最終話とさせていただきます。
理由は、自分の発想に限界を感じだからです。長い間更新もせず、読者様に迷惑をかけてしまいましたし。
波留の留学ほどではないですが、私自身も3月に10日間だけ英国研修に行ってまいります。
そこでの経験を生かし、また新たなユーモアや発想、価値観が生まれましたら、それをベースに新たな波留と瑞穂、藤川の関係を書いていきたいと思います。
それまで、ぜひとも空猫月をよろしくおねがいします。
ここまで読んでくださったみなさん、誠にありがとうございました。